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リカード比較生産費説「貿易利益」のミクロ経済学による検証

<リカード比較生産費説「貿易利益」のミクロ経済学による検証>

 平成22年3月26日、経済教育学会 2010年春季研究集会(於:早稲田大学)で、上記の題で、報告・発表しました。

 会場での質疑応答で、大学の先生から、「リカード比較生産費説で、未だに教科書では、工業国は工業国に、農業国は農業国になってしまうという説が掲載され続けているのか」と驚かれました。

 200年以上前のリカードの説が、なぜ、「学習指導要領」に記載され、生徒に教え続けられているか。それは、「自給自足」より、「分業・交換」が、誰にとってもどの国にとっても利益になることを証明しているからです。また、「発展途上国のように農業国は農業国であり続け、先進国は工業国であり続けることを合理化する」ということを、「リカード比較生産費説は否定している」のです。国内産業は「比較劣位」なものから、「比較優位」なものに特化するのですから、「農業国であり続ける」「工業国であり続ける」など、理論的にありえません。それを、リカード説は明らかにしています。執筆者は、リカードの本を読んでいません。

<高等学校教科書の説明>

 実教出版『高校政治・経済 新訂版』H22年度用見本 p160-161
…19世紀のイギリスでは,貿易に対する国家の介入をやめ,自由貿易をおこなうことこそが利益になる,と主張された。この考え方に理論的根拠を与えたのが,イギリスのリカードの比較生産費説である。

実教出版 リカード比較生産費

 実教出版『2008新政治・経済資料』2008 p260
…こうして比較生産費説は,単に自由貿易の効用を証明するだけでなく,おのずと工業国は工業国であり続け,農業国は農業国であり続けるべきだという国際分業論を導き出すことになる。


 「こうはなりません」とリカード説は主張しているのに、なぜ正反対の論を書くのでしょう。こんなこと、彼の本のどこを見ても、書いていません。

<先進国は工業、発展途上国は農業>



 日本の鉱工業は、石炭産業→石油産業(1960年代)、繊維産業(1950年代)→鉄鋼・造船→自動車・電機産業・・・と、変遷してきました。成長する産業の裏で、必ず衰退する産業があります。現在、自動車や、電気産業も、衰退化しているのは厳然たる事実です。(中国の自動車販売数・生産台数は、2010年日本を超えました。2009年、世界一の電機メーカーになった韓国のサムスン電子の売り上げには、日本の総合電機メーカーすべてを足しても及びません)

http://www.jiji.com/jc/v?p=ve_eco_car-make-export-japan
時事どっとコム(2010年1月19日更新)
 
 日本自動車工業会が29日発表した2009年の国内自動車生産実績は、世界的な景気低迷を背景に前年比31.5%減の793万4561台となった。…800万台を割り込むのは1976年以来33年ぶりで、ピーク時(1990年)の6割に落ち込んだ。急成長で1300万台に乗せた中国に生産世界一の座も譲り渡した

http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20091109/209298/?bvr
日経ビジネス
 世界市場で、半導体、液晶テレビ、携帯電話などのシェアが低迷し、業績の悪化に苦しむ日本の電機メーカー。ソニー、パナソニック、日立製作所、東芝などにかつての輝きは見えない。対照的に好調が際立つのは韓国のサムスン電子やLG電子だ。今年7~9月期の営業利益は、サムスン電子1社で、日本の電機大手9社の合計の2倍以上に達している。


 輸出拡大の裏には輸入拡大があり(こちらが、貿易の利益のことです)、貿易の拡大の裏には、必ず衰退産業があるのです。



 オーストラリアも、ニュージーランドも、先進国です。その一人当たりGDPは、すでに日本を超えています。
2007年 OECD資料、内閣府まとめ 

オーストラリア 44801ドル
 ↓
日本       34326ドル 
 ↓
ニュージーランド31180ドル

 ところが、両国ともに、大農業国です。

http://fta.australia.or.jp/files/documents/071002_food_safety_and_food_security_security_-_minister_counsellors_speech_japanese.pdf#search='オーストラリア%20%20農業%20輸出'
 2006/07年度、オーストラリアの農産物輸出額は、総輸出額の16.4%を占めます。276億オーストラリアドルに上ります。
 

 しかも、石炭・鉄鉱石など、一次産品で総計すると、輸出額の50%を超えます。先進国において、農業や一次産品が、衰退産業になるわけではないのです。その国の「比較優位」の問題です。

 効率の悪い産業が衰退し、その代り安価で輸入できることが、消費者利益すなわち、貿易の利益なのです。

http://atlas.cdx.jp/nations/oceania/newzealand.htm
「世界の国々 ニュージーランド」
自然条件に恵まれた農業先進国で、羊毛、穀物、果物、食肉、乳製品などが生産される。豊かな漁場を抱え、マグロ、イカ、タラなどが水揚げされる。GNPの20%、輸出の60%は農水産物であり、近年はアジア諸国への輸出を増加させている。


http://www.gekkannz.net/thats/modules/smartsection/item.php?itemid=21
「ザッツ・ニュージーランド」
 ニュージーランドの農業は化学農薬の使用を控えるなど、環境に配慮した生産が浸透しています。2004年度の農産物総生産額は約47億NZドルです。国内消費が25億NZドルなのに対し、輸出が22億NZドルとなっています。


 リカードがシンプルに書いた記述を、 「発展途上国のように農業国は農業国であり続け、先進国は工業国であり続けることを合理化する」など、適当なことを書かないで下さい。

theme : 間違いだらけの経済教育
genre : 学校・教育

「見えざる手とは、市場機構のことではない」

<市場原理の働かない業界 宗教>

「見えざる手とは、市場機構のことではない」


『世界の名著 アダム・スミス(国富論)』中央公論社 S62 p388

 それゆえ、各個人は、彼の資本を自国内の勤労活動の維持に用い、かつその勤労活動をば、生産物が最大の価値を持つような方向にもってゆこうと、できるだけ努力するから、だれもが必然的に、社会の年々の収入をできるだけ大きくしようと骨を折ることになるわけである。

 もちろん、かれはふつう、社会公共の利益を増進しようなどと意図しているわけではないし、また自分が社会の利益をどれだけ増進しているのかも知らない。…生産物が最大の価値を持つように産業を運営するのは、自分自身の利得のためなのである。

 だが、こうすることによって、かれは、他の多くの場合と同じく、この場合にも、見えざる手に導かれて、みずからは意図してもいなかった一目的を促進することになる。…自分の利益を追求すること によって、社会の利益を増進せんと思い込んでいる場合よりも、もっと有効に社会の利益を増進することがしばしばあるのである。


 「自分の儲けを追求すれば(スミスは,この部分で,労働者に対する投資=給与を説明しています),知らず知らずのうちに見えざる手に導かれ公共の利益が促進される」というのが本来の趣旨です。「利己心を追求すると,社会が発展する」ということですね。

 しかし、教科書では、以下のように、「見えざる手は市場機構」と断定しています。

教育出版「政治経済 明日を見つめて」H20.1.20
 このように価格が自動的に調節して需要と供給を均衡させようとする働きを市場の自動調節機能(価格メカニズム①)とよぶ。注①アダム=スミスはこの価格のはたらきを「見えざる手」と形容した。


清水書院『現代政治・経済』H21年 p94
 イギリスのアダム=スミスは、『諸国民の富』において、資本主義経済の自由な競争が「見えざる手」のはたらきにより社会全体の調和をもたらす、と述べた。このばあいの「見えざる手」とは市場機構のことである。


山川出版社『新版 現代社会』22.23年度用見本 p99
市場価格が需要と供給を調整する働きを価格の自動調節機能といい、アダム=スミスはこれを神の「見えざる手」にたとえた。


 教科書の言うように、 「見えざる手=市場機構」で、「社会が発展する」のなら、「見えざる手」を経ずに「社会が発展する」=GDP増加を証明すれば、「見えざる手=市場機構」ではないことが立証されます。

 連載<アダムスミス「見えざる手」(10)>で、「ただ」とか「無償」、「独占」の場合を示しました。今回は、「宗教」です。

引用・参考文献 現役のお坊さん(住職)ショーエンk 『ぼうず丸もうけのカラクリ』ダイヤモンド社2009

 その一つが、お布施です。世間では、多くの人が、「なんでそんなに高いの?」と思いつつ、結構な額を包んでいるようです。しかも、その金額はベールに包まれています。

P26 
 市場のセリでは収穫量が増えると値段が下がりますが、お寺ではお葬式がたくさん重なっても、お布施は下がりません。お布施の額は「需要と供給」で決まるわけではないんです。


P41
 「お、おいくらほどお包みすればよろしいのでしょうか?」「・・・お気持で結構です」


p43
 「お経の長さや、木魚をポコポコとたたく労働量で決まるわけではなく、えらい坊さんにはたくさん出すのが普通であり、金持ちもたくさん出さないと格好がつかない」

P151
 「あのクソぼうずには3万円でも高すぎる!」という声もあれば、「あの和尚様なら100万円包んでも、拝んでほしいわ」なんて声も。

p29
 そのお寺が多くの檀家さんから支えられていれば、自然に多くの「お布施収入」が入ってきますよね。業界内では檀家数が1000件を超えると、「大きなお寺」という称号を手にします。


 「日本では、1年間に亡くなる人が100万人を超えました。毎年、仙台市と同じだけの人口がお墓に入る計算p71」ですから、お墓は増えることがあっても、減ることはありません
お葬式の後には、「四十九日」「一周忌」「○○回忌・・・」があります。

P182お葬式のお布施アンケート結果
お布施

需要と供給の「市場メカニズム」は、働いていないですね・・・・

 さらに、「春のお彼岸の供養」、「お盆の供養」「秋のお彼岸の供養」「付け届け」があります。
ほかにも、「位牌や仏壇、お墓を新しくした場合には『開眼供養』やありますし、塔婆を供養したときには『塔婆代の収入』p75」も入ります。「墓地を経営しているお寺は『永代使用料と管理費の収入』」も入ります。

 つぎに、参拝料です。

P30
 初もうでや縁結びなどで有名なお寺は、参拝者がたくさん訪れますし、「四国八十八か所霊場」のような「札所」になっているお寺にも、たくさんの参拝者が訪れます。


p49
 お賽銭の額は、特に決まっていません。不景気になると、小さい硬貨が多くなる一方で、「神頼み」の大口も増えるようです。


 ほかにも、地代収入や、拝観料の収入を得ることができます。

 ちょっと話をそれますが、お布施や、戒名料、お賽銭などは、我々の、 「お金への執着を捨てる修行のひとつp49」です。 「財布も心も軽くして、謙虚な気持ちになれることも『お参りのご利益』(同)」です。


 さて、これらの収入ですが、基本的に、「無税」です。

P55グラフお寺を守る「10の結界」
寺税金

 上の図の税金が、全部タダです。もちろん、消費税もありません。戒名料が「税込105万円」とはならないのです。

 仏教系だけで、77,831の宗教法人があります。神道そのほか、合計で、182,868の宗教法人数です(平成18年現在 文化庁HP参照)

 さて、これらのお金の使われ方です。お坊さんだって、食事もすればお酒も飲み、車も運転すれば、家も新築します。立派にGDP(生産・分配・所得)の一角を占めています

 しかし、これらの世界は「需要と供給」という市場機構は、働いていません

 「見えざる手」を経ずに「社会が発展する」のです。「見えざる手=市場機構」ではないことが立証されている一例といえるでしょう。

教科書の間違い(10) 清水書院『現代政治・経済』H21年 p154

教科書の間違い 清水書院『現代政治・経済』H21年 p154

…資本収支については、経常収支の黒字を背景に、アメリカや発展途上国などの経常収支の赤字国への投資や援助など、多額の資本を供給したため、赤字となることが多かった


 2点,間違いです。「経常収支の黒字を背景に・・・」と、「赤字となることが多かった」です。
 
 正解は、「経常収支の黒字を背景に・・・(資本収支)赤字」は「資本収支が赤字だから、経常収支が黒字」です。
 「赤字となることが多かった」は、「経常収支が黒字なら、資本収支(外貨準備増減・誤差脱漏含む)は絶対に赤字となる」です。
 
 この、「黒字を海外に積極的に投資する形で、資本収支は大幅な赤字」には、根拠がありません。よく、「アメリカ(経常収支赤字国)が資本輸入をするのは、その経常収支赤字を埋め合わせるために、資金を借りなくてはいけないからだ」といわれますが、これも成り立ちません

 正解は全く逆で、「資本収支が赤字だから、経常収支が黒字になる」のです。

<国際収支表の記入原則>

東学 資料政経2009 p375
国際収支表の記載方法1
 このように、経常収支(+)は資本収支(-)に記載される。逆に経常収支(-)は資本収支(+)に記載される。資本取引の場合、資本(カネ)を国内に持つか、海外に持つかの違いで、資産総額が変わるわけではないから、資本(カネ)収支(+)は資本収支(-)、資本(カネ)収支(-)は資本収支(+)に記載され相殺される。結果、日本の国際収支は、次のようになる。
国際収支表
 経常収支黒字(貿易黒字)国は、必ず資本収支赤字になる

 しかも、貿易黒字が原因→資本収支赤字が結果ではなく、資本収支赤字→貿易黒字が正解です。

<貿易黒字を生む主体と、資本収支赤字を生む主体は別々>

 トヨタや、パナソニックは「輸出」の主体で、貿易黒字を生み出す企業です。一方、銀行などの金融機関、生命保険会社・投資信託などの機関投資家、政府、企業、個人は、海外投資を行う主体です。これらは別々です。
 投資家が海外投資をするのは、自分のもうけのためであり、「日本の貿易黒字分」や「外貨が余っているから」投資しなければならないのではありません。

 また、外国の政府・企業・個人からすると、社債・国債・株式を発行して資金を調達するのは、「貿易赤字」を穴埋めするために行っているのではありません。お金を貸してくれる主体は、国内であれ、海外であれ、企業・政府・個人にとってはどちらでもかまわないのです。

『日本企業、海外M&A急減』日本経済新聞H21.6.30
…2009年上期(1~6月)…日本企業による海外企業の買収が失速し、約1兆2000億円と55%減った。世界景気の後退で企業が投資に慎重になった…一方、海外企業による日本企業の買収は8%減の2500億円強。…落ち込みは小幅だった。


 M&Aは、株式を購入することによって行われます。「日本→海外1兆2000億円」>「海外→日本2500億円」差額は資本収支赤字額になります。ただ、「日本→海外」が55%減ということは、資本収支赤字額縮小=貿易黒字額縮小になります。

 「EX-IM」は、資本収支赤字(海外投資)から、生まれるのです。つまり、「お金の貸し借り」が先で、「貿易黒字」は後なのです。

三面等価の図を見て見ましょう。
三面等価

 我々が、消費せず、税金にも回さなかったお金を、貯蓄Sと言います。その国内のS(貯蓄)が、I(企業の投資)、(G-T:公債)、 (EX-IM:輸出―輸入:経常黒字:海外への資金の貸し出し)になるのです。S=144兆円、それがI93兆円、G-T32兆円、EX-IM18兆円に回るのです。EX-IM18兆円は、海外へのお金の貸し出し なのです。
 外国債・外国株・外国社債などの購入や、外国への貸付額がEX-IM18兆円なのです。
これらは、銀行などの金融機関、生命保険会社・投資信託などの機関投資家、政府、企業、個人です。これらは、①資本収支赤字=海外資産増加になります。


 資料集や教科書が間違いを記載するのは、正しい経済理解ISバランス式

(S-I)  = (G-T) + (EX-IM)
貯蓄超過= 公債 +経常黒字


を掲載していないからです。この式は、経済学のイロハで、全ての経済学(学者)の前提となる式です。「九九」みたいなものです。これを否定した経済学は成立しません。
 その基本中の基本をおさえていないので、経済について詳しく記述すればするほど、どんどんゆがむのです。

 地方を除く国だけで考えると、11年度以降、消費税を1%ずつアップさせ、最終的に消費税を12%にすると、18年度に「プラマイ0」になります。5%増(合計10%)だと、「プラマイ0」は21年度になります。どっちにしても、「消費税UP」はしなければいけません。

 三面等価の図を見ると、我々は所得をC消費+T税金+S貯蓄に回しています。C消費は日本の場合、年によってそんなに変化はありません。ですから、消費税を上げるということは、TとSの割合をどうするかの問題でしかありません。今のままだと、Sから、公債費が支払われます。消費税を12%にすると、公債費発行は0です。ようするに、税金か、貯蓄かという表面上の問題に過ぎないのです。貯蓄→公債発行→返済は国民ですから、貯蓄減→公債0→返済なしでも結果は同じです。

教科書の間違い(9) 帝国書院『高校生の新現代社会』H22年度用見本

教科書の間違い 帝国書院『高校生の新現代社会』H22年度用見本 p72 p74
 
 賃金の安い中国、東南アジアの追い上げによって国内外の企業を巻き込んだ激しい競争が起こり、それに打ち勝つために生産拠点を海外に移転する動きが加速し、国内では産業の空洞化を招きました

P148-149
…中国は世界最大の外国投資受入国となっているのです。日本からも食品、繊維などの軽工業をはじめ、自動車、電機、鉄鋼などの各種企業が進出し、日本国内の産業の空洞化はいっそう懸念されるようになっています。…日本は産業の空洞化を乗り越えるためにも、成長著しい中国をよきライバルとし、良好な関係を形成しながら、ともに高めあっていけるやり方を考えていく必要があります。


産業の空洞化はあったのか。答え「なかった」。

国内生産・GDP(国内総生産)は減少ではなく、一貫して上昇しています。
(除く1974年石油危機、1998年山一證券・拓銀倒産・消費税UPの翌年)
とうほう『政治・経済資料2009』p222
経済成長グラフ
②雇用ですが、雇用は、比較劣位産業から、比較優位産業に移転し、全体として雇用者数は、極端には変化しないのです。同年の雇用者数推移のグラフです(数字出典:総務省統計)。(もちろん、不況時には失業率が増加するなど、一時的な雇用の流動は起こります)
雇用者数 推移グラフ
日本経済新聞H21年5月6日
産業別就業者数

日本の産業別の就業は、年々変化しています。就業者数が減っている業界があれば、増えている業界があります。第2次産業の雇用者比率低下は、70年代から始まっているのです。

 このように、「産業の空洞化」は実際には、存在しないのです。

 次に、「生産拠点を海外に移転する動きが加速」という部分です。これは、対外投資額の増加を示しています。海外での合弁会社の設立やM&Aのことです。「対外直接投 資は、01年を底に増加に転じ、03年と04年は多少減額しましたが、05年は急増」(岩田規久男『景気ってなんだろう』ちくまプリマー新書 2008 p98)しているのです。

 対外直接投資は増えているということは、「生産拠点を海外に移転する動きが加速」することですが、それにより「国内生産・雇用・GDP(国内総生産)が減少する」のではなく、逆に「増えて」います

 GDP拡大は,国内生産量拡大のことです。国内生産量拡大には,労働力が必要です。労働力はどこから持ってきますか?それは,比較劣位産業からしか持ってこられません。「比較優位な産業に特化する」=「比較劣位産業縮小」ということなのです。

比較劣位産業 → 労働力を集める → 特化し,生産量拡大
       ↓               ↓
       生産量減少   →    セット
 

 ただし、「製造業からサービス業へのシフト」は存在します。製造業雇用者低下→サービス業雇用者増加です。これを、「産業構造の高度化」といいます。とうほう『政治・経済資料2009』p230
産業構造の変化 新
 地方の製造業都市が衰退し、大都市圏の人口が増えるので、これをあえて「地方製造業の空洞化」と言うことはできるでしょう。実際に、都市部と地方の格差は、あります。
1人あたり県民所得差 帝国書院アクセス現代社会2009
(ただし、高度経済成長以後、格差は少なくなっています。日本は、均等に豊かになってきたのです)
帝国書院『アクセス現代社会2009』
地域間所得格差 帝国書院『アクセス現代社会2009』

日本全体としては、「GDP(GNI)は伸びている=産業は確保されている」というのが、現状です。

教科書の間違い(8) 山川出版社 『詳説政治・経済』2009.3.1

教科書の間違い 山川出版社 『詳説政治・経済』 2009.3.1 p148-149
 
近年の国際収支は、発展する中国やアジアNIES向けのハイテク部品の輸出の増加による貿易収支の黒字に加えて、投資の収益による所得収支も黒字で、経常収支は大幅な黒字となっている。
 一方、資本収支は、日本の企業が、多国籍企業として海外に直接投資をして生産・販売の拠点をつくったり、証券投資などの間接投資をする金額も多く、赤字が基調となっている。
 


この、国際収支表の説明ですが、高校の教科書・資料集で、東学「資料政経2009」(筆者執筆)以外、適切に書かれているものは、ありません。 

 国際収支表は、(1)経常収支額=カネの取引額なので、(1)経常収支額=(2)資本収支額(外貨準備増減・誤差脱漏含む)に必ずなります。ですから、経常収支黒字ならば、「赤字が基調」ではなく、 「絶対に赤字」になります

 まず、教科書の国際収支表p148です。一つ一つの項目の数字が並び、細かすぎて理解できません。
日本の国際収支 山川

これを、すっきりさせます。2007年の国際収支表です。
国際収支表の記載方法2
国際収支表
 国際収支は、複式簿記という記入方法で書かれている、会社で言う「貸借対照表=バランスシート」のことです。商業科に通っている高校生なら、すぐに理解できます
 モノ・サービスを売買すると、必ず同額のカネが動きます。ですから、モノ・サービスを売ると、貸し方(+)に記載された同額が、借り方(-)にも記載されます。
国際収支表の記載方法1東学「資料政経2009」
ですから、経常収支黒字額=資本収支赤字になるのです。モノ・サービス金額=カネ金額です。
 資本収支赤字=日本から海外に投資された額が多いということです。

 逆に、アメリカ・イギリス・オーストラリアのように、貿易赤字の国は、経常収支赤字=資本収支黒字になります。資本収支黒字=海外から投資された額が多い ということです。

「貿易黒字=カネの貸し借り(取引)」であり、 「黒字はもうけ、赤字は損」という対象ではないのです。

 「輸出の増加による貿易収支の黒字」とか、「海外に直接投資をして」とか、「証券投資などの間接投資をする金額も多く」といった個別の事柄より、全体像を把握しなければ、国際収支を理解できません
 理解されないので、「黒字はもうけ、赤字は損と日本全国の教室で教えられ、そう覚える生徒が育ちます。その結果、そのように理解した生徒が大人になります。そうすると・・・次の表現がおかしい事が理解できません。

同書p148
日本の貿易収支が黒字であることは、逆に日本からの輸入が多い国の貿易収支を赤字にする要因になる。1980年代以降の日米の貿易摩擦は、こうした2国間での貿易収支を中心とした経常収支の著しい不均衡が原因になっていた。


黒字はもうけ、赤字は損」というアメリカ・日本人の無理解の結果、貿易摩擦に発展しました。貿易摩擦について、教科書は、「『貿易摩擦は、黒字はもうけ、赤字は損』という考え方に立脚しており、間違いである」と書かなくてはなりません。 
 
 もし、「黒字はもうけ、赤字は損」が正しいなら、アメリカは大変な事態になっているはずです。なぜなら、日本との貿易摩擦の時代どころではない、大変な貿易赤字を負っているからです。 
東京書籍 「現代社会資料集最新ダイナミックワイド 現代社会2007」
アメリカ貿易赤字

 にもかかわらず、アメリカのGDP(GNI国民所得)は拡大しています。
アメリカGDP推移・貿易赤字

 貿易赤字黒字と、経済成長は、何の関係も無い
 のです。貿易赤字=外国資本の導入貿易黒字は外国への資本提供と同じことなのです。 「もうけとか、損」という問題ではないのです。
 
 輸出・輸入を国内で検証してみます。農作物の自給率は東京都で5%以下。北海道は200%超です。北海道は農作物を東京に輸出しています。「北海道はおおもうけ」ですか?
 乗用自動車は、東京都は自給率「0」です。愛知県、広島県、静岡県などから輸入しています。では「東京は損」ですか?
 県民総生産・所得(GRP=国でいえばGDP)は、東京都が圧倒的に全国1位です。東京の都民が日本で一番豊かな生活(収入を得ている)をしているのです。東京は輸入超過なのになぜ?
1人あたり県民所得差 帝国書院アクセス現代社会2009
帝国書院アクセス現代社会2009
 日本の県境で区切って、「東京都は輸入超過」「愛知県は輸出超過」としても、意味はない事がおわかりですか?
 大切なのは、輸出入の大きさではなく県民総生産・所得GRP(国民総生産GDP)なのです。その県民所得・国民所得が大きくなること(経済成長)が大切なのです。

 日本を「県」で区切って「輸出入」の大きさをはかる事に意味がないように、世界を「国境」で区切って、「輸出入」の大きさをはかる事には本質的に意味はありません

 「日本各県民」の総生産の合計が「日本各県民」の総所得なのです。三面等価の図を見ましょう。三面等価
 これが「日本各県民」の総生産=総所得です。 「県」と「県」で区切ってその県同士の輸出入を描くことに、何の意味があるのでしょうか?
 この論理を「閉鎖経済」といいます。要するに、世界全体から見たら、世界全体の総生産=世界全体の総所得=世界全体の総支出(世界全体のGDPの三面等価)になり、国境と国境で区切った「輸出入」は世界全体の図には存在しないのです。

与次郎『大機小機』日本経済新聞H21.6.6
 …思えば、世界経済全体は閉鎖経済であり、そこには最終需要として輸出は存在しない。


「北海道→津軽海峡→本州」という輸出入と、「日本→太平洋→米州」という輸出入本質的に同じです。でも、前者に意味がないように、後者にも本当は意味がありません

「世界全体のGDP=世界全体の総所得GDI=世界全体のGDE」です。世界を一つの国とすれば、そこに輸出入は存在しません
世界総生産=世界総消費

日本を県ごとに区切る意味がないように、世界を国ごとに区切る意味はないのですこれが「閉鎖経済=GDPの三面等価」です。GDPの三面等価を分からずに経済を語る事は出来ないのです。

 「日本のもうけ」「アメリカのもうけ」が存在しないことが分かると思います。 「北海道のもうけ」「愛知県のもうけ」はないのと同様です。個々の企業・個人の儲けが日本人のもうけ=GDP=GDIです。「国」と「国」は「企業」とちがい、もうけを生み出す主体ではありません
 
 日本の05年貿易黒字の割合は、日本のGDPのたった1.43%です。日本のGDPにとって、一番大切なのは「内需」です。
 中国も、アメリカも、イギリスも、どこもかしこも、 「国民所得が伸びる=GDP増=GDI増=経済成長」の原動力は輸出入差額(貿易黒字・赤字)ではなく、 内需の拡大なのです。
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