ピケティ『21世紀の資本』⇔水野“資本主義の終焉と世界史の危機”その2

水野“資本主義の終焉と歴史の危機”
P3
資本主義は、「中心」と「周辺」から構成され、「周辺」つまり、いわゆるフロンティアを広げることによって「中心」が利潤率を高め、資本の自己増殖を推進していくシステムです。・・・もう地理的なフロンティアは残っていません。
P56
1974年以降、実物経済において、先進国が高い利潤を得ることができるフロンティアは、ほとんど消滅してしまいました。
まあ、端的に言うと、植民地支配とか、低所得国から搾取して成長しているというイメージですね。
トマ・ピケティ(ピケッティ)『21世紀の資本』
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底辺国の成長について、ピケティは
「最近、先進国に近づいたアジア諸国は、どの国も、大きな額の外国投資は受けていない。日本・韓国・台湾・最近の中国もそうだ。これらの国は、すべての投資を、物理的な資本(モノ・カネ)とヒトによって、得た(国内のカネとヒトだ)。ヒトは、長期成長のキーだ」
といいます。
別に、アジアの成長は、海外資本(ということは、実物取引:貿易も同じ額分、発生)によって賄われたわけではないのです。こんなもの、当ったり前で、経済学者の合意事項です。
「GDP成長率は、①ヒト②資本(モノ・カネ)③生産性」だと何度も言っている通りです。
貿易がどうのこうの、黒字が勝ち(赤字が負け)だの、国際競争力で勝っただの負けただの、 貿易=国際競争の戦争だ!!、資本主義は、周りの周辺国を搾取するって、ばっかじゃないか?という話なのです。
だから、
ポール・クルーグマン 山形浩生訳 『クルーグマン教授の経済学入門』主婦の友社1999 p41
「みんなが,『アメリカの競争力』とか言ってるのは,ありゃいったい何のことかって?答えはだねえ,残念ながら要するにそいつら,たいがいは自分が何言ってんだか,まるっきりわかっちゃいないってことよ」
なのです。どうやったら、勝ち組?(まあ、経済成長した経済大国のこと?として)になるか、それは、
「GDP成長率は、①ヒト②資本(モノ・カネ)③生産性」なのです。貿易とか、国際競争とか、全く関係ないのです。
わからない人は、「日中貿易戦争」「勝った、負けた」とか、言い続けるんでしょうねえ・・・本当に、どうしようもないです。
P・クルーグマン『経済政策を売り歩く人々』ちくま学芸文庫 2009
経済学者は、どうすればハイパーインフレーションを避けられるかといった助言は確実にできるし、不況の回避方法も、たいていの場合教えることはできる。…しかし、貧しい国をいかに豊かな国にするかということや、奇跡的な経済成長を再現させるにはどうしたらよいかといった問題に関する解決策はいまだにない。
ピケティ第二法則です。
β=s/g
β=資本/GDP比率
s=貯蓄率
g=成長率
そうすると、その国の国民の貯蓄率sが12%、成長率が2%なら、資本/GDP比率
は6倍=600%になります。
つまり、低成長、貯蓄率が、12%で、成長率が1%なら、資本/GDP比率
は12倍=1200%になります。

つまり、ヨーロッパや、日本の資本/GDP比率が、18世紀や19世紀の水準になっているということは、資本主義は、本来の「低成長率」に戻ったことを示すのです。
1950年~1970年代は、高成長率なので、資本/GDP比率が低かったともいえるのです。

アメリカの場合は、人口増加は年に1%もあり(これだけで、GDP成長の要因)、成長率が2.5~3%になる国は、資本/GDP比率がヨーロッパや、日本に比べて、低くなります。
また、資本蓄積には、時間がかかります。
1914-1945年のダメージが消えるのには、時間がかかった。β=s/gになるには、数十年必要だ。だから、超長期的な歴史の観点が必要だ。
β=s/gは、世界大戦や、(リーマン・ショック)のような短期は説明できない。長期的な水準を教えてくれる。
貯蓄率が高く、人口増が止まり(結果としてGDP成長率も低下)、β=s/gに収れんしていくことになります。


日本は、年15%の貯蓄率、2%の成長率ですので、資本/GDP比率が、今後、6-7年分になっていくのも、当然なのです。

また、金融資本主義について
「家計・企業・政府が保有する金融資産=負債総額が、実物資産(国富)より、急増し、富の構造を変えた。金融資産は、2010年には、GDP比10~15倍に増加し、イギリスでは20倍になり、歴史的な新記録となった。
で、このままいけば(戦争とか、人口爆発による未曽有の高成長とか、無い場合)、人類は、過去経験したことがない資本/GDP比率の時代を迎えるのです。

これが、「21世紀の資本」の、メインテーマの2本目、「格差」につながります。
水野“資本主義の終焉と歴史の危機”
P131
先進国のみならず新興国においても、一部の特権階級だけが富を独占することになるはず。非正規雇用者が全体の3割を超え、年収200万円未満が23.9%・・日本の二極化も、今後グローバルな規模で進行していくのです。
p166
結論を言うならば、グローバル資本主義とは、国家の内側にある社会の均質性を消滅させ、国家の内側に「中心/周辺」を産み出していくシステムだと言えます。資本主義自体、誕生以来、少数の人間が利益を独占するシステムでした。世界人口のうち豊かになれる上限定員は15%前後である・・。15%が残りの85%から資源を安く輸入して、その利益を享受してきたわけです。
P168
資本主義は利潤を求めて「周辺」を産み出そうとし、もう海外に「周辺」はありません・・そこで国内に無理やり「周辺」をつくり出し利潤を確保しようとしているのです。アメリカや日本に限らず、世界のあらゆる国で格差が拡大しているのは、グローバル資本主義が必然的にもたらす状況。
資本主義は、もともと、格差を生むシステムです。「グローバル」とは何の関係もありません。
だから、世界の上位15%の国が、グローバルな関係において、他国を搾取しているのでもありません。
正規労働と、非正規労働も、格差の本質ではありません。
α=r×β
です。
資本所得βが6年分(資本/GDP比が6倍)で、その実物資本の収益率が5%の場合、αは、30、つまり、GDPのうち、30%は、資本から得られる所得、残り70%が、労働所得となります。
つまり、GDPのうち、額に汗して稼ぐ所得が、70%、土地や建物(実際には株や債券を通して所有していることになる)を貸して得られる不労所得が、30%になります。
過去の、労働所得と、不労所得の比率と、不労所得の収益率(利益率)です。

不労所得の収益率、利益率は、農地→不動産の時代でも、5%程度と、安定しています。

さて、その所得に対する、課税率です。
労働所得には、各国平均で、30%の課税がなされています。
不労所得(不動産や、株や債券や預貯金)の課税は????30%もありますか?

で、格差の話になるわけです。
では、資産をもっているのは誰なのか?
すべての国の、すべての時代に見られる事実として、
労働所得は、上位10%が、25~30%を持っていく
労働所得は、下位50%が、25~30%を持っていく
不労所得は、上位10%が、資本の50%を持つ。
不労所得は、下位50%は、資本をほとんど、持たないか、0%。

つまり、労働所得から、家や、株や、債券や、貯蓄に回すのですが、下位所得者は、労働所得分では、まあまあもらっているものの、ほとんど、貯蓄することがない(できない)ため、資本(家や、株や、債券や、貯蓄)は、持っていません。
その結果、不労所得の50%は、資産家の上位10%が、持っていきます。労働所得階層は、資本を持っていないため、不労所得はほとんどありません。
そして、r>g、資本収益率>労働所得伸び率なので、資本を持っている層(特に資産家の上位10%)は、ますます、資本収益を、増やします。
資本を持っていない労働所得下位層と、資本を持つ層との格差は、どんどん開いていくことになります。
これが、格差の原因です。よく言われる、
もともと、資本のない労働者は、労働を売って、カネを稼ぐが、貯蓄に回す余裕はない。カツカツの生活者は、貯蓄などに回す余裕などない。資本は、貯蓄できる層に集中する。
↓
カネは、カネ(資本)を持っている人の所に集まる・・金持ちは、より金持ちに・・・なのです。
「フランスでは、上位10%の賃金シェアは、2010年までの10年間で。6→7.5~8%になった。所得が30%増加した。上位0.1%、0.01%では、所得は50%増加した」
これが、格差です。


GDP:労働所得の格差など、どうでもいいくらいに、資本(実物+カネ)格差があります。
派遣労働者や、ほとんど貯金がなく年金に頼る生活者と、高所得層との格差もありますが、それは、「労働所得」の分配だけを見た、格差です。

本当の格差は、「資産家」と、「資産を持たない(低所得で貯蓄する余裕がなかった層)」から、生まれます。

上位10%の階層が持つ資本割合は、別にアメリカが突出しているわけではなく、スウェーデンと大差があるわけでもありません。
で、結果として、労働所得+資本所得のトータルで、上位層比率は、こうなります。

そして、例の、金融資本主義の時代です。資本は、土地建物ではなく、金融資産なのです。
「上位1%では、金融・事業資産が、不動産よりも確実に多い。最大級の財産は、株や、パートナーシップがほとんど。資産200-500万ユーロ層では、不動産は1/3以下、1000万ユーロ層は、不動産は10%以下。大半は株。住宅は中流や小さな金持ちに人気があるが、本当の富は、いつも、金融・事業資産にある(いつの時代も、どこの国でも)。我々は、不労所得生活者の社会→経営者社会へと移ってきた。労働所得で生活する、高賃金労働者へと」
予想どおりに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」 増補版
1992年に、アメリカの証券規制当局が、各企業に経営幹部の報酬と役得を事細かに開示するよう義務付けました。
1976年、平均的な最高経営責任者の給与は、平均的な従業員の36倍でした。1993年には、131倍にもなりました。
公になったことで、アメリカの最高経営責任者は、自分たちの収入をよその最高経営責任者と比べるようになり、うなぎ上りになりました。いまや、平均的な従業員の369倍、報酬を開示する以前の3倍になりました。
経営者は、平均的な従業員の369倍、生産性が高い・・・これは、あり得ないでしょう。片方が時給2000円のところ、経営者は、73万8千円の生産性???
つまり、資本を持って(昔は農場、その後工場)、不労所得でゆったり生活するのではなくて、現代の金持ちは、アメリカの経営者のような、労働価値を得るものの、その額が年収何百億とか、ちょっと信じられないくらいを得る階層に移ってきたんですね。
格差をなくすには、「インフレ」ではだめです。なぜなら、不動産や株は、インフレに強いので・・・
だから、文字通り、資産を破壊する「戦争」が格差を縮めます。←結論は、恐ろしいものになります。
さて、マルクスは、「私有財産制を止めろ、資本は、みんなのものにしろ!=資本論」となったのですね。
階層についてです。100年前の1900-1910年には、中間層はほとんどいませんでした。ヨーロッパでは、上位10%が、資産の90%を持っていました。中間層の40%は、資産の5%、50%の低所得層が資産の5%を持つだけです。
「中間40%が、低所得層50%と、ほぼ同じくらい貧しく、中流階級は存在しなかった」
中流階級なる幻想は、戦後の高成長時代の「幻」なのです。→次回の水野解説のテーマです。
さて、あなたは、「格差」をOKとしますか?それとも・・?これが問題(ハムレット)なのです。 続く。
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20141025-00000520-cakes-life
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山形浩生
これを執筆中に、菅原晃『使えるマクロ経済学』(KADOKAWA/中経出版)が送られてきたのでざっと見たけれど、マクロ経済学の流れが図解で完結に整理されていて、なかなか便利だし、一般読者が必要なマクロ経済学の見取り図としては、かなり有用じゃないかな。もちろんアベノミクス(の黒田日銀による金融緩和)についても、期待の役割(お金を刷るとか円安にするとかいうのは本質ではなく、将来のインフレ期待を上げるのが重要という点)もしっかり説明されている。消費税をうかつに8%へあげたせいで、せっかくうまくいっていたアベノミクスもひどい状況だけれど、願わくは持ち直しますように。そしてもちろん、消費税率10%への引き上げなんていう愚行はやめてくれー。期待はすぐ変わるけれど、それがリアルな投資行動の変化につながり、実体経済に根付くまでには時間がかかるんだから。