アダム・スミス 「自由放任・見えざる手」 (4)

アダム=スミスは自由放任主義者か

 スミスは、自由貿易や、自由取引を制限する場合について、以下のように述べています。
アダム・スミス『国富論』山岡洋一訳 日本経済新聞出版社 2007

1通貨の発行制限 上巻p329-330
 (筆者注:取引は、①事業者間②事業者と消費者の間の2つがある。前者は多額取引、後者は少額取引)…紙幣は規制によって、ほぼ事業者間の取引だけに使われることにすることもでき…おそらく、イギリス国内のどの地域でも、5ポンド以下の銀行券の発行を禁止する方がいい

2金利制限 上巻p366
…イギリスのように、政府が3パーセントで借り入れ、確実な担保のある民間人が4パーセントから4.5パーセントで借り入れている国では、現在の法定金利である(筆者注:上限金利)5パーセントはおそらくきわめて適切であろう。

3貿易の制限 下巻p48 
 大規模な製造業の事業主は、国内市場が突然開放されて外国人との競争にさらされ、廃業せざるをえなくなれば、もちろん大きな打撃を受ける。…事業主の利害に適正に配慮すれば、この種の変更(筆者注:国内市場の開放)は急激に実施するべきではなく、きわめて長期の予告期間をおいたうえで、ゆっくりと段階的に実施するべきである

4輸出制限 下巻p122 
  …大国であれば輸出の自由を無制限に認めても危険はそれほど大きくない。…予想される穀物輸出量が国内市場への供給に大きな影響を与えるほどになる可能性は低い…。スイスの州やイタリアの小国の一部ではおそらく、ときには穀物輸出を制限する必要があるだろう

5貿易の独占 下巻p343 
  …はるか遠方にある未開の国との貿易を切り開こうとした場合、株式会社の設立を認め、成功した場合にある年数にわたって貿易の独占権を与えるのは、不当だとはいえない。危険で経費のかかる試みによって、後に社会全体が利益を得られるのであれば、国がその試みに報いる方法として、一定期間の独占権を与えるのがもっとも簡単で自然だからだ。

6教育の重要性・国による(資格の)義務付け 下巻p371 
 国による奨励では、基礎教育について、庶民の子供たちのうち、成績優秀者に少額の賞金を与え、表彰して、学習を促す方法がある。
 国による義務付けでは、国民のほぼ全員に基礎教育を受けるように義務付けるために、これらの分野の試験に合格した後でなければ、同業組合の組合員になることも、農村や都市で営業許可を得ることもできないと規定する方法がある

7課税 下巻p432
  …生活費に占める家賃の比率は、各人の豊かさによって違ってくる。…貧乏人にとっては生活必需品の負担が重い。…家賃に対する税金の負担は一般に金持ちほど重くなるが、このような不公平は…とくに不合理だとはいえない。金持ちが収入に比例するだけでなく、それ以上の比率で財政に貢献するのは、とくに不合理ではない

8ぜいたく品課税 下巻p464 
  (筆者注:イギリス・オランダの紅茶と砂糖、スペインのチョコレート、イギリスの蒸留酒・黒ビールなど、贅沢品に対する課税について)…貧乏人のうち、堅実で勤勉な人にとって、贅沢品に対する税金は一種の贅沢禁止法になり…税金のために倹約を強いられた結果、おそらく子供を育てにくくなるどころか、逆に育てやすくなることも少なくないだろう

9補助金下巻p467
…製造業の一部、たとえばガラスや、鉄などの金属の産業では石炭が必要不可欠だ。奨励金を支給するのが適切だといえる場合があるとすれば、おそらく石炭が不足している地方への輸送に対するものであろう。

<教科書・資料集の主張>
第一学習社『高等学校 改訂版 現代社会』平成20年 p76アダム=スミス
自由放任政策
・小さな政府
・国家からの自由

清水書院『新 政治・経済』H22度用見本 p85
…アダムスミス…は、著書『諸国民の富(国富論)』のなかで、労働が価値を生むという説にもとづき、個人が利己心を自由に発揮して活動すれば「見えざる手」によって社会の調和が確保され、全体の利益も増大すると述べた。さらに、従来の重商主義的な保護政策に反対し、自由放任の政策を唱えるとともに…

とうほう『政治・経済資料2009』2009年度審査用見本 p178 「個人の利己的な利益の追求こそが、“神の見えざる手”に導かれ、国家の富を推進する」と主張、重商主義的統制を批判し自由放任を説いた

清水書院『新 現代社会』H20 p111
 イギリスの経済学者アダム=スミスである。彼は価格機構によって経済は調整されると考え、経済活動には政府はかかわらない自由放任政策をよしとした。政府は警察や軍事のような最小限の仕事だけすればよく、その規模も小さいほどよいとされた(夜警国家論)。

山川出版社『新版 現代社会』22.23年度用見本 p89
アダム=スミスは…政府が経済に干渉しない自由放任主義を唱えた

<高島先生の主張>
高島善哉『アダム・スミス』岩波新書1991 p3
  スミスの著作を丹念に読んでみていただきたい。『道徳感情論』はいうまでもなく、『国富論』でさえも、どのページを開いてみてもただの一度も自由放任という文句にお目にかかることはない
P6
 私はためしに現在広く使われている世界史と倫理・社会の教科書を一つ二つ調べてみた。案じたとおり、スミスは自由放任主義の大御所となっている。遺憾というよりあきれるほかはない


アダム・スミスは,自由放任主義(レッセ=フェール)を説いたの根拠は、どこにあるのでしょうか。
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東京書籍の現代社会教科書

東京書籍の現代社会はP91のL2でこのように解説しています。

>スミスは必ずしも市場の全能をとなえたわけではなかったが、彼の学説はその後、企業の自由放任と「小さな政府」を主張する人たちの根拠となった。

自由放任はスミスの思想ではなく、後の連中がスミスを引き合いに言い出したことだと言う説明になっています。

No title

 東京書籍の現代社会教科書が、手元にないので、確認できません(以前のものから記述が変化したのかどうかなど)が、基本的には、教科書記述の通りです。

 後の人の解釈が、孫引きされていくと、スミスの主張が誤って伝えられます(ルソー評価の変遷など、その典型ですね)。

 参考文献です。

根井雅弘『入門経済学の歴史』ちくま新書2010 p8~9

 例えば、ベルリンの壁の崩壊のあと、「資本主義」が「社会主義」に完全勝利したという単純な図式から、「資本主義」を動かしてきた「市場メカニズム」こそが経済問題をほとんど解決してくれるのだという、いささか粗雑な「市場原理主義」が論壇を席巻したことがありましたが、彼らはよくみすがらの主張の正当性に箔をつけるために、アダム・スミスの『国富論』(一七七六年)のなかに出てくる「見えざる手」という言葉を引用したものでした。
 スミスを「市場原理主義」の「元祖」のように理解することは、『国富論』の前に書かれた『道徳感情論』(一七五九年)のなかで、スミスが競争における「フェア・プレイ」の重要性(「公平な観察者」が見て是認するような行動をとらなければ、市民社会において「同感」が得られないこと)を指摘した事実を知っていれば、単純な誤りであることは明白なのですが、社会主義の象徴であったベルリンの璧が崩壊してからは、「市場原理主義者」たちがそのように誤解されたスミス像を全世界に「伝道」していった感があります。しかし、経済学史の素養があれば、「市場原理主義者」たちのスミス理解が極めて偏っていたことが見抜けたに違いありません。
 もっとも、論壇を離れて、学界に目を転じるならば、さすがに「市場原理主義者」と呼べるような経済学者はごく少数であることがわかりますが、それでも、現代アメリカの高名な保守派経済学者がマスコミに登場したときに公にする内容(例えば、「経在的要因」以外のものはすべて脇に置いて、インドが急成長しているのは「自由市場」の卓越性をようやく理解したからだとか、オバマ民主党政権のGM救済策は「社会主義化」への危険な道を開くのだとか)を聴いていると、本人が明確に意識しているかどうかはわからないものの、誤解されたスミス像の影がさしているように思えてなりません。


 原典に触れることが必要です。

教科書・資料集記述も変わっています

 アダム=スミスの記述について、ある出版社からの回答です。

アダム=スミスの記述につきましては,不適切な内容になっておりました。
○○○○○○,2010年度版の供給本より訂正いたします。
○○○ご指摘で,弊社の○○○の内容を見直すことができました。
誠にありがとうございました。
今後ともより正しく,先生方や生徒の皆様に役立つ教材をつくるため努力を重ねてまいりたいと考えております。

  すごく努力している出版社ですね。
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