高橋洋一 その2
高橋洋一の俗論を撃つ!
http://diamond.jp/articles/-/16266
日本の貿易収支が赤字転落で本当に国債は暴落するのか
重商主義の誤謬
貿易収支(または経常収支)を「得」なこと、赤字を「損」なことと考えるのは経済学にとって初歩的な誤りで、それを「重商主義の誤謬」という。貿易収支の黒字は輸出のほうが輸入より多いことで、別に国にとって得でも損でもない。カナダのように経常収支が100年以上もほとんどの年において赤字でも、立派に発展してきた国もある。アイルランド、オーストラリア、デンマークなどの経常収支は第2次世界大戦以降、だいたい赤字であるが、それらの国が「損」をしてきたわけでない。
経済学の教科書をひもとくと、経常収支は貯蓄投資バランスに等しいとなっている。国民所得=消費+投資+経常収支と定義されるが、(国民所得-消費)-投資=経常収支、つまり貯蓄(=国民所得-消費)-投資=経常収支となるからだ。
これを別の観点から見ると、経常収支(黒字)は対外債権を獲得することであり、言い換えれば対外投資になっているはずだ。であれば、国内貯蓄=国内投資+対外投資となるから、対外投資すなわち経常収支=国内貯蓄-国内投資とわかるだろう。ここまでわかると、今後高齢化社会になって国内貯蓄が少なくなっていくと、経常収支が減って赤字になっていくだろう、ということも理解できるはずだ。だからといって、それが特に問題になるわけでない。
危機説を煽る人々の狙い
ここまではいいが、ここから、財務省やそれをサポートする人による財政再建キャンペーン、つまり増税指向が入りこむと話がややこしくなる。
あるエコノミストの勉強会で、今後日本の経常収支が赤字に転落して、赤字国債を国内貯蓄でまかなえなくなって、金利上昇が起こり国債が暴落するというシナリオが話題だった。前述の説明で分かるように、経常収支赤字は、国内貯蓄で国内投資が賄えない状態で、海外からの資金流入が必要になる。ここまでは正しいが、ここで財政赤字を海外にファイナンスしてもらうと、金利が上がったりして経済が大変になると、世の中のエコノミストたちは財政危機を煽ってくる。
こうした話を持ち出してくるのは、財務省からの天下りが幹部になっている金融機関系シンクタンクの人々だったりする。そういう人たちが中心になって、日本は経常収支が赤字になると、金利が高くなって国債が暴落するという。だから今のうちに消費税増税で財政再建しておくべきだという意見が、マスコミやテレビで氾濫して、一般人は洗脳されるわけだ。
経常収支赤字になると、経済成長しなくなったり、金利が上昇するのだろうか。あれこれと考えるより、データをみたほうが早い。最近20年間における経常収支対GDP比と金利の関係を調べると、以下のグラフとおりである。
このグラフで分かるように、世界全体を見ても経常収支赤字国は多いが、それらの国で金利が高かったりということはない。経常収支赤字国といっても、金利は経常収支国黒字国とほとんど変わらない。要するに、経常収支が赤字になっても、まともな経済運営さえすれば問題ないわけだ。経常収支赤字になって日本経済が危ないという人には気をつけたほうがいい。

そもそも、グラフの意味が分かりません。「実質金利FF」は、短期金利のことです。例えば、中央銀行で設定する「政策金利」などです。しかも、名目ではなく、実質ですので、その国の、インフレを除いた数値です。
しかし、国債は、「長期金利」です。目安は10年モノです。これが長期金利の目安になります。
しかも、長期金利は、「実質金利」にはしません。10年もの間の実質金利など、測定するのが不可能だからです(インフレ率を参考にはしますが・・)。
ですから、長期金利は、一般的に「名目金利」を使用します。
で、簡単に言えば、下記の様になっています。

で、経常黒字・経常赤字国と、長期金利の関係は、次のようになっています。

で、日本は経常赤字になると、長期金利が高くなります・・・などと、こんな数か国の、数年のグラフでは全く言えません。
で、きちんとした、調査結果を見てみましょう。
日本の場合は、経常収支赤字で、金利が高くなる可能性があるのです。これは、もうすでに、あらゆる研究(2000年代初期以降)で、出ている事実です。
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日銀レポート 2003.10
財政のサステナビリティと長期金利の動向
(貯蓄投資バランスと長期金利)
国内民間部門の貯蓄超過は、内外の金利裁定が完全な場合は長期金利の低下要因にはならない。しかし、ホームカントリーバイアスが存在するもとでは、貯蓄超過はその分長期金利を低下させる要因となる。民間貯蓄投資差額と長期金利の関係をみると、日本とフランスについては両者の間に負の相関がみられるものの、他の国については明確な関係が窺われず、特に、海外からのファイナンスに頼ることのできる米国については、両者は無相関となっている。
(経常収支(累積経常収支)と長期金利)
経常収支(累積経常収支)と長期金利の間にも貯蓄投資バランスの場合と同様に負の相関が観察される可能性がある。経常収支(累積経常収支)については貯蓄投資バランスの場合より明確に負の相関が観察され、その傾向は累積経常収支について顕著である。もっとも、米国、イギリス、カナダについては、累積経常収支と長期金利の間にむしろ正の相関がみられる。
(日本を対象にした推定結果の解釈)
日本を対象にした推定結果において特徴的なことは、経常収支の説明力が有意であるのに対して、財政収支や政府債務残高の説明力がないということである。長期金利の低位安定について、「日本は経済全体として資金余剰(貯蓄超過)の状況にあり、財政赤字を国内貯蓄でファイナンスすることができるため、財政赤字の拡大は長期金利の上昇につながらない」という指摘がなされることがあるが、本節の推定結果はひとまずこの説明と整合的である。
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経常収支,財政収支の基本的な把握
─「 国民経済計算」1)的視点の意義と限界 ─
奥 田 宏 司
5)国債残高の累積と長期金利
これまでの論述より,財政赤字が発生しているなかで財政危機が防止されるためには,経常収支黒字が持続されること,金融諸機関が国債を保有し続けること(=民間部門収支黒字の政府部門への資金移転がスムースに進むこと)である。国債残高が巨額になっている状況での長期金利の上昇は財政負担を増大させ,財政破綻(=危機)につながり,国債を大量に保有している諸金融機関の経営状況を急激に悪化させるだろう。したがって長期金利の上昇は財政危機の第1 のシグナルとなる。
また,金利上昇は景気抑制的に働くだろう。金利上昇は種々の要因で発生しうる。式⑥の諸項目が独自に動く場合はもちろん,それらの諸項目に影響を与える派生的な要因が金利上昇をもたらす場合もある。独自的要因の第1 は,式⑥より経常収支の黒字幅の減少・赤字化によって民間部門収支の悪化する場合である。経常収支の悪化は民間部門の政府部門赤字のファイナンス余力を減じ金利上昇の要因となる。
次に,式⑥より経常収支が不変で財政収支(T-G)のマイナス(赤字)の額が大きくなれば,(S-I)は窮屈になり金利の上昇が生じるだろう。第3 に,経常収支が不変で投資(I)が増大すれば,財政収支(T-G)が好転していないと金利上昇が発生していく。
Ⅲ,まとめ
本文でみてきたように経常収支は一国の対外的な収支,財政収支は総国民可処分所得の国内諸部門別配分と均衡の問題である。経常収支が黒字または均衡している限り,また,国債への選好と国債市場が安定している限り,財政収支赤字は国内民間部門によってファイナンスされ,財政赤字が経済全般の危機を引き起こすことにはならない。これが,日本が巨額の財政赤字をもっているが危機にならなかった要因である。ギリシャなどとの違いである。
しかし,本文でみたように国債への信頼が揺らぎ国債市場が不安定になればこのファイナンスは順調に進まず,経常収支,民間部門収支,政府部門収支に変化が生まれ(式⑥は恒等式であったから),経常収支,民間部門収支,政府部門収支の間で新たな均衡が形成される。その新たな均衡化には財政問題の顕在化もありうる。
3)経常黒字をもっているが財政が赤字となっている諸国,日本,ドイツなどである。経常黒字が存在している以上,財政赤字が発生しても,その赤字は民間部門からファイナンス受けることが可能である。したがって,財政赤字が巨額にのぼっても民間部門の「貯蓄余剰」(=部門収支黒字)が国債等へ投資される環境が持続すればただちに危機的な状況にならない。
それ故,公債政策の中心が金融市場において他の証券へ向かうのではなく投資が国債へ向かうべく環境を整えることになる(公債政策)。
しかし,日本は2011 年から貿易収支が赤字となり経常黒字額が減少してきている。他方,財政赤字は改善される見通しがつかない。貿易収支の赤字が大きくなり経常赤字になった場合,債務危機に見舞われた途上国などのような経済危機に陥る危険性があるといわなければならない。経常収支黒字を維持するための構造的な経済政策のための視点と財政赤字改善の視点が必要になる。
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平成22年度白書
●財政赤字拡大は長期金利を上昇させる傾向
財政赤字の拡大は、債券市場における需給悪化を通じ、長期金利の上昇要因となり得る。
ここでは、実際にそうしたことが起きているか、OECD 諸国の財政状態と長期金利の関係をプロットして確認してみよう。
第一に、財政収支と長期金利には負の相関が観察される。OECD 諸国を対象に、80 年から2009 年における両指標の関係を見ると、財政赤字が大きい国あるいは時期ほど長期金利は高くなる傾向がある。したがって、財政状況の悪化は長期金利を上昇させるリスクがあると考えることができよう。
●潤沢な国内貯蓄は財政リスクプレミアムの抑制要因
財政赤字の拡大は長期金利の上昇圧力となっている。しかし、国内に潤沢な貯蓄があれば、財政赤字のファイナンスに対する懸念が生じないことも考えられる。この点を検討するため、前項の分析を貯蓄超過国(経常黒字国)と貯蓄不足国(経常赤字国)に分け、財政収支の長期金利に与える影響が変化するか見てみよう
第一に、日本を含む貯蓄超過国(経常黒字国)は、貯蓄不足国に比べ、財政収支が長期金利に与える影響度合いが小さくなる。長期金利に与える影響を推計された係数で比較すると、貯蓄超過国の財政収支の係数は、貯蓄不足国に比べて3 分の1 程度となっている。これによれば、例えば、貯蓄超過国と貯蓄不足国の財政赤字が同率程度で拡大したとしても、その長期金利に与えるインパクトは、貯蓄不足国の方が3 倍程度大きいことになる。潤沢な国内貯蓄が長期金利を抑制する要因になっていることがうかがわれる。
経常赤字・財政赤字と、長期金利に関する分析など、腐るほどあります(大学の図書館に行ってみてください)。
経常収支赤字になると、経済成長しなくなったり、金利が上昇するのだろうか。あれこれと考えるより、データをみたほうが早い。最近20年間における経常収支対GDP比と金利の関係を調べると、以下のグラフとおりである。
このグラフで分かるように、世界全体を見ても経常収支赤字国は多いが、それらの国で金利が高かったりということはない。経常収支赤字国といっても、金利は経常収支国黒字国とほとんど変わらない。要するに、経常収支が赤字になっても、まともな経済運営さえすれば問題ないわけだ。経常収支赤字になって日本経済が危ないという人には気をつけたほうがいい。
https://plus.google.com/110009456807858503008/posts/TXQipH8G6az
広岡哲也
最後は、菅原 晃さんの著書「高校生からわかる マクロ・ミクロ経済学」です。
この本が、経常・貿易赤字の疑問点に関する本です。
★特筆すべき点は、後書きで、「消費税増税を控えたり、日本銀行が、大胆な金融政策を採用すると、外国人投資家が日本国債に空売りを仕掛け、国債暴落・円安・ハイパーインフレになるのか?」という点に疑問点を持っている所です。★
外国人投資家は、国債の9.1%保有しています。約90兆円です。 しかし日本の国債の市場は、8738兆円あるのです。 年間営業日250日で単純に割ると、34兆円です たった3日分です。
しかし、1.5%の金利を求めて、日本国債を購入したいの日本国内の金融機関需要額は、300兆円どころではありません。
外国人が、日本売りを仕掛けても、実際にはびくともしません。日本は空売りする相手としては、巨大すぎるのです。
日本政府の外貨準備高も、120兆円で最初から勝負がついています。暴落する危険は、まったく心配するに及ばないのです。