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水野和夫 『資本主義の終焉と歴史の危機』  その5

<水野和夫 『資本主義の終焉と歴史の危機』  その5>

水野

P16
 なぜ 利子率の低下がそれほどまでに重大事件なのかと言えば、金利はすなわち資本利潤率とほぼ同じだと言えるからです。利潤率が極端に低いということは、資本主義が資本主義として機能していないという兆候。利子率=利潤率が2%を下回れば、資本側が得るのはほぼゼロです。革命と言えるほどに、利子率が低下したのです。「利子率革命」です。

p4つまり、地理的・物的空間(実物投資空間)からも、「電子・金融空間」からも、利潤を上げることができなくなってきているのです。




水野3

 で、「利子率=利潤率低下」で、稼げなくなった??先進国は、次にどうしたか。

p46
オバマの輸出倍増計画は挫折する。オバマ自身は、「地理的・物的空間」を立て直そうとしているのでしょうが、貿易構造を見ても、貿易赤字は増えていて、製造業復活の兆しは見られません。輸出倍増計画も、旧システムの強化策に過ぎません。

P43
賞味期限切れになった量的緩和政策
リーマン・ショック以降のバーナンキFRBの量的緩和策、有効性は1995年で切れています。実際、実物経済の需要が縮小しているアメリカでは、株価の上昇があっただけで、ガソリン代、円基台、食糧費を除く物価水準に目立った変化はありません。



 で、周辺国に売りつける、旧来の資本主義はとん挫するのだそうです。


gdp アメリカ その後
gdp アメリカ 伸び 

 JETROデータで、簡単にわかります。

で、次に、

p212

p92
 近代社会は、途上国から資源を安く購入することによって成り立っていたが、途上国の近代化によってその条件がもはや消滅。

P97
 利子率の歴史は、そのまま各時代の覇権国を示している。イタリアの都市国家、資本主義の勃興とともに、オランダ、イギリス、20世紀前半にはイギリスからアメリカへと覇権が移って・・。ある国が覇権を確立する段階では、それ以前の覇権国の金利を下回り、世界で最も低い金利になる・・。

p38
資本主義は「周辺」の存在が不可欠…しかし21世紀にはいると、北の先進国の「地理的・物的空間」では満足できる利潤が獲得できなくなって・・・途上国が成長し、新興国に転じれば、新たな周辺(フロンティア)を作る必要(筆者注:それが、今度は、外ではなく、国内に向かい)アメリカで言えば、サブプライム層であり、日本で言えば非正規社員であり、EUで言えば、ギリシャやキプロスなのです。

p41
 グローバリゼーションの帰結とは、中間層を没落させる成長にほかなりません。

p42
 多くの人の所得が減少する中間層の没落・・。

p82
 資本主義は、中産階級を没落させ、粗暴な『資本のための資本主義』に変質していった。

p89
 グローバリゼーションで何が起きるかと言うと、豊かな国と貧しい国という二極化が貧しい国という二極化が、国境を越えて国家の中に表れる
 2割の先進国が8割の発展途上国を貧しくさせたままで発展してきたために、先進国では国民全員が一定の豊かさを享受することができた。
 しかし、グローバリゼーションの進んだ現在、資本は国境を越え、ゆえに、貧富の二極化が一国内で現れるのです。

 近代、南=貧困、北=富裕と、先進国は格差を国内に侵入させないようにしておいたのですが、グローバリゼーションの時代、北にも格差が入り込むようになりました。

 グローバリゼーションとは、南北で仕切られていた格差を北側と南側各々に再配置するプロセスと言えます。

 先進国では1970年代半ばを境として、中間層の没落が始まっています。

P131
先進国のみならず新興国においても、一部の特権階級だけが富を独占することになるはず。非正規雇用者が全体の3割を超え、年収200万円未満が23.9%・・日本の二極化も、今後グローバルな規模で進行していくのです。

p166
 結論を言うならば、グローバル資本主義とは、国家の内側にある社会の均質性を消滅させ、国家の内側に「中心/周辺」を産み出していくシステムだと言えます。資本主義自体、誕生以来、少数の人間が利益を独占するシステムでした。世界人口のうち豊かになれる上限定員は15%前後である・・。15%が残りの85%から資源を安く輸入して、その利益を享受してきたわけです。

P168
 資本主義は利潤を求めて「周辺」を産み出そうとし、もう海外に「周辺」はありません・・そこで国内に無理やり「周辺」をつくり出し利潤を確保しようとしているのです。アメリカや日本に限らず、世界のあらゆる国で格差が拡大しているのは、グローバル資本主義が必然的にもたらす状況。



 周辺 フロンティアがなくなった先進国は、こんどは、自国内で、中間層を壊すことによって、周辺 フロンティアを作ったのだそうです。

水野 4

では、資本主義が進むと、中間層の没落が必然なのか???です。

日経26.8.17
日経26.8.17

このように、「格差が拡大することもあれば、格差が縮小することもある」が正解です。

 前回の記事にあるように、ピケティ『21世紀の資本』では、「資本収益率>労働収益率」で、資本を持つ人は金持ちなので、金持ちはより金持ちに・・・と、格差拡大になると論じました。

つまり、格差拡大は、「資本」を持つ持たないの話で、「労働分配GDP」の話ではないのです。
「資本持つ>持たない」格差は、「労働上位所得層>底辺層」格差どころではない、格差を作るのです。
それは、「グローバル化」とか、「輸出入」とか、「搾取」とか、まったく関係ありません。

そのうえで、「労働分配GDP」格差について、述べると、

クリック

なぜ、金融業か?

しかし、バリー・アイケングリーン(バークレー校)は「格差拡大は政策による」と分析します。税制が格差を生んでいるということです。

http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/4660.html
ジニ係数

http://www.jil.go.jp/institute/rodo/documents/report3.pdf
ジニ係数 2

格差が拡大していない、拡大しても、依然として低率、格差縮小の先進国もあります。

 ピケティの本は、アメリカでは話題になっていますが、本家本元のフランスは、資本主義国の中でも、もっとも「社会主義」国なので、今は、北欧以上に世界一(OECDレベルで)の格差是正国になっています。

 別に、資本主義→経済成長→格差拡大 という、因果関係があるわけではないのです。

 資本主義そのものに、格差拡大のメカニズムが内包されているのです。「成長するには」とか、「グローバル」とか、全く関係ありません。

 だから、ピケティは、米富裕層への最高税率70%の累進課税・資産累進課税導入を提唱しているのです。

スティグリッツ(コロンビア大)も、累進税率引き上げ・相続税復活・所得再配分の実現を提言しています。

予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」
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ダン アリエリー、Dan Ariely 他

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「わが社に来て、何年?」
「3年です」
「入社した時、3年後の年俸はどのくらいだと考えていた?」
「10万ドルです」
「今の君は30万ドル近い。何が不満なのか」
「デスクが近い同僚が、僕と働きは変わらないのに、31万ドルもらっているんです」

このことを踏まえて、会社の幹部に聞いてみた。 

「社員の給与データが、会社中に知れ渡ったら、どうなる?」
「もし、全員が全員の給与を知ってしまったら、それこそ大参事でしょうね」

 1992年に、アメリカの証券規制当局が、各企業に経営幹部の報酬と役得を事細かに開示するよう義務付けました。

 1976年、平均的な最高経営責任者の給与は、平均的な従業員の36倍でした。1993年には、131倍にもなりました。
 
 公になったことで、アメリカの最高経営責任者は、自分たちの収入をよその最高経営責任者と比べるようになり、うなぎ上りになりました。いまや、平均的な従業員の369倍、報酬を開示する以前の3倍になりました。



年金生活者は、所得が増えることは基本的にありません。日本が成長しても、年金生活者の所得はゼロ成長です。一方、豊かになる人は確実に増えます。

だから、高齢者が多くなると、必然的に格差は拡大するのです。ジニ係数拡大の最大要因は、「高齢化」なのです(労働者内の格差、資本主義の持つ本質的なメカニズムは、別な問題です)。

P131
先進国のみならず新興国においても、一部の特権階級だけが富を独占することになるはず。非正規雇用者が全体の3割を超え、年収200万円未満が23.9%・・日本の二極化も、今後グローバルな規模で進行していくのです。

p166
 結論を言うならば、グローバル資本主義とは、国家の内側にある社会の均質性を消滅させ、国家の内側に「中心/周辺」を産み出していくシステムだと言えます。資本主義自体、誕生以来、少数の人間が利益を独占するシステムでした。世界人口のうち豊かになれる上限定員は15%前後である・・。15%が残りの85%から資源を安く輸入して、その利益を享受してきたわけです。

P168
 資本主義は利潤を求めて「周辺」を産み出そうとし、もう海外に「周辺」はありません・・そこで国内に無理やり「周辺」をつくり出し利潤を確保しようとしているのです。アメリカや日本に限らず、世界のあらゆる国で格差が拡大しているのは、グローバル資本主義が必然的にもたらす状況。



因果関係?

<トマ・ピケティ>

 さて、今までの連載は、単なる、露払い、前頭レベルの話です。次回は、横綱が登場します。トマ・ピケティ“21世紀の資本”です。

 トマ・ピケティは、200年以上にわたるデータを基に、資本主義を分析します。伝統的農耕社会から、資本主義社会、20世紀の大戦争の時代、戦後の人口回復期・破壊された国土の回復期・1980年代以後です。そして、21世紀、このままだとどうなるかを示します。

 データは圧倒的な説得力(単なる事実なので、誰も否定できない)を持ちます。



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(2014/10/11)
菅原 晃

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図解 使えるマクロ経済学


すみません、初版 第1刷訂正部分です

1 P179
 ケインズの流動性選好の図 ×「強国」→ ○「強固」
2 P179

×「流動性選好が高まれば、市場全体では均衡しているが、必ずどこかの市場で、需要不足(売れ残り、失業、利子率低下せず)になる」

○「流動性選好が高まれば(不況でますます強固)、必ずどこかの市場で、需要不足(売れ残り、失業、利子率低下せず)になる」

3 P215
×翁百合「試合中にルールを変える行政がイノベーションを阻む」
○翁百合「試合中にルールを変える裁量行政がイノベーションを阻む」

4 P154
×「限りがある資源(有限な時間・土地・ヒト・モノ・カネ)をいかに有効活用するか、経済学(エコノミクス)の核になる理論
○「限りがある資源(有限な時間・土地・ヒト・モノ・カネ)をいかに有効活用するか、経済学(エコノミクス)の核になる理論

×「比較優位説」
○「比較優位説」

5 p14
×「一方、実質GDPは2013年に過去最高の水準を記録しました」
○「一方、実質GDPはこの間に過去最高の水準を記録しています

6 P204フリードマン吹き出し
×あなたたちのおかげでFRBは二度と同じ過ちを繰り返しません。
○あなたたちのおかげで二度と同じ過ちは繰り返さない(ようになります)

7 p60
×「また右記(4)のように、EX-IMが大幅増でも」
○「また右記(4)のように、EXIMが大幅増でも」

8 p200
×「ケインジアンが、政策手段を失う中、ケインジアンを否定する理論には、(1)マネタリズムと(2)新古典派マクロ経済学:合理的期待形成仮説(p204)がありますが」
○「ケインジアンが、政策手段を失う中、ケインジアンを否定する理論には、(1)マネタリズムと(2)新しい古典派マクロ経済学:合理的期待形成仮説(p204)がありますが」

9 p62
×「(1)相続税は、2013年1月に基礎控除額が改定され」
○「(1)相続税は、2015年1月に基礎控除額が改定され」

10 p249
×価値観には、「真善美」すなわち(1)何が正しいか(科学)、(2)何が善いか(道徳)、(3)何が美しいか(芸術)の3つがあります。(1)は存在(ドイツ語でザイン)、つまり「~である」といった事実論、(2)は当為(ドイツ語でゾレン)すなわち「~するべき論」といった意見を示します。
経済学は数学を駆使するところから、(1)科学的であろうと努力してきましたが、どうしても、(2)の「べき論」の世界から逃れられません。

○価値観には、「真善美」すなわち(1)何が正しいか(①科学②哲学)、(2)何が善いか(道徳)、(3)何が美しいか(芸術)の3つがあります。は存在(ドイツ語でザイン)、つまり「~である」といった事実論、は当為(ドイツ語でゾレン)すなわち「~するべき論」といった意見を示します。
経済学は数学を駆使するところから、科学的であろうと努力してきましたが、どうしても、の「べき論」の世界から逃れられません。


大変申し訳ありません。




菅原晃「高校生からわかるマクロ・ミクロ経済学」(河出書房新社)、経済学の基礎を学ぶ上での最良の本と思う。 熟読しよう。

From: 1980bittersweet

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No title

情報いただきました。

下記記事が、ひどいということです。

http://tanakanews.com/141105japan.htm
米国と心中したい日本のQE拡大
2014年11月5日   田中 宇

読みました。どこから、手を付けていいか、わからないです。

良く、私が、高校の政治経済資料集について、「土台がゆがんでいるので、どこから直していいかわからない」というのと、同じです。

たとえば、一部文言を訂正しても、土台がゆがんでいるので、ほかの部分の表現と整合性が取れない・・・というものです。ミクロの表現は治っても、マクロがゆがんでいるから、もうどうしようもない・・というものです。

でも、こういう人・本・表現って、絶対に、自分の考え、換えませんので、もう何言っても無駄だと思います。それは嫌になるほど見てきました(笑い)。

それでも、山形さんに言わせると、経済学はまだましで、社会学とか文学の世界になると、もっとすごい世界だそうです(笑い)。

とりあえず、アベノミクスについては、例の、カナダから英銀総裁になった方や、IMFラガルドさん(この人、弁護士で畑違いなんですが)も、評価しています。

http://jp.reuters.com/article/vcJPboj/idJPKBN0IR27820141107

当たり前だと思います。今日のブログピケティ編でも、「金融政策」に「成長政策」なんてないし、「資源配分をゆがめる」ことしかできないことが、示されています。財政+金融なんて、非常時の、「刺激策」でしかありません。

昨日の日経本多佑三「日経教室」でも、「刺激効果はある」です。(もっとも池田信夫はいつものようにわざと上記記事を曲解して、成長政策なんてできっこないとやってますけど)

あの、4%もの成長なんて、先進国はもう、無理ですから。戦後高度成長そのものが、「黄金時代」だというのが、ピケティの分析です。

それは、今日の記事を読んでいただくこととして、

結局、長期的には、コツコツやるしかない(日本は1%程度の成長)けど、そのコツコツで、30年後、50年後には、経済規模が2倍になりますよ・・ということしか、もうできません。

もし、高度成長をもう一度したいなら、冗談抜きに、戦争で、インフラを破壊するしかありません。ピケティの本を読むと、そういう結論になります。残念ですけど。

ああ、田中さんでした(笑い)。一応、メールしておきますね。今日のブログ記事と、週刊東洋経済記事見てねって(笑い)

期待(予想)では、変わる可能性は、限りなく0%です(笑い)。

あと、余談ですが、解散を前に、株は、買えるだけ買っといたほうがいいと思います。1週間で3%あがれば、年率150%の利率に相当しますよ(笑い) 私?もちろん・・・です(笑い)。

解散なければ、売り(笑い)です。ただ、年末までには戻すでしょうけど・・
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