勝てない理由
藤原正彦
「勝てない理由」 週刊新潮14.7.31号
一昨年、スペインを訪れる計画を立てた時、女房がバルセロナを中心にしようとしきりに言った。バルセロナのあるカタルニア地方は、画家のミロやダリ、建築家のガウディ、チェロのパブローカザルスなどそうそうたる芸術家を輩出した所と言う。「何だ、カザルス以外は余り好きになれない奴ばかりじやないか」と内心思ったが、昔、堀田善衛の「カタルーニア讃歌」を読んだことを思い出し多少の興味を引かれた。女房の「バルセロナの海岸にはトップレスがいくらもいるみたい。近くにはヌーディストビーチもあるそうよ」で決定した。
航空券とホテルを決めると同時に、「バルサを見に行きましょう」と言う。バルサミコ酢の工場見学かと思い怪訝な顔をしていたら、「バルサよ、私の大好きなメッシのいる」と言った。試合開始が夜十時というのが気になった。終了は十二時近くになる。欧州最大のサッカー場で十万人収容のカンプノウはいつも満杯になるという。「帰りの地下鉄やバスは超満員でタクシーも拾えないぞ。治安のよくない町を真夜中にホテルまで四キロも歩くのか」「武士道とか言う割にあなたって臆病者なのね」で決定した。
満員の観衆はほぼすべて熱狂的なバルサファンだった。女房はお目当てのメッシばかりを見ていて色々コメントする。
彼は試合時間の九割をゆっくり歩いている。フォワードでも時には守備に回るのが普通だが、彼は一切守らない。これほど怠惰なプロ選手を見るのは初めてだった。ただ、ボールを得た時の彼は凄かった。突然猛烈な加速でドリブルを始め、あっという間に相手守備陣を振り切るのだ。世界一怠惰なメッシが世界一の名選手と言われる理由は、確実なシュート力もあろうが、まずは際立ったダッシュ力であろう。
サッカー選手は短距離も長距離も速いのが理想的だが、どちらかと言えば絶対に短距離、と言っても百メートル走ではなく十メートル走だ。ボールを目指し相手選手と十メートル並走する場合、ほんの二十センチでも相手の先に出ることができれば、ボールと相手との間に身体を割り込ませることでボールは確実に自分のものとなる。ドリブルで相手をかわす時も、切り返してからのダッシュカで決まる。
世界の三大スター選手と言えるメッシ、ネイマール、クリスティアーノーロナウドなどは、あっという間に相手の先に出てしまう。日本の誇る香川や長友だって同様だ。本田が非凡なシュートカやプロ根性を持ちながら才能を発揮しきれないのはこれに欠けるからだ。
ワールドカップで日本が早々と敗退した原因はすでに色々言われている。中高六年間、サッカー選手として俊敏捧猛な動きと流麗華麗な足技で観衆(控え選手数名)を大いに魅了した私の見る限り、日本の致命的欠陥はここ五十年間、何はさておき守備陣のダッシュカ欠如だ。すぐに相手に振り切られてしまう。世界の速いフォワードは五十メートルを六秒そこそこで走る。六秒五のバックスでは十メートル並走しただけで八十センチも先に出られてしまう。勝負にならない。そうなる前に反則で止めるしかなくなりPKなどをとられる。
そして何より、ダッシュカに自信がないと敵の逆襲が恐いからいつも後方に引き気味となる。前線と最終ラインとの間を狭く保つコンパクトサッカーができないのだ。これでは攻撃のサポートをしたリ奪われたボールをすぐに奪い返すといった分厚い攻撃も、敵の逆襲の芽を中盤で摘み取ることもできない。優勝したドイツは最もコンパクトサッカーに徹していた。日本代表の守備陣は、五十メートルを少くとも六秒半で走れる者のみにしないといけない。半ば生れつきの能力だからかほとんど触れられないが、守備陣のダッシュカがない限り、いくら監督や作戦を変え、いくら技術やチームワークを向上させようと、永遠に世界には太刀打ちできないのだ。
数学者のサッカー解説に、納得してしまいました。
サッカーは、守備陣(ディフェンス:バックス)、攻撃陣(オフェンス:フォワード)で成り立ちます。4-4-2というのは、ディフェンス・最終ラインの守備陣が、4人、中盤が4人、トップ・フォワードが2人という体制のことです。

ドイツの場合は、これが、狭い形で、つまり、球を奪ったら「すぐ(このすぐと言うのがとても大事です)」に、前に回せる形のサッカーをしたということです。
ドイツの形(狭い型で、前後に移動)

しかし、日本の場合、相手の早いフォワードに対するため(ディフェンスの足が遅いため)、ディフェンスラインは、後ろに下がって守ります。そうすると、この間隔が、ひろがり、結果として、「すぐ」という形が取れないのです。
日本はトップと、ディフェンス間が広い(スピードがそがれる)

藤原さんは、これだから、勝てないと説明しています。
確かに、今回の予選の第1試合で、本田が最初の得点をあげるまでは、この間隔は狭いものでした。(攻撃的サッカー)
しかし、その1点を取ったことで、日本のディフェンスが、守りに入り(無意識にです)、結果として、攻撃的サッカーではなく、間延びした間隔の、どっちつかずのサッカーになって(選手のイメージがバラバラ)、立て直す暇もなく、トントンと、点を入れられてしまいました。
と、ここまで、原稿を書いて、予定稿にしていたら、後日、ザック監督の分析がコメントされました。
藤原さんの見立て、ドンピシャでした。
↓
http://news.livedoor.com/article/detail/9204708/
【ザックからの伝言2】今も悔やむW杯初戦 「臆病さ」を克服せよ
スポニチアネックス 2014年09月01日11時11分
コートジボワール戦の2ボランチは山口と長谷部が先発。後半からケガから復帰して間もない長谷部に代わり遠藤が入った。だが、交代による効果も見られないどころか、相手がもう一人の大物、ドログバを投入したことで、日本は完全に受け身となった。
「ヤヤ・トゥーレは日本の中盤とDFラインの間で動いていた。相手は1トップだったから、ボランチの2人はヤヤ・トゥーレをセンターバックの2人に任せておくべきだった。でもそれができず、日本はボールを持っていない場面でチームをコンパクトに保てず、間延びしてしまった。ボランチ2枚がほとんどDFラインに吸収されてしまった形になっていた」
試合は本田の得点で先制も、後半19、21分に立て続けに失点を喫し逆転負け。初戦で突如として狂った歯車は、結局最後まで修正することができなかった。指揮官は就任時から常々、日本の内弁慶ぶりを課題に挙げていたが、その弱点があろうことか本番で再びあらわとなった。自身の任期の4年間で克服はできなかった。
<追記 時代が・・・>
運動部指導の委託検討…大阪市、教員負担軽減で
読売新聞 9月22日(月)9時28分配信
大阪市立中学校の運動部の活動(部活)について、市と市教委は22日、外部委託に向けた協議を始める。
教員の負担軽減が主な目的で、部活の指導を民間事業者に委ねる。東京都杉並区が導入しているような「一部学校、土日限定」の委託だけでなく、全国初の全面委託も検討する。モデル校などで先行実施し、検証、拡大していく考えだ。
橋下徹市長はすでに部活の現状分析を市教委側に要望。結果を踏まえ、橋下市長と市教育委員らが22日午後、部活改革に関する初の本格協議を行う。
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<追記 介護>
日経H26.9.23『介護離職10万人』
介護か、それとも仕事か
総務省によると、介護を理由に会社を辞める人は年間約10万人、働きながら介護している人は240万人、企業にとって、経営問題になりつつある。
「2016年には8割以上が介護に直面する可能性がある」丸紅、「このままでは、離職や転勤拒否で、重要ポストに穴が相手しまう」
厚生労働省 2012年
65歳以上高齢者3000万人
462万人、15.4%、6.45人に1人が、認知症
さらに、経度認知症400万人
高齢者の4人に1人が認知機能に障害
厚生労働省は今年3月25日、特別養護老人ホーム(特養)に入所できていない高齢者が、2013年度は52万2000人に上るとの調査結果
10年後、介護員は、100万人の不足が見込まれる
高校生からわかるマクロ・ミクロ経済学
渓流
経済の基礎知識が平易に書かれ、今まで読んだ経済学の入門書の中でベスト。今まで疑問に思っていたことの殆どが解決された。