教科書の間違い(8) 山川出版社 『詳説政治・経済』2009.3.1
教科書の間違い 山川出版社 『詳説政治・経済』 2009.3.1 p148-149
近年の国際収支は、発展する中国やアジアNIES向けのハイテク部品の輸出の増加による貿易収支の黒字に加えて、投資の収益による所得収支も黒字で、経常収支は大幅な黒字となっている。
一方、資本収支は、日本の企業が、多国籍企業として海外に直接投資をして生産・販売の拠点をつくったり、証券投資などの間接投資をする金額も多く、赤字が基調となっている。
この、国際収支表の説明ですが、高校の教科書・資料集で、東学「資料政経2009」(筆者執筆)以外、適切に書かれているものは、ありません。
国際収支表は、(1)経常収支額=カネの取引額なので、(1)経常収支額=(2)資本収支額(外貨準備増減・誤差脱漏含む)に必ずなります。ですから、経常収支黒字ならば、「赤字が基調」ではなく、 「絶対に赤字」になります。
まず、教科書の国際収支表p148です。一つ一つの項目の数字が並び、細かすぎて理解できません。

これを、すっきりさせます。2007年の国際収支表です。


国際収支は、複式簿記という記入方法で書かれている、会社で言う「貸借対照表=バランスシート」のことです。商業科に通っている高校生なら、すぐに理解できます。
モノ・サービスを売買すると、必ず同額のカネが動きます。ですから、モノ・サービスを売ると、貸し方(+)に記載された同額が、借り方(-)にも記載されます。
東学「資料政経2009」
ですから、経常収支黒字額=資本収支赤字になるのです。モノ・サービス金額=カネ金額です。
資本収支赤字=日本から海外に投資された額が多いということです。
逆に、アメリカ・イギリス・オーストラリアのように、貿易赤字の国は、経常収支赤字=資本収支黒字になります。資本収支黒字=海外から投資された額が多い ということです。
「貿易黒字=カネの貸し借り(取引)」であり、 「黒字はもうけ、赤字は損」という対象ではないのです。
「輸出の増加による貿易収支の黒字」とか、「海外に直接投資をして」とか、「証券投資などの間接投資をする金額も多く」といった個別の事柄より、全体像を把握しなければ、国際収支を理解できません。
理解されないので、「黒字はもうけ、赤字は損」と日本全国の教室で教えられ、そう覚える生徒が育ちます。その結果、そのように理解した生徒が大人になります。そうすると・・・次の表現がおかしい事が理解できません。
同書p148
日本の貿易収支が黒字であることは、逆に日本からの輸入が多い国の貿易収支を赤字にする要因になる。1980年代以降の日米の貿易摩擦は、こうした2国間での貿易収支を中心とした経常収支の著しい不均衡が原因になっていた。
「黒字はもうけ、赤字は損」というアメリカ・日本人の無理解の結果、貿易摩擦に発展しました。貿易摩擦について、教科書は、「『貿易摩擦は、黒字はもうけ、赤字は損』という考え方に立脚しており、間違いである」と書かなくてはなりません。
もし、「黒字はもうけ、赤字は損」が正しいなら、アメリカは大変な事態になっているはずです。なぜなら、日本との貿易摩擦の時代どころではない、大変な貿易赤字を負っているからです。
東京書籍 「現代社会資料集最新ダイナミックワイド 現代社会2007」

にもかかわらず、アメリカのGDP(GNI国民所得)は拡大しています。

貿易赤字黒字と、経済成長は、何の関係も無い のです。貿易赤字=外国資本の導入、貿易黒字は外国への資本提供と同じことなのです。 「もうけとか、損」という問題ではないのです。
輸出・輸入を国内で検証してみます。農作物の自給率は東京都で5%以下。北海道は200%超です。北海道は農作物を東京に輸出しています。「北海道はおおもうけ」ですか?
乗用自動車は、東京都は自給率「0」です。愛知県、広島県、静岡県などから輸入しています。では「東京は損」ですか?
県民総生産・所得(GRP=国でいえばGDP)は、東京都が圧倒的に全国1位です。東京の都民が日本で一番豊かな生活(収入を得ている)をしているのです。東京は輸入超過なのになぜ?

帝国書院アクセス現代社会2009
日本の県境で区切って、「東京都は輸入超過」「愛知県は輸出超過」としても、意味はない事がおわかりですか?
大切なのは、輸出入の大きさではなく、県民総生産・所得GRP(国民総生産GDP)なのです。その県民所得・国民所得が大きくなること(経済成長)が大切なのです。
日本を「県」で区切って「輸出入」の大きさをはかる事に意味がないように、世界を「国境」で区切って、「輸出入」の大きさをはかる事には本質的に意味はありません。
「日本各県民」の総生産の合計が「日本各県民」の総所得なのです。三面等価の図を見ましょう。
これが「日本各県民」の総生産=総所得です。 「県」と「県」で区切ってその県同士の輸出入を描くことに、何の意味があるのでしょうか?
この論理を「閉鎖経済」といいます。要するに、世界全体から見たら、世界全体の総生産=世界全体の総所得=世界全体の総支出(世界全体のGDPの三面等価)になり、国境と国境で区切った「輸出入」は世界全体の図には存在しないのです。
与次郎『大機小機』日本経済新聞H21.6.6
…思えば、世界経済全体は閉鎖経済であり、そこには最終需要として輸出は存在しない。
「北海道→津軽海峡→本州」という輸出入と、「日本→太平洋→米州」という輸出入は本質的に同じです。でも、前者に意味がないように、後者にも本当は意味がありません。
「世界全体のGDP=世界全体の総所得GDI=世界全体のGDE」です。世界を一つの国とすれば、そこに輸出入は存在しません。

日本を県ごとに区切る意味がないように、世界を国ごとに区切る意味はないのです。これが「閉鎖経済=GDPの三面等価」です。GDPの三面等価を分からずに経済を語る事は出来ないのです。
「日本のもうけ」「アメリカのもうけ」が存在しないことが分かると思います。 「北海道のもうけ」「愛知県のもうけ」はないのと同様です。個々の企業・個人の儲けが日本人のもうけ=GDP=GDIです。「国」と「国」は「企業」とちがい、もうけを生み出す主体ではありません。
日本の05年貿易黒字の割合は、日本のGDPのたった1.43%です。日本のGDPにとって、一番大切なのは「内需」です。
中国も、アメリカも、イギリスも、どこもかしこも、 「国民所得が伸びる=GDP増=GDI増=経済成長」の原動力は輸出入差額(貿易黒字・赤字)ではなく、 内需の拡大なのです。
近年の国際収支は、発展する中国やアジアNIES向けのハイテク部品の輸出の増加による貿易収支の黒字に加えて、投資の収益による所得収支も黒字で、経常収支は大幅な黒字となっている。
一方、資本収支は、日本の企業が、多国籍企業として海外に直接投資をして生産・販売の拠点をつくったり、証券投資などの間接投資をする金額も多く、赤字が基調となっている。
この、国際収支表の説明ですが、高校の教科書・資料集で、東学「資料政経2009」(筆者執筆)以外、適切に書かれているものは、ありません。
国際収支表は、(1)経常収支額=カネの取引額なので、(1)経常収支額=(2)資本収支額(外貨準備増減・誤差脱漏含む)に必ずなります。ですから、経常収支黒字ならば、「赤字が基調」ではなく、 「絶対に赤字」になります。
まず、教科書の国際収支表p148です。一つ一つの項目の数字が並び、細かすぎて理解できません。

これを、すっきりさせます。2007年の国際収支表です。


国際収支は、複式簿記という記入方法で書かれている、会社で言う「貸借対照表=バランスシート」のことです。商業科に通っている高校生なら、すぐに理解できます。
モノ・サービスを売買すると、必ず同額のカネが動きます。ですから、モノ・サービスを売ると、貸し方(+)に記載された同額が、借り方(-)にも記載されます。

ですから、経常収支黒字額=資本収支赤字になるのです。モノ・サービス金額=カネ金額です。
資本収支赤字=日本から海外に投資された額が多いということです。
逆に、アメリカ・イギリス・オーストラリアのように、貿易赤字の国は、経常収支赤字=資本収支黒字になります。資本収支黒字=海外から投資された額が多い ということです。
「貿易黒字=カネの貸し借り(取引)」であり、 「黒字はもうけ、赤字は損」という対象ではないのです。
「輸出の増加による貿易収支の黒字」とか、「海外に直接投資をして」とか、「証券投資などの間接投資をする金額も多く」といった個別の事柄より、全体像を把握しなければ、国際収支を理解できません。
理解されないので、「黒字はもうけ、赤字は損」と日本全国の教室で教えられ、そう覚える生徒が育ちます。その結果、そのように理解した生徒が大人になります。そうすると・・・次の表現がおかしい事が理解できません。
同書p148
日本の貿易収支が黒字であることは、逆に日本からの輸入が多い国の貿易収支を赤字にする要因になる。1980年代以降の日米の貿易摩擦は、こうした2国間での貿易収支を中心とした経常収支の著しい不均衡が原因になっていた。
「黒字はもうけ、赤字は損」というアメリカ・日本人の無理解の結果、貿易摩擦に発展しました。貿易摩擦について、教科書は、「『貿易摩擦は、黒字はもうけ、赤字は損』という考え方に立脚しており、間違いである」と書かなくてはなりません。
もし、「黒字はもうけ、赤字は損」が正しいなら、アメリカは大変な事態になっているはずです。なぜなら、日本との貿易摩擦の時代どころではない、大変な貿易赤字を負っているからです。
東京書籍 「現代社会資料集最新ダイナミックワイド 現代社会2007」

にもかかわらず、アメリカのGDP(GNI国民所得)は拡大しています。

貿易赤字黒字と、経済成長は、何の関係も無い のです。貿易赤字=外国資本の導入、貿易黒字は外国への資本提供と同じことなのです。 「もうけとか、損」という問題ではないのです。
輸出・輸入を国内で検証してみます。農作物の自給率は東京都で5%以下。北海道は200%超です。北海道は農作物を東京に輸出しています。「北海道はおおもうけ」ですか?
乗用自動車は、東京都は自給率「0」です。愛知県、広島県、静岡県などから輸入しています。では「東京は損」ですか?
県民総生産・所得(GRP=国でいえばGDP)は、東京都が圧倒的に全国1位です。東京の都民が日本で一番豊かな生活(収入を得ている)をしているのです。東京は輸入超過なのになぜ?

帝国書院アクセス現代社会2009
日本の県境で区切って、「東京都は輸入超過」「愛知県は輸出超過」としても、意味はない事がおわかりですか?
大切なのは、輸出入の大きさではなく、県民総生産・所得GRP(国民総生産GDP)なのです。その県民所得・国民所得が大きくなること(経済成長)が大切なのです。
日本を「県」で区切って「輸出入」の大きさをはかる事に意味がないように、世界を「国境」で区切って、「輸出入」の大きさをはかる事には本質的に意味はありません。
「日本各県民」の総生産の合計が「日本各県民」の総所得なのです。三面等価の図を見ましょう。

これが「日本各県民」の総生産=総所得です。 「県」と「県」で区切ってその県同士の輸出入を描くことに、何の意味があるのでしょうか?
この論理を「閉鎖経済」といいます。要するに、世界全体から見たら、世界全体の総生産=世界全体の総所得=世界全体の総支出(世界全体のGDPの三面等価)になり、国境と国境で区切った「輸出入」は世界全体の図には存在しないのです。
与次郎『大機小機』日本経済新聞H21.6.6
…思えば、世界経済全体は閉鎖経済であり、そこには最終需要として輸出は存在しない。
「北海道→津軽海峡→本州」という輸出入と、「日本→太平洋→米州」という輸出入は本質的に同じです。でも、前者に意味がないように、後者にも本当は意味がありません。
「世界全体のGDP=世界全体の総所得GDI=世界全体のGDE」です。世界を一つの国とすれば、そこに輸出入は存在しません。

日本を県ごとに区切る意味がないように、世界を国ごとに区切る意味はないのです。これが「閉鎖経済=GDPの三面等価」です。GDPの三面等価を分からずに経済を語る事は出来ないのです。
「日本のもうけ」「アメリカのもうけ」が存在しないことが分かると思います。 「北海道のもうけ」「愛知県のもうけ」はないのと同様です。個々の企業・個人の儲けが日本人のもうけ=GDP=GDIです。「国」と「国」は「企業」とちがい、もうけを生み出す主体ではありません。
日本の05年貿易黒字の割合は、日本のGDPのたった1.43%です。日本のGDPにとって、一番大切なのは「内需」です。
中国も、アメリカも、イギリスも、どこもかしこも、 「国民所得が伸びる=GDP増=GDI増=経済成長」の原動力は輸出入差額(貿易黒字・赤字)ではなく、 内需の拡大なのです。
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