中野剛志その1
経済学を分かっていないと、直観とか、常識(経済学的には非常識)とか、経験(帰納法・・・学問的真理は導き出せない)に頼ります。
で。それらは、本質を見誤るようにできています。例の、「貿易赤字は損」「グローバル化で産業空洞化論」です。
もう、どうしようもないですが、今回はまた、それらの謬見(びゅうけん)による、トンでも論を一つ、検証しましょう。それは、「関税=国内産業保護」という、でたらめです。
<反・自由貿易論>
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P11 米豪FTAがオーストラリアを殺した。
オーストラリアは、「殺された」そうです。
米豪FTAが締結されたのは、2004年2月、発効は2005年1月ですが、その結果はオーストラリアにとって散々なものでした。・・・「国家が殺された」というのは、大げさすぎるかもしれませんが、確かにオーストラリアにとって、相当に不利な結末を迎えたのです。
まず、アメリカの要求どおり、オーストラリアが輸入品にかけてきた関税や障壁は、ほとんど撤廃されました。
・・・結果として、米豪FTA発効後、オーストラリアの対米貿易赤字は毎年拡大しています。
P13
・・・自由貿易協定は国同士の合意に基づくものであるにも関わらず、「一方の国だけが圧倒的に有利になる」という結果を引き起こすことが多いということです。
オーストラリアの、対アメリカの貿易赤字が拡大したので、相当に不利な結末だそうです。
オーストラリアの輸出入額です。

輸入では、アメリカは同国にとって第2位の国です。1位が中国、3位が日本です。輸出額では、中・日・韓の順です。
で、対米貿易赤字だから、不利な結末・・・「赤字が不利」なら、「黒字は有利」と考えているのでしょう。彼が、経済学を全く理解していないことが、わかると思います。


なるほど、アメリカとFTAを結ぶと、対アメリカでは「不利」ですが、トータルで考えると、GDPは増加し、1人当たりGDPでも、日本をはるかに凌駕できるようです。日本も、一刻も早くアメリカとFTAを結ばないと、まずいです(笑)。
と言うのは冗談ですが、アメリカとFTA結んで、そんなにオーストラリアが不利になったのなら、何で、オーストラリアは、TPPの交渉なんか、参加しているのでしょうか?オーストラリアは、自国が不利なTPPに、わざわざ参加する・・・オーストラリアは、バカ国家???
もう、こんな、「貿易黒字=有利、貿易赤字=不利」論に、付き合いきれません。
<関税=日本の消費者が払う>
まず、アメリカの要求どおり、オーストラリアが輸入品にかけてきた関税や障壁は、ほとんど撤廃されました。
・・・結果として、米豪FTA発効後、オーストラリアの対米貿易赤字は毎年拡大しています。
日本の、コメの関税は、778%と言われています。1000円のコメが日本国内に流通するときは、8,780円になります。みなさん、この7,780円を、「輸出業者が払う」と考えています。だから、なかなか「輸出できない」「輸出をあきらめる」と。
違うのです。関税は、日本人が払っているのです。輸出業者は、1円も懐を痛めてはいないのです。懐を痛めているのは、日本人なのです。
1950年代に、タイムスリップします(別にしなくてもいいのですが、物語として)。
アメリカの自動車が、1万ドルだとします。1ドル=360円なので、日本円で360万円です。
この車が入ってきたら、日本の自動車産業が困るので、関税をかけます。何しろ、日本には自動車メーカーがありません。しかし、自動車は、これからの産業発展に欠かせません。ですから、日本の自動車メーカーを育てるために、高関税をかけて、その間に、急いで育てなければいけません。国民車を作らなければだめです!!!!
これは当時の通産省が描いたシナリオです。「国民車構想」も作られました。中野剛志の出身母体経産省の前身です。「官僚たちの夏」という、小説にも描かれた、国内産業保護=保護貿易の物語です。
こんなもの、ホンダの創業者、本田総一郎は、「余計なことするな」と全く相手にしませんでした。国が関与することに、ろくなことなどないのです(経産省主導クールジャパンにも、海洋堂社長が「余計なことするな」と反対中です)。
さて、戻ります。
360万円の高級車に、関税を100%かけます。そうすると、この車は、日本にはいってくるときに、本体360万円+関税360万円=合計720万円となります。
さて、この車、360万円ですが、おおざっぱに経費180万円、もうけ180万円とします。

で、この車を日本に持ち込むと、関税が100%、合計720万の車になります。

そして、1台売るたびに、この業者は、360万円を、日本政府に払います。
さて、この業者のもうけは、当初より、減っているでしょうか・・・
図を見てもらえば、わかるように、この業者は、自分で関税代など、負担していないのです。そう、関税代の360万円を負担しているのは、輸出業者ではなく、それを購入している日本の消費者なのです。

関税を払っているのは、日本の消費者です。日本の消費者から関税を負担してもらって、それを、日本の生産者(保護しようとしている自動車メーカー)に回しているのです。アメリカの自動車メーカーは、自分の懐など、全く痛めていません。
関税はこのように、日本の消費者→日本の生産者への所得移転なのです。外国の輸出業者→日本の生産者への所得補償ではないのです。
もちろん、車の価格が、360万円から720万円になるので、売り上げは激減で、大損でしょう。そして、この車を買いたかった日本の消費者も、買えなくなって損します。買えたとしても、360万円分の関税負担分、損します。
本来は、余計に支出した、360万円分は、車ではなくて、他の消費財・サービスに回っているカネでした。関税増は、その財・サービスだけではなく、他の財・サービスにまで影響を及ぼすのです。
だから、お互いに保護貿易・関税障壁を設けると(世界恐慌後の、ブロック貿易体制)、お互いが行き詰まり、最後は戦争になったのです。
カテゴリ「IMF-GATT WTO・FTA/EPA・TPP」参照
コメの778%関税、払うのは、輸出業者ではなく、日本の消費者なのです。
http://mediamarker.net/media/0/?asin=4309246281
高校生からわかるマクロ・ミクロ経済学
kjmtky ・superlight(FRENCH BLOOM NET2013/12/25):自分の頭で経済を考えてみようという人への有益な第一歩になる