<シェール革命 トウモロコシはどこへ?>
日経 H25.12.2
「シェール革命、穀物市況に波及」
シェール革命が穀物市況に波及してきた。シェールオイル増産によって米国の石油輸入依存率が大幅に下がり、依存率低減を目指したガソリン混合用のエタノール増産の必要性が薄れてきた。米環境保護局は先月、エタノール使用義務量の引き下げ方針を示したが、実現すれば原料のトウモロコシ需要が減り価格の下落要因になる。シェール革命が穀物高騰リスクの抑制につながり始めている。
米国のエタノールを含む再生可能燃料の使用義務付けは2005年のエネルギー政策法に始まり、07年に強化された。石油の輸入依存率低減や穀物需要開拓による農家支援などを狙ったものだ。再生可能燃料の08年義務量は90億ガロン(1ガロンは約3・8リットル)だったが、その後毎年引き上げられ14年は181・5億ガロンになる計画だった。
ところが米環境保護局は11月中旬ヽ再生可能燃料の義務量の引き下げ案を公表した。14年の義務量を計画比で16%減らし、152億1千万ガロンにするという内容だ。再生可能燃料の大半を占めるエタノールは144億ガロンから130億ガロン前後に減少する見通し。
こうした突然の義務量削減方針の背景には、シェール革命による米国産原油の大幅な増産がある。05年の石油輸入依存率は60%だったが今年は35%。車の燃費向上でガソリン需要も伸び悩み、あえて穀物で燃料をつくらなくても依存率の一層の低減が可能になった。
来年1~3月に削減が正式に決まるが、実現すれば日本の年間輸入量に近い5・5ブッシェル程度(1ブッシェルは約25キロ)需要が減る。シカゴのトウモロコシ先物は11月18日に今年最安値を付けたが、長期的な弱材料になるとの見方もある。
穀物価格は燃料向け需要拡大が引き金となって何度か高騰したが、そのたびに「トウモロコシは食糧か燃料か」の議論が起きた。穀物高はインフレを引き起こし景気の足かせにもなる。08年には中南米、アフリカでデモや暴動を誘発し、11年のエジプト政変の一因といわれた。それだけにトウモロコシが本来の食糧や飼料に回帰することは、世界経済の安定にも結びつく。
日経H25.4.17

<余ったトウモロコシはどこへ>
困りましたね。トウモロコシは、余って余って、価格がめちゃくちゃ安くなったので、仕方がないからアメリカは補助金つけて、バイオエタノール生産に回しました。
日経H25.8.14

実教出版 2012 ニュースタンダード 資料現代社会
下のグラフを見てみましょう。

1950→2005
人口 約2.6倍
穀物(トウモロコシ・小麦・コメ) 約4.3倍
完全に人口増加率<穀物生産増加率です。
「日本の食料自給率を高めないと、食糧危機が起きたらどうする!」という声があります。食糧安全保障論です。
しかし、これほどナンセンスな話はありません。
「人口増だから食糧足りなくなるかも!」でしょう?完全に因果関係が逆です。
人類の歴史は、「食糧増産→人口増」です。
1 食糧生産革命
原始時代です。それまでは、人類は狩猟生活(採集)だったのですが、穀物を栽培し、定住することができるようになりました。「食糧を取りに行く→食糧生産する」これを、食糧生産革命と言います。
全員が農業に携わらなくても、十分な食糧が生産できるようになり、農業以外の職業が誕生し、政治体制(国家)の成立につながっていきました。
2 中世の人口増
ヨーロッパ中世で、人口が増えたのは、三圃性(さんぽせい)農業が導入され、食糧増産が可能になったからです。休耕地・放牧地・生産地と土地を3つに分け、さらに、鉄製機材(鉄は肥料でもある)の導入により、食糧が増産されました。結果、人口が爆発的に増え、十字軍の遠征(ヨーロッパの土地不足)にもつながりました。
3 第2次食糧生産革命
ヨーロッパでは、小麦の面積当たり収量が、フランスで10倍になります。
アジアでは、緑の革命により、コメが大増産されます。アジアでは、「人口爆発」と呼ばれる時代を迎えます。
日本では、単位面積当たりのコメ収量が大きくなりすぎて、減反させ、補助金を出しました。
食糧は余っているのです。
食料生産には、「窒素」が必要で、昔から、家畜の糞尿で堆肥を作るなど、大変苦労して来ました。
ところが、20世紀になり、空気中に無限に存在する「窒素」を、固形化する「化学肥料」が登場し、穀物生産が飛躍的(本当に飛躍的で、フランスでは、単位あたり小麦生産がなんと10倍に!)に伸び、人類の永遠の課題だった食料危機は去ったのです。
だから、これを、「第2次食料生産革命」とまで言うのです。
そうすると、食糧が余ります。例の需要供給曲線で、供給過多→価格下落になるわけです。
そこで、先進国では、その差額を補助する為に「補助金」をつけるのです。
補助金つけてまで作ったトウモロコシを、バイオエタノールに回しているのです。
途上国は、食料に入ってこられたら困るので、「関税」をかけるのです(日本もでした)。
で、利害対立が錯綜し、農業がネックとなって「WTO」が止まるのです。仕方ないから、ミニWTOである、FTAに走るのです。TPPやRCEP、日欧FTAが浮上してきたのは、そのような背景があるのです。
日経 日曜に考える

以下 参考文献
![]() | 「作りすぎ」が日本の農業をダメにする (2011/08/25) 川島 博之 商品詳細を見る |
日本は、もっとも輸入しているのは、トウモロコシです。小麦の3倍以上も輸入しています。飼料用です。2008年に1650万トンのトウモロコシを輸入し、代金は56億ドルでした。1トン340ドル(27400円)、1キロわずか27.2円です。
世界経済のネタ帳

あまりに余るので、価格は下落しました。1999年には、1トン72ドル、100円としても7200円です。ここまで安いのなら、そこからエネルギーを作っても、石油に対抗できるのでは?と、バイオエタノールが生産されるようになったのです。
http://lin.alic.go.jp/alic/month/domefore/2011/jun/wrepo02.htm
図1 トウモロコシ

http://nocs.myvnc.com/study/geo/corn.htm

作付面積は、そんなに変わっていないのに、生産量だけ激増です。遺伝子組み換え・化学肥料による増産です。
ポイントは、「余っている」です。バイオエタノール生産なんて、ものすごく効率の悪いエネルギー使用方法です。燃料つくるより、食べた方が(家畜に食べさせた方が)、エネルギー効率はものすごく高いのに・・・です。余って余って仕方がないのです。
参考・引用文献
![]() | 資源・食糧・エネルギーが変える世界 (2011/09/16) 後藤 康浩 商品詳細を見る |
…人間が食べれば1年間の消費量になるものがバイオ燃料に転換してしまうと、高速道路で2時間半走れば終わる。多くの人にとって食べるときのコメの価値に比べ、エタノール燃料にする時の価値が著しく低いように感じざるを得ないだろう。

なんで、こんなに効率の悪いエタノールを作るのでしょう?人間が食べたり、家畜の飼料に与えたりする方が、ずっと効率がいいのに・・・。
米欧におけるバイオ燃料導入の最大の目的は余剰農産物処理という農業問題になる。
それでもなおバイオ燃料が増えるのは先進国における農産物の余剰と言う深刻な問題があるからだ。米国と EU はともに余剰農産物の処理がバイオ燃料生産の最大の動機となっている。
米国は世界のエタノールのほぼ半分を生産しており、その原料のほとんどはトウモロコシである。10年には1億1200万トンのトウモロコシをエタノール生産に利用した。これは米国のトウモロコシ生産量全体のおよそ3分の1、世界の生産量の13%にも当たる量だ。

このエタノールは米国の石油需要の4.3%に当たり、代替制のあるガソリンの需要と比べれば約9%分に匹敵する。

で、シェール革命で、バイオエタノール生産に、トウモロコシを回せなくなってきました。どうしましょう?
ケロッグを2倍食べよう!運動でもしますか?
http://ameblo.jp/artbeat/entry-11734753659.html
『高校生からわかるマクロ・ミクロ経済学』(菅原晃/河出書房新社)
大学では哲学専攻、高校でも日本史と世界史を選択してたので、政治経済系の基礎が皆無と言っても過言ではないっす。
ぶっちゃけ日経とかの記事を読んでても、あんまり理解できず、専門書見ても頭が拒否反応。
そんな経済アレルギーな僕でも、わかりやすく読めた一冊です(一部、アレルギーを引き起こしましたが・汗)
経済の本は、池上彰さんの本など読んだこともありますが、それよりもさらに一歩学問的に、なぜそうなるのかということがより具体的に説明されていると思います。
貿易黒字と貿易赤字が本当に意味すること、経済成長にはほとんど関係ないこと、そもそも手段使う黒字や赤字とは全く意味合いが違うこと、がすごくよく分かります。
他にも財政政策と金融政策の仕組みとか、国債や財政破綻の可能性などが、わかりやすく解説されてます。
読みやすい言葉で解説されているので、新聞の表現にだまされず、自分で考えられる基礎を身につけるにはいい本かと思われます。
おすすめ。
theme : マクロ経済学 ミクロ経済学
genre : 政治・経済