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やっと、やっと、ほんの少しだけ、カロリー自給率の無意味さを語る論調も出てきた

<やっと、やっと、ほんの少しだけ、カロリー自給率の無意味さを語る論調も出てきた>

まず、自給率について、世間一般の理解は、次のようなものだと思われます。

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「持続可能な社会のために - 食料安全保障について考えよう」

日本の食料自給率は先進国でも突出して低い状態にある。

・・・諸々の事情を鑑みても、やはり39%というのは異常値であり、何かしらの政治・社会システムのエラーの結果であると言わざるを得ない。

・・・それでも日本の食料政策は、経済的に裕福であり続けることや、エネルギー・食料価格が恒常的に上昇しないこと、売り手が必ず売ってくれること、などの条件が前提となっており、リスク管理上は明らかに問題があるだろう。



 しかし、ようやく、事実に基づいた論調も出てきました。

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13参院選 農業政策 競争力向上へ具体策が必要だ(7月16日付・読売社説)

一層の貿易自由化に備え、日本農業の再生が急務だ。いかに衰退に歯止めをかけ、国際競争力を高めるのか。参院選の重要な論点である。

ところが、各党とも、成長産業としての「強い農業」の実現に向けた議論より、農村票を意識したバラマキ政策の主張が目立つ。そろって補助金の拡大を訴えていることが象徴的だ。

 自民党は、民主党政権が導入した戸別所得補償制度を改め、「直接支払い制度」の創設を主張している。水田だけでなく、畑や果樹園も含む農地全般を対象にする。公明党も支援拡充を唱えた。

 民主党は、現在の制度を維持したうえで、補償対象を畜産、酪農業者にも広げる方針だ。共産党や生活の党、社民党なども、所得補償制度を主張している。

 農業従事者の平均年齢は約66歳だ。高齢化が進み、後継者不足は深刻である。農業所得も20年前からほぼ半減した。農家の収入を安定させ、担い手を確保する施策が農業改革には欠かせない。

 だが、一律の支援制度では、零細農家が補助金を目当てに農地を手放さず、農地の集約は進むまい。大規模な専業農家に支援対象を限るなどの工夫が必要だ。

 消費する食料のうち、国産品が占める割合を示す食料自給率について、自民、民主両党はカロリーベースの向上などを唱えた。

 しかし、この指標は問題が多い。国内で育てた牛や豚の肉でも餌が輸入品なら国産とみなされないからだ。野菜は国産比率が高いにもかかわらずカロリーが低く、自給率向上にあまりつながらない。

 自給率は必ずしも農業の実力を示していないのに、農林水産省や農協が自給率低下を強調するなどコメ偏重の政策の理由に使われてきた経緯がある。こうした姿勢は改めるべきだろう。


 自民党は、過去20年で倍増した耕作放棄地を集積して、農地の大規模化を進め、効率的な営農体制を築くとしている。農業所得や農産品輸出額を倍増する目標も、実現への道筋は曖昧だ。

 民主党政権に削られ、政権復帰後に予算を回復した土地改良事業を更に拡充する考えも示したが、これでは、単なる予算の大盤振る舞いに終わりかねない。

 日本維新の会とみんなの党は、農業の生産性を高める狙いから、企業の参入拡大や減反の見直し、農協改革を主張し多。各党でさらに議論を深めてもらいたい。
(2013年7月16日01時42分 読売新聞)



自給率なんて、どうにでもなる指標です。

価格の値上がりがなく、価格の優等生と言われる、卵。重量ベースでは、95%の自給率ですが、餌を輸入穀物(トウモロコシ・こうりゃん、大麦、米、大豆油粕など)に、90%も依存しているため、熱量(カロリーベース)自給率は10%に落ちてしまいます。肉も、国産牛や、豚や、鶏肉、乳製品などの自給は高い(40~70%)のですが、輸入飼料を使っているため、16%になってしまいます。

http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/fbs/pdf/23slide.pdf
平成23年度食糧自給率を巡る事情
平成24年8月 農林水産省

自給率 各項目 23年度

 輸入飼料を使っても、「国内で育てた肉や生乳」ということであれば、自給率は、16%から64%に跳ね上がります。(上記黄色の部分)

 自給率なんて、物差しを変えれば、いくらでも動かすことが出来ます。

<自給率のカラクリ 2008年キロカロリー>

浅川芳裕『日本は世界第5位の農業大国』講談社+a新書 2010
カロリーベース 食糧自給率

 自給率なる指標に、まったく意味はありません。

自給率 53%


 この廃棄物量は、日本の全農産物輸入量の35%に相当

農作物 輸入量

 厚労省(05年版『国民健康・栄養調査』)による、「実際の自給量/摂取量」にすると、農水省の2015年度目標の45%を軽く超える、53%になっている。

 さて、実際の摂取カロリーに基準を変更すると、41%でなく、53%です。下記の語群から正しいと思うものを選んでみましょう。

① 41%は低いだが、53%なら及第点だ
② 41%でも、53%でも不安だ
③ 41%でも、53%でも、意味はない

 ②の人もいるでしょう。ですが、自給率には、さらにからくりがあって、もっと上がります

 この自給1012キロカロリーに含まれないもの

①200万戸の農家・兼業農家・家庭菜園の、自家消費分(市場に出さないもの)は含まない

②農作物のうち、2~3割を占める、規格外や、価格下落を防ぐための廃棄物は含まない

 これらを含めると、「実際の自給量/摂取量」は60%を超える

自給率 60%

 はい、実際には、すでに60%を超えます

さて、41%でなく、60%です。記の語群から正しいと思うものを選んでみましょう。

① 41%は低いだが、60%なら及第点だ。
② 41%でも、60%でも不安だ
③ 41%でも、60%でも、意味はない

 本当は、さらにあがります。国産牛・豚・鳥の自給率計算方法を変えればいいのです。

『食料安定供給の盲点』日経H22.9.28 
…09年度で70%あった鶏肉の自給率は、飼料自給率の低さを踏まえ、8%として…計算…。

食料自給率 鶏肉など.jpg

 このグラフをみると、鶏卵など、ほぼ国産ですし、鶏肉も牛乳製品も国産です。ですが、鳥や牛の食べるトウモロコシなどの飼料が輸入なので、自給率で計算すると、国産率は、「激減」します。

 モスバーガーや、ケンタッキー、びっくりドンキーが、「国産肉」をうたっているように、畜産物の自給率は、実際には、カロリーベースで、68%あります。これが農水省にかかると、「17%」になります。全体の%を押し下げています。

 100%海外飼料を使う養豚業者は、たとえ1000頭以上の大規模農家で、何億の売り上げがある業者でも、農水省の計算上「0%」に計算されます。

 野菜は、8割以上が、「純国産」です。ですが、カロリーが少ないため、国産供給カロリー率は3%、実際の摂取カロリー率では、1%にしかなりません。野菜は「自給率」を引き上げないのです。

しかし、農水省は、自分たちの生き残り(レーゾンンデートル=存在価値)を図るため、意図的に「40%」などと、不安をあおる、数値を公表し続け、とうとう、学習指導要領に載せることに成功しました。

あの、日本のGDPの1%しか占めない、農林水産業に、予算22,976億円ですよ。しかも、コメの消費は減り続け、国産魚消費も減り続け、そこに予算22,976億円ですよ。

http://president.jp/articles/-/7810 
魚消費量 推移 1

http://blog.sizen-kankyo.com/blog/2008/12/000455.html
魚消費量 推移 2

httpresearch.goo.ne.jpdatabasedata000945 
コメ消費量 推移

なんで、市場メカニズム=「消費が減れば、値段が下がるor=生産量を下げ価格維持」に、政府がこれだけ介入しなければいけないのですか?

しかも、これだけ「農林水産業」は、規模が縮小(GDP比1%)しているのに、東大はじめ、全国の国立大学に依然として「農学部」があります。縮小業界なのに、学生数変わらず勉強させて、何の付加価値を生むのでしょう?
全国の学部生に占める、農学部学生の割合は、2.894083%です。7万人以上もいます。この人たちが、就業に農業を選ぶ??

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/gijiroku/08121809/003.pdf#search='%E5%9B%BD%E7%AB%8B%E5%A4%A7+%E8%BE%B2%E5%AD%A6%E9%83%A8+%E5%AE%9A%E5%93%A1+%E6%8E%A8%E7%A7%BB'
農学部 学生数


http://www.maff.go.jp/j/tokei/sihyo/data/08.html
農業 新規就業者

新規就業者で、学生を含む、39歳以下は、1万4千人しかいません。自営農に至っては、7千人です。農業を学ぶ学生7万人は、どこに消えたのでしょうか

どうせ、農学部出て農業に関係のない就職をするのですから(北大農学部が典型)、時間の無駄、他の学部の定員を増やした方が、ずっと費用対効果(コスト・バリュー)は上がります。

閑話休題

自給率は、高めれば高めるほど(100%を上限として)、安全ではなく、危険なのです。

自給率を100%にするのは、簡単です。輸入を止めればよいのです。

マグロも、エビも、肉も、ワインも、チーズも、コーヒーも、果物も、全部「自給」すればよいのです。

でも、食生活は「超貧困」状態になります。自給率を高めるということは、「食の貧困」を加速化します。

そんなことより、自給100%にして、あるいは、高めておいて、日本が、例えば、富士山爆発とか、異常低温とか(97年に起こり、コメをタイから緊急輸入した事例)、震災とか、未知の伝染病とか、宇宙人に破壊されるとか、北朝鮮に核ミサイル撃ち込まれるとか、そんな災害に会えば、一発で「食の大災害」です。

食の安全保障で、「いざという時に備えて、食糧自給率を高めよう」と言いますが、食糧自給を高めれば、逆に「安全保障」が脅かされます。

日本1国が災害にあえば、ダメージは計り知れません。

 ですが、世界197カ国があり、北半球と南半球があり(ということは、世界同時に不作にはならない)、それらが、いっぺんに災害に会うということが、起こりえますか?

 巨大隕石がぶつかったは、無しです。これは人類滅亡の話ですから。

 自給率が低い=世界各地から輸入している=リスクを分散させるなのです。

 北半球が不作になれば、南半球にとっては、千載一遇のチャンスです。

 アメリカが不作になれば、赤道直下の何毛作もできる、アジア地域にとってチャンスです。

 アジアが不作になれば、南米にとってチャンスです。

 食料自給率を、高めておいて、日本だけが不作(北東アジアの天候不良)なら、アウトです。
100%なら、江戸時代の飢饉並み。東北で餓死者続出しました。

 慌てて、緊急輸入ですか? まあ、日本は金持ちだから、輸入できますが。でもその際には、なりふり構わず「緊急輸入」です。その時、日本の基準に沿った安全な食品が輸入されるのですか?食の安全が保障されるのですか? 

 完璧に、どう考えても、論理破綻ですよね。「自給率高めれば安全だ→緊急輸入では安全は確保できない」


 食糧自給率が低い場合、世界のどこかが不作になれば、別な、世界197か国から(原理上)、輸入できます。日本の自給率40%は確保、輸入60%も安全に確保です。

 どちらが、「安全保障」ですか?

 ああ、戦争で(日本が関わる戦争とは限りません)、日本のシーレーンが破壊されて・・・ですか?

 そうなると、食糧どころじゃありません。エネルギーが枯渇します。エネルギーに頼る、日本農業(生産も、配送も、選別も、売買も、すべてエネルギーなしには成り立たない)も動けません。

 だから、エネルギー自給率限りなく「ゼロ」の日本は、国内発電エネルギーを分散し、エネルギー輸入先も分散するのです。

 これが、「安全保障」です。「分散」です。

 エネルギーは「安全保障のために」分散を目指し、食糧は「安全保障のために」国産集中を目指す・・・論理的に成り立ちません。

<結論>

 アホかです。

<追記>

 農業は、先進国では、かんぜんにゆがんでいます。

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過保護は大ウソだった 日本の農業が衰退した本当の理由

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