アベノミクスを、ちゃんと理論的に説明してみよう・・その3 財政政策編
さて、今回は、アベノミクスの2本目の矢、財政政策についてです。
1本目の矢 金融政策
2本目の矢 財政政策
実教出版『2012 新政治・経済資料』p191
ケインズは,国民所得決定の仕組みを解明し,有効需要の不足に,不況下での失業発生の原因があるとした。不況を克服して完全雇用を達成するためには,新しい投資需要が必要であり,そのために国家が経済に介入(財政・金融にわたる政策)するべきであるとした。
現在、名目GDPは、次のようになっています(内閣府)。
19年度 20年度 21年度 22年度 23年度 24年度
513.0兆円 489.5 473.9 480.1 473.3 474.8
日本は、リーマン・ショック以降(19年度)、景気後退期にあります。東日本大震災(23年度)の影響もあり、景気回復は腰折れとなっています。そこで、財政政策が唱えられるのです。
アベノミクスでは,平成24年度補正予算,平成25年度本予算で,機動的な財政出動(公共投資)が計画されました(2本目の矢)。公共投資額だけで,補正予算は2兆4千億円,平成25年度予算は,前年度より15.6%アップの5兆3千億円を計上しました。4年ぶりの上積みです。

合計すると,H24年度予算案の1.7倍になります。また,この公共事情を含む「補正予算+H25年度予算=15か月予算」の総額は,106兆円にもなります。
この公共投資額は,間違いなく,直接的に市中に回ります。

今までは,上図のように,緩和されたカネが市中に出回りませんでした。しかし,政府が国債を発行(新規国債は42兆2,853億円)し,公共事業を行えば,図のようになります。

この財政政策を,「流動性の罠」の下でのIS-LMのグラフに表わすと,次のようになります 。

「流動性の罠」の下では,金融政策を発動しても,無効でした。Yに変化はありません。そこで,政府支出Gを増大し,IS曲線をシフトさせます。

IS①効果により,新しい均衡点は,E①になります。このとき,GDP=Yは増加していますY①。金融政策が効かない流動性の罠の下では,財政政策は有効とされています。
このようにアベノミクスは,「非」伝統的な金融政策と,財政政策を組み合わせ,日本の景気回復を図ろうとしています。
ただし、論者によっては、財政政策に否定的な見方もあります。
田中秀臣『デフレ不況 日本銀行の大罪』朝日新聞出版2010
P241
日本の場合…いわゆる「リカードの等価命題」が働いて財政支出の乗数(波及)効果が下がってしまい、政策効果が限定されてしまうということです。
…政府の財政赤字が深刻であるため、、目先で減税しても、「いずれ近い将来、絶対に増税するに違いない」と国民が思ってしまうわけです。そうなるとみんなが身構えてしまって、手元のお金を将来の増税に備えて貯金してしまい、消費に回しません。
片岡剛士『アベノミクスのゆくえ』光文社新書 2013
P252・259
乗数効果は1程度だと考えられます。
…景気の下支えとして見た場合の公共投資には、大きな効果は期待できないと考えられます。…経済対策としてどのような手段が有効なのでしょうか。筆者が考えるのは、低額給付金や社会保障の減免といった形で、人々の懐を温める政策です。
乗数効果というのは、政府支出が、その何倍の国民所得を生み出すかという数値です。生産者(企業や政府)が投資を増やす→国民所得が増加する→消費が増える→国民所得が増える→さらに消費が増える→さらに国民所得が増加する→さらに消費が増える→・・・という経済上の効果のことです。
例えば、消費者が収入の6割を消費し,4割を貯蓄すれば,乗数効果(1/1-C,Cはこの場合0.6)により消費は2.5倍に増えるとされています。ただし、近年の研究では、乗数効果は低下していることが指摘されています。
岩田規久男他 編 『リフレが日本経済を復活させる』中央経済社2013
飯田泰之P184~
…かつてはマクロ経済政策の花形であった財政政策の有効性は近年低下している。…財政政策の効果が80年代に比べて低下しているという指摘は多くの論者の共通した認識であると言えよう。
注)ただし、田中秀臣上武大学教授が、財政政策を批判するのはいいのですが、実証上は否定されている「リカードの等価(中立)命題」を使用しています。
減税される→公債増大する→将来の増税を見越して、消費より貯蓄に励む→結局効果はない
こんなこと、あるわけがありません。
今年の予算で、40兆円を超える、国債が発行され、アベノミクスで、公共投資が5兆円も行われますが、みなさん、それを聞いて、消費節約しました?逆ですよね。消費拡大していますよね。
日本は、国債発行額が700兆円になっています。増えていますが、将来の増税を予想して、消費減らしました??
このような理論、短期でも、長期でも、成立なんかしないのです(一時、偶然に成立した時代もあります)。それを使用して財政政策は効果がないと力説します。経済学的に、価値はありません。
これについては、飯田先生が解説しています。(ちなみに、田中秀臣上武大学教授は、この本の財政政策について・・つまり飯田先生の論文について推奨しています。
http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20130622
財政政策については、岩田規久男・浜田宏一・原田泰『リフレが日本経済を復活させる』の飯田泰之論文と上記の三本の矢のそれぞれの本の解説がベスト。
その中で、飯田先生が「リカードの等価命題」について、次のように解説しています。
P188
中立命題…90年代以降の財政政策の効果低下の主要因であるとしたならば…「公債が増加した時に、将来増税に備えて貯蓄する」という家計が増加したということになる。このような事実は観察されるのだろうか。
…90年代・2000年代以降の日本ではこれまで以上に中立命題・非ケインズ効果が成り立たない状況になっていると考えられる。…国民経済計算における家計貯蓄率に関しても財政状況の悪化と貯蓄率の低下が並行的に生じており、中立命題…を財政政策の有効性低下とすることは疑問が残る。
P193
…中立命題…金利の上昇が観察されないこと、その成立条件が満たされづらい環境になっていることなど、実証的な難点が多い。
田中秀臣上武大学教授の説は、「化石」なのです。普段から、新しい説、実証について勉強しないと、このような結果になります。
注2) 片岡さんも、財政政策否定します。ですが、ご自分の著書では、平成24年度の補正予算では、正味の効果が「4兆円しかない」と批判しますが、逆に言えば、「4兆円もある」です。
公共投資として4兆円支出すれば、乗数効果が低くても、4兆円は実体経済を確実に押し上げるのです。
さらに、公共投資よりも、直接給付を推奨しています。「低額給付金や社会保障の減免」
これは、「国民→税を集める→国民に配る」ですから、単なる所得の移転で、GDPは全く伸びません。
このブログカテゴリ 「コンクリートか人か?」参照
別な著書では、「財政政策」+「金融政策」をしっかりすることが必要と述べていますので、理解できません。
↓
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加えて、田中秀臣上武大学教授の矛盾はまだまだ続きます。
皮肉なことですが、財政政策には懐疑的な、前出田中秀臣上武大学教授が推薦する教科書
↓
同氏ブログ http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20130702
には、流動性の罠の下での、財政政策の有効性が示されています。
同氏ブログで、「教科書として推薦している」本の記述です。
浅田統一郎『マクロ経済学基礎講義 第2版』中央経済社H17
P89
…流動性のワナの状態では…マネーサプライを増加させても…利子率も国民所得も何の影響も受けない。このような場合には、財政政策によってIS曲線を右側にシフトさせることができる。
笹倉和幸『標準マクロ経済学』東洋経済新報社 2008
P116~「流動性の罠」
マネーサプライを増やしても…利子率も国民所得も変化しません。したがって、金融政策は無効です。しかし、その場合でも…拡張的財政政策によって完全雇用の達成は可能です。…財政政策は有効です。
田中上武大学教授は、財政政策を否定しながら、自分の推薦する教科書では、財政政策の効果が謳われています。
田中某の考えていることは、よくわかりません。理解不能です。
流動性の罠の下での、財政政策の有効性は、ほかにも示されています。
桑原進 『図解 マクロ経済学入門』ナツメ社 2010
P159
…流動性のわなが発生している状況では、財政政策による総需要管理政策しか効果がなくなるのです。
J・サックス他『マクロエコノミクス下巻』日本評論社1996
P458
水平なLM曲線…は、貨幣需要の利子弾力性が無限大の時に起きる。流動性のわなと知られているこのケースでは、金融政策は産出量に全く影響を与えない。…一方、財政政策は総需要に大きな影響を与える。
「財政政策の効果についてはすでに有効性を失ったとするもの、未だ有効であるとするもの様々であり、決着がついているとは言いがたい(前掲 岩田他編飯田泰之P185)」のが現状です。
ただし、その効果うんぬんは、「①波及する(乗数効果)」「②クラウディングアウト(国債発行によって、本来借りられるはずのお金を国家が借りてしまうので、民間にその分のお金が回らないとする説)」を巡るものです。
はっきり言いますが、4兆円国が使用したら、波及効果をゼロとしても、4兆円GDPに貢献します。

上図は、94年から10年までの 公共投資額と名目GDPの相関図です。公共投資額が多い場合、GDPも多いという相関はあります。公共投資の効果は「ある」のです。
閑話休題
さて、下記の人たちは、この「財政政策」を理論的に批判しなければなりません。でもできないでしょう。彼らの批判には、「理論的ベース」つまり、経済学の素養がないからです。
だから、彼らはプロからは、「信用」されないのです。はっきり言えば、「害」です。
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池田信夫
「
連続講義・デフレと経済政策―アベノミクスの経済分析」
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浜矩子教授はアベノミクスの本質を知らない
マネックス証券 チーフ・エコノミスト村上尚己氏に聞く
アベノミクスの本質は、まず金融緩和策強化で脱デフレを目指すことを「第一の矢」と適切に定めた政策パッケージということ。だから、アベノミクスは、標準的な経済学の視点から評価できる。思い込みだけで、経済事象を語る評論家の手に余るテーマと言えるのではないか。
世間では、専門家(経済学の先生?)と見られる人が言うのですから、単なる「害」、大いなる「害」です。
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genre : 学校・教育