アベノミクスを、ちゃんと理論的に説明してみよう・・その2 金融政策編

<アベノミクスを、ちゃんと理論的に説明してみよう・・日本初の試み その2>

 さて、日本は、「流動性のわな」のもとにありました。この中で、「非伝統的」な金融政策を、アベノミクスでは、採用しました。

1本目の矢 金融政策
2本目の矢 財政政策

(1) 金融政策

「大胆な」金融政策(1本目の矢)とは,デフレから脱却するために,日銀と連携し「物価上昇率目標2%」をかかげ,無期限で金融緩和するというものです。具体的には14年から月に13兆円ずつ,国債などの金融資産を日銀が購入し,金融緩和をする予定です。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券 『嶋中雄二の景気サイクル最前線』

…日銀によるマネタリーベースの拡大が重要である、という我々の量的金融緩和拡充の主張に対して、最近、メディアにおいて、匿名や署名入りのさまざまな原稿を通じて、あちこちで反論を目にする。

 曰く…②「マネタリーベースは98年から2倍以上に拡大したが、インフレ率の上昇や経済の拡大には結びつかなかったから効果がない」とか、あるいは③「日銀当座預金残高が過去最大になったが、貸し出しには全く影響しないので無意味」、といった、毎度毎度の現状維持で良しとする、日銀擁護論的な反論である。

 まず③だが…いずれにしても、日銀が日銀当座預金と日銀券を供給して、貸し出しに全く影響しないことなどあり得ない。…マネタリーベースでマネーストック(M3)を割った信用乗数の値が低下しているが、伸び率に直してみると、マネタリーベースの前年比を10%増やせばマネーストックの前年比が1%伸びるという安定的な関係が、1990年代以降、今日まで一貫して続いている。


 この、マネタリーベースを、2倍に増やすというのが、2013年のアベノミクス・黒田日銀総裁による「非伝統的金融政策」、「量的に緩和する=マネーの量を増やす」というものです。マネタリーベースを2年で2倍、270兆円にすると決定されました。 誰もが驚いた、まさに、バズーカ砲なのです。

マネーストックM3 マネタリーベース バズーカ砲

 これまでの日銀の金融政策は,「上昇率1%を物価安定のめどGoal」としてきましたが,今回は「Target」に改め,いわゆるインフレ・ターゲットを導入しました。

櫻川昌哉(慶大)『中銀の独立性,歴史に学べ』日経H25.1.17
  …安倍首相は物価上昇率の2%の目標を日銀に強く求めているが,それ自体はさほど問題ではなく,むしろ望ましいといえる。


 インフレ・ターゲットとは,本来,インフレをその水準内に収めるというもので,日本のようにデフレ状態からそのインフレ率を目指すというものではありません。

 実際に,2002年の日銀の政策決定会合では,当時の速水優総裁の「経済を無謀な賭けにさらす」などの懸念が相次ぎ,導入は見送られました。

工藤教孝(北大)『やさしい経済学』日経H25.1.30
…さらなる金融緩和で景気がよくなり,物価が上がるとのシナリオはうまくいくのでしょうか。少なくとも日銀には自信がなかったようで,それが採用に消極的だった理由と考えられます。


 一方,先進各国の中央銀行では,前もって望ましいと考える物価水準を公表し,市場に対して金融政策の透明性を確保しようという手段である,物価安定目標政策を採用しています。イングランド銀行:BOEは「インフレ目標(target)」+2%(1992年~),欧州中央銀行:ECBは「物価安定の定義(definition)」+2%未満かつ2%近辺(1998年~),米連邦準備理事会:FRBは「長期的な物価目標(goal)」+2%(2012年~)としています。BOEの場合は,目標を達成できない際には,財務省に報告義務さえあります。

 アベノミクスでは,「流動性の罠」の下,どのように金融政策を実現しようとしているのでしょうか。そこには,実質金利・名目金利が関係してきます。

 物価が2%下落するデフレ状態だと,名目(表面上)金利がゼロでも,実質的な金利は2%になります。
逆に,名目(表面上)債務(借金)は,名目金利+実質金利となり,負担が重くなります。例えば,銀行金利が2%の場合,デフレで物価が2%下落すると,2%+2%=4%になります。

日本は,史上最低の短期金利(長期金利)になっていますが,実は,高金利とも考えられるのです。

実質金利=名目金利-インフレ率(1年後の予想)
 名目金利は,消費者にとっては,銀行預金金利と考えて良いでしょう。

 たとえば,金利10%だとします。100万円預ければ,1年後に110万円になります。一方,1年間に,モノの値段が10%上がれば(インフレ率10%),110万円で買えるものは,1年前の100万円のモノです。名目で10万円(10%)増えても,実質的には0%の利率になります。

実質金利=名目金利-インフレ率
 0%  = 10% - 10%


 お金が増えても,何のありがたみもありません。逆に,モノの値段が下がる(デフレ)状態だとします。モノの値段が10%下がる(100万円→90万円)と,110万円で買えるのは,1.22個分です。1年前には100万円のモノを1個買えたのですが,名目金利が10%つき,デフレで10%モノの値段が下がると,1.22個買えるのです。モノの価値<カネの価値です

実質金利=名目金利-インフレ率
 20% = 10% -(-10)%


 デフレの時は,名目金利がたとえ0%でも,モノの下落率分,金利がつくのと同じことなのです。日本の場合,ゼロ金利でも,物価が下落していますので,実質的な金利は高くなっています。カネを持っているだけで,そのカネの価値が高くなっているのです。今の日本は,次のようになっています。

実質金利=名目金利-インフレ率
 1%  = 0%  -(-1)%


 企業が投資を控えているのは,このような背景があります。いくら名目金利を下げても,実質金利が高ければ,企業は投資を控えます。

 ここで,アベノミクスで宣言された2%の物価目標を,人々が予想したとします。そうすると,

実質金利=名目金利-インフレ率
 -2%  = 0%  -2%


 となり,実質的な金利がマイナス,つまり,お金を持っていても,損をする(物価が1年後には上昇している)=モノを買うと得をするという状態になります。企業は土地や資産の購入に向かうと考えられます。

齋藤誠ほか『マクロ経済学』有斐閣2010 p156
 …緩やかには設備投資と実質金利との間に負の関係が認められる。すなわち,1980年代後半や2000年代には,実質金利が低下する局面で民間設備投資/GDP比率が上昇する傾向が認められる。逆に,1990年代前半のように実質金利が高止まりしている場合には,民間設備投資/GDP比率が低下している。


 この状態を,「流動性の罠」の下でのIS-LMのグラフに表わすと,次のようになります 。

流動性の罠 金融政策

 実質利子率はマイナスとなり,LM曲線は全体として下に2%分だけ下がり,新しい均衡点はE①になります。Yは増加しています。私たちが物価上昇を予想すると,経済が活性化する可能性があるのです。

読売H24.6.20「黒田総裁 物価上昇に自信」
 企業や家計の活動に大きな影響を与えるのは実質金利とされる。黒田総裁は、「実質金利は一部ではマイナスになっている」とも述べた。「量的・質的緩和」が、予想物価上昇率を引き上げているとの見方だ。


浅田統一郎『マクロ経済学基礎講義 第2版』中央経済社H17
P89・154
…人々の物価予想に働きかけることによって、流動性のワナのもとでも金融政策が有効になり得る、という理論がクルーグマンによって提唱されている。…中央銀行が、伝統的な金融政策にこだわることなく金融政策を運営すると宣言し…実質利子率はマイナスになり、投資は刺激される




 政府・日銀が「物価を上昇させます」と宣言することで,私たちがそれを信じれば,よいのです。これがインフレ・ターゲット政策です。通常の金融政策が手詰まりの場合,このような「非」伝統的金融政策が,魅力的に写ります。ただし,次のような論点もあります。まだ,結論はでていません。

西孝 「イントロダクション マクロ経済学講義」
①どのくらいの物価上昇を起こせば,人々が物価上昇を予想するようになるのか。
②実質金利がマイナスになったとして,本当に民間支出が増加するのか。増加するとしたら,どのくらいマイナス になる必要があるのか。
③いったん物価上昇が生じたら,それを制御できるのか。


齋藤誠ほか 前掲書 p472-473
 …中央銀行は,現在の名目貨幣供給量を実際に引き上げるだけでなく,貨幣市場の参加者に対して,将来にわたって名目貨幣供給量の拡大を信じてもらえなければ,現在の物価水準を引き上げることが難しい。
…現在の物価水準を引き上げようと思えば…拡大した名目貨幣供をずっと維持しなければならない。…将来にわたって名目貨幣供給を高水準で維持する必要性がいっそう高まる


 星岳雄(スタンフォード大)『成長回復へ構造改革急げ』日経H25.1.18
 安倍政権…経済政策を重視しているのは…日本経済再生の観点からは望ましい変化だ。特に,デフレ脱却のために今まで以上に拡張的な金融政策を日銀に求めるのは方向性としてはあっている。


 まだまだ,アナウンスメント効果段階(実際に政策が完成されていない)にすぎませんが,効果が出ています。


 日経H25.2.13『デフレ心理和らぐ』
 家計の景気回復期待が高まり,デフレ心理が和らいでいる。内閣府が12日発表した2013年1月の消費動向調査…。…1年後の物価見通しを聞いた調査では,「上昇する」と答えた人の割合が,65.3%と,前月から5.7ポイント増えた。11年2月以来の増加幅だ。



http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130709-00000070-jij-bus_all

通貨供給量、3.0%増=貸し出し増え、伸び率最大―6月

時事通信 7月9日(火)13時1分配信

 日銀が9日発表した6月のマネーストック(旧マネーサプライ=通貨供給量)速報によると、現金や預金などの代表的指標であるM3残高は前年同月比3.0%増の1158兆2000億円だった。現行の統計方式となった2004年4月以降で最大の伸び。日銀の量的金融緩和を受け、金融機関が企業や個人に対し貸し出しを増やしていることが背景にあるとみられる。
 M3残高の内訳では、預金が5.4%増と大きく伸びた。企業は金融機関から借り入れた資金を設備投資に回さず、預金として手元にとどめているようだ。 



 以上が、アベノミクスによる金融政策(非伝統的)の理論的説明です。

 アベノミクス批判をするなら、上記のモデルによる金融緩和は、「効果がない」「害がある」と、理論的に否定、あるいは実証しなければなりません。

 下記の人たちは、それを全く行っていません。


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「バブルを煽る“アホノミクス”は0点」と同志社大教授

「アベノミクス」を「アホノミクス」とばっさりと切り捨て、その採点を0点とするのが、同志社大学大学院ビジネス研究科の教授・浜矩子さん。
浜矩子「アベノミクス」の真相


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 彼らは、経済学を知らないのです。

次回は、アベノミクスの「財政政策」です。
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MS増から物価への経路

時々こちらで勉強させていただいています。
アベノミクスでは金融政策が第一の柱となっていますね。
そして、MBを増加させるとMSが増えることも間違いないと思います。

ただ、MSが増えたあと、物価への波及ルートは実体があるのでしょうか。 IS-LM分析ではそうなる(はず)ということかもしれません。

しかし実際の経営者達はBEIが騰がる下がるなどといったファクターをもとに経営はしません。 

私はリフレ派のひとりと自認していますが、現行のりフレ政策はマイルド過ぎて、2年でコアコアCPI2%への物価上昇は困難なのではないかと懸念しています。

No title

小黒一正氏や小峰隆夫氏が、野口悠紀雄氏の論考をデータに基づいていて信頼できるなどと絶賛しているのですが、お時間があれば野口氏の連載への反証をして頂きたいです。 http://diamond.jp/articles/-/42179
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