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経済学の犯罪 その2

経済学の犯罪 稀少性の経済から過剰性の経済へ (講談社現代新書)経済学の犯罪 稀少性の経済から過剰性の経済へ (講談社現代新書)
(2012/08/17)
佐伯 啓思

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(2)グローバル化時代に伸びた国

…国内の雇用や経済を安定させるものは政府以外にない。このこと一つをとっても「国家の役割は終わった」だの、「国家の退場」どころではない。その逆で、グローバリゼーションの進展によってますます「国家の役割」は重要になっているのだ。

とすれば、この20年ほどのグローバリゼーションにおける、さしあたっての勝者がアメリカ、中国、ロシア、インド、ブラジルなどである理由も明らかになってくるだろう。これらの国は「国家」が強力なのである。政治的指導者や指導層に集中された権力と政府の行政力が強力なのである。

…中国は安価で豊富な「労働」という生産要素にアドバンテッジを持っていた。ロシアは「資源」という生産要素にアドバンテッジを…アメリカはドル通貨の「資本」という生産要素に強力なアドバンテッジを持っていた。
それらの国は、そのアドバンテッジを最大限生かすべき戦略を実行した。ここには強力な「国家の意思」があった。これがグローバリゼーションの現実なのである。問題は透明で公正な市場経済を実現したかどうかではない。強力な国家を持ち得るかどうかなのである。

…では、日本はどうだったか。
方向が全く反対であった。1990年代以降の日本では、グローバル化のさなかにおける戦略性という発想はほとんど見られなかったといってよい。それどころか…規制緩和から行政改革に至る動きに示されているように、市場に対する国家の力の弱体化こそが経済を活性化するとみなされたのであった。

…かくて財政改革、行政改革、規制改革こそが経済再建の道だと唱えている間に、グローバル資本主義における、日本の地位はどこまでも低下していったのである。



 確かに、グローバル化時代の名のもとに、高度成長を達成した国として挙げられた国の中には、とうていグローバル化(国家の垣根をなくすこと)どころではない、逆に「国家の権力」が「民間」よりも圧倒的に強い国があります。

 「国際化」とは、国家を前提とした考え方です。一方、「グローバル化」とは、国家の垣根をなくす、国境をなくすことと言われています。例えば、関税をなくし、自由貿易を進めることによって、国境をなくすことと同じ効果がもたらされます。1990年代に、共産主義が崩壊し、世界全体が「全球化=中国語でグローバリゼーションのこと」したと言われました。
 ですが、著者は、逆に「強大な国家こそが、グローバル化時代に成長したのである」と、逆に「国家」の強大化こそがポイントだといいます。

名目GDP(USドル)の推移(1980~2012年) - 世界経済のネタ帳

 ロシアなんか、むちゃくちゃです。成功した民間エネルギー会社を没収して国有化し、経営者を刑務所に放り込みました。
 ちょっと意に沿わないことがあると、欧州向けガスを平気で止めます。エネルギー(資源)産業で経済成長していますが、エネルギー(資源)産業そのものが「国営」です。「国家資本主義」なのです。

 関税なども、日本の中古車を締め出すため(逆に国内で生産された新車を購入させる国策)なら、平気で4倍にします。どこにも、「自由市場」などなく、あるのは「国家強大化」の20年です。でもその間に目覚ましい経済成長を実現しました。

名目GDP(USドル)の推移(1980~2012年) - 世界経済のネタ帳

 中国、ここは言うまでもないでしょう。「自由」など、市場を含めて皆無です。ですが、「グローバル化」の恩恵を最大限に受けてGDPを発展させた国であることに異論をはさむ人はいないでしょう。


温家宝首相の一族、資産2千億円 副首相就任以降、巨額の財築く 米紙報道
2012.10.26 14:33
 【サンフランシスコ=黒沢潤】

 米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は25日、中国の温家宝首相の一族の資産が少なくとも約27億ドル(約2200億円)に上ると報じた。一族は温氏が1998年に副首相に就任して以降、巨額の財を築いていったといい、友人やビジネス・パートナー名義で投資するケースが目立つと指摘している。

 同紙は温首相の母や妻、息子、弟、義弟などの資産を企業や当局の報告書をもとに集計。27億ドルのうち80%は、中国共産党の規則では公開対象外という。

 温首相が新型肺炎(SARS)の流行に伴い2003年、医療廃棄物処理の規制を強化した後、弟の企業が水質保持や医療廃棄物処理に関わる事業(約3千万ドル)を政府から受注。弟は、この企業を含め2億ドルの資産を保有している。

 また、母親は世界的に著名な保険・金融企業「平安保険」の株式を07時点で1億2千万ドル分保有していたが、株式の名義人は、温首相の郷里の企業だった。
 記事は、妻が宝石の品質管理担当の政府職員から中国の宝石市場で「女王」と称されるまでの軌跡や、一人息子が中国有数の投資ファンドを運営していることなども報じている。

 …中国政府は今回の報道を受けて、国内での同紙(電子版)の閲覧を阻止した。 中国の指導者一族の資産形成をめぐっては、米ブルームバーグが6月、習近平国家副主席の親族が数億ドルの資産を保有していると報じた際も、中国からの記事閲覧が阻止された。



 上記は事実のようですね。今トップに立った「習近平」一族も同じです。

日経H24.12.28
習体制の虚実3.jpg


日経H25.1.22『中国で増殖中、大卒薄給アリ族』

 「アリ」のような人生を生きるか、「ネズミ」のように暮らすか。中国の若者はたとえ高学歴でも、親が国営企業や共産党、軍などの特権階級に属さない限り、「ワーキングプア」に陥るリスクにさらされている。地方出身で都市部に戸籍も持たないも人はなおさらだ。  

 2012年に中国で大学を卒業した学生は過去最高の680万人。前年より20万人も増えた。…苦学して大学を卒業しても、勤労意欲や向上心を保てるような職場がなかなか見つからない。特権階級の子弟が受ける扱いとの格差は、日本で想像する以上に大きい。

…体制側に属する子弟が恵まれた条件を引き継ぎ、囲い込む伝統は今後も続くのか。


日経H25.1.4『夢失うねずみ族』

中国 格差


 もう、ルールがある日突然変わるのは日常茶飯事で、何しろ、国家(共産党)が一番強いので、例えば高速道路や鉄道建設でも「土地没収(まあ、もともと土地は国家のものですが)」と共産党が決めれば、問答無用に立ち退きです。ですが、これが経済発展には実は一番効率が良いです。
 ここに「ビル建てる」と決めれば建ちます。公共投資なんて好き勝手にやり放題です。でも「経済成長」は確実です。

 なんだか、経済成長するのは、共産党独裁や、国家至上主義が、一番効率が良いみたいですね。「市場メカニズム」「自由主義」と言いながら、そしてそれを最も利用させてもらって、経済成長するのは「共産主義」でした。あれ?マルクスの言っていることは正しいではないですか。資本主義は瓦解し、共産主義に移行するって。

 彼らは、いつシステムが変わって、自分たちの財産がなくなるか、全く予想できないので、国家を全く信用していません。

なぜ日本経済は世界最強と言われるのかなぜ日本経済は世界最強と言われるのか
(2012/09/14)
ぐっちーさん

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先頃行われた中国の大手民間調査機関による年収2000万以上の人たちへのアンケート調査は大変興味深く、何と80%もの人が中国以外に住むことを希望しているというのです。…また2011年、中国主要18都市で調査をしまして、中国個人財産管理白書という統計が発表されました。これはこの18都市に住む1000万元(1億2055万円)以上資産を持つ人、約1000人を対象にアンケートを取ったものです。

これによりますと、彼らのうち、すでに海外に移民申請中(すでに書類を提出した)という人が14%、現在移民申請準備中と言う人が何と46%。

この1000万元以上の資産家の数は96万人にも達し、その平均が何と6000万元にも出達しているというのですから、これ、なにを意味しているかというと…平均して6000万元つまり、7億5000万円近く持っている資産家96万人の60%が、その資産を持って国外に脱出しようとしている。

…なぜ彼らが、つまり金持ちが逃げよう逃げようとするのかといえば、それはいつなんどき共産党政権に自分の個人資産が差し押さえられるかもしれないという恐怖感を持っているからです。

カナダに行けばたった1億円と5年間で6000万円の州債権を購入することで永住権とパスポートがもらえ、個人財産が保障され、子供も高校まで教育、医療が全てタダ。

当たり前のように中国を見捨てるわけです。彼らは国のために働いている気は毛頭なく自分と自分の家族が一番大事だという典型的中国人なのです。

…いくら経済成長が著しいからといって、中国に資産を預けたいなんて思っている人は少なくとも世界の資産家には1人もいないわけです。



 人権などくそくらえ、環境問題など無問題、法律は朝三暮四・・・、こうでないと「共産党」を名乗ってはいけません。日本の共産党に、なぜ全く力がないのかがすっきり理解できます。

名目GDPの推移(1980~2012年) - 世界経済のネタ帳

 さて、アメリカです。どうでしょうか。アメリカの「国家=政府」は強いでしょうか?軍事力は圧倒的です。英語は何をするにしても世界共通語です。ドルは世界中の人が欲しがる基軸通貨で、貿易の6割は依然としてドルで行われます。アメリカ大統領は、「世界に最も影響的な人物」で、1位です・・・こうあげていくと、アメリカ陰謀論などの世界に入りそうですが。

 アメリカのGDPに対して、政府予算はどのようになっているのかを見てみます。政府支出が大きい=当然に影響力も発言力も大きいということです。

数字出典 ウイキペディア アメリカの経済と経済政策 世界経済のネタ帳
アメリカGDP 政府支出

 アメリカのGDPも伸びていますが、政府支出も伸びています。

アメリカ 政府支出 対GDP比

 アメリカは、「小さな政府(税を少なくする)」を志向する共和党支持者が国民の1/2います(ざっくり)。毎年、減税や政府債務を巡り、共和党と民主党がもめます。

 そんな小さな政府志向者が多いにもかかわらず、アメリカの政府支出は伸びています。
はっきりいいますが、「小さな政府」など、存在しないのです。アメリカでさえ、「政府は大きくなり続けている」のです。「小さな政府」など、神話です。

注)スウェーデンとアメリカを比べて、大きい小さいと、相対的「大きな政府・小さな政府」はあります。

 アメリカ政府の力が、大きい=「強力な国家」というのは、財政面からも明らかです。

それらの国は、そのアドバンテッジを最大限生かすべき戦略を実行した。ここには強力な「国家の意思」があった。これがグローバリゼーションの現実なのである。問題は透明で公正な市場経済を実現したかどうかではない。強力な国家を持ち得るかどうかなのである。



 どうでしょうか。強力な国家は、確かに勝ち組です。それに対して日本は・・・

…では、日本はどうだったか。
方向が全く反対であった。1990年代以降の日本では、グローバル化のさなかにおける戦略性という発想はほとんど見られなかったといってよい。それどころか…規制緩和から行政改革に至る動きに示されているように、市場に対する国家の力の弱体化こそが経済を活性化するとみなされたのであった。

…かくて財政改革、行政改革、規制改革こそが経済再建の道だと唱えている間に、グローバル資本主義における、日本の地位はどこまでも低下していったのである。



 1993年、それまで盤石の政治権力だった自民党が、小沢一郎の離党(新生党)によって、同年の選挙で政権を明け渡します。それからは、ご存じのように、連立政権の常態化、離合集散、政権交代、参院と衆院のねじれなど、「政府の弱体化」が進みました。強力な国家どころか、政治が右往左往、決められなくなります。

 あれ?1993年~失われた20年とすると、それを作ったのは「小沢一郎」?壊し屋?え?経済低迷の原因は「小沢一郎」?(もちろん、冗談です)
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