税 その2
結局、国会議員や、公務員の歳出削減では、増大する国家(地方)予算に対応できないことが分かります。そこで、次の手段は、「増税」となります。
「税その1」でコメントが寄せられました。
>現在、復興特別税が徴収されていますが、この税の使われ方は明らかに無駄が多いですよね。復興とは名ばかりのものに、相も変わらず資金が投入されています。
当然、上記でいう「無駄」な資金をいくら削っても、社会保障費自然増:毎年1.5兆円増には対応できません。
「議員を減らせ」「無駄な予算をけずれ」などという意見は、なんの効果も生まない(焼け石に水)ということに、もう、いい加減に、気づいてもいい頃です。というか、こんな意見を言う人は、全体像が分かっていない人ということです。
まず、税収は、どのような税金から成り立っているかを見ます。
実教出版「2012 ニュースタンダード資料現代社会」P118

所得税、法人税、消費税が3本柱です。
この割合を見ると、「相続税を増やせばいい」とか、「たばこ税を2倍にして1箱1000円にすればいい」レベルでは、全然増収にならないことが分かります。
相続税は、改革案(H25年度導入?)が示されて、対象者が増える予定ですが、それでもお話にならないレベルです。
http://www.nta.go.jp/kohyo/press/press/2011/sozoku_shinkoku/index.htm
被相続人数(死亡者数)は約120万人(前年約114万人)、このうち相続税の課税対象となった被相続人数は約5万人(前年約4万6千人)で、課税割合は4.2%(前年4.1%)となっており、前年より0.1ポイント上昇しました。
平成22年度の数値です。課税対象者は、わずか4.2%にすぎません。これが、改革案では6%に増えるだけです。95%の人には、関係がない税なのです。課税基準が、非常に高いからです。
「基礎控除額」は5000万円+(1000万円×法定相続人の数)となります。父が亡くなり、妻子2人の場合、相続財産が、8000万円まで、相続税はかからないのです。
都内の戸建て住宅で、土地代3000万くらいでしょうか。それに保険や現金、株、債券、ゴルフ会員権で5000万円持っていた被相続人・・・そんなにいないことが、分かるのではないでしょうか。
※現在、税制改正で、「基礎控除3000万円+600万円×法定相続人」が検討されています。
それでも、 細かな税収を合わせると、「所得税、法人税、消費税」の3本柱を除いて、総税収の1/4にはなりますので、見直すことは必要です。が、大きな効果は望めません。
<3本柱>
所得税収も、法人税収も減っています。日本の税収の割合です。
実教出版『2012 新・政治経済資料』p233

(1)法人税
減っています。バブル全盛期の55%です。11年で、9兆4千億円でした。全然あてにならない税収になってしまいました。
日本の税率は、12年度に30%から25.5%へと、下がりましたが、地方税を合わせると35%で、諸外国に比べれば、まだ高いです。
日経H25.1.8

英国は、24%をさらに21%に下げます(14年)。企業を呼び込む、グローバル競争です。今後、法人税を下げることはあっても、上げることはないのではないでしょうか。
また、日本の企業の75%は、法人税を払っていません。
日経H24.10.17

法人税は、「黒字」の企業が払います。日本の企業の75%は「赤字」です。日本は、これで大丈夫なんでしょうか?
給与所得者(サラリーマン)と自営業者・会社経営者・農家は、収入は同じ程度でも、後者は格段に税収が低くなります。経費の度合いが桁違いだからです。実際に、会社を経営している友人から、「赤字でもいいんだ」と聞いたことがあります。節税なのでしょうか?
経団連などが、「法人税を下げろ」と要求すると、「とんでもない、大企業優遇だ」と批判する声もあります。払っているのは大企業ですが、別な面から見ると、大企業狙い撃ちの税金という見方もできます。
また、法人税は、「企業が払う」と思うかもしれません。だから「内部留保をため込んでいる大企業からもっととれ」という感覚になります(内部留保云々は改めて取り組みたいほどの別問題ですが、今は触れません)。
ところが、経済学ではそう考えません。法人税を払うのも、消費者です。
参考文献 佐藤主光(一橋大) 日経H24,10,30『第1章 税の仕組みと本質』
法人税は稼いだ利益への課税です。企業は支払う資金を得るために、製品価格に税金分を上乗せしています。
従業員の給与を下げ、法人税の支払いに充てれば、従業員への所得課税になります。
高値でも買わざるを得ない(食料品や衣類など)消費者や、転職できない従業員にしわ寄せがいきます。
誰が負担するかが見えにくいので、法人税は、我々の懐に関係ないと思うかもしれませんが、結局払っているのは、「法人」という人ではなく、私たち一人一人の生身の人間です。
土井丈朗(慶大)日経『経済教室』H25.2.1
…法人税は「法人」なる怪物が負担するのではなく、企業に関わる授業員、経営者、株主、顧客など生身の人間が間接的に負担するものだ。

…日本の労働分配率は約70%だから、短期的には、法人税の約7割は従業員給料総額の減少の形で負担されているとみられる。換言すれば、法人税を減税すれば、そのかなりの部分が従業員給料総額の増加に回ると言える。
「テレビはタダで見られるもの」と錯覚するのと同じですね。実際には、私たちが買う商品に、テレビのコマーシャル提供料(スポンサー費)が含まれています。2011年度、トヨタ自動車は、428億円の広告宣伝費(総額第3位)をかけました。
(2)所得税
これも、減っています。全盛期の半分です。
で、これもよくあります。「消費税を上げる前に、所得税の累進税率を上げろ」。
サンケイビズ2013.1.10 11:46
「富裕層増税、25年度改正で実施 所得税最高税率『45%』で調整」
政府・与党が平成25年度税制改正で、富裕層の所得税と相続税を増税する方針を固めたことが10日、分かった。所得税は40%の最高税率を45%に引き上げ、相続税は遺産のうち課税対象にならない基礎控除の枠を減らす方向で調整する。
…所得税は現在、課税対象となる所得が1800万円を超える部分に、40%の最高税率が適用されている。25年度改正では、課税所得が数千万円を超える人向けに新たな税率区分を作る。
累進税率は、このように推移してきました。
清水書院『2012資料政治・経済』p245

この、最高税額を、40→45%に引き上げるそうです。それで、税収は600億円増えるそうです。
エコノミスト 第91巻 第7号 通巻4272号 2013.2.12
〔税制改正大綱〕所得税の税収増は600億円 富裕層増税は格差社会のガス抜き=川北隆雄
毎年1.5兆円ずつ増える社会保障費の、4%分にしかなりません。しかも、これは高所得者狙い撃ちの税制です。
とうほう『政治・経済資料2012』p221

所得税を払っているのは、高所得者ばかりです。所得税の76.5%は、年収1000万以上の人たち(日本人の10人に1人)が払っています。
日本人サラリーマンの平均年収420万円層の人たちは、所得税の7.3%しか払っていない計算になります。そして、この高所得者のうち、1800万円を超える人(いったい何%いるんだか)に、さらに600億円の負担増です。
高所得層に、極端に負担がかかっていることが分かります。
理由は、「控除・控除」にあります。日本のGDPは500兆円、その半分の250兆円が給与所得ですが、実際に課税される額は、110兆円分に過ぎません。
日経H25.1.31「経済教室 所得税 広く薄い課税に」

基礎控除、配偶者控除、給与所得控除、社会保険料控除、公的年金等控除、生命保険料控除etc・・・・
だから、年収が低くなれば、実質的にはゼロ課税になります。課税最低限は日本の場合261万円~になります。それ以下の人は所得税を納めていません(英国の場合約85万円~課税)。
3本柱のうち、2本は、「不安定かつ、特定者に依存」しているのです。
板谷淳一(北大) 日経「優しい経済学 経済成長と税9 税の構造論議を」
最近の研究によれば、税率よりも税の構造の方が、経済成長率に対してより重大な効果を与えることが明らかになってきている。
例えば、 OECD のエコノミスト、ジェンス・アーノルド氏は加盟国のデータを使い、税収に占める法人税、個人所得税、消費税及び資産税の割合と経済成長の関係を調べた。それによると、経済成長率を阻害しない税は、まず固定資産税のような資産税、次に消費税である。一方、個人所得税は2つに比べはるかに成長を阻害し、法人税は最も問題だと指摘している。
…英グラスゴー大のコンスタンチノ・アンジェロポウロス上級講師らは…政府の均衡予算を維持するために資本課税あるいは消費税を増税しても、経済成長率が上昇することを英国経済での例で示した。
<まとめ>
1 法人税は、「税率を上げればいい」ということは、出来ない(グローバル化の中で、企業は課税本拠地をすぐに移す時代)。
2 法人税を負担しているのは、結局消費者(価格転嫁)。法人税を下げれば、給与所得は増大する。
3 法人税を納めているのは、日本の企業の25%のみ。
4 所得税の累進化税率を最大40%→45%にしても、年収1800万円超の人に課税するのみで、税は、600億円しか増えない。
5 所得税は、年収1000万円超の人たちが、払う税金のこと(税収の76.5%)。高所得者ねらいうちの税のこと。
6 日本人の大多数の給与所得者(89.6%)は、所得税の23.5%しか負担していない(数々の控除があるため)。
ゆえに、「法人税負担を増やせ」「所得税率を上げろ(累進課税強化)」は、毎年1.5兆円自然増の社会保障費の前には、まったく解決策になっていない、ナンセンスな話ということになる。
増税を考える際によく出てくる、「所得税の累進税率を上げればいい、法人課税を強化すればいい」などという考え方では、日本の抱える問題は、解決しないのです。これらは、「広く薄く」ではなく、「狭く深く」課税するという性格を持ちます。
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