経済学の犯罪 その1

<経済学の犯罪>

経済学の犯罪 稀少性の経済から過剰性の経済へ (講談社現代新書)経済学の犯罪 稀少性の経済から過剰性の経済へ (講談社現代新書)
(2012/08/17)
佐伯 啓思

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 経済学を知り尽くしている思想家の、経済学批判です。

おおかたの読者は、自由貿易の教義をまずはそのまま受け入れてしまうのではないだろうか。われわれはそれほどある「思い込み」に囚われている。「市場の自由競争は望ましい」という「観念」に従って思考しているのだ。

…1990年代の日本はかなり徹底した「構造改革」を遂行した…。人によっては、「いや、日本は構造改革を十分にやってはいない。だからまだ景気が良くならないのだ」という。「改革論者」は、いまだに日本の停滞の構造改革が進まないからだという。しかし、この議論にはそもそも説得力がない。

 というのも、1990年代を通じて、程度問題はあっても「構造改革」が進展したことは間違いなく、規制緩和、金融自由化、市場開放、労働市場の流動化などは相当程度に進展した。
 もし「構造改革」が日本経済を立て直すのだとすれば、少なくとも以前より良い状態になっているはずだ。にもかかわらず、1990年代以降、日本は低成長を続けている。…むしろ「構造改革」が経済をさらに混乱に陥れたほうが適切に思えてくる。

 さて、構造改革の重要な意味は、あらゆる財・サービスの原則的市場競争化を主張することで、従来は規制によって保護されてきた生産要素を自由な市場競争に委ねてしまった点にある。市場化困難な生産要素まで市場競争にさらしてしまったのだ。

…構造改革の中で「日本型経済システム」が徹底的に批判されたのもそのためである。
長期的な雇用や年功賃金体系を生み出した日本的経営は労働競争から保護するための、障壁だと見なされた。

…「日本型経済システム」といわれるものの特徴の核心は、実は、生産要素を過度な市場競争化から保護して、生産活動の安定性を確保にあったのだ。
…確かに労働は流動化した。能力主義もある程度は採用された。しかしその結果として雇用の不安定化が生じたのである。短期に雇用や解雇を繰り返す派遣労働が急増し、フリーターの一群が出現し、さらには所得格差が開いた。



(1)規制緩和
 
 どうでしょう。確かに、90年代以降、様々な改革が行われてきました。学校で言えば、ILOの基準通り、週休2日が、月に1回という形から導入されてきたのも、まさに91年からです。
 それまでの教科書では、日本と諸外国を比較して、日本の「労働時間が長い」というのが、定番でした。それが、今では、日本は労働時間の短い方の国になりました。
 
 そもそも、キリスト教において、労働が神から与えられた罰(苦痛:Labor)と考える欧米と、働くことは神事と考える日本では、労働観そのものが違います。
 労働は苦しいものだから、できるだけ働きたくないし、早期退職したいと考える欧米人と、労働はお祭りだから、できる人もできない人も、なんだかんだおみこし(会社)にぶら下がって、かえって「自分に仕事がない方がつらい(身の置き場所がない)」ことと考えてしまう日本人とでは、単純に1日8時間、週40時間労働が合っているかどうかさえ、違います。

 フランスでは、公務員が定年を早めろ!とストをしますし、ドイツでは産業によっては週35時間労働です。日本人は、体が元気なうちはまだまだ働きたいと考えます。

 年功序列より、能力主義・・・。職場がぎすぎすしました(研究としては、富士通がとても有名です。日本人は、年齢が、わずか一つでも上の上司だと安心します。同期・同年の下で働くには未だに抵抗があります。先輩には丁寧語を使います。

 これらは、「感情」的なもので、「理性」で解決できるものではありません。

 日本型の長期雇用、年功賃金は、「長期」視点のもので、「安定・安心」を産み出します。経済学では、「長期」「短期」の視点があり、どちらも適宜、適所で必要なことは自明です。「短期」では競争・値下げ・契約解除(某国では、だまされる方が悪いそうです)があっても、「長期」では、信用・正直がもっとも商売にとって必要なのは、古今東西変わりません。アダム・スミスも二宮尊徳も同じです。
 日本には、100年、200年の歴史を持つ老舗がごちゃごちゃあります。これは世界から見たら、奇跡的なことです。どうやったら、そんなに続くビジネス(ということは、何百人、何千人の人たちがそれで食べられてきたということです)になるのか?と羨望のまなざしを向けます。

 日本で一番働きたい会社に選ばれたある会社は、65歳になっても年収750万が保障され、有給休暇が40日取れます。社長いわく、社員が一番幸せでないとダメだそうです。

 能力・実力云々といいますが、働きアリは働いているのは8割、残りはぶらぶらしているそうです。その8割で「働く集団」を作っても、また2割は働かなくなるそうです。緊急時や、非常時用に、2割くらいの遊びがないと、種を維持できないそうです。
 
 経済=エコノミー=効率追求のことですが、これを絶対視して、効率追求だけをすると、機械ならともかく(機械だって2割は非常時用に余力残すでしょうが)、人間には絶対に無理です。個人でも組織でも、無理をして100%の力を常に発揮させるようにプログラムを組めば壊れます。短期ではともかく長期では無理です。結局短期視点だけで「効率」を追及しても、その組織や会社は長期では持ちません。

規制緩和、金融自由化、市場開放、労働市場の流動化などは相当程度に進展した。
もし「構造改革」が日本経済を立て直すのだとすれば、少なくとも以前より良い状態になっているはずだ。にもかかわらず、1990年代以降、日本は低成長を続けている。



太田弘子 政策研究大学 日経H25.2.27『規制改革どう進める 上 』
わが国で規制改革が本格的にスタートしたのは、1995年、行政改革委員会の下に規制緩和小委員会が置かれたときだ。それから20年近く、常に逆風の中にありながら、一連の規制改革会議が果たした役割は大きい。需給調整のための参入規制や価格規制、金融関連の規制など多くの分野で改革が進んだ。

規制改革.jpg

…第1に、規制改革は消費者のためである。
…第2に、規制改革はその業界の発展のためである。
…成長分野を作るとは、そこに労働力が移動することである。
…イノベーションの可能性を広げ、新たな雇用機会を生み出してゆく。



こんなに規制改革をしてきたのに、GDPは全く伸びず・・・

名目GDP 実質GDP


 まだ、足りないのでしょうか?それとも、構造改革そのものは、経済発展に寄与しないのでしょうか?

 規制改革をやったからこの成長率程度を維持したのでしょうか?やっていなければ、もっとマイナスだった?

 規制緩和で、バス事業参入が容易になりましたが、消費者は歓迎しているものの、供給者はアップアップです。規制緩和で成田・羽田が解放され、LCCが参入しました。消費者余剰の増加割合に比べて生産者余剰は・・・。

クリック

生産者余剰・消費者余剰 (3)参照

山本哲三(早大)『経済教室 規制改革どう進める 下』日経H25.3.1

・・・内閣府の「構造改革評価報告書」や「政策効果分析レポート」にもあるように、規制改革が経済成長に資することは明確に確認されている。

規制改革 消費者余剰.jpg



 消費者余剰は確かにすごい額になっていますが、で、経済成長はさっぱり・・・。どうしてなんでしょう。改革は着実に成功したはずですよね。


 規制緩和は、消費者は歓迎しますが、生産者にとっては、本当は望ましくない(既得権益者)ですよね。新規参入者も、ビジネスチャンスは拡大しますが、高利益は望むべくもなく、薄利多売です。緩和すると、どこも「価格」が下がります。

…むしろ「構造改革」が経済をさらに混乱に陥れたほうが適切に思えてくる。



 どうでしょう。経済効率を追求する立場の者にとってはすごく「耳が痛い」のではないでしょうか。
 そもそも、国境や、日本で言えば言語そのものが「規制」です。日本の賃金が高いのは、他国の労働者を排除しているからです。

クリック

世界経済を破綻させる23の嘘 参照

「自由市場」なんて存在しないのです。自分たちが「自由市場」だと思うものは、実は知らず知らずのうちに「規制」という網をかけているのです。その、本当は網のかかった眼鏡(それを使っている本人は気付かない)を通して、「自由市場」なるものを見ているにすぎません。

 続く

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