円高が望ましいのか、円安がのぞましいのか その2
日経H24.2.15大機小機 輸出は日本の命綱

さて、円高が望ましいのか、円安が望ましいのかの続きです。
<為替と輸出入>
「円高で、輸出は減るは神話
円高になると、「現地価格を引き上げなければならないから、輸出は減る」そうですが、実際には違います。
1ドル=100円なら、200万円の車は、現地価格2万ドル
↓
1ドル=80円になると、200間円の車は、現地価格2.5万ドル
↓
価格引き上げで売れなくなる
こんなことは、ありません。

円・ドルレートは、上に行くほど円高にしています。どうですか?円高になると、輸出が減る?
では、月ごとに細かく見てみます。

どうですか? 円高→輸出減ですか?

円高と輸入です。

リーマン・ショック後の、「円高!」と騒がれた時期のプロットです。
これは、円高=輸入増 円安=輸入減と、きれいな相関を描いています。
では、同時期の輸出を見てみましょう。円高=輸出減 円安=輸出増になっていればいいのですが。

円高=輸出減 円安=輸出増など、ありません。どちらかといえば、「円高でも輸出増」です。
さらに、短期を見てみましょう。史上最高値の円高の時(75円)です。

「円が高くなると、輸出が減る」は神話、嘘です。
「いや、円高の影響は、後になって起こる(Jカーブ効果など)」「およそ1年後である」についても、検証してみましたが、全然相関はありません。
「日本では、為替の影響は、諸外国ほど大きくない」のです。
なお、円高率と、輸出増加率については、以前検証していますので、そちらを参照ください。
参照
↓
円高?輸出減?

円高でも、自動車輸出が減るわけではありません。
日経H24.2.21『経済教室』
愛宕伸康 日本経済研究センター主任研究員
自動車の輸出数量は円高の影響を受けにくい。…図は…実効ベースの海外物価だ。輸出物価が海外物価と連動し、国内物価と別の動きをしていることがわかる。つまり、自動車メーカーは輸出価格について、現地の市場価格を参考に決めている。このことは、現地需要が回復すれば、為替に関係なく輸出が伸びることを示唆する。

…同じ財はどこで買っても同じ価格になる「一物一価」は、少なくとも自動車では成立しないという点だ。図を見れば価格設定方法が国内と海外で異なることは明らかだ。
車の価格は、どこの国でも同じではなく、日本メーカーは現地物価に合わせて車の価格を決めているのです。
と言っても、「円高の影響は輸出には及ばないから、円高が望ましい」と言っているわけではありません。
<日本全体で検証する>
日本全体で考えてみます。
2010年 名目GDP 三面等価


間違いなく言えるのは、輸出産業にとっては、「円安」がのぞましいということです。

一方で、輸入産業にとっては「円高」が望ましいことになります。
では、非貿易財の産業にとっては、円高・円安どちらが望ましいでしょう?
日本標準産業分類

さて、第1次産業にとって、円高が望ましいでしょうか、円安が望ましいでしょうか。
円高です。燃料費、飼料費など、安く手に入るに越したことはありません。
http://diamond.jp/articles/-/14748
農業は「輸出増」のメリットをもっと追求すべき
――熊野英生・第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト

輸出はしているものの、第一次産業のGDP比は、1.2%(2010年)ですから、5兆8295億円に対し、10分の1以下です。
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kakuhou/gaiyou/pdf/seisan20111226.pdf#search='%E7%AC%AC%E4%B8%80%E6%AC%A1%E7%94%A3%E6%A5%AD++GDP'

さて、第2次産業ですが、製造業、建設業ではどうでしょう。もちろん、輸出している業界は「円安」が望ましいのですが、輸出していない製造業や、建設業も、たくさんあります。それらの業界にとって望ましいのは、円高です。67兆円が輸出額で、第2次産業のGDP産出額は、121兆円ですから、約半分です。
では、第3次産業はどうでしょう。中には、航空業界や、証券業界、知的コンテンツ業界など、輸出しているところもありますが、ほとんど輸出には関係ありません。介護、医療、外食産業、小売業、これらは輸出することが出来ません。非貿易財です。
第3次産業では、「円高」のほうが望ましいのは、言うまでもありません。原材料や、エネルギー、電気・ガス・水道etc、みな、円高の方が望ましいのです。日本は、第3次産業の国です。GDPの73.6%は第3次産業が生み出しています。
このように、産業分類で考えると、日本にとって望ましいのは「円高」です。そして、輸出産業のみが、「円安」の恩恵を受けるのですが、それは、貿易黒字だった時代の話で、皆さんご存知のように、現在は、輸出額<輸入額の「貿易赤字」の国です。2011年に31年ぶりに貿易赤字になりましたが、貿易赤字は今後もずっと続く予定です。原発停止に伴う、天然ガスなどの輸入急増によるものです。

輸出も、インフラ破壊の影響で落ち込みましたが、輸入急増が圧倒的に要因であることが分かります。
2012年の、貿易赤字は、過去最高額でした。

輸出額>輸入額、「貿易黒字の国」は、過去の日本の話で、すでに、日本は、構造的に輸入超過国になっています。エネルギー政策にめどが立つまで、このままの構図が続きます。おそらく最低でも5年~10年は続くのではないでしょうか。
輸入超過の日本に望ましいのは、当然「円高」です。「円高」は日本にとって国益なのです。
円安になって、万が一????輸出額が伸びても、これだけ増えている輸入額をカバーできる数値には、なりえないことがお分かりいただけると思います。
<円安になると株価上昇する理由>
円安になると、株価が上昇します。ですが、ここにはからくりがあります。
http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/research/r101001japan1.pdf#search='%E5%86%86%E9%AB%98+%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%83%83%E3%83%88'
みずほ総合研究所 経済調査部 石川祐介
「円高は景気にプラスかマイナスか」
(注:GDP)を用いて業種別の円高の影響を試算すると、鉱業や食料品のほか、化学・一次金属などの素材型製造業では差益が発生する。一方、一般機械類や輸送用機械などの加工型製造業、卸売業等では差損が大きくなる。
ここで、(注:GDP)産出額ウエートをみると、円高によって為替差益が出る「円高メリット型」の業種が37.3%、差損が出る「円高デメリット型」業種が37.5%、影響のない「中立型」業種が25.2%と、メリット型とデメリット型は拮抗している。

ある意味、予想どおりです。輸出型産業と輸入型産業は、拮抗しているからです。
一方、上場企業ベース(注:日経平均で使われる225企業)ではメリット型42.2%に対しデメリット型が50.2%とデメリット型の方がウエートは高くなる。
さらに (注:GDP)ベースで、メリット型に分類される業種でも、上場企業だけに限れば輸出比率が高く、デメリット型になる場合もある。したがって、現実には株式市場におけるデメリット型業種のウエートはもっと高い可能性がある。日本の株式市場が円高に敏感である背景には、こうした全体の産業構造と上場企業の業種ウエートの違いもあると考えられる。

ところが、日経平均株価で指標とされる、225企業に限ってみれば、円高デメリット型が、途端に多くなります。
しかも、上場企業だけに限って言えば、さらにデメリット型が多くなるのです。
自公圧勝で円安・株高加速 日経平均、一時9900円台回復
日経 Web 2012/12/17 11:13
16日投開票の衆院選で自民党と公明党が圧勝したのを受け、17日の東京市場では円安・株高が加速した。日経平均株価は大幅高となり、上げ幅は一時160円を超え、取引時間中としては4月4日以来、約8カ月半ぶりに9900円台を回復した。自民党の政権公約である強力な金融緩和策が実行されるとの期待が一段と強まった。
自民党と公明党は合わせて325議席を獲得。参院で否決された法案を衆院で再可決できる3分の2を上回ったため、「日銀法改正を含む強力な金融緩和策が実現する可能性が高まった」(大和総研の熊谷亮丸チーフエコノミスト)。こうした見方を受け、17日の東京外国為替市場で円相場は対ドルで一時1ドル=84円台前半に下落。朝方のオセアニア市場では一時1ドル=84円48銭前後と1年8カ月ぶりの円安水準をつける場面もあった。
東京株式市場では円相場の下落で輸出企業の収益改善への期待が強まり、トヨタ自動車や日立製作所など主力銘柄が買われた。東京証券取引所第1部では7割を超える銘柄が値上がりした。
円安で、株価が上昇しますので、新聞の見出しでは、「円安が望ましい」となりますが、この数値は、実は偏った数値なのです。
しかも、売買システムは、自動で動きます。「円高になりそうだ」「日本株は買いだ」など、人間の感覚に基づいた売り買いなどされていません。
![]() | 目からウロコの円高経済学 (ワニブックスPLUS新書) (2012/02/08) 齋藤 弘 商品詳細を見る |
現在世界中の外為取引はプログラム化されており、1秒間に実に100回もの売り買いができるシステムになっています。
よくTVで外為市場(外為ブローカー)の取引の模様が押し映し出されますが、あれはテレビカメラを前にしての、言ってみれば「ショー」であり、実際にはボタン一つでどんどん電子化された売買取引が進んでいくわけです。
そのプログラムには、例えばブルームバーグ(経済・金融情報を配信する米総合情報サービス会社)が発信するニュースがリアルタイムで反映されるようになっています。
情報が飛び込んでくるとプログラムは過去の事例から、「これは売りか、買いか」と自動的に判断します。
…世界中のプロフェッショナルが朝から晩まで休みなく、わずかな相場の動きに注視しながら裏技的なものまで繰り出して、心理戦を展開しているのが最前線の現場です。
そこまでやっても「絶対」はありませんし、ウォール街のエリートたちでも市場を完全に見通せるような人はいないのです。
実際の為替相場では7兆円規模で市場介入しても「大海の中の一滴」なのですから、ましてや個人レベルでどんなに努力をしたところで、まったく太刀打ちできません。
それを家事の合間にパソコンをチラチラ見ながら売買するようなレベルでは、簡単には勝てないということがおわかりいただけると思います。
週刊現代 2013・1・5/12号
この十数年で、日本一の金融街・兜町の景色は様変わりしてしまった。
・・・とどめを刺したのが、2010年の超高速株式売買システム・アローヘッドの導入である。1000分の5秒という人間の知覚を越えたスピードでの注文が可能になった結果、市場の中心プレーヤーは、自動で売買を行うコンピュータープログラムになった。11年半ばからそれに対応できない中小の証券会社がバタバタと潰れはじめている。
楡周平『考えない葦』週刊新潮12年11月1日号
…外資の機関投資家に至っては、千分の1秒単位で自動的に売り買いを繰り返すシステムを用いているのだそうです。
…もう取引に人が介在する余地などありはしないのです。
…10月19日現在の日証協のホームページに記載されている会員数は273社。3月末から僅か半年の間に、12社も減っているのですから、凄まじいの一言につきます。
株高は、機械的合理性から導かれ、225銘柄の日経平均株価は、「円安が望ましい」企業によって構成されています。
日本全体では、「円高が望ましい」のです。
続く
theme : 間違いだらけの経済教育
genre : 学校・教育