作為の『食糧自給率』
![]() | 食料自給率という幻――誰のための農業政策なのか (2011/09/30) 茂木 創 商品詳細を見る |

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世界標準である、「(主食)穀物自給率」でみると、日本の食糧自給率は約60%になります。
…国内で育てている牛や豚、鶏などが輸入飼料を食べているからといって計算上輸入品のような扱いをしたり、食生活が今よりも低カロリーだった過去と比べて、現在の自給率の低下を指摘したりするのは、どうも作為的な感じが拭えません。
…おそらく「国内農家」を守りたいという願いがあるのでしょう。…どうして直接「守りたい」と言わないのでしょう。あえて国民を不安にさせるような数値を公表することで…かえって国民の利益(国益)を著しく損なわせてしまってはいないでしょうか。
カロリーの高い「コメ」の消費量はどんどん減り、その代り肉や乳製品などが伸びています。


日本人は、昭和30年代のように、カロリーの高い「穀物」で、エネルギーを得ているのではなく、食生活の豊かさによって、ほかの食物を食べるようになったのです。野菜や肉や、乳製品をとっても、穀物のように熱量は上がりません。
価格の値上がりがなく、価格の優等生と言われる、卵。重量ベースでは、95%の自給率ですが、餌を輸入穀物(トウモロコシ・こうりゃん、大麦、米、大豆油粕など)に、90%も依存しているため、熱量(カロリーベース)自給率は10%に落ちてしまいます。肉も、国産牛や、豚や、鶏肉、乳製品などの自給は高い(40~70%)のですが、輸入飼料を使っているため、16%になってしまいます。
http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/fbs/pdf/23slide.pdf
平成23年度食糧自給率を巡る事情
平成24年8月 農林水産省

輸入飼料を使っても、「国内で育てた肉や生乳」ということであれば、自給率は、16%から64%に跳ね上がります。(上記黄色の部分)
自給率なんて、物差しを変えれば、いくらでも動かすことが出来ます。
飼料は、ほとんどが輸入です。なぜなら、安いからです。しかも、トウモロコシなど安すぎて、採算が取れないほどです。作りすぎなのです。トウモロコシの値段は、ここ30年で見れば、ほとんど変わっていません。
世界の食料需給の現状 平成19年12月農林水産省

以下 参考文献 川島博之『作りすぎが日本の農業をダメにする』日本経済出版社2011
日本は、もっとも輸入しているのは、トウモロコシです。小麦の3倍以上も輸入しています。飼料用です。2008年に1650万トンのトウモロコシを輸入し、代金は56億ドルでした。1トン340ドル(27400円)、1キロわずか27.2円です。
あまりに余るので、価格は下落しました。1999年には、1トン72ドル、100円としても7200円です。ここまで安いのなら、そこからエネルギーを作っても、石油に対抗できるのでは?と、バイオエタノールが生産されるようになったのです。
http://lin.alic.go.jp/alic/month/domefore/2011/jun/wrepo02.htm
図1 トウモロコシの用途別需要の推移

http://nocs.myvnc.com/study/geo/corn.htm

http://www.maff.go.jp/j/chikusan/sinko/lin/l_siryo/pdf/haigou_2409.pdf
配合飼料等をめぐる情勢
生産局畜産部畜産振興課
平成24年9月 農林水産省

こんなに安く買えるのに、農水省は、飼料の国産化を図ろうとしています。
国産飼料の増加のために、日本人が食べなくなったコメを、飼料用に回します。
飼料用稲の生産・利用を推進する
施策の展開 平成23年12月 農水省
「8万円/10a の助成を行う水田活用の所得補償交付金等により、生産・利用の拡大を推進」
こんなに補助金出して、わざわざ「飼料の国産化・・・しかも人間が食べなくなっている、コメを増産」しています。コメを減反させて、飼料用米を補助金つけて増産って・・・。

熱量自給率を、100%にするのは、とても簡単です。輸入をやめてしまえばよいのです。
p48~
…自給率が高かったとき、日本人は今より空腹でした。経済成長は私たちを空腹から解放してくれました。
…グローバル化時代においては、むしろ食糧輸入が増えて当然なのです。繰り返しになりますが、「おなかいっぱい食べたい」という切なる願いから、今の日本が形作られたのです。
P50
食糧自給率を高めないと不測の事態に対処できない。だから輸入食料を控えて国産にしようという発想は、一見すると国民の利益を守る発言のように聞こえます。しかし、具体的にどの程度の食料自給率ならいいのか、科学的根拠、経済学的な根拠は極めて乏しい主張です。
…多くの方が感じるように輸入食料を規制すれば、それを頼りとする消費者や飲食店等の費用負担が増加します。仮に熱量ベースで現在40%程度の食料自給率を10%上げることを目標にしても、その政策によって私たち国民が負担しなければならない費用の増加分が必ずしも明らかではありません。
P140
「食料自給率を上げなければならない」という主張の理由を尋ねると、「輸入食料に頼りすぎると、いざという時に国民が飢えてしまう」という答えが返ってくることがあります。
農林水産省が唱える、食料安全保障論ですね。よくあげられる例が、「アメリカもかつて禁輸したことがある」です。
…1972年には世界的な異常気象が発生し、とりわけソ連の穀物は…前年を13%も下回りました。…ソ連が穀物市場で小麦を買い付けたことがきっかけとなり、世界規模の食糧危機が起きたのです。
…ソ連はアメリカから大量の農産物を購入したために、アメリカ政府は物価の安定と国内食料の確保の観点から1973年に大豆の対日輸出禁止を表明しました。…1973年には石油ショックも起こり「過度の海外依存は危険」という風潮が国民の中に生まれたのです。
…当時、食糧の最大供給国だったアメリカは「食料を第3の武器とする」という戦略をスローガンに掲げます。アメリカは第1の武器(武器そのもの)、第2の武器(石油)そして第3の武器(食料)をコントロールすることで、世界の覇権を維持しようと考えていました。

今、穀物生産は、当時の2倍以上になっています。人口増に合わせて増えたのではなく、過剰なのです。途上国での化学肥料使用増大で、それだけ、単位面積当たりの収量が、増加したのです。何度も言いますが、余っているのです。余っているから、補助金つけてバイオエタノール生産しているのです。
世界の食料需給の現状 平成19年12月農林水産省

大豆なんて、1973年当時の5倍の生産量です。どうやったら、現時点で、「禁輸」など起こるのか・・・
日本のGDPの1%(5兆円産業)しか占めない農林水産業を守るために、国家予算(90兆円)のうち、2兆3293億円(平成24年度)が使用されています。
<追記>
危機は、自給率100%だから、起こります。1993年の冷夏による「コメ不足」で、タイ米の緊急輸入がありました。日本は「コメ不足」で、右往左往しました。
自給率を100%にすると、「危機」になるのです。
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