食料は余っている

<食料は余っている>

 穀物(小麦・コメ・トウモロコシ)は余っているのです。余っているから、値段が下がり、フランスや、アメリカといった輸出国でさえ、補助金をつけているのです。

 中学生でも習う、「需要・供給」で考えてみてください。なぜ値段が安くなるか。供給>需要だからです。
 もしも、供給<需要なら、補助金などという発想が、絶対に出てくるはずがありません。市場で高く取引されているモノ・サービス・・・これに補助金つけるわけがありません。

 そういえば、エコカー補助金というのがありました。これも、需要喚起でしたね。毎年、国内の自動車市場が縮小しているからです。

全車種新車販売合計
新車販売台数推移

 このままだと、国内の供給が過剰になる=「供給能力>需要」→国内生産縮小になる→従業員解雇、国内工場閉鎖になる・・・・となっているから、「補助金」でした。

 石油や、ガスに補助金など、つくはずがありません。

家電エコポイント・・・失敗でしたね。実は、家電エコポイントに、当時一番反対していたのは「ヤマダ電機」社長でした。

 新しい分野の、ソーラーパネルなどの新規需要を呼ぶ「投資」ではなく、テレビ買い替え促進などの単なる「需要先食い」だったからです。

エコポイントは、補助金の使い道を誤った典型例です。

閑話休題



 では、どうして供給過剰になるのか、それにともなって価格はどう変化したのかを見てゆきましょう。

以下、引用・参考(グラフも)
川島博之『作りすぎが日本の農業をダメにする』日本経済出版社 2011

「作りすぎ」が日本の農業をダメにする「作りすぎ」が日本の農業をダメにする
(2011/08/25)
川島 博之

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(1)劇的に増えた穀物

 フランスの小麦収量です。

フランス 仏 小麦

 1950年まで、1トン/haだったものが、21世紀には8トン/haとなり、50年間に6倍になりました。この間の人口増は1.3倍です。当然、小麦は余ります。余ったので、家畜用飼料にしました。それでも余るので、輸出することにしました。

 なぜ、増収するかというと、「化学肥料」が出来たからです。空気中の窒素を工業的に閉じ込めた「窒素肥料」のことです。
 この技術は、火薬の製造にも応用できます。第2次世界大戦までは、化学肥料は大量につくられませんでした。

 日本でも、化学肥料は増産されましたが、それでも足りず、偽物の化学肥料を売る業者まで現れ、「肥料検査所」という役所が作られたそうです。

 窒素投入量と、穀物単収には、明確な相関があります。

肥料 穀物 収量

 だから、耕地面積がふえなくても、単収が増え、人口が増えたのです。

耕地面積 人口

 「人口増で、穀物が不足する→食糧危機だ」ではなく、「穀物が十分に増加した→人口が増えた」のです。1960年代のアジア、1980年代以降のアフリカ、食べるものがなかったら、人口が増える訳がありません。

 1961年→2009年に、人口は2.3倍です。その間に食肉の生産量は4倍になりました。

鳥 豚 牛 生産量

 牛や、羊は草を食べます(オーストラリアは草、アメリカ牛は穀物です)が、豚や鳥は穀物を食べます。もしも、人間が食べる穀物でいっぱいいっぱいだったら、とても、豚や鳥用の穀物になんて回す余裕はありません。

 牛は、1キロの肉を生産するのに10キロ、豚は4キロ、鳥は2キロの穀物が必要です。世界で増えているのは、牛ではなく、豚や、鳥です。「豊かになれば、牛を食べるはず」というのは欧米人の発想で、中国(14億人/世界人口70億)は豊かになれば「豚肉」を食べますし、インド(12億)はどんなに豊かになっても、牛は食べませんし、そもそもヒンドゥーでは、菜食主義が一番高貴です。

 イスラム教徒(世界人口の1/4)は、豚は食べません。彼らに伸びているのは、鳥です。鳥は3週間で出荷できますが、1キロを生産するのに、2キロの穀物しか必要ありません。

牛の需要は伸びないので、穀物の生産量も、伸びていないのです。

穀物 消費量


 「穀物生産が伸びない」のではなく、「伸ばさない」のです。ただでさえ過剰なのに、さらに作ればますます値段が安くなってしまうからです。

 さらに、「トウモロコシ・コメ・小麦」の穀物がなくても、食肉生産できます。「大豆」があるからです。大豆の使用目的は、油なのですが、その絞りかすが、食肉用の「飼料」にもなるのです。だから、中国は、豚の飼育をするため、大豆の輸入国なのです。

大豆 生産量


 穀物だけではなく、大豆もまだまだ増産が可能です。穀物が足りないということは「生じない」のです。余っているから、補助金つけて、「バイオエタノール」用に回すのです。

 1960年からの50年間に、人口は、40億人増えました。今70億人です。それに対して、今後40年で20億人しか増えません。

p53
 人口の増加率から考えても、今後世界が食糧危機に陥ることなどないのです。




(2)安い価格

 次のグラフを見ると、我々の所得GDPは伸びているにもかかわらず、トウモロコシや豚肉の価格は変わっていないことが分かります。相対的に、「食」は安くなっているのです。

一人当たりGDP トウモロコシ とうもろこし 豚肉 価格

 これを見ると、トウモロコシの価格がリーマン・ショック以後、急激に伸びていることが分かります(ですが、30年平均では、変わっていません)。
 世界のGDPは60兆ドルです。一方、金融資産は、200兆ドルになります。

世界金融資産 残高.jpg

世界の農産物貿易額は1兆ドルで、穀物はその1/10です。こんな小さな市場に、リーマンショックで行先のなくなった資金が、なだれ込めば、ひとたまりもありません。穀物市場も「投機」で動くのです。

世界経済のネタ帳
とうもろこし価格の推移(1980~2012年) - 世界経済のネタ帳

 それでも、GDP伸び率>トウモロコシ価格伸び率ですから、1980年よりトウモロコシ価格は相対的に安くなっています。

 鶏肉の価格です。宗教的に一番心配なく食される肉で、食生活が豊かになると肉の消費が増えますので、相対的な価格の変化を見るのに適しています。

所得増加 鶏肉 相対価格

 鶏肉は買いやすくなっていることが分かります。穀物も同じです。

 日本は、もっとも輸入しているのは、トウモロコシです。小麦の3倍以上も輸入しています。飼料用です。2008年に1650万トンのトウモロコシを輸入し、代金は56億ドルでした。1トン340ドル(27400円)、1キロわずか27.2円です。

 小麦は2008年、578万トンの輸入に33億ドルでしたので、1トン当たり570ドル、45600円です。1キロ当たり46円です。

 小麦だけで、1日に必要な熱量2000キロカロリーを取ろうと思うと、1日540グラム、25円ですみます。
ここから、パンや麺にしますが、でも1日25円です。パンにして、2500キロカロリー摂るには、1日900グラム、食パン1斤半です。450円で済みます。

 コメなら、1日690グラム必要で、280円ほどです。自給1000円のアルバイトを1年間に1日8時間×12日すれば、1年間分のコメを買うことが出来ます。

 同書では、これが「フリーター」が増えた原因の一つではないかと言っています。少々のアルバイトでも、十分に食べていけるからです。

人口比 農民

 食料生産が楽になり、農産物価格が下がりました。農民の数が減りました。もしも農産物価格が高ければ、価格は上がります。農業はどこの国でも儲からないのです。儲からないので、後継者がいないのです(逆に言えば、生産性が向上したので、少ない人数で多量の作物が取れるようになったということ)。

 食料が安いのは「供給>需要」だからです。どこの国でも余っていて、だから、TPPで問題になり、WTOでも、農業がネックになって全然話がまとまらないのです。

 途上国は、農産物の関税引き下げに反対し、一方アメリカに対しては、輸出補助金をやめろと要求しています。アメリカには飲めません。

 輸出補助金とは、国内小麦価格が、国際価格より高くて輸出できないので、価格を下げて売るために、差額をアメリカ政府が補てんするというものです。ダンピングです。フランスもやっています。

小麦 輸出補助金

 余っているのです。だから、問題になるのです。

 日本のコメも同じです。余っているから減反して、100万haも休耕させ、補助金を出して転作(ものすごく高い麦や大豆価格になってしまうことが分かりますね)しているのです。

小麦 消費量

 もちろん、アメリカもコメ余りです。だから、コメがネックになっているのです。
  
 エチオピアには、現在は飢えた人はいません。所要産業は農業です。ですが、小麦を輸出しようにも、世界中で余っているので、買ってもらえません。豊かになろうにもなれないのです。

 ベトナムも、コメを輸出したいのです、できれば、日本に買ってもらいたいのです。ですが、日本は自給率向上??を目指しているので、エチオピアの小麦も、ベトナムのコメも買うことが出来ません。

P118
…通常は、農作物を買ってあげた方が喜ばれるのです。…「同情するなら小麦を買え」、これが真の援助の姿なのかもしれません。




 アメリカは、農民は1.7%しかいません。それで残りの98.3%分の食料を作るとともに、1億トンの余剰生産物を抱え、輸出しています。1億トンの穀物は、3億人分相当です。国内3億人+国外3億人分の農業生産をし、それでも余るので、「バイオエタノール」用に回しています。すごく効率が悪いのにです。

 日本も同じです。1人が農村に住めば、99人の都会の人を養えます。農村に人はいらないのです。それでも「過疎化対策」と言って、地方の人口減少を問題にしています。

 農業には、過剰な人口を収容する能力はありません。省力化が進み、人手を必要としないからです。コメ作り農家の平均年齢は66歳です。年金生活者です。なぜ彼らでもできるかといえば、エネルギーをかけずに、コメ作りができるからです。

 畜産も、野菜も、養豚も、養鶏も、ものすごく生産効率を上げて、少ない人数で大量生産をしています。 

 世界でも同じです。人口に占める農業従事者は49%(1980年)→38%(2010年)になり、少ない農業人口で多くの人を支えるようになっています。農産物が余っているので、価格が低迷し、補助金をつけないと、先進国では農業は立ち行かないのです。

(3)なぜバイオエタノール?

 日本が、もっとも輸入しているのは、トウモロコシです。小麦の3倍以上も輸入しています。飼料用です。2008年に1650万トンのトウモロコシを輸入し、代金は56億ドルでした。1トン340ドル(27400円)、1キロわずか27.2円です。(ちなみに我々が食べている日本米は、1トン22万円もします)

 穀物(トウモロコシ)は、あまりに余ったので、価格は下落しました。1999年には、1トン72ドル、100円としても7200円です。ここまで安いのなら、そこからエネルギーを作っても、石油に対抗できるのでは?と、バイオエタノールが生産されるようになったのです。

世界経済のネタ帳
とうもろこし価格の推移(1980~2012年) - 世界経済のネタ帳

 石油の価格が1バレル(159リットル)70ドルになれば、トウモロコシのエネルギーを5割取り出せれば、十分に対抗できます。

 石油価格は2006年~2008年にかけて1バレル140ドルに上昇しました。

 一方、トウモロコシの価格も2007年には1トン165ドルに上昇しました。当然採算は合いません。

 米国は、「バイオマスは環境に優しい、中東へのエネルギー依存率を減らす」と理由をつけて、補助金を出して生産を続けます。真の狙いは、トウモロコシ価格の上昇です。米国はトウモロコシを輸出しているので、価格が高くなれば儲かるからです。

http://lin.alic.go.jp/alic/month/domefore/2011/jun/wrepo02.htm
図1 トウモロコシの用途別需要の推移
トウモロコシの用途別需要の推移

http://nocs.myvnc.com/study/geo/corn.htm
世界のトウモロコシ作付面積と生産量

 このように、バイオエタノールは、アメリカでさえ補助金をつけて生産しています。1トン22万円もする日本のコメでは、絶対に採算が合いません。


<美和明宏>

2012年 紅白 ヨイトマケの唄

 美和さんを知ったのは、高校の現代社会資料集でした。もう20年前ですから、その資料集に語られた言葉の詳細は、はっきりとは覚えていませんが、「目に見えるものは誰にでも見える。だから目に見えないものを見なさい」という言葉だったように思います。

 それから、彼の言葉や、インタビューや、TVを見る機会があり、広島原爆を体験し、「水をくれ水をくれ」と言った被災者に、水を飲ませて、そのあと絶命していったのを目の当たりにした経験などを知りました。

 三島との特別な関係も知りました。

 あるTV番組で、スタジオにいた一般者に、「歌を」とリクエストされたのですが、「私はプロ。プロを歌わせるには、相当の費用が掛かるのよ(うろ覚えなので、ニュアンスです)」と言ったシーン、でも、「歌ってあげるわ」と、少し歌ってあげたことなどを思い出しました。

 ヨイトマケの唄は、1965年。日本が、高度経済成長期に突入していた、その時代です。

 学校でいじめられても、親の懸命な姿を見たら、愚痴は言えなかったこと、親は苦労・苦労で死んでいったこと、今は、自分は立派なエンジニアになったこと・・・これらのことが、日本の高度成長期、かすかに同時代の空気を吸ったものとして、自分の幼いころの記憶と重なりました。

 自分の幼少期、すごく貧しい農家の人が、実際に居ました。金の卵と言われた、中卒で、北海道から大阪に務めに出ていった中学生を実際に見ました。愛称は「金ちゃん」と言われていました。昭和45年~46年頃のことです。

 親の苦労の上に、進学をさせてもらう環境で、立派な大人になった、唄の世界は、日本の高度経済成長を支えた、時代と重なって見えます。

 この歌は、自分の親に対する愛情ととらえることもできますが、その世代全員の、親世代に対する、気持ちを代弁した唄とも解釈することが出来ます。

 「母ちゃん見てくれこの姿」・・・こんな風に、1世代前の人々に胸をはって伝えられる言葉を発することのできる日本になっているのか・・・その世代になっているのか・・・自問自答してしまいます。

 唄の世界のように、実際に「苦労苦労」だった人々をかろうじて目の当たりにした世代の端くれとして、○○が悪い、○○のせいだ云々と、何でもかんでも他人のせいにして、責任転嫁をはかる人々に対し、ヨイトマケの唄を聞いて、自戒を込めて「甘えちゃいけないのではないか」と考えます。

 泣き言を言う暇があったら汗をかけ、文句を言う暇があったら、自分でそれを解消する道を示す、そのほうが解決に近いのではないでしょうか。

 ヨイトマケの唄を凌駕することは、我々の世代でできるのでしょうか。







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ジム・ロジャーズ

ジム・ロジャーズの彗眼には感嘆しますが、食糧問題に関しては間違いだらけだったんですね。

No title

川島博之

『食糧危機をあおってはいけない』文藝春秋 2009 

p193
…たとえばFAOはもともと「世界の食糧の生産を増やして飢餓を無くそう」という趣旨で、第二次大戦後まもなく国連傘下に設立された団体です。…当然報告書にしても…「食糧は余っていますよ」とは書かず…ところが、大学の先生たちはそんな責任はありませんから「食糧なんて余ってるよ」と本音ベースで話してくれるわけです。

専門家は、皆、食料危機など起こるはずがないことを知っています。

No title

食糧供給が十分、あるいは過剰なのは確かですけど、まだ流通のムラが大きいんですよ。あるところにはあるけど、無いところには無い。

食糧はほとんど保存できないので、食べきれなかった分は捨てられます。
市場に出回っている分のせいぜい半分しか食べられていません。
流通や保存の技術が進めば、食糧は更に過剰となります。

農業の将来は食糧生産に拘らないことでしょう。
例えば、田圃の作物を稲から石油生成細菌にシフトするのは案外間近なことになるかもしれません。
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