貿易黒字で円高になる?
なぜ円高になるかの、よくある説明です。日本からの①輸出>②輸入だと、貿易黒字になるというものです。
①日本が輸出した車の代金を、日本のメーカーは「円」で受け取ります。ですから、「ドル売り円買い」になります。②日本が輸入する際には、「ドル買い円売り」になります。①>②なので、「円高」になるというものです。
高校の教科書や資料集にだって書いてあります。
山川出版社 『新版現代社会 24・25年度用見本』p157
ドルなどの外国通貨の需要がふえれば、円は売られて円安となり、逆に円の需要がふえれば円が買われて円高になる。
たとえば、日本製品よりも外国製品が多く買われるときに支払いのための外国通貨の需要がふえるように、日本商品の国際競争力が弱ければ円安に向かう傾向がある。
逆に日本の商品の国際競争力が強ければ、日本の貿易黒字が拡大し、日本の企業は受け取ったドルを円に交換する(ドル売り円買い)動きを強めるので、為替レートは円高に向かう。
とうほう『政治・経済資料2012』p296
例えば、日本からアメリカへの輸出が輸入を上回ったとしよう(出超)。そのとき、アメリカから多くのドルが日本に流入する。業者はそのドルを売って円に換えようとする。つまり、外国為替市場での、ドルの供給と円の需要が増大するのである。当然、円は高くなりドルは安くなる。つまり「円高ドル安」。さらにその結果、円高ドル安は、逆に輸入品価格を下落させ、輸入が増大、輸出品価格は上昇し、輸出は減少に向かうことになる。一方、日本の輸入額が輸出額を上回ったとき(入超)、「円安ドル高」となり、その結果、輸入が減少し、輸出は増大に向かう。
日本の経常収支黒字(主に貿易収支黒字=輸出>輸入
→円買いドル売り→円高ドル安
実際には、こんなことは、100%起こりません。「輸出入によって為替が変動」など、1980年代前半には終わった、つまり30年以上も前にほろんだ、化石のような理論です。たとえて言うなら「プロレスは真剣勝負だ」「アントニオ猪木に代表される、プロレス最強」論を未だに振りかざしているようなものです。
本当の答えは「プロレスはショー」「プロレス対異種格闘技戦もショー」でしたよね。為替も同じです。「輸出入で決まる」のではなく、本当は、「安倍自民党総裁の一言で決まる??」のです。
<為替相場を決めるもの>
(1)
まず、「貿易黒字だから円高になる」、「貿易赤字だと円安になる」というのは神話だということを見てみましょう。

実際には、全く逆ですね。貿易黒字が減ったら円高になっています。2011年など、貿易赤字だから、「円安ドル高になるはず?」なのに、逆に円高になっていますね。
もう少し、短期で見てみましょう。

2011年以降、これだけ「貿易赤字」になっています。なのに、逆に円高になっています。
とうほう『政治・経済資料2012』p296
一方、日本の輸入額が輸出額を上回ったとき(入超)、「円安ドル高」となり、その結果、輸入が減少し、輸出は増大に向かう。
こんなことは、全く起こらないし、起こりえません。


ついでに、円高→輸出減、円安→輸出増も、成り立っていません。そう思いたいのはやまやまなのですが、実際にはそうならないのです。


どうですか?「円高でも輸出増・輸入増」両方成り立っていますよね。少なくとも、「円安で輸出増」にはなっていません。
(閑話休題)
輸出入で、為替相場が決まるわけではないのです。
(2)
では、為替は何で決まるのでしょうか?
為替は、「輸出入」といった、実物取引で動くのではないのです。「株や債券や、通貨先物取引」といった、資本取引で動くのです。

グラフは、10月の実際の貿易額と、11月4日~10日の対内・対外証券投資(出典 日経):1週間分を単純に4倍にしたものです。厳密な比較ではありませんが、資本取引が、実物取引の8~9倍もあります。
「モノ」輸出入ではなく、「カネ」資本取引で動くのです。
日本でさえ、この額なのです。世界の外為市場は、ニューヨーク、オーストラリア、東京、香港、ユーロ、英国と、文字通り、24時間動いており、外為市場では、1日あたり数百兆円規模の資金が動きます。
2011年10月31日に、日銀が史上最大の7兆円で市場介入しましたが、円安効果はまったくありませんでした。75円が79円になり、77円に戻ったのです。東京外為市場は1日23兆円ほどの市場です。7/23なら、効果がありそうですが、世界を相手にすると、7兆円でも「大河の1滴」にすぎません。
まあ、安倍総裁の一言では、決まるわけではありませんが、実際に、安倍発言は市場に影響を与えました。
日経H24.11.10『安倍円安 市場先取り』
衆院選が事実上始まった。市場関係者は日銀に強く金融緩和を求める安倍晋三総裁率いる自民党が優勢と予想。外国為替市場では政権交代後の追加緩和を先取りする形で、円安が進む。
・・・外国為替市場では・・・1ドル=79円代前半から、81円台前半まで2円近く円安・ドル高が進んだ。
・・・自民党の安倍総裁が掲げる金融緩和策を織り込む「安倍トレード」で、円安が進み、市場は自民党が優勢と見る。

「①自民党政権になるだろう→②安倍総裁は金融緩和に踏み込む→③市場の円の量が増える→④円安になる→⑤先に円を売っておこう(損をしないように)→⑥(将来)ドル高になるのであれば、円を買い戻そう」と動いたのです。
為替は、株式市場にも左右されます。今、日本の株の売買高の7割は、外国人投資家によるものだからです。2000年代前半の4割から急激に増えています。日本の株の価格を決めているのも、彼らだと言って過言ではありません。
投機も盛んに行われています。
日経H24.11.28
・・・ヘッジ・ファンドなど投機筋の「円売り」が膨らんでいる。米シカゴマーカンタイル取引所の通貨先物取引で、20日時点の円の売り越し額は、13日比で7割も増え、7か月ぶり高水準となった。・・・自民党の安倍晋三総裁の発言を手掛かりに海外投機筋が円売りを仕掛けた。「安倍トレード」を裏付けた。・・・20日時点の円の対ドル売り越し額は6424億円と、4月下旬以来の水準に膨らんだ。
追記
日経H24.12.21

「貿易黒字だと円高になる・・・」こんな牧歌的な為替相場だと、リーマン・ショックなんて、起きなかったのです。
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