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空洞化は神話

<空洞化は神話>

 産業空洞化(海外に進出する企業は、その分日本国内の雇用を減らし、日本国内の投資を減らすことになる)など、現実的にも、理論的にもありません。それでも、新聞には、「空洞化」の文字が躍ります。
 ということは、ポジション・トークか、あるいは、本当に知らないから使うのか・・・どうも、世の中の常識は後者のようです。

日経H24.11.19『衰退回避へ成長策競え』
・・・たとえば製造業の空洞化を加速させる円高は、だれのせいだろう。金融緩和が遅れる日銀か。為替介入に尻込みする財務省か。



日経H24.1.31~連載『経常収支の黒字は続くか③』
 中長期的にみても、輸出が伸び悩むリスクがある。その理由が企業の海外移転、いわゆる産業の空洞化である。



日経H24.11.1『富民 大機小機』
19世紀末、英国は製造業の空洞化で技術開発の成果を産業化できずに衰退した。



日経H24.2.5『日本は経常赤字に陥るか』
吉崎達彦 双日総合研究所副所長
国という地理的枠組みにこだわり空洞化を嘆くのではなく、日本企業がグローバルにどう稼ぐのかを考えるべきだろう。



『経常黒字 上半期41%減…赤字転落懸念の声』
毎日新聞 11月8日(木)21時24分配信
財務省が8日発表した12年度上半期(4~9月)国際収支速報で、海外とのモノやサービス、投資などの取引状況を示す経常収支の黒字額が前年同期比41.3%減の2兆7214億円と大幅に減少し、比較可能な85年度以降、上半期として最少となった。市場では、国内産業の空洞化などの構造問題を背景に輸出の落ち込みが長期化し、中長期的には経常赤字に転落するとの懸念も出ている。【永井大介】



 「空洞化」という言葉さえ使ってしまえば、なんでも解説できてしまう、まるで万能薬、現代版魔法の薬のようです。

空洞化のウソ――日本企業の「現地化」戦略 (講談社現代新書)空洞化のウソ――日本企業の「現地化」戦略 (講談社現代新書)
(2012/07/18)
松島 大輔

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松島大輔『空洞化のウソ』講談社新書2012

p17
「空洞化」論についてはこれまで多くの議論がなされてきました。しかし、日本企業の海外進出、特に「現地化」によって国内産業が「空洞化」してきた、という学理的根拠、実証結果はありません。そもそも空洞化という検証自体が極めて曖昧かつ直感的な議論…中村吉明、渋谷稔両氏の『空洞化現象とは何か』(1994年)…によれば「空洞化」とは「一国の生産拠点が海外へ移転すること(海外直接投資)によって(あるいは、それに伴う逆輸入の増加によって)、国内の雇用が減少したり、国内産業の技術水準が停滞し、さらに低下する現象」であるとされています。その意味で、空洞化とはまず国内雇用の減少、すなわち雇用の空洞化を意味します。

p24
…関西地方の企業複数社から聞いた発言は衝撃でした。もはや海外現地子会社からの送金なくしては日本での操業も立ち行かないというのです。つまり子(海外子会社)からの仕送り(配当)なくしては親(日本本社)は事業継続ができないという状態にたち至っているということです。「空洞化」、国内に残るか否か、というどころの話では、もはやない。「海外なくして国内なし」、という状況にあるのです。



『経済財政白書』2011年度

海外生産の拡大が国内空洞化、ひいては雇用喪失につながるという懸念があるが、実際にそうだろうか。
内閣府「企業行動に関するアンケート調査」によれば・・・2010年度調査の結果では、海外生産比率を増加させる意向の企業は、横ばい又は減少させる意向の企業に比べ雇用見通しのプラス幅が大きくなっている。・・・2003年当時と違って、最近では旺盛な海外需要の伸びに対応するため海外に生産拠点を設ける企業が増え、海外生産拠点の補完的な役割を果たすような本社機能の拡充に伴い、雇用見通しが明るくなった可能性がある。

産業空洞化 空洞化



 上記グラフを見ると、2010年度は、海外からの自社の輸入比率:海外生産比率(右%)を高めようとする企業ほど(緑色),今後3年間の雇用見通し(左%)もプラスであることが分かります。

 そもそも、企業が海外に拠点を移し、直接投資を増やすと、その分国内の企業活動を減らすはず・・・(このブログでいつも否定している、経済におけるゼロ・サムという間違った考え方に基づく)という考え方など、10年も前に否定されています。

『経済財政白書』2002年度

…対外直接投資は、国内設備投資を代替し、国内における生産基盤の縮小をもたらすとの連想から、しばしば産業空洞化の象徴のように受け取られるが、実際に対外直接投資と国内設備投資の間にはどのような関係があるのだろうか。
…実際に、対外直接投資を縦軸に、国内設備投資を横軸にとってみると…国内設備投資が増加するときには対外直接投資も増加し、国内設備投資が減少するときには対外直接投資も減少するという大まかな関係が見て取れ、両者が単純な代替関係にあるわけではないことが分かる

産業空洞化 空洞化2




 海外投資が多いほど、国内投資も多いことが分かります。

 また、一番厳しそうな、中小企業においても、海外に進出した企業ほど、国内従業員の数を増やしていることが分かります。

2012年『中小企業白書』

産業空洞化 空洞化 雇用 拡大



 ゼロ・サムの空洞化なんて、そもそもないのです。


<安い中国製品が、日本に入ってきて、空洞化する>

 こんな馬鹿なこともありません。例の黄金率「輸入増=輸出増」です。

中国 対日 輸出 輸入 

対日輸出を伸ばせば伸ばすほど、対日輸入も増えています。

空洞化は神話なのです。

< 追記 日本はサービス業の国>

 もしも、空洞化を、製造業雇用者数の減少を言うのなら、そんなもの70年をピークに下がり続けています。

産業構造の変化 新.jpg

産業別就業者構成比.jpg


 その国が豊かになればなるほど、第1次産業→第2次産業→第3次産業へと、雇用・所得も変化します。これを産業構造の高度化と言います。

実教出版「2012 新政治・経済資料」
P247
ペティ・クラークの法則
 産業の比率が、一般に、経済の発展に従って、第1次産業(農業や水産業)から第2次産業(工業)へ、そして第2位次産業から第3次産業(金融・サービス・流通業)へと移行することを言う。


 

 豊かになればなるほど、モノではなくて、形のない商品への支出が増えます。旅行、エステ、情報、外食、レジャー、ネットサービス、スマホ、教育、文化講座・・・・etc etc・・・。日本は、すでに、高度成長時代から、モノづくりの国ではありませんし、そもそもモノづくり(輸出で稼ぐ)の国だったことは一度もありません。

<追記2>

川島博之『作り過ぎが日本の農業をダメにする』日本経済新聞出版社 2011

p125
 急速に近代化した日本では、この地方人口をどうするかが大きな問題になっています。食料の生産が容易になったために、農村に多くの人口はいらないと言われても、ついこの前まで、正確に言えば昭和30年頃まで農村に多くの人が住んでいました。そして、米作りに従事していたのです。そうしないと必要な食料を生産することはできなかったのです。

そのような状況はここ50年程の間に大きく変わってしまいました。食料の生産が極めて容易なったためです。もはや地方に多くの人が住む必要はないのです。しかし、人々の心は、そのような急速な状況の変化についていくことができません。

それは地方の人の心の奥底に、地方が豊かだった江戸時代の姿が残っているためでしょう。そのために多くの人は地方に人がいなくなったという事実を認めることができないのです。それは「過疎化対策」などという言葉を生み出し、ひいては日本の農業政策にも影響を与えています。


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theme : 間違いだらけの経済教育
genre : 学校・教育

comment

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No title

ほう。
対日輸出、対日輸入と言うことは、中国から見たグラフですよね。
中国って、日本への輸出を伸ばせば伸ばすほど日本からの輸入が増えて対日貿易は赤字のままなんだ・・・。
これは面白い。

取引された財の内訳がはっきりしないと断言できませんが、日本からは製造機械や基幹部品の輸出が多いはず。すると中国企業は対日輸入での支払だけでなく利子やパテント料の支払いもありますね。

しかし、実際に中国に工場を移された地域では雇用、所得の減退が起きます。
全国的な数値では空洞化は起きていないとすれば、国外への企業流出で起きている問題は、そのことで生じた国内経済のムラだったわけですねぇ。
企業流出でうけた損失分、その地域が新たな利益を感じることができれば、空洞化は起きていないという事実を理解しやすかったでしょう。
しかし、別の地域、別の産業、別の階級に利益がシフトしたのでは、企業流出された地域では「空洞化だ!」と叫びたくなるわけだ・・・

No title

しばらくぶりの本格記事のアップに感謝。

また、いろいろな話題を経済学の観点から分析していただいたり、著名人の論稿をするどく批判していただければ幸い。

お休みの間に、新著をお書きになっていたのであろうか?

No title

日経H24.12.4

街を支えた企業や工場が姿を消したり規模を縮小したりする。

…JX日鉱日石エネルギーの室蘭製油所(室蘭市)が石油精製設備の稼働を停止し、事業規模を2~3割縮小すると伝えられてから1か月。…市長は先頭に立ち製油所の現状維持の訴えを続ける。

…だが実際には、石油製品の国内需要の低迷や、国際競争激化への対応のために決めた企業判断を覆せる見通しはたっていない。地元では製油所関連の企業で働く約300人の雇用への影響が懸念される。

No title

なるほど、地方の工場雇用が減る代わりに、大都市の事務仕事が増えるわけですね。でも、その事務仕事は英語が必須だったりするんじゃないでしょか。結局、工場労働者は転職できないし、そもそも愛着ある土地から人は離れたくない。日本は一所懸命に命をささげた武士政権が1000年も続いた国であることを忘れてはならない。

そして、高度な事務処理は一部のエリートに集中する。彼らは給料は高いが毎日深夜まで残業して、若くして体を壊し死んでいく。

さらに、農業分野で同じことが起きれば、地域社会が崩壊して、しぶとく残っている各地の祭りが消えていく。八百万の神々が殺されていく。

机上の数値では、空洞化は起きなくて、豊かさは増していくんだけど、陰で見えない悲しみが増加していくように思う。

やっぱり経済学はあまりに一面的すぎるように思う。

No title

 記事を追記しましたので、ご覧ください。

No title

追記勉強になります。

要は問題は今に始まったことではないってことなんでしょうか?

そもそも明治維新ってほんとに日本を幸福にしたんでしょうか?

経済学って、未来の理想郷のために、今生きる人々に犠牲を強いているような気がするんですが…。

自由経済がグローバルに確立すればより生産性は高まるんだから、既存の仕組はどんどん壊していけ!時代は変わったんだと・・・。
でも変化のスピードに人はついていけない。変化は常に若手のためのもので、若者は豊かさを享受するが、そのために労働してきた人々は頭が古くて、それを享受できない。未来の人類のためという錦の御旗を掲げて、今の生活を犠牲にしろ!犠牲しない奴は豊かさを阻害する悪だ!そんな風に聞こえてしまいます。

既存の仕組は文化を担っていますから、自由経済は既存の文化も殺します。でも人間は生きる意味を既存の文化に見出していますから、物理的豊かさよりそっちが大事だったりするんですよね。おそらく宇宙や自然そのものに意味なんてないですから。西洋の連中は絶対神の意志があるとおもっているみたいですけど。(経済学もその思想が裏にあることを忘れてはならない)一神教徒でない限り地域文化が壊されれば、生きる意味も壊される。

空洞化は神話。だからグローバル化は是ではかたずけられない問題が多いように思います。

No title

追記で取り上げられた状態は、農業=食糧生産と決めつけていたからですよねぇ。

うーん、でもビジネスの現場では農場と工場の間に区別はない。英語では両方とも「plant」。
工業原材料、特に化学薬品や希少資源の回収、ハイテク素材の生産も農業であり水産業の仕事です。。そのつもりさえあれば、燃料だって生産できる。

農業の過去が食糧生産に特化したかのように思われ、行き詰まりの原因になってしまっているという分析は正しいかもしれませんが、農業の未来が食糧生産に特化しっぱなしと言う前提で話を進めるのは多少無理があると思いますよ。

まぁ食糧生産は現状でも過剰ですし、近い将来には大都市内での仕事になってしまいそうですから、食糧生産にこだわっていたら、そりゃぁ農業はお陀仏だと思っちゃうでしょう。
でも、それは見通しを間違っていると思います。
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