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貿易黒字に戻すにはクイズ

<貿易黒字に戻すにはクイズ>

読売H24.5.13
貿易黒字 戻すクイズ

 こんなクイズが、経済人相手に出され、そのことが記者クラブで報告され、経済部の専門記者が、紙面に載せます。

 正解は、

(1)このクイズを出すこと自体がナンセンス
(2)事実を良く見てないのは藻谷氏


です。


GDP(国内総生産)=GDE(国内総支出)です。

生産(GDP) =  消費(GDE)
   Y  =  C+I+G+(EX輸出-IM輸入)

です。

GDE.jpg

 貿易黒字を増やすとは、海外資産を増やすことです。ドル紙幣や、ドル国債、ユーロ札や、ユーロ債、中国の工場や店舗、インドネシアやタイの工場、店舗、日本企業のお店を増やすことです。

 貿易黒字=海外資産をいくら増やしても、日本国内に還元するカネではありません。つまり、貿易黒字は、「もうけ」ではないのです。

参照↓
かんべんしてよ 日経


伊藤元重(東大教授)編著『貿易黒字の誤解-日本経済のどこが問題か-』 東洋経済新報社1994 
 p27 黒字はどこにいったのかといえば,「海外への資産の蓄積になった」という答えになる。

 p89 「日本は多くの産業において強い競争力を持っており国際経済で一人勝ちしているから,日本の貿易収支や経常収支は黒字である」というのがいかにばかげた議論であるか…わかることだろう。




 このように、貿易黒字=資本収支赤字は、日本国に還流しないカネです。

 ですから、貿易黒字(経常収支でも同じ)が増えても、

「日本人の生活そのものが豊かになることを,必ずしも意味しない(岩田規久男(学習院大学教授『国際金融入門』岩波新書 1995 p44)」

高増明他『経済学者に騙されないための経済学入門』ナカニシヤ出版2005 
p20
…豊かさというのは、いろいろな財を消費して満足を得ることです。けっして、輸出が輸入より大きいことが豊かではない・・・



のです。


 重商主義=貿易黒字至上主義は、「海外資産増至上主義」です。


竹中平蔵『経済古典は役に立つ』光文社新書2010
P37
…アダム・スミスは邦訳『国富論』全体の約2割に相当する200ページを割いて、重商主義攻撃を展開している。
『貿易によるイングランドの財宝』という有名な本を書いたトマス・マンによれば、重商主義とは、「貿易黒字を出すことが富を築くことである。貿易にあたっては、外国製品の購入以上に国産品を海外で販売することを旨とすべきである」という考え方だ。つまり、ひとことで言えば、重商主義とは、貿易黒字至上主義だと考えればいい。



 著者が、一番述べたいことは、本の冒頭部分に書かれます。スミスが言いたかったこと、一番大切なことが、国富論の最初の1ページ目に書かれています。


アダム・スミス『国富論』山岡洋一訳 日本経済新聞出版社 2007 
 どの国でも、その国の国民が年間に行う労働こそが、生活の必需品として、生活を豊かにする利便品として、国民が年間に消費するもののすべてを生み出す源泉である。消費する必需品と利便品はみな、国内の労働による直接の生産物か、そうした生産物を使って外国から購入したものである。


『世界の名著 アダム・スミス(国富論)』中央公論社 S62 p388
…すべてどの社会も、年々の収入は、その社会の勤労活動の年々の全生産物の交換価値とつねに正確に等しい、いやむしろ、この交換価値とまさに同一物なのである。


GDP(国内総生産)=GDI(国内総所得)=GDE(国内総支出)が富ということです。


 竹中平蔵 同
P45~
 今では当たり前の話だが、富の源泉は労働だということを明示的に示している。つまり、重商主義がいうように貿易差額(黒字)で金銀を稼ぐことが富の源泉なのではなく、労働こそが富の源泉であるという、世の中の基本的な視点が冒頭で書かれている。
…富とはどこから生まれるのか、そして富とはどういう性格を持っているのか、それについて考察することが『国富論』の目的であり、その答えとして、労働こそが富の源泉だということを冒頭で示したのだ。
 これはいまの経済学にとってきわめて重要なポイントである。

P58
…そして重商主義に対する決定的批判として、人々は生産者の利益ではなくて、消費者の利益のために労働していると主張する。「消費こそがすべての生産の唯一の目的であり、生産者の利益は消費者の利益をはかるために必要な範囲でのみ配慮されるべきである」…と。
 ところが「重商主義では、消費者の利益はほぼつねに生産者の利益のために犠牲にされている。そして消費ではなく生産こそがすべての産業と商業の最終的な目的だと考えられているかのようである」 …と、アダム・スミスは批判するのである。



 貿易黒字なんて、「ゼロ」でも構わないのです。「海外資産-外国が持つ日本国内資産」がゼロでも、まったく構わないのです。

 貿易黒字を増やす必要など、まったくありません。

 このクイズの構造は、

 プロ野球選手のグローブを「2倍サイズ(面積は4倍になる)にしたら良いのではないか」バットを「2倍の太さにしたらよいのではないか」という議論をしているようなものです。

 捕球率は2倍サイズにしたら、上がります。しかし、そのあと機敏にファーストに投げられません。
 太さも2倍にしたら、当たればヒットは増えるでしょう。でも振り回すことができません。

このくらい、このクイズは「ナンセンス」です。



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theme : 間違いだらけの経済教育
genre : 学校・教育

comment

Secret

No title

はじめまして

そんなに新千歳が暴利なんですかね。。。

距離も45キロ以上ありますし。

No title

御茶ノ水~八王子 45キロ、特急を使っても690円です。

千歳~新千歳空港 5.6キロ 340円です。

札幌⇔千歳空港線、46キロ 1040円です。

うーん

御茶ノ水から八王子だと普通運賃で690円しちゃいますよね。。。特別快速のことですか?

千歳線は付加運賃(140円)付けてるんでどうしても高くなってしまいまいますね。ほかの空港接続JR線の付加運賃と比べるとそんなに高くはないと思いますが。

No title

 御茶ノ水から八王子は、新宿乗り換えで、京王線を使うと、全料金で510円です。

 付加運賃ですか?新千歳空港に行く路線で全くほかの路線と別路線なのは、南千歳⇔新千歳空港間で、南千歳とは、昔の千歳空港駅のこと、距離は、2.6キロ、300円もしますよ。

No title

http://www.vocabow.com/cafe/bozu/2010.10.html
http://www.vocabow.com/cafe/bozu/2010.11.html

上のブログ記事で藻谷の「デフレの正体」を評価しています。
このブログ主はどういった点で誤解しているのでしょうか?
お忙しいのは承知しておりますが、ご教授願えませんでしょうか。

疑義が生じたのは以下です。
・成長重視は上手くいかない。だからサンデルをはじめとした正義論が流行した。
・日本にもはや経済成長はない。
・藻谷の「日本の「好況」「不況」と言われるものの正体が、実は「人口ボーナス」、つまり、戦後急速に人口増加した人々が作りだした一時的需要なのだ」を引用し、「少子化が進む状況で、需要不足は根本的には改善しないので、「成長」では問題解決できない」と主張。
・ジョークを許さない思考を表した書籍が「デフレの正体」だ。

No title

デフレの正体ですか・・・
土台から曲がっているので、どこをどう取り上げても、狂いっぱなしの建物みたいな話です。

疑義が生じたのは以下です。
・成長重視は上手くいかない。だからサンデルをはじめとした正義論が流行した。

ゼロサムだと、誰かが豊かになれば、誰かが貧しくなります。成長しないということは、そういうことです。

・日本にもはや経済成長はない。

成長は1労働力×2資本×3TFP(生産性)で達成されます。日本は1マイナス、2ちょっと歩かないか、3ここを重視するしかない・・・で、潜在成長率は1%内外です。

・藻谷の「日本の「好況」「不況」と言われるものの正体が、実は「人口ボーナス」、つまり、戦後急速に人口増加した人々が作りだした一時的需要なのだ」を引用し、「少子化が進む状況で、需要不足は根本的には改善しないので、「成長」では問題解決できない」と主張。

えーと、戦後の高度経済成長も、1労働力×2資本×3TFP(生産性)で説明できます。毎年金の卵と言われる労働力が毎年100万人以上も参入しました。これだけで、3%も成長します。資本も、欧米の技術を導入するという資本投入でした。3の生産性は、進んだ技術を導入するだけで、伸びます。ということで、高度経済成長です。

これは、欧州も同じで、ベビーブーム、破壊されたインフラ回復、生産性向上で、50~70年代は高成長でした。米も同じです(破壊されたインフラはありませんが)。

これがピケティがいう「高度成長は奇跡」という話で、資本主義はもともと1%程度の成長しかありませんということです。

成長率低下は、先進国共通で、3~5%の成長など、ムリなのです。

・ジョークを許さない思考を表した書籍が「デフレの正体」だ。

すみません、徹頭徹尾、ジョークとしか言えません。

デフレは、簡単なワルラス法則さえ知っていたら、「カネ(供給不足)」と「財・サービス(需要不足)」両方で生じる現象だと言うことが分かります。単なる需要不足でもなく、カネだけの話でもありません。

あと、簡単なモデルさえ知らないので、「デフレは良いこともある」とトンデモになります。
市場は
1財・サービス市場、2労働市場、3貨幣市場(これは1と2の円の中で逆向きに動く)の3つで成り立っています。一番シンプルなモデルです。

1では、企業が供給、家計が需要ですが、2では、家計が供給、企業が需要です。この2つの市場は、同時に成り立ちます。

ですから、1市場でデフレがいい=需要不足で構わない=価格下落を言えば、2市場で、需要不足で構わない=失業増でも構わない=賃金下落でかまわないを同時に肯定する事になります。

給与が下がって構わない、失業増で構わない・・これ、最初からいかれています。

というように、一番基礎の、一番単純な話でも、「デフレの正体」がゆがんでいることが分かると思います。

ワルラス法則は下記
http://abc60w.blog16.fc2.com/blog-entry-687.html

カテゴリ 藻谷デフレの正体をご覧下さい。

トンデモ論の話は、拙著「図解使えるマクロ経済学」をご覧下さい。

あと、市場の話は、「予定稿」を楽しみにしてください(笑い)。

宜しくお願い致します((笑)

No title

菅原先生、丁寧に解きほぐして下さり、ありがとうございました。
やはり、藻谷はイカレていて、このブログ主もまたわかっていないんですね。
このブログ主、東大で社会学を学んだようですが、ただの肩書きだけでした。
「デフレがいい」なんてインチキだとは思ってましたが、インチキ学者は屁理屈こねるのが得意なのもわかりました。
ほんとうに感謝いたします。
先生の書籍、さっそく二冊とも注文しました。
先生のブログとセットでしっかり勉強させていただきたいと思います。

No title

経済学だけは、「勉強しないと、絶対にトンデモ論」 になるという、特殊な世界です。

個人が、将来不安で貯蓄をする。将来が不安になればなるほど貯蓄を増やす。これは合理的・利己的に正しい選択です。

ところが、全員がその正しいことをやると、消費が減少し、不況になるのです。これが合成の誤謬=ミクロ的に正しいことを全員がやれば、マクロではとんでもない状態になるというケインズが指摘した、パラドックスです。

荻原弘子さんのような、経済学を知らない、家計解説者が、「消費を節約して貯蓄を増やせ」と言えば言うほど、不況になります。

だから、「常識」が通用しなくなる世界が、経済学なのです。

ほかにも、自己にとって最適な状況を積み重ねると、マクロ的に最悪になるのは、マグロやかになどの水産資源乱獲、CO2などの温室効果ガスのような環境問題・・・

みんな、「自己の利益・儲け・利潤」を追うと、最悪な結果になります。

自分の利益だけを追求すれば、見えざる手によって、需要と供給が均衡し、最適な資源配分状況になる・・・こういう世界も確かにあるのですが、自分の利益を追求すると、最悪な結果となる・・・しかも、均衡は1つではなく複数存在する・・・これがゲーム理論という、伝統的経済学では解決できない分野・寡占市場とか、軍拡競争とかを分析する、理論です。

年功序列・終身雇用・企業別労働組合の、日本型雇用環境も、合理的に選択された結果で、別に日本人の精神論とか、全然関係ないことを明らかにしたのが、ゲーム理論・コーディネーションゲーム・ナッシュ均衡の、比較制度分析です。

とにかく、ミクロ(自分の周りの経済だけを考える・・よくある、経済学を知らない経済評論家は皆こちらです)だけを考えて、マクロが正反対の結果になることを知らないのだから、最悪です。

貿易黒字は黒字だから儲け、赤字は損、企業のミクロを、マクロに適用すると、赤字は、日本のカネが出て行く・・・アホか?です。赤字は、「日本にカネが入ってくる状態」のことです。

だから、経済学だけは、「勉強しないと、絶対にトンデモ論になる」のです。

市場のモデル図は、
http://abc60w.blog16.fc2.com/blog-entry-1010.html

を参照下さい。
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