世代間格差 その1
山形氏(拙著Ⅰで紹介した、「クルーグマン教授の経済学入門」の訳者)に紹介いただいていました(情報いただきました)。感謝申し上げます。
http://www.pot.co.jp/news/20120111_212817493926656.html
「山形浩生が選ぶ経済がわかる30冊」PDF公開。本を購入いただいた方は無料でお送りします」
http://www.pot.co.jp/img/2012/01/yamagata.pdf
「山形浩生が選ぶ経済がわかる30冊」
高校生からのマクロ・ミクロ経済学入門II
著:菅原晃
ブイツーソリューション/ 1,400 円+税/ 2010 年6 月刊
ミクロ、そして特にマクロ経済学の基本を非常に明快にまとめた本。
簡単な数値例をたくさん使って明快に書かれた本で、高校生にもわかるだろうけれど、でも実はプロの経済学者でもときどきうっかりまちがえる内容がたくさん指摘されていて、非常に高度。日本のバカなベストセラー「経済書」のほとんどは、著者になで切りにされて死屍累々。
著者のサイトと併せて読むべし。なぜI が再刊されないのか不思議。
<世代間格差>
定義は様々ですが、「現在の高齢者の社会保障負担と、若年層の社会保障負担では、後者の方が大きい」というような例、あるいは「経済的な格差」などが言われています。
参考・引用文献 (グラフ・図も)
加藤久和『世代間格差』ちくま新書 2011

まず、この世代間格差については、「世代会計」という、様々なモデルで検証されています。モデルによって、出てくる数値は違うものの、格差があることは明白になっています。
一生のうちに払う税や社会保険料と、受け取る(年金・社会保障・補助金・教育など)額の差です。明らかに、後世代になると、マイナスです。

別なモデルによる試算です。

これも、別なモデルによる「世代間不均衡」の比較です。

これらから、若い世代ほど、社会保障や租税などで、大きな負担を背負っていることが分かります。
<なぜこうなるか>
理由は、税や、社会保障のシステムにあります。
(1)税

こうであれば、何の問題もありません。ですが、実際には、次のようになっています。

すでに、必要なカネのうち、半分以上は、公債(未来からの借金)です。

この、未来からの借金が、積もり積もって、1000兆円を超えます(地方+国の合計)。
とうほう『政治・経済資料2012』p223

結果、若い人になればなるほど、出生時にすでに「未来からの借金」を背負っていることになります。

(2)社会保障システム
また、社会保障費も、増大の一途です。


これも、このようなシステムなら、問題がありません。

ですが、実際には、税金でまかなわれています(その税金でも足りず、公債が入っていました)。

また、公的保険ですが、実際には、病院窓口で払う金額の3割を、本人が負担しています。75歳以上の高齢者は、1割負担(所得多い層は3割)で済みます。
当然、高齢者が病院にかかることが多くなるので、老人医療費の、公的保険にしめる割合は、高くなっています。
とうほう『政治・経済資料2012』p280

また老齢年金の場合は、下記の図なら、問題ありません。

上図を、「積み立て方式」といいます。ですが、実際には、「現役世代」が支払う保険が、現在の老齢世代に年金として払われています。これを「賦課方式」といいます(日本では修正積み立て方式と言っている)。

基礎年金と言われる、すべての高齢者を対象とした年金は、すでに1/2が税金でまかなわれています。
この「国民皆年金」は、1961年にスタートしたものです。その当時は、人口も増加し、国民所得も右肩上がりの時代を迎えようとしていました。
ですが、現在の日本は、ご存じのように「少子高齢化」です。何より、現役世代の数が減少し、逆に高齢者の人口は増えています。

この図が、そのまま、高齢者(左側)・現役世代(右側) になります。第1次ベビーブーム世代(団塊の世代)は、今年65歳以上になります。
また、合計特殊出生率(一人の女性が、生涯に何人の子を産むか)が低下し、2を割っているため(人口維持には2.1程度が必要)、日本は、すでに、「人口減社会」に入っています。
浜島書店『最新図説政経2011』p260

その結果、高齢者を支える現役世代は、次のようになっています。

浜島書店『最新図説政経2011』p262

では、現役世代に頼る、現行の年金や医療保険制度は、維持できるのか?どう考えても、無理ですね。
実教出版『2012 新・政治経済資料』p233

現役世代が減少するので、所得税は減少することが分かります。
法人税は、「景気がいい時(2002年→2007年)」は伸びましたが、その後リーマン・ショックで、また低下しました。
「法人税引き下げは、大企業優遇だ。もっと大企業から取ればいい!」ですか?そもそも、法人税は、日本の7割の企業は払っていません。日本の企業は、なぜかみな赤字??だからです。
http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/hojin2008/pdf/hojinsu.pdf
相続税ですか?95%の人には関係ありません(控除額が高く、課税対象額の財産を持つ人が少ないから)。
https://www.hotto.nomura.co.jp/ipg/ez/ezp2n_b1/jsp/invest/080310-01.jsp
どうしましょう?答えは限られていると思われますが・・・「現行のやり方を維持するのであれば」・・。
実教出版『2012 新・政治経済資料』p232

小峰隆夫 法大 『人口動態が迫る政策(中) 負の影響克服、日本が範を』日経H24.1.18
…世代間格差を是正するためにはどうすべきか。
世代間格差が生じる基本的な原因は
①巨額の財政赤字が将来世代の負担になっている
②賦課方式の社会保障制度が維持されている
③若年層に雇用調整のしわ寄せがもたらされやすい長期雇用制度を維持している
ことの3点である。
だとすればとるべき基本方向は明らかだ。
まずは消費税引き上げと社会保障給付の適正化で財政再建を進める。
次に引退世代の給付を削減する方向での社会保障制度改革を進めて長期的にはできるだけ積立方式に近い制度に移行する。
そして企業間・世代間での労働力移動を流動化し、弾力的な雇用制度を構築していくこと
である。
…問題は、解決策が分からないことではなく、国民に負担を強いる選択を示せないでいる政治にある。
<追記>
隅田川 日経『大機小機』H24.2.10
・・今後の人口構造は、高齢者に比して働く人の数が相対的に減っていく。にもかかわらず現在のような賦課方式(現在の勤労生世代が現在の高齢者を支える仕組み)を続けていくと、勤労世代の負担が増え続けていくことになり、これも明らかに持続不可能である。・・・失われた持続可能性を取り戻すことである。
http://www.pot.co.jp/news/20120111_212817493926656.html
「山形浩生が選ぶ経済がわかる30冊」PDF公開。本を購入いただいた方は無料でお送りします」
http://www.pot.co.jp/img/2012/01/yamagata.pdf
「山形浩生が選ぶ経済がわかる30冊」
高校生からのマクロ・ミクロ経済学入門II
著:菅原晃
ブイツーソリューション/ 1,400 円+税/ 2010 年6 月刊
ミクロ、そして特にマクロ経済学の基本を非常に明快にまとめた本。
簡単な数値例をたくさん使って明快に書かれた本で、高校生にもわかるだろうけれど、でも実はプロの経済学者でもときどきうっかりまちがえる内容がたくさん指摘されていて、非常に高度。日本のバカなベストセラー「経済書」のほとんどは、著者になで切りにされて死屍累々。
著者のサイトと併せて読むべし。なぜI が再刊されないのか不思議。
<世代間格差>
定義は様々ですが、「現在の高齢者の社会保障負担と、若年層の社会保障負担では、後者の方が大きい」というような例、あるいは「経済的な格差」などが言われています。
参考・引用文献 (グラフ・図も)
加藤久和『世代間格差』ちくま新書 2011

まず、この世代間格差については、「世代会計」という、様々なモデルで検証されています。モデルによって、出てくる数値は違うものの、格差があることは明白になっています。
一生のうちに払う税や社会保険料と、受け取る(年金・社会保障・補助金・教育など)額の差です。明らかに、後世代になると、マイナスです。

別なモデルによる試算です。

これも、別なモデルによる「世代間不均衡」の比較です。

これらから、若い世代ほど、社会保障や租税などで、大きな負担を背負っていることが分かります。
<なぜこうなるか>
理由は、税や、社会保障のシステムにあります。
(1)税

こうであれば、何の問題もありません。ですが、実際には、次のようになっています。

すでに、必要なカネのうち、半分以上は、公債(未来からの借金)です。

この、未来からの借金が、積もり積もって、1000兆円を超えます(地方+国の合計)。
とうほう『政治・経済資料2012』p223

結果、若い人になればなるほど、出生時にすでに「未来からの借金」を背負っていることになります。

(2)社会保障システム
また、社会保障費も、増大の一途です。


これも、このようなシステムなら、問題がありません。

ですが、実際には、税金でまかなわれています(その税金でも足りず、公債が入っていました)。

また、公的保険ですが、実際には、病院窓口で払う金額の3割を、本人が負担しています。75歳以上の高齢者は、1割負担(所得多い層は3割)で済みます。
当然、高齢者が病院にかかることが多くなるので、老人医療費の、公的保険にしめる割合は、高くなっています。
とうほう『政治・経済資料2012』p280

また老齢年金の場合は、下記の図なら、問題ありません。

上図を、「積み立て方式」といいます。ですが、実際には、「現役世代」が支払う保険が、現在の老齢世代に年金として払われています。これを「賦課方式」といいます(日本では修正積み立て方式と言っている)。

基礎年金と言われる、すべての高齢者を対象とした年金は、すでに1/2が税金でまかなわれています。
この「国民皆年金」は、1961年にスタートしたものです。その当時は、人口も増加し、国民所得も右肩上がりの時代を迎えようとしていました。
ですが、現在の日本は、ご存じのように「少子高齢化」です。何より、現役世代の数が減少し、逆に高齢者の人口は増えています。

この図が、そのまま、高齢者(左側)・現役世代(右側) になります。第1次ベビーブーム世代(団塊の世代)は、今年65歳以上になります。
また、合計特殊出生率(一人の女性が、生涯に何人の子を産むか)が低下し、2を割っているため(人口維持には2.1程度が必要)、日本は、すでに、「人口減社会」に入っています。
浜島書店『最新図説政経2011』p260

その結果、高齢者を支える現役世代は、次のようになっています。

浜島書店『最新図説政経2011』p262

では、現役世代に頼る、現行の年金や医療保険制度は、維持できるのか?どう考えても、無理ですね。
実教出版『2012 新・政治経済資料』p233

現役世代が減少するので、所得税は減少することが分かります。
法人税は、「景気がいい時(2002年→2007年)」は伸びましたが、その後リーマン・ショックで、また低下しました。
「法人税引き下げは、大企業優遇だ。もっと大企業から取ればいい!」ですか?そもそも、法人税は、日本の7割の企業は払っていません。日本の企業は、なぜかみな赤字??だからです。
http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/hojin2008/pdf/hojinsu.pdf
相続税ですか?95%の人には関係ありません(控除額が高く、課税対象額の財産を持つ人が少ないから)。
https://www.hotto.nomura.co.jp/ipg/ez/ezp2n_b1/jsp/invest/080310-01.jsp
どうしましょう?答えは限られていると思われますが・・・「現行のやり方を維持するのであれば」・・。
実教出版『2012 新・政治経済資料』p232

小峰隆夫 法大 『人口動態が迫る政策(中) 負の影響克服、日本が範を』日経H24.1.18
…世代間格差を是正するためにはどうすべきか。
世代間格差が生じる基本的な原因は
①巨額の財政赤字が将来世代の負担になっている
②賦課方式の社会保障制度が維持されている
③若年層に雇用調整のしわ寄せがもたらされやすい長期雇用制度を維持している
ことの3点である。
だとすればとるべき基本方向は明らかだ。
まずは消費税引き上げと社会保障給付の適正化で財政再建を進める。
次に引退世代の給付を削減する方向での社会保障制度改革を進めて長期的にはできるだけ積立方式に近い制度に移行する。
そして企業間・世代間での労働力移動を流動化し、弾力的な雇用制度を構築していくこと
である。
…問題は、解決策が分からないことではなく、国民に負担を強いる選択を示せないでいる政治にある。
<追記>
隅田川 日経『大機小機』H24.2.10
・・今後の人口構造は、高齢者に比して働く人の数が相対的に減っていく。にもかかわらず現在のような賦課方式(現在の勤労生世代が現在の高齢者を支える仕組み)を続けていくと、勤労世代の負担が増え続けていくことになり、これも明らかに持続不可能である。・・・失われた持続可能性を取り戻すことである。
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theme : マクロ経済学 ミクロ経済学
genre : 政治・経済