fc2ブログ

TPP 識者の見方 国境で区切った輸出入に意味はない

<FTA自由貿易協定 識者の見方>

 法政大学の小峰先生ではないかと考えられる、日経『大機小機』の隅田川さんの、TPPに関する見方です。

 http://abc60w.blog16.fc2.com/blog-entry-626.html
日経 大機小機 隅田川さん 参照



日経23年11月10日

tpp 隅田川


また、これを貫く、貿易に関する基本的な考え方です。

日経23年8月10日

豊かさ 隅田川


GDP+IM輸入=C消費+I投資+G政府+EX輸出


 この、左辺を増やす(財・サービスの量を増やす)こと=我々の生活が豊かになることです。「貿易の目的は輸出ではなく輸入(クルーグマン)」にあるのです。

<WTO FTA>

 まず、基本的には、WTO(世界貿易機関)の合意が最優先です。しかし、そのWTOは、参加国があまりに多すぎ、利害対立が激しく、「ドーハ・ラウンド」は、全く進展がないまま、もう11年目を迎えています。


日経H23.12.18

WTO.jpg


 FTA(2国間・多国間協定)は、本来は望ましくないのですが、その締結数は加速しています。
FTAとは、GATT第24条に認められている、「自由貿易地域を設定し、関税そのほかの制限的通商規則を撤廃することにより域内の貿易を自由化する関税地域の集団」の協定のことを言います。2009年6月現在で、171件が締結され、特に2000年代に入り急増しています。

http://www.jetro.go.jp/biz/seminar/091202/shiryo.pdf#search='FTA 推移'
JETRO資料


世界FTA.jpg


 153か国合意(WTO ドーハ・ラウンド)よりも、隣の国との合意の方が、はるかに手っ取り早いからです。しかも、効果はてきめんです。

http://abc60w.blog16.fc2.com/blog-entry-549.html
WTO・FTA/EPA・TPP その2 参照


<FTA締結後の日本>

 日本は現在、モノとサービスの貿易自由化だけでは不十分という考えから、EPA(FTAを中心にヒト・カネの自由化などさらに幅広い経済協力の枠組み)を推進し、「これまで9カ国・地域とEPAの発行や締結を合意しています。

多和田眞『国際経済学』新世社 2010 P137 

FTA


 まだまだ始めたばかりで、データを取るだけの年数もないのですが、これらの国との輸出入は、どうなっているのか、見てみましょう。

 まず、日本全体の輸出入です。リーマン・ショックでの落ち込みがあり、まだ回復途上にあります。


日本 輸出入


 1番早かったのは、シンガポールです。


対日輸出入 シンガポール

対日輸出入 メキシコ

対日輸出入 インドネシア

対日輸出入 チリ

対日輸出入 フィリピン

対日輸出入 ベトナム

対日輸出入 マレーシア

 どうですか?全体的には、輸出入増=貿易のメリット享受していませんか?


<本当は>

 こんな、国と国で区切って、輸出入を量ることに、もう、あまり意味はありません。なぜなら、企業自体が、多国籍企業化しているからです。

 企業の中に国を抱え、企業内貿易をしているものが、「輸出入」にカウントされているからです。

  家具店「ニトリ」の家具、ユニクロの服、みな、日本で売れれば売れるほど、中国やマレーシアの「輸出」が増え、日本の「輸入」が増えます。

資生堂の化粧品が、日本国内で売れれば売れるほど、ベトナムの輸出が増え、日本の輸入が増えます。
 
 スーパーの缶詰、冷凍鳥串、作っているのは、海外に進出した日本メーカーです。でもブランドは「日本メーカー」です。

 日産マーチ、月に4000台ほど売れています。ですが、これはタイからの「輸入車」です。売れれば売れるほど、タイからの輸出が増え、日本の輸入が増えます。では誰が儲かっているのですか?

http://www2.uchida-auto.com/GAZOU/JPG/0039163601.jpg
マーチ



 そもそも、日産は、その株保有率からして、すでに外国企業です。日本にある、外国企業が、タイから、日本車のような外国車を輸入し、日本車として日本人に売っています。ですがマーチはすでに純外国車です。

石川城太『政府、過度な肩入れ避けよ』日本経済新聞H21.4.15
…日産はルノーの株式の15%を所有し、逆にルノーは日産の44.3%の株式を所有している。…ルノー出身のカルロス・ゴーン氏が両社の社長兼最高責任者(CEO)を兼務し、日産が保有するルノー株式には議決権がないため、日産はもはやフランスの企業といってもよい。



外国人の株保有率 出典 日経H23.8.19
2011年7月末現在

大東建託  59.4%
ヤマダ電機 55.9%
HOYA  52.5%
オリックス 51.8%
三井不動産 48.3%
DMM.com 46.7%
花王    46.5%
アステラス製薬 45.8%
スズキ自動車  44.7%
ソニー     43.2%
コマツ     43.0%
三菱地所    42.0%
キヤノン    41.7%
セコム     41.3%

 これらの企業は、すでに「外国企業」です。

 禿鷹ファンド、外資に乗っ取られてしまった、日本企業・・・。ヤマダ電機で買ってはダメです。スズキの軽自動車を買ってはいけません。三菱地所に都心の再開発をさせてはいけません。

 なぜなら、これらは「外資企業」、儲けるのは、奴らだからです?????????


 拙著 『高校生からのマクロ・ミクロ経済学』p204

「国際貿易」を扱う,国際収支表は,世界の資本の移動,モノ・サービスの移動を,国境で切って表示したものです。

古典的貿易であれば,次のような関係が成立していました。

古典的貿易

A国のc社 ⇔ B国のd社

 しかし,現代の貿易は,多国籍企業,資本の自由化による国際資本によって動いています。多国籍企業は,企業の中に国家(企業内国際分業)があるのです。

 アメリカの貿易赤字の25%は,多国籍企業内貿易によるものとも言われています。2003年,多国籍企業による輸出が,米国全体の輸出の6割,輸入の4割を占め,多国籍企業間輸出が同25%,輸入は同15%を占めています(福田邦夫 小林尚朗編『グローバリゼーションと国際貿易』大月書店 2006 p224)。

多国籍企業の売り上げは,すでに,一国のGDPを上回っています。

多国籍企業間 貿易

 このような,現状の中で, 「国境」と「国境」で区切られた,貿易だけに目を奪われるのは,大変危険です。


 ユニクロや、ニトリやIKEAが自社で輸出入して、タイや、中国やマレーシアが勝ったのですか?どこに?

浜島書店『最新 図説 政経』2011年度 P201

多国籍企業1

 AXAの「旧アクサ・ダイレクト」保険・・その商品を購入して、豊かになっているのは、日本人ですか?フランス人ですか?

とうほう『政治・経済資料』2012 P184

多国籍企業2



http://www.rieti.go.jp/users/tanaka-ayumu/serial/008.html
第8回「企業内貿易とは何か:企業理論と新貿易理論の統合」



日本の輸出入に占める、「企業内貿易」の数値です。

数字出典
滝田 洋一 『世界経済のオセロゲーム』 日経プレミアシリーズ 2011
内閣府

企業内輸出入.jpg

国際化は、国家を前提にした枠組みです。

グローバル化は、国家の垣根を無くすことです。
企業内貿易は、まさにそれを象徴しています。


トヨタや、ホンダが中国で販売を伸ばせば伸ばすほど、日本からの中国トヨタ子会社、中国ホンダ子会社への日本からの部品輸出も増えます。


 貿易に、「勝った・負けた」というのが、いかにあほらしいことかが分かりますか?

なぜGDP(国内総生産)が大切か、分かりますか? 

ヤマダ電機、日産、ソニー、AXA(現ネクスティア生命)保険に勤めている人は、ごっそり儲けを持ってゆく、外資の手先?

英国のジャガーも、スゥエーデンのボルボも、日本のラオックスも、すでに「中国」企業です。
スポンサーサイト



theme : マクロ経済学 ミクロ経済学
genre : 政治・経済

comment

Secret

カレンダー
プルダウン 降順 昇順 年別

08月 | 2023年09月 | 10月
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30


FC2カウンター
カテゴリ
記事を検索する
「国債」 「公債」 「食糧」 「貿易黒字」などで検索して下さい
プロフィール

菅原晃

Author:菅原晃
中高の教科書でわかる経済学 マクロ篇 発売です!

中高の教科書でわかる経済学 マクロ篇

中高の教科書でわかる経済学 ミクロ篇 発売です!

中高の教科書でわかる経済学 ミクロ篇


図解 使えるミクロ経済学 発売です!

図解 使えるミクロ経済学

図解 使えるマクロ経済学 発売です!

図解 使えるマクロ経済学


高校生からわかるマクロ・ミクロ経済学発売です!

高校生からわかるマクロ・ミクロ経済学


経済教育学会 
経済ネットワーク 会員
行政書士資格


注 コメントする方へ

このブログでは、個人的なご意見・ご感想(価値観 正しい・間違い、好き嫌い、善悪)は、千差万別で正誤判定できないことから、基本的に扱っておりません。
意見は書き込まないで下さい。こちらの見解(意見)を尋ねる質問も、ご遠慮願います。
経済学は学問ですので、事実を扱い、規範(価値観)は扱っていません。事実に基づく見解をお願いいたします。
カテゴリ『コメントに、意見は書かないで下さい』を参照願います。
なお、はじめてコメントする方はコメント欄ではなく「質問欄」からお願いいたします。

ご質問・ご意見(非公開でやりとりできます)
内容・アドレス表示されず、直接やりとりできます。

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク
最新記事
最新コメント
検索フォーム
月別アーカイブ