飢餓になんてなるわけがない

<実態>

 とにかく、正確な数値に基づくところ、「不安だ!(不安をあおる=否定的)」表記です。これが高校の社会科の資料集(必修教科の一つ)の実態です。

実教出版 2012 ニュースタンダード 資料現代社会

 下のグラフを見てみましょう。

食糧 人口 増加.jpg

1950→2005

     人口        約2.6倍

穀物(トウモロコシ・小麦・コメ) 約4.3倍

 完全に人口増加率<穀物生産増加率


です。

 ところが、「中国などの新興国で肉食が拡大すれば・・・穀物需要は逼迫する」と、実際には起こりえない(注:詳細は後述)、状況を想定します。

 資料集で、「マヤ文明2012年人類滅亡説」を扱うような話になっています。

P137
「地産地消」
 ではなぜいま、あらためて地産地消がいわれているのでしょうか。それはいまの日本の食と農に大きな問題があるからです。日本は今農業が衰弱して、外国産の食糧を大量に買っているのです。そのためこの国の食糧自給率は39%まで落ちてしまいました。これでは将来、とてもこの国はもちこたえられません。


 「持ちこたえられない」のであれば、具体的にどうすれば持ちこたえられるのか、数値を示す必要がありますが、この資料集には、記述はありません。


<飢餓にはならない>


 農業製品の関税率です。世界中で高いことが分かります。関税高い=入ってきてほしくない=余っていることです。

 清田構造 日経教室 日経H24.1.24
農産品 関税率.jpg

 余っているから、入ってこられたら困るのです。

 日本が、足りていない物資に「高関税」かけますか?レア・アースとか、鉄鉱石とか、石油とか・・。

 農産物は、世界中で余っているのです。余っているから、高関税=WTOでいつも農業がネックになっているということなのです。



 参考・引用文献

資源・食糧・エネルギーが変える世界
後藤 康浩 (著)


資源・食糧・エネルギーが変える世界

この本を紹介します。


p
大胆に言えば、資源危機、食糧危機は幻想にすぎない。本書で言いたかったのはこの点だが、皮肉なことに、危機論こそ増産を促す効果を持ち・・・


危機論が、誇張され、マーケットが動いてしまいます。

…原油や穀物等の市況を伝えるニュースには奇妙な解説が少なくない。例えば「中国の○月の新車販売が予想を上回る前年同月比20%増の100万台となったことで、中国の石油需要がさらに増えるとの見方から原油相場は急伸した」といった説明だ。
…単月の新車販売の伸びが予想より10万台多かったとしても世界の原油需要には蚊が刺した程の影響もないだろう。地球上では約10億台の自動車と約2億台の2輪車が走っているからだ。
…物品のマーケットでは経済指標の正確な影響評価よりもベクトルの方向性と伸び率のみが関心を集めるようになってしまった。


自動車台数


中国の1か月あたりの新車販売量20%増で100万台・・・見えますか?

この中国の年間販売量(11年1~11月)の1/16程度で、原油が急騰します。



 穀物でも同じようなケースがある2010年に中国がトウモロコシの輸入を拡大するというニュースがあり、トウモロコシ市況が高騰…中国の純輸入量は実際に156万トンに達した。
…だが、冷静に考えれば、世界のトウモロコシ生産量は8億1882万トンあり、156万トンの輸入は0.2%足らずに過ぎない。
…それでも状況を揺さぶってしまうのが21世紀の一次産品市場の特徴でもある。



トウモロコシ生産量

 見えますか?


(1)人口増<食料生産増

 大前提 地球に巨大隕石がぶつかったという非常事態の想定はナシです。

 まず、人口の伸びを上回って、穀物生産量は増大しています。食糧危機なんて、起こるわけがありません

P128

穀物生産 > 人口


 穀物は、通常、小麦、米、トウモロコシが3大穀物と呼ばれる。…1965年に世界の3大穀物の年間生産量は7億4425万トンで、当時の世界人口は33億3300万人だった。2010年の穀物生産量は推定で22億トンで、人口は68億9588万人となった。

…穀物生産量を人口で割った1人当たり穀物生産量で見ても65年の225.5キロに対し10年は319キログラムと40%も増えている。


人口 穀物生産量


 では、「食糧生活が豊かになると、米や小麦を直接食べるよりも、食肉生産に、穀物が回るから、足りなくなる」についてはどうでしょうか?

P131
中国 日本 穀物 肉 消費量


 中国の食肉消費量は、すでに日本を上回っています。もともと、「机以外の4本足は何でも食べる」という、種類豊富な食生活の国です。確かに今まで増え続けてはきました(今後も伸びることは見込まれる)が、まだまだ豊かになって、欧米人なみに食べるようになるのでしょうか?
 3人に1人が肥満であるアメリカ並みに、黄色人種の12億人の巨大肥満国・・・どうでしょうか?

 もう一つの巨大人口国12億人のインドは、宗教的戒律が厳しく、ヒンドゥーでは牛はだめで、イスラムではブタはだめです。かろうじて鳥は可ですが、カースト制度という社会身分制度があり、高カーストほど菜食になるので、国全体として、肉の消費量が上がることは考えられません。インドは、今世紀中に中国(1人子政策)を抜かして世界最大の人口国になります。

 コメやパンやトウモロコシ粉の、直接摂取する穀物は、世界平均で89年の1人当たり153.0キロが最高で、あとは減っています。07年には、146.7キログラムです。つまり、一人あたりの穀物摂取量はすでにピークアウトしているのです。

 あとは、食肉接種用の穀物です。1キロの食肉のために、牛は8キロ、ブタは5キロ、鳥は3キロの穀物が必要です。


 現在の摂取量を続けた場合、人口増を支えるのに、将来どれだけの穀物増産が必要になるのかということだ。

…穀物はヒトが直接摂取するだけでなく、食肉になる飼料や日常生活を支える工業材料、例えば飲料や塗料等に添加されるコーンスターチ等にも使われる。さらに輸送機器の燃料用のエタノールの原料にもなる。そうした需要も加えると直接摂取量の2倍の生産量が必要とみておくべきだ。すなわち、30年までに約4億トン、50年までに約6億7000万トンの増産が必要となる計算だ。


人口 穀物生産量 予測

 これが、必要とされる予測値です。では可能か?完璧に可能です。

①2010年までの穀物増産率に比べ、今後必要とされる穀物増加量はわずかです。しかも、耕作地はさらに拡大が可能で、一方、耕作放棄地はどんどん増えています。

世界耕地面積


②穀物は「余っている」のです。日本もそうですね。余っているから、減反して、無理やり「コメ」生産量を減らしていますね。


耕地面積推移.jpg



 小麦だって、トウモロコシだって、過剰生産なのです。だから、「食べない」で、補助金つけて「バイオ燃料」に回しているのです。

(2)バイオ燃料の実態


 これも、「全体像を見ないで、局所論だけ見る」から、「バイオ燃料で食糧危機になる」などとトンでも論が出てきます。

 経済協力開発機構 OECD の調べでは2010年の世界のバイオエタノールの生産量は9942万3千キロリットルで、石油で使用する「日量バレル」に換算すると日量171万3千バレルとなり、世界の石油生産量(10年)の8209万5千バレルの約2.1%になる。

同じく10年のバイオディーゼル油の生産量は1982万6千キロリットルで日量34万1千バレルとなり、石油との比較では0.4%に当たる。バイオ燃料は今日的にみれば、すでに石油の2.5%に相当するところまで生産が増えてきている。

…産油国でいえば、ノルウェーに相当し、クウェート、イラクよりやや小さい規模といえる。


バイオ生産量 日量


 どのくらいの量のエタノールを農産物から生産できるのか。1トンのトウモロコシからは約400リットル、サトウキビからは60リットル、コメからは300リットル強が生産できる。…割り算をすれば1表から約18リットルのエタノールが生産できる計算だ。


エタノール生産効率


 日本人の平均の年間コメ摂取量は59キロといわれる。これから考えれば、日本人が1年間食べる量のコメでは17.6リットルのエタノールしか取れず、もしそれだけで一般の小型セダンのガソリン車を走らせれば200キロ走れるかどうかといったものだ。

米一俵 消費量

…人間が食べれば1年間の消費量になるものがバイオ燃料に転換してしまうと、高速道路で2時間半走れば終わる。多くの人にとって食べるときのコメの価値に比べ、エタノール燃料にする時の価値が著しく低いように感じざるを得ないだろう。
 


 なんで、こんなに効率の悪いエタノールを作るのでしょう?人間が食べたり、家畜の飼料に与えたりする方が、ずっと効率がいいのに・・・。



 米欧におけるバイオ燃料導入の最大の目的は余剰農産物処理という農業問題になる。

 それでもなおバイオ燃料が増えるのは先進国における農産物の余剰と言う深刻な問題があるからだ。米国と EU はともに余剰農産物の処理がバイオ燃料生産の最大の動機となっている。

 米国は世界のエタノールのほぼ半分を生産しており、その原料のほとんどはトウモロコシである。10年には1億1200万トンのトウモロコシをエタノール生産に利用した。これは米国のトウモロコシ生産量全体のおよそ3分の1、世界の生産量の13%にも当たる量だ。


米 エタノール用トウモロコシ生産

 このエタノールは米国の石油需要の4.3%に当たり、代替制のあるガソリンの需要と比べれば約9%分に匹敵する。

米国 エタノール 比率


 欧州ではバイオディーゼル油向けに10年には1680万トンの菜種・ひまわり等の油糧種子を消費したが、これは油糧種子全体の7割近くの量にもなる。

バイオディーゼル生産国


 米 EU ともに穀物や油糧種子は大幅な余剰となっており、70年代から補助金をつけてアフリカはじめ途上国向け等に輸出して処分していた。これが80年代に燃えさかった米国対 EU の「小麦戦争」にも繋がった。

先進各国の政権は農民票獲得を狙って巨額の農業補助金を支出しており、それが農民へのインセンティブとなって増産が進んだ。だが、余剰農産物の補助金付きによる安値輸出は米、 EU のような先進国間の通商紛争を引き起こしただけでなく、アフリカ、カリブ諸国等農業基盤の弱い国の零細農民に打撃を与え、途上国が食糧自給が困難になるという現象を産んだ。

…米国とEUの農業は、零細で灌漑施設などもないアフリカの農業よりもはるかに競争力が強いのである。



結果的に、米 、EU は途上国への輸出以外の余剰農産物対策を必要とするようになった。それがバイオ燃料への転換策なのである。バイオ燃料生産は新たな需要創出だったのだ。従って、当初からバイオ燃料には多額の補助金が付けられていた。


 要するに、穀物生産は余剰だから、「効率悪い」のに、わざわざ補助金つけて、バイオ燃料にしているのです。

 こうやって始まったバイオ燃料ですが、本家の「石油燃料」が高くなり、ますます、バイオ用穀物・油糧種子は生産を増大させていきます。
 

トウモロコシ農民にとっても一つの大きいのは、石油価格の上昇だ。バイオ燃料は当初、価格競争力のない燃料で補助金で販売を広げるしかなかった

だが、2003年あたりからの原油価格の急上昇で、ガソリン価格が高騰、ガソリン代替のバイオエタノール生産の採算性は急激に改善した。

結果として米国のエタノール生産は03年から10年の間に約4倍に増加トウモロコシの収穫量も03年以降毎年ほぼ着実に増え、03年から10年までに8千万トン前後も収穫量が拡大、率にして30%以上の増産となった。農民は、作付で小麦や大豆からもうかるトウモロコシにシフトしたのだ。



http://lin.alic.go.jp/alic/month/domefore/2011/jun/wrepo02.htm
図1 トウモロコシの用途別需要の推移


トウモロコシの用途別需要の推移

http://nocs.myvnc.com/study/geo/corn.htm

世界のトウモロコシ作付面積と生産量


<日本のコメ>


 冷静に考えれば、日本ですら米の大増産は可能である。日本は最盛期の1967年には1878万トンのコメを生産していたが、内需の減少に対応して転換が進み、2010年には1059万トンまで減少している。しかしその気になれば、500万トン以上の増産は可能なはずで、その増産分をエタノール生産に回せば、国内のガソリン需要の3%前後のエタノールを生産できる計算になる。経済性は薄いものの、米生産コメ農家を守るための補助金をバイオエタノール生産に活用する点もあるはずだ。


参考文献 グラフも
http://www.maff.go.jp/soshiki/kambou/kikaku/chousakai/nougyoubukai/5kaisiryou/5thAgri1-2.html
米 需給 推移.jpg


 米の需要のピークは、昭和37年度に一人118キログラムでした。それが平成7年度に67.8キログラムになりました。

 http://www.maff.go.jp/soshiki/kambou/kikaku/chousakai/nougyoubukai/5kaisiryou/5thAgri1-2.html
参考文献 農林水産省『米の生産調整を確実に実施しましょう!』グラフも

米 一人当たり消費量 推移.jpg


 2006年(平成16年)には、さらに下がり、1人あたり61キログラムになりました。ピーク時の半分です。
 今後は、人口減、そして少子高齢化です。高齢者の割合が高くなり、「高齢者はコメをそんなに食べないだろう」と予測できます。今後、ますますコメの消費量は減る一方だと予測されています。

米 消費量 予測.jpg

 何が輸入できなくなったら、食料危機なのでしょうか?コメは今でもあまってますから、大丈夫ですね。小麦でしょうか?

小麦量



 このグラフを縦に大きくしたのは、日本の食用に必要な小麦量が、世界生産量に比較するとあまりに小さすぎて、グラフに示せなかったからです。

 日本の全輸入小麦量529万トンは、世界の生産量のわずか0.8%です。世界生産量がどれだけ激減したら、日本の小麦「食料危機」が起きるのか、逆に想像がつきません。

あの、どうすれば、日本が食糧危機に陥るのか、だれか本当に証明してください。

<TPPで、比較劣位産業は失業する>

 さて、TPP論で、こんなことが言われました。「比較劣位産業従事者は失業する。農業は壊滅する。弱者切り捨て論だ。」

 農業、平均年齢は65歳超えています。

全国200万戸の農家


      
 見てわかるように、上位7%の農家で、生産額の6割を算出しています。さらに、専業農家は15%にしか過ぎません。残りの8割は、「兼業農家=疑似農家」です。農業を生業(なりわい)としていない人たちです。これも、農水省は「農業者」としてカウントします。

 特に、売り上げ100万以下の農家とは、他に仕事を持っている、「大規模家庭菜園層」のことです。趣味的農家です。退職したサラリーマンや公務員などの年金生活者のことです。

農業従事者 高齢 65歳以上

65歳以上の農業者の内訳グラフです。

 ③の層は、年金や、子供の仕送りでやっている人たちや、高齢の両親が、息子の農業を手伝っているパターンです。統計上、65歳以上の農業者として登録されています。
 「農家の高齢化」とは、プロの専業農家が高齢化したのではなく、「統計上」の高齢化です。

 さて、上のグラフの色つきの人たち=すでに66歳以上の高齢者は、TPPでどうなるのでしょうか?

 TPPは今話合い中で、発効するのには、少なくとも2年かかります。10~15年間で完全自由化を達成するのが目標なので、仮に農業関税を「ゼロ」にしても、その完成は、早くとも2024年になります。

 今の66歳以上の農業従事者(農家の6割)は、12~17年後に78~83歳以上になっています。さて、この「比較劣位者=社会的弱者」の転職をどうしたらよいでしょうか?
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comment

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No title

岩手や北海道にいれば当たり前のことなんですが、大都市部に住んでらっしゃる方は(仕事で食い物と関わっていれば別でしょうが)食料生産の現実を知ることはなかなかないのでしょうねぇ。

しばしば、三ちゃん農業、二ちゃん農業と言いますが、農業は知識集約型、技術集約型の産業ですから経験を積み丁寧な仕事をする年寄りの方が向いている。と言うか、年寄りだけで出来てしまう産業なんですよね。
若い人を参入させようとしても農業は数としての雇用を吸収できない。とっくの昔に労働集約型の産業じゃない。

近い将来、農業は先端産業に必要な希少資源の生産をはじめます。国内の比較優位は大きく変動することになるでしょう。

No title

たえず食糧危機を煽っておかないと、市場が正しく働けば食糧はいつ大暴落してもおかしくないと言うことですね。

No title

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