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「円高で輸出減」は単なる神話

<追記 追記2>もご覧ください

 あの、この記事をアップしたのは、

円高になる(1ドル=100円→80円:25%上昇)

輸出企業には打撃
(200万円の車=2万ドル→2万5000ドルに)

値上がりで売れなくなる

輸出減になる



 こんなことが、大真面目に日本の高校の教室で教えられているから、「こんな単純なことが、あるわけない!」という話です。
 経済学出身の社会科教員なんて、5%もいません。その5%だって、「なんちゃって経済学」を含んだ数値ですから、あてになりません。

 経済学なんて超マイナーなのです。(私だって、歴史学や地理学知らないのに、世界史も地理も教えています。だから、教科書や資料集に「正確に記述」することが、絶対に必要なのです。専門外の先生でも、正確に教えられる知識と情報が・・・)

 でも、教科書も、資料集も、マスコミも「トンデモ経済論」載せているから、「それはおかしいよ」と言っているのです。

 

山川出版社 『詳説政治・経済』2009.3.1 p150
 
日本の輸出が増え、経常収支の黒字が続き…日本の通貨「円」に対する信頼が高まり、為替相場は円高・ドル安になる。しかし、円高になれば、外国でドルを使用して購入する日本製品のドル建て価格は高くなり、日本の輸出品への需要は減少する。さらに円高はドル建てで購入する輸入品の価格を安くし、輸入量を増やす結果を招き、外貨が多く流出する。その結果、貿易収支の黒字幅は縮小する。その反対に円安・ドル高になれば、輸出が好調になり輸入が減少し、貿易収支は黒字に向かう。



こんな記述が載ってるんですよ。語句をぬいてテスト作って・・・「輸出増=円高ドル安」って覚える生徒が大人になるんですよ。

 だいたい、輸出額のデータ(グラフ)も、為替のグラフも同じページに載っていません。輸出額や、貿易黒字額が、GDPにおいて、どのくらいの値なのかも、先生は「知らない」で教えているのです。

 そう教えられて育った大人が、「円高で輸出減」と考えるから、日経でさえ「問題だ問題だ」と紙面に乗せ続けるのです。

「円高で輸出が減る」「輸出が減ったのは円高だから」・・・こんな単純ことがあるわけがないでしょう


 大体、自国通貨が増価して、「ほろんだ国」や、「斜陽化した国」なんかあるわけありません。長期では国力を反映します。

 しかし、日本中の教室で、「円高だ、まずい!」「輸出が減る」「円高で倒産する」「円高で空洞化」って教えられているのです。

 経済学を知っている人から見たら「非常識」がまかり通っているのが、高校の「政経」「現社」もっとひどいのが「中学公民」です。

 だから、そんな生徒が大人になって、「貿易黒字は黒字だからもうけ」「貿易赤字は損」と、日本の95%の人が信じ、日経や週刊誌「エコノミスト」でさえ、「トンデモ記事」載せているでしょう?
一般週刊誌の「日本経済崩壊論」なんて、その95%の非常識を、ただ加速し、補強しているだけです。

 あの、基本的に、このブログは、経済を知っている人たちを相手にした記事ではありませんので・・・カテゴリ「教科書の間違い」「資料集の間違い」レベルを何とかしなければ・・・という記事内容です。


<「円高で輸出減」は単なる神話>

 思いたいのはやまやまですが・・・実際にそんなことは全然ありません

 東学 資料政経 2011 p382
円高・円安 輸出 輸入 東学 資料政経 2011 p382.jpg


 清水書院『高等学校 新政治・経済 改訂版 H21年』 p148

 円高になると,これまでと同じ円で,より多くのドルと交換できるようになる。そのため,外国からの安い輸入品によって物価が下落したり,安く海外旅行ができるなど,国民生活が豊かになる。

 一方,海外への輸出品は,以前の価格より高くなるために,輸出企業は打撃を受けることになる。

 このように通貨の変動は,国民生活や経済全体にプラスとマイナスの影響を同時に与えることになる。


 教科書では、こう書かれ、 「円高は輸出企業に打撃」となっています。別に高校教科書だけではなく、大学の「国際経済学」の教科書にも、為替レートは必ず扱われています。


円高になる(1ドル=100円→80円:25%上昇)

輸出企業には打撃
(200万円の車=2万ドル→2万5000ドルに)

値上がりで売れなくなる

輸出減になる


でも、これは完全に神話です。実際には「ウソ」です。

為替相場(名目) 輸出額.jpg

実質実効為替レートは、数値が高くなると円高を示します。
実質実効為替レート 輸出額.jpg


①実質為替レート

 1ドル=100円が、1ドル=50円になったとします。円高です。ですが、アメリカがインフレになって、ハンバーガー1個1ドルだったものが、2ドル(2倍)になったら、円レートが2倍になっても、実質的にはまったく変わっていません。
 インフレ率を除いたものを、実質為替レートといいます。



②購買力平価

 ビックマック指数などが代表的です。
アメリカでビックマックが2ドル、日本で200円なら、1ドル=100円の購買力平価ということになります。
理論的に全く貿易障壁のない世界を想定すると、そこでは国が異なっても、同じ製品の価格は一つであるという「一物一価の法則」が成り立ちます。この法則が成り立つ時の二国間の為替相場を購買力平価と言います。

 
数字出典

輸出入  内閣府 国民経済計算
為替レート(名目 実質)  日銀
購買力平価  国際通貨研究所


名目 実質 為替レート .jpg


<検証>

(1)
円高で、輸入は伸びる



 まず、「神話」説信奉者が、泣いて喜ぶデータです。1980年→2006年

「円高→輸入物価下落→輸入額増」

 こう思いますよね。実際にその通りです。

為替  購買力平価 輸入.jpg


 きれいに、「円高=輸入増」になっていますね。

為替 名目 輸入 .jpg

為替  実質 輸入.jpg

 ちょっと苦しいですが、名目でも、実質でも、「円高=輸入増」にはなっていますね。

(2)
 円高で、輸出減になるはず



 では、為替と、輸出を見てみましょう。

為替 購買力平価 輸出 .jpg

 あれ?円高で輸出増!になっているではないですか!!!!


為替 実質 輸出 .jpg

 実質為替レートでも、「円高だから、輸出減」とは言えないですね。


為替 名目 輸出 .jpg

 名目値でも、確実に「円高=輸出増」です!!!

「円高は輸出企業に打撃」が、神話なのが分かりますか?信じられない?でも、データでは、どう扱っても、「神話」を証明しています。


<ミクロで見る、円高=輸出減の神話>


 では、ミクロで、「自動車業界」を見てみましょう。

 ご存知のように、輸出産業界なんて、完全に「円高=悪」論一色です。


 日経H2312.23 カルロス・ゴーン 『新たなゲームの幕開け』

-円高による日本メーカーの競争力低下が心配されますが-
 「今の円高は異常だと何度も言ってきた。日本政府は自国の競争力を守るために、意志と行動力を見せてほしい。スイスは政府が『これ以上の通貨高は容認しない』と表明することで、結果を出している。同じことがなぜ日本にできないのか」


 でも、これはポジショントーク(その立場を代表して言っている意見表明)です。実際には、輸出は伸びているのです。


http://www.jiji.com/jc/v?p=ve_eco_car-make-export-japan

自動車生産 輸出 03年 11年.jpg


 2003年→2008年、輸出は増えていますね。

 その間のレートです。名目は若干円高方向(ほとんど変化なし)、実質は「円高」です。

為替レート 03年 08年.jpg


 クルマは、「円高(あるいはレートは変わらず)なのに、輸出は伸びている」のです。

 もう少し、長期で見てみましょう。


http://www.meti.go.jp/statistics/toppage/report/bunseki/pdf/h18/h4a0609j5.pdf#search='車 輸出 推移'

自動車 輸出.jpg

平成10年(1998年)から、平成18年(2006年)の、自動車輸出推移です。確実に伸びていることが分かりますね。

為替レート 98年 06年.jpg

この間の為替レートです。名目も、実質も、確実に円高方向に振れてますね。


 「円高なのに、輸出は伸びている」のが事実なのです。

 「円高は輸出企業に打撃」は神話なのです。


<理由>

 簡単です。

「円高=輸出減」は、ゼロ・サムを前提にしています。つまり、数値が一定の場合に、「円高なので、輸出は減るはずだ」と考えてしまいます。

 これは、「日本企業の、シェア(市場占有率)が落ちた」という考え方と同じです。

日経H22.10.30
シェア.jpg

日経H22.10.10『内向き競争 世界は先へ』表も

…かつて日本の半導体産業にもビッグスリーが存在した。NEC、東芝、日立製作所の総合電機3社だ。1990年の半導体メーカーの売上高ランキングをみると、首位はNEC、2位が東芝、日立も…4位だった。
…2009年のランキングにはNECの名前がない。東芝は3位に踏みとどまったものの、首位の米インテル、2位の韓国サムスン電子との差が大きい。


半導体シェア.jpg

 「シェア減った、シェア減った」→大変だ!!「日本企業の地盤沈下だ!!」って勘違いします。

 シェアは減ったかもしれませんが、業界自体が伸びているので、日本企業の絶対売り上げ額自体は、微減、もしくは伸びてはいるのです。

半導体.jpg
液晶.jpg

 「円高=輸出減」「円高は輸出企業に打撃」は、このシェアの考え方を、前提においているので、間違っているのです。

 GDPが伸びていたら、円高でも、輸出の絶対額は伸びます。


 長期 1980年→2009年

輸出 輸入 名目GDP 80年 09年.jpg



 20年 1991年→2009年

輸出 輸入 名目GDP 実質GDP 91年 09年.jpg


 要するに、風呂が大きくなれば、中の「ラドン」の量だって、増えるのです。

GDP増 輸出増 イメージ



<追記>

 以下のコメントをいただきました。

ラグや同時性など色々問題がありますが、何よりも問題なのは、教科書にあるような内容、「円高で輸出減」ということをを検証したいのであれば、為替レートと輸出額をプロットするのではなく、為替レートの変化率と輸出額の変化率をプロットする必要があります。I(1)変数を直接プロットしたものをいくら眺めたところで、「円高で輸出減」が正しいか間違っているかは判断できません。「円高だった時期に輸出が少なかった」ということと「円高は輸出を減らす」ということとは、別の事柄です。

 早速グラフを作ってみます。

データ
日銀 為替は年平均を使います。
輸出額は、内閣府

為替は、100円→80円になった場合、円高率80%となります。X軸グラフは左側に行くほど、「対前年比で円高」です。

輸出額は、単純に対前年比伸び率です。

(1)名目為替レートの場合

為替率 輸出率 プロット1


 なるほど、「円高率が高くなるほど、輸出額率は低下する」ですかね?でも、相関ありますか?
下に2つぽつんと離れた値は、1985年のプラザ合意で、85年1ドル=238円が、86年168円になった時です。円高率70%です。これ、例年とは乖離した「異常値」ですよね。
 
 もう一つは、08年103円→09年93円で、円高率90%です。
要するに、世界的不況リーマンショックで輸出激減時です。これも例年とかい離した「異常値」ですよね。

 で、この2つの異常値を除いた値で、グラフを作成すると、

為替率 輸出率 プロット2

 ウーン、円高率が高くなると、輸出額伸び率が低くなる・・・言えますか?


(2)実質実効為替レート


 さて、では、もう一つの為替の値「実質実効為替レート」を使います。

「実質実効為替レート」について、日銀は次のように説明しています。

対外競争力を測るうえでは、単に名目為替レートの動きだけではなく、各国の製品価格の変動を考慮に入れた実質為替レートを用いる方が望ましい。また、グローバル市場全体での競争関係をみるためには、単一通貨だけではなく、複数通貨の動きをおさえた実効為替レートを用いる必要がある。 

 ではこの「実質実効為替レート」について、輸出額伸び率のグラフを作ってみます。

同じく、86年と09年はのぞいてあります。

実質実効為替レート 輸出増減率 プロット2

 相関ありますか?因果は証明できますか?

「円高になると、輸出が減る」は、神話です。


追記 その2


 円高なのに、輸出額増の事例です。

実質実効為替レートは、数値が高くなると「円高」です。円高なのに、輸出額は伸びています。

円高 輸出増 元

円高 輸出増2



 「これじゃ比較にならない、増減率で見ろ!」というので、増減率で、プラスの場合です。


 名目の円と、輸出額前年比です。名目なので、数値が低くなると(%左側)、円高になっていることになります。

円高 輸出増3

 「前年より円高になっているのに、輸出額も前年比プラス」です。

円高 輸出増4

 こちらも同じです。「前年比円高になっているのに、輸出額も前年比増」です。




 実質実効為替レート前年比(数値が高いほうが円高)と、輸出対前年比です。

円高 輸出増2

 これも「前年比円高になっているのに、輸出額も前年比増」です。



 もう十分でしょう。 「円高になったら、輸出減」ではないのです。

 なぜか?

 コメントしているYASUさんが回答しています。


93→94→95
02→03→04
は、明らかに円高(実数・増加率・実効為替)なのに、輸出が増えているのはなぜですか?


 に対し、

為替という一つの変数で輸出の全てを説明出来ないから。
えっと、本気で言ってるのですか?他の変数(たとえば輸出相手国景気、あるいは自国の内需など)の影響によって円高時に輸出が増える年があるということと、円高が輸出を減少させるということは両立します。




 本気も本気です。ほかの変数があるのに、「円高で輸出減」とか、「海外への輸出品は,以前の価格より高くなるために,輸出企業は打撃を受けることになる」とか、ステレオタイプである、単純な、「円高→輸出減、輸出が減って、輸出企業に打撃」が間違いだということを言っているのです。

 「円高だから、輸出減」ではないし、「輸出減によって輸出企業は打撃を受ける」などという、因果は存在しません。

 皆さんの頭の中にあるのは、単純な、「円高→輸出減、輸出が減って、輸出企業に打撃」論です。ゴーンさんが言っているのもそういう意味での認識です。

 ですから、「違いますよ」と言っているのです。



<2011年>


(1)澤穂希 

「苦しいときは私の背中を見なさい」


(2)秋元康 


この変わり果た 大地の空白に言葉を失って立ち尽くしていた
何から先に手をつければいい?
絶望の中に光を探そう

どこかに神がいるなら
もう一度新しい世界をこの地に拓かせてくれ


それでも未来へ風は吹いている頬に感じる生命の息吹
それでも私は強く生きていく
さあ たったひとつ レンガを積むことから始めようか?


記憶の傷口は瘡蓋になって痛みの中にやさしさを生むんだ
誰から先に抱きしめればいい?
ぬくもりの中で夢を語ろう

溢れた涙の分だけ何かを背負わせてほしいよ
傍観者にはならない


それでも未来へ愛は続いてる 人と人が求め合っている
それでも私は一歩 歩き出す
そこに忘れられた希望を拾って始めようか?




(3)コマーシャル企画



①「時の流れのように 美空ひばり歌 秋元康 作」
② もしくは、その年の代表曲

時 
12月31日、最後の3分間or1分間

映像
①1年間に日本で起こった出来事
6秒×10本を3分ぶん
3秒×20本=1分でも

②世界の出来事でも可

提供
SEIKO・CITIZEN・CASIOほか時計メーカー
朝日・読売・日経・共同通信ほか
民放各社


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theme : 間違いだらけの経済教育
genre : 学校・教育

comment

Secret

No title

今年はお世話になりました。来年もよろしくお願いします。

ところで為替が1円、円高に振れると利益が○億円消えるという報道とよく見ます。
「円高は輸出に打撃」は神話でも「円高は輸出企業に打撃」は実話では?
それともこれも短期の話で長期的には「輸出企業に打撃」は神話と言うことでしょうか

No title

企業の倒産は、一定件数で必ず存在します。

円高で倒産は、倒産企業の1%ほどです。

「輸出企業」ではなく、下請け企業が、受注がなくなって倒産するようです。

自身が「輸出企業」で、「円高によって倒産」は、倒産件数の0.1%もありません。 実数では11月に1件です。

No title

追記

2008年以降の円高は、カテゴリ「 円高 ドル安 為替相場 」で説明したように、各国中央銀行がベースマネーを拡大させているのに、一人日本だけが金融緩和を行っていないことによるもので、「人為的」です。

 日本の輸出が現状維持(減ってはいない)のに対し、韓国やUSAは、通貨安を使って、輸出を拡大させました。

 一人勝手に足踏みしている選手と、加速してゴールテープに向かっている選手が100メートル競争をしているようなものです。

No title

ラグや同時性など色々問題がありますが、何よりも問題なのは、教科書にあるような内容、「円高で輸出減」ということをを検証したいのであれば、為替レートと輸出額をプロットするのではなく、為替レートの変化率と輸出額の変化率をプロットする必要があります。I(1)変数を直接プロットしたものをいくら眺めたところで、「円高で輸出減」が正しいか間違っているかは判断できません。「円高だった時期に輸出が少なかった」ということと「円高は輸出を減らす」ということとは、別の事柄です。

No title

とりわけ、各国中央銀行がベースマネーを拡大させているのに一人日本だけが金融緩和を行っていないことによる「人為的」な円高によって、それを行なっていない場合よりも輸出が減少しているのだろうか、ということを考える時には、上記のようなプロットから判断すれば誤りということになります。

No title

「為替レートの変化率と輸出額の変化率」グラフを追記しました。

No title

アメリカが2倍インフレになってもアメリカ人の給料は当面そのままでしょう。
その一方で2倍円高になれば日本人の給料はドル建てで2倍になりますよね。
そうすると企業が日本人を雇用しつづけるのは難しくなりますね。
サービス残業とかいって皆がんばっているので輸出にそのまま影響が出たりはしませんが。

No title

なお、購買力平価を含め実質化を行うとき、輸出企業の競争条件にどのような影響を与えるかを考える場合には、デフレータにCPIを用いることは不適切となります。企業の競争環境・コスト(大きいのは賃金など)に直結するものをデフレータとして用いる必要があります。もっとも、名目レートの予測が企業の販売計画に影響を与える一方で、名目レートにその企業の販売計画・予測が織り込まれることを考えれば、実質化が必要か自体も考慮する必要があります。

No title

No title

添付したファイルの、「データ」シートのN列をC列に入れ替えてやると、実質実効為替レートでの場合になります。すると、ドル円の場合と比べて「階差」シートの回帰直線の傾きが反対になります。これは結局、ドル円を使おうが実質実効為替レートを使おうが、円高が輸出減少圧力として働くことを表しています。

No title

あと、購買力平価のやつですが、現実のレートと購買力平価との乖離というようにしていますか?てっきりそのようなものだと思って流し読みしてたのですが、データを集めたついでによく見てみると、どうも購買力平価そのものを基にプロットしていませんか?だとすれば、明らかに誤りです。

たとえば、購買力平価がずっと実現しているとすれば、輸出入に影響を与えないはず、ということなどを考えれば、購買力平価そのものではなく現実のレートと購買力平価との乖離を指標としなければならないことがわかると思います。

なお、現実のレートと購買力平価との乖離を基にした場合でも、購買力平価よりも円高度合いが高まれば、輸出減少圧力として働く、という結果になります。

No title

 理論的には、いろいろあるのでしょぅし、「円高は輸出減少圧力」もそうでしょう。

 で、結局「円高で輸出減」という実証があるのですか?1年や2年の短期(リーマン・ショック後、1985年のプラザ合意後)をのぞいて。

 実証ぬきに、理論をこねくり回しても、昔のマルクス主義者のような、「現実が間違っている」という暴論にすぎませんが。

No title

・・ということは、大概の国も自国通貨高は特に輸出減少にはならない、産業の空洞化の心配はないって事なんでしょうか?

No title

さあ、どうなんでしょうねえ。

 ドイツの場合は、2001(2)年のユーロ発行後、リーマン・ショックまで(その後の回復期もですが・・)あれだけユーロ高(1ユーロ=169円・・・今は99円)になったのに、恐ろしいほど、輸出伸ばし続けましたからねえ。

No title

http://twitpic.com/82mdft/full
http://twitpic.com/82mdk1/full
http://twl.sh/vhrtmb

グラフは作り方次第でいくらでも印象が変わりますが、たとえば積率相関係数の有意性をチェックして見てみると、

1980-2010のデータでは相関係数が0.57、無相関帰無仮説に対するt値3.63
1980-2008のデータでは相関係数が0.64、無相関帰無仮説に対するt値4.24

輸出のような様々な要因に左右されるものにおいて、単一の指標の動きにこれだけの説明力があるのはすごいことです。相関はありますか?と言われれば、あると言っていいでしょう。


なお、実質実効為替レートは(理論的には簡単ですが)実際に算出されたものは、デフレータや通貨ウェイトなどを、使用目的に合ったものであるかを考慮しなければならないという難しさがあります。為参考 http://blogos.com/article/16407/

No title

yasuさんありがとうございます。

ただ1点です。

「円高で輸出減」という実証があるのですか?

以上です。

No title

アメリカの実質GDPを輸出相手国景気の代理変数として使用すると、

EXP = -0.75*ΔFX + 2.49*ΔUS - 0.64*(EXP_1 + 5.73 + 0.80*FX_1 - 0.96*US_1)
(-5.47) (3.99) (-3.95) (3.94) (-4.33) (-0.50)
adj_R2=0.71

このような感じとなります。実質実効為替が10%円高になれば、輸出は7~8%減少してしまう、という形です。少なくともこれらのデータからは、「円高で輸出減」を否定することは出来ず、単なる神話であるとは全く言えません。

・データ
1980~2010のデータを基に算出。
EXP:輸出(対数、階差)
ΔFX:実質実効為替レートの階差(対数、階差)
ΔUS:アメリカ実質GDPの階差(対数、階差)
EXP_1:前期の輸出(対数、階差)
FX_1:前期の実質実効為替レート(対数、階差)
US_1:前期のアメリカ実質GDP(対数、階差)

No title

>ただ1点です。

>「円高で輸出減」という実証があるのですか?

>以上です。


これはどこかが発表したペーパーがあるということですか?古くから輸出関数として実証分析がなされていますが、もちろん最近ではそれだけでは研究になりませんので、何かの研究の一部という形になります。

たとえば、比較的新しい数字まで使ったものとしてQ-JEM
http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/wps_2009/data/wp09j06.pdf
の中の輸出関数(P48~)などを見ても、長期・短期を問わず円高は輸出を減少させる、という推計結果が示されています。

「円高で輸出減」という実証があるのですか?という質問の答えは、「ある」です。「円高で輸出減」は単なる神話でも何でもありません。
(理論的にもたとえばマサチューセッツアベニューモデルその他、通貨高が輸出を減らすというものは多く、また実証的にも数多の輸出関数の推計において通貨高は有意に輸出を減らすということが示されています。)

No title

「長期・短期を問わず円高は輸出を減少させる、という推計結果」
「実質実効為替が10%円高になれば、輸出は7~8%減少してしまう、という形です」

推計や、予測は結構です。

「円高で輸出減」が成立するなら、「円高なのに輸出増」があれば成立しません。

円高→輸出減なのですか?


92→93
97→98→99

の輸出減は、「円高」だからですか?


93→94→95
02→03→04

は、明らかに円高(実数・増加率・実効為替)なのに、輸出が増えているのはなぜですか?

No title

つまるところ、追記(1)(2)のグラフでの相関関数(Rでしたっけ)は幾つぐらいなんでしょうか。
パッと見ではグラフは線というより塊に見えるのですが、数値に表していただければ幸いです。

No title

追記

(1)グラフ 下の名目が、r=0.33(r2乗が0.11)

(2)グラフ r=0.43(r2乗が0.1872)

です。

No title

いつも勉強させてもらってます。
横からすみません。
大変興味深い議論でしたので・・・

簡単にまとめるとこういうことですか?

円高で輸出減について


yasuさま 

 他の変数がある。(輸出相手国景気、あるいは自国の内需など)それらを除けば(あるいは一定と仮定すれば)「円高で輸出減」は言える。


菅原さま  

 他の変数がある。それらの影響は大きいし、実際、円高でも輸出を伸ばしている。にもかかわらず「円高で輸出減」というのは間違いだ。




間違ってたらすみません

No title

>他の変数がある。(輸出相手国景気、あるいは自国の内需など)それらを除けば(あるいは一定と仮定すれば)「円高で輸出減」は言える。


 もしも、このようにまとめているのだとすれば、その「仮定」なるものは、現実社会には存在できない(変数は常に動き続ける)ので、机上の空論です。



 いろいろな影響をすべて取り除いて、「円高は輸出押し下げ効果」があるのは、その通りです。内閣府の白書(何年前だったか忘れましたが)にもそのようにまとめられています。

 ですが、その変数が常に動くので、実際の「数値」では「円高だから輸出額減少」は、そう「言えない」のです。

 むしろ、「円高→純輸出や、(純輸出/GDP比)に影響を及ぼす」ことは、知られています。

 事実(実証)を説明するのが理論なので、「理論ではこうだが実証は違う」のは、勘弁してほしいところです。

 一番正確なのは、「事実・実証」です。それをできるだけシンプルに取り扱って、できるだけシンプルに解説すると、「単純だけど、本質からは離れない」説明になります。

 変数や仮定を取り入れれば取り入れるほど、「純粋」にはなりますが、枝葉末節になります。科学とはそういうものです。

 今の経済学は後者で、最先端になればなるほど、先鋭化しています。「木を見て森を見ず」です。

 ユーロ危機を一言で。・・・ギリシャ(ドラクマ)はそれまでは高金利でしか借りられなかったが、ユーロ加盟で低金利で借りられるようになった。独・仏・英は安い金利で、南欧の資源(土地・モノ・ヒトを求めて)に投資しまくった(南欧は借りまくった)。カネの貸し借り=貿易黒字(赤字)だから、ドイツ実物経済も儲けまくった。リーマン・ショック以後、金利が元に戻り始めた。 ギリシャは実態的には「高金利国」だったことに周りが気づいた(思い出した)。

 短いけれど、最もシンプルで、本質を外していません。


 また、国際通貨はドル・ユーロ・円しかありません。円が暴騰したら、ドル・ユーロ暴落です。3つしかないのに、それのうち、2つの通貨が暴落し続け、円だけが暴騰し続ける(長期で)・・・こんなこと、実際にはあり得ませんよね。(ユーロやドル供給拡大を続け、日銀だけがかたくなに拡大させなかったら・・・あり得ますが)

 通貨でなくて「ゴールド」や「モノ」で払え!ってなったら、それは、「世界大恐慌」以上の不況状態が訪れるっていうことですね。

 巷に流れる「崩壊説」がトンデモだとわかると思います。

 本質を外さない・・・野球で下手投げだろうが上手投げだろうが、必ずその通りになっているフォームがあります。

 ボールを離す直前に、左肩→右肩→爪先まで、正面から見て「一直線」になっているか否かです。(当然に、胸は張る形になっています)

 これができていないのなら、エネルギーを「無駄」に使っていることになります。

 本質(理論)・(型)を外さないというのは、小学生でも、中学生でも、高校野球でも、プロでも、「必須」です。

 なんか、最後はわけのわからない文章になってしまいました。

No title

貴重な時間を費やしてまで、大変わかりやすく解説していただきましてありがとうございました。

>今の経済学は後者で、最先端になればなるほど、先鋭化しています。「木を見て森を見ず」です。

なるほど、優秀だといわれている経済学者が時々(いつも?)トンチンカンなことを言ったりするのはそういうことだったんですね。

No title

日経『経済教室』

1月4日 
青木昌彦『ポスト 失われた20年に光』

の記事は、参考になると思います。


No title

うぷぷw
円高ねぇ。
そんなに円高が国力とやらを反映してるつーなら、とことん利上げして売りオペぶちかませばいいよw
市場から徹底的に円を吸い上げちまえw
したらとんでもない水準の、壮絶円高になっからw
でもね、今の状況で壮絶な金融引き締めなんかやったら恐慌になるだろ。

でも君はそれでも円高が喜ばしいんだよねW
円高にするなんて簡単なこった。日本だけが壮絶なデフレに陥ればいいんだからw

No title

>でも君はそれでも円高が喜ばしいんだよね

 何でもかんでも、すぐに意見や価値観を持ち込もうとする人ばかりですが、このブログでは基本的に「(例:円高が)良い・悪い」「好ましい・好ましくない」などの意見は述べておりません。

 個人的な考えや意見はありますが、それらを全て排除しています。意見(価値観)は千差万別で、答えがないので、回答のしようがありません。

 円高が望ましいと言ったことはありませんし、なぜリーマン・ショック以降、円独歩高になっているかも、別なカテゴリで解説しています。一知半解は勘弁願います。何かしらの先入観があると、全ての事象を、客観的に見ることが出来なくなります。それをプレジュダイス(偏見)といいます。学問を学ぶ際に、一番排除しなければならない、イドラ(偶像)です。

No title

輸出額と為替名目レートをプロットした図がありまして、それをもとに円高=輸出増とおっしゃっているのですが、
円安だったら、もっと輸出額が増えていたはずではないですか?

No title

>輸出額と為替名目レートをプロットした図がありまして、それをもとに円高=輸出増とおっしゃっているのですが、
円安だったら、もっと輸出額が増えていたはずではないですか?

 日本の場合、「円高=輸出減」にはストレートには結びつきませんが、「円安=輸出増」になっています。

 ただ、「輸出が増えていたはず」というのは、なんとも言えませんし、アベノミクスによる直近の円安については、まだデータが揃っていません。

No title

>日本の場合、「円高=輸出減」にはストレートには結びつきませんが、「円安=輸出増」になっています。

「円安=輸出増」ということは「円高=輸出減」と同義だと私は思います。

この認識の違いは、どの時点を基準に増えたor減ったを言うかの違いから来るのだと思います。

このブログでは過去のデータに対して増えた減ったという話をされていますよね?それは図が示すように正しい。円高でも輸出は増えているということだと思います。

ですが、
マスコミや市場参加者あるいは輸出企業は過去のデータに対する増減を述べているのではなく、その時点で円転する際の金額が、円高になることで減少するという単純な話をしているのではないですか?

No title

>「円安=輸出増」ということは「円高=輸出減」と同義だと私は思います。

 思いたいのは山々ですが、両者は違います。日本の場合、円高になっても、輸出は減らないのです。

 ですが、円安になると、輸出は増えています。

>その時点で円転する際の金額が、円高になることで減少するという単純な話

 ですから、その時点から、円高になっても、日本の場合、単純に輸出減にはならないのです。

No title

>ですから、その時点から、円高になっても、日本の場合、単純に輸出減にはならないのです。

「その時点から」ということではなく「その時点で」という話を差し上げたつもりでした。

「その時点から」という観点であれば
引用させて頂くと「GDPが伸びていたら、円高でも、輸出の絶対額は伸びます」ということなのでしょう。
データが実証しています。正しいと思います。

一方で
「その時点で」という観点であれば
冒頭の教科書の「円高で輸出減少・輸入増加」等の表現は
為替のスポット取引を表現しているだけであってこれも正しいと思いますし、円高=輸出減と表現される場合、こちらの前提に立っていることの方が多いと私は感じます。
この教科書を見て「GDPが伸びていたら、円高でも、輸出の絶対額は伸びます」からこの話は嘘です、というのはそれこそ偏見というか穿った見方だと感じます。

返信ありがとうございます。

No title

>冒頭の教科書の「円高で輸出減少・輸入増加」等の表現は
為替のスポット取引を表現しているだけであってこれも正しいと思いますし、円高=輸出減と表現される場合、こちらの前提に立っていることの方が多いと私は感じます。

 ですから、「思います」「感じます」は勘弁してください。スポットでは、「円高→輸出減」という、因果関係を示さないと、話になりません。

 1月単位で、「円高になったから輸出減(もちろん、Jカーブ効果などはあるものの)」というのを、教科書が載せるのですか?

 通常、少なくとも、半年・1年単位の話をするのではありませんか?

 ついでに、10年、30年単位の長期では、「円高→輸出減」ではないことは、データの通りです。

 スポット(短期)も、カテゴリ「円高 ドル安? 為替相場」で扱っていますので、そちらを参照願います。

 「円高→輸出減」という神話は、「円高なのに輸出増」があれば、成り立たないことは一目瞭然では?

 なぜ、この事実を見ないのですか?

 「円高になると理論的には輸出減だが、実際には輸出増になることもある」

 が事実です。こんなもの、「理論」でも何でもありません。「因果」はおろか、「相関」にもなっていないことは、示したとおりです。


 結論は、下記山川教科書の表現

「①日本の輸出が増え、経常収支の黒字が続き…日本の通貨「円」に対する信頼が高まり、為替相場は円高・ドル安になる。しかし、②円高になれば、外国でドルを使用して購入する日本製品のドル建て価格は高くなり、日本の輸出品への需要は減少する。」

は、ウソですということになります。

 これは、「円高になると日本の輸出品への需要は減少する」という妄想・願望を載せたにすぎません。

 ついでに、「経常収支黒字で円高」もウソです。

 教科書は、化石理論を載せているに過ぎません。そんな事実は、いまやどこにもないのです。

 
 思いたいのは結構ですが、「現実」は違います。

No title

>>菅原晃さま

『ユーロ危機と超円高恐慌』(岩田規久男著)のP198の図表6-4に、
縦軸に「円の実質実効為替相場」を、横軸に「実質輸出(兆円)」をとったグラフがあって、「円高になると、輸出が減少する。」と解説されていました。
このグラフでは実質実効為替相場に対して、「実質」輸出を見てます。

菅原さまの最後に載せているグラフ
http://blog-imgs-46.fc2.com/a/b/c/abc60w/20120104122729b3f.jpg
では
横軸の輸出額は名目(?)値ですか。

岩田規久男氏のグラフと菅原さまグラフでは主張が全く逆になっていて、

・岩田規久男氏: 実質に対して実質で見て「円高⇒輸出減」である
・菅原さま: 実質に対して名目(?)で見て「円高⇒輸出減」ではない

どう見るのが適切なのでしょうか。

No title

訂正:
× 横軸の輸出額は名目(?)値ですか。
○ 赤線の輸出額は名目(?)値ですか。

No title

○ 赤線の輸出額は名目(?)値です。
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