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ティー・パーティー 小さな政府論の蹉跌

<ティー・パーティー>

 竹森先生が、アメリカについて、滅多切りにしています。あまりに面白かったので、紹介します。

竹森俊平 慶大
日経H23.8.24『ユーロの構造問題、全面に』

 昨年8月、ニューヨーク・タイムズの取材で「米国も日本と同じように失われた10年を経験すると思うか」という質問を受けた。「日本と違い、米国は積極的な政策を実行している。それで景気が浮上すればよいが、しなければ政策方針について意見の対立が起こり、日本の二の舞かもしれない」と答えた。その後、米国も欧州も次期尚早な緊縮路線に転換したのを危惧して、昨年12月には「来年(2011年)は記憶から消したい年になる。世界景気の二番底も問題だが、それが政策判断の失敗で起こるのが最も問題だ」と某誌で論じた。

…米ハーバード大学のケネス・ロゴフ教授…「シュピーゲル」8月8日号に掲載されたインタビュー…言いたい放題だ。欧米の政治家が、過剰債務を抱えた経済では不況からの回復が遅い事実を無視して、通常の不況と同じ段取りで政策を進めたのが間違いで、今は財政再建や金融の出口政策が目指されているが、間もなく景気刺激に方向を転換する必要に迫られると指摘する。


 確かに、アメリカは、財政政策を発動します。


景気・雇用対策、35兆円=減税、インフラ投資が柱―米大統領
時事通信 9月9日(金)9時54分配信

 【ワシントン時事】オバマ米大統領は8日夜(日本時間9日午前)、米上下両院合同会議で演説し、社会保障税の減税拡大や道路、橋などのインフラ投資を柱とした景気・雇用対策を発表した。対策の規模は4470億ドル(約34兆6000億円)。大統領は「国家的な危機に直面し、政治的見せ物を終わりにできるか問われている」と述べ、関連法案の迅速な議会通過へ民主、共和両党の協力を要請した。


 大統領が、これについて議会で演説しましたが、大統領が議会で演説するなど、異例です。

…筆者なりにそれを整理する。
 米国の問題は単純だが深刻だ。民主党政権と共和党支配の下院とのねじれ、共和党内での茶会派(ティーパーティー)の発言力、これに尽きる。

 米国の独立運動は英国の高い税に反対する茶会派の抗議行動に始まる。それが内戦に発展した時にワシントンたち政治指導者は自派の旗印として「連邦政府」という主体をでっち上げ内戦を「独立戦争」に昇格させた。さらに独立を獲得すると連邦軍の維持を名目に連邦税を導入した。茶会派からすれば、これでは英国の高い税を連邦政府の高い税に置き換えるだけで連邦政府の存在そのものが「詐欺」になる。こういう米国史の闇を把握しないと現在の状況が理解できない
 

 独立戦争はお題目の「でっち上げ」からスタートしたんですね。今でも連邦政府と州政府の権限があいまいなのは、そのあたりに理由があるのでしょうか?

 茶会派・ティーパーティーの起こりについてです。

 アメリカ独立にいたる、契機となったボストン茶会事件(ボストン港が、捨てられた茶の葉で、茶色にそまった~本当はそんなわけはないですが)に端を発します。余談ですが、アメリカがコーヒー文化になったのは、この事件以後だそうです。

 ウイキペディアより
1773年、サミュエル・アダムズに指導されモホーク・インディアンの扮装をした一群の男達がイギリスの茶を運んできた船に乗り移り、1万ポンドと見積もられた茶を船から海に投げ捨てた。この事件はボストン茶会事件と呼ばれるようになるが、アメリカ愛国者の伝承で重要な位置付けとなった。ただし、このときの茶税は1シリングから3ペンスに下げられたもので、決して税率上げではなかった。ことの根源は、1773年5月に定めた茶法で、イギリスが東インド会社の救済のために茶の輸入を独占し、密貿易を禁じたことであった。


 現代アメリカのティー・パーティーです。

ウイキペディアより
 ティーパーティー運動( ティーパーティーうんどう, 英: Tea Party movement )とは、2009年からアメリカ合衆国で始まった保守派のポピュリスト運動である。バラク・オバマ政権の自動車産業や金融機関への救済の反対、さらには景気刺激策や医療保険法改正における「大きな政府」路線に対する抗議を中心とする。
オバマ大統領の就任式の直後に始まったことから反オバマ運動としての右派の側面もあり、2010年11月の中間選挙で共和党大躍進の原動力となった。
「ティーパーティー(Tea Party)」という名称は、当時の宗主国イギリスの茶法(課税)に対して反旗を翻した1773年のボストン茶会事件(Boston Tea Party)に由来しており、同時にティーは「もう税金はたくさんだ(Taxed Enough Already)」の頭字語でもある。
現代のティーパーティー運動は、ボストン茶会事件の時と違って課税反対は象徴的意味しか持たず、実態としては「小さな政府」を推進し、アメリカ建国時の白人中心社会への回帰を訴える保守系政治勢力である。そのため運動員の大多数を白人が占めている。
 

 彼らによって、アメリカが振り回されているそうです。

 今回、許容される米国債の残高の上限を引き上げるという過去10年間に100回も実行されたルーティン的行政措置が期限切れの最終週にずれ込み、米国債不履行の危険が高まった。こんな展開になったのは「国債不履行でドルの国際通貨の特権を喪失することなどさまつで、むしろ不履行は連邦政府を縮小する好機」ととらえる茶会派の思想が原因だ。問題は連邦政府の対応で、先のインタビューでロゴフ氏はそれを批判する。

「『君たちのようなテロリスト交渉する気はない。君たちが米国の財政破綻を招きたいなら勝手にしろ。われわれは正道を行き、君らの策謀とかかわらない』と、オバマ大統領は明言すべきだった。ところがそうする代わりに彼らに大きな妥協をして大統領の権限を弱めた」。共和党派と目されるロゴフ氏がここまで言うのだから、筆者も思い切って言わせてもらう。

 米国の格付会社が政治不安を理由に米国債を格下げしたのは、米国の財政が絶望的な状態にあるためではなく”テロリスト”の存在ゆえだ。今後、米国の景気がいかに悪化しても、彼らの強硬姿勢ゆえに、最短でも新大統領が誕生し、議員が入れ替わる再来年1月まで新しい景気対策が望めないことが問題なのだ。
 

「テロリスト」という言葉で一刀両断です。

 連邦債務引き上げ法案はルーティン=いつものこと(日常)だったようです。それを、今回はごねたんですね。そのごねが、国債格付けを下げたようです。

 今の共和党は、「ティーパーティー」を味方につけざるを得ないようです。

読売H23.9.6『9.11から10年』
「韓国や日本、ドイツから駐留軍を引き揚げる時だ」。8月12日、共和党の12年大統領選候補指名に向け開かれた討論会で、小さな政府を目指すロン・ポール下院議員が訴えると、聴衆から喝采が上がった。
 

 ロン・ポールはがちがちの「小さな政府」論者です。

読売H23.9.6『最強の米 遠い昔』
 元米政府高官のリチャード・ハース外交顧問評議会会長は最近、米紙への寄稿で、「今、仮に北大西洋条約機構(NATO)がなかったとして、創設が必要と考える人がいるだろうか。ノーだ。」と述べた。
 

 冷戦の負担がなくなった当時、アメリカは財政赤字もなく、経済的成功を収めていました。

読売H23.9.6『最強の米 遠い昔』
 「我が国は史上最強の状態にある」とクリントン大統領(当時)が一般教書演説で宣言したのは…00年1月だった。2年連続財政黒字を記録し、失業率はわずか4%だった。
 

 
 アメリカの失業率は9.1%(11年7月)です。それでも、2010年11月の9.8%をピークに、下がってはいるのですが。失業手当が~99週まで延びたのが要因の一つではあります。

<小さな政府・大きな政府>

 この「小さな政府論」ですが、ほかにも、「われわれの税金を、銀行のために使うな(日本でも住専問題の時に論議になりました)」などの主張をしています。

三面等価 2008

 この図を良く見て下さい。われわれが使ったカネには、1円の無駄もないことが分かります。政府が使おうが、家計が使おうが、企業が使おうが、結局われわれの所得にはなっています。

 政府(公的機関・公立学校も含む)の支出で持っている企業も、たくさんあります。

 「小さな政府」論は、この図の「Tを減らせ!」、「われわれのC(消費)とS(貯蓄)に回せるカネ(割合)を増やせ!」だと言うことが分かります。要するに「分配」を巡る主張です。

 (T)の割合を減らせば、われわれの所得(GDI)が増えるという因果関係があるわけではありません。
 また、(T)の割合が大きい=大きな政府だから、経済成長しないというわけでもありません。

東学 資料政・経 2011
租税負担率

小さな政府 経済成長率.jpg

 要するにミクロ(自分の可処分所得を増やせ)の考えであり、マクロ的な視点があるわけではないのです。
 
 まあ、政治的主張は、古今東西、「自分の利益を最大限にしたい」という要求そのものですから、当然と言えば当然ですが。


 さて、先生は、日本で取る経済政策については、どう考えているのでしょうか?

…日本も先行きは絶望的と思われるかもしれないが、経済政策を実施する政治環境は日本の場合むしろ良い。そもそも「景気刺激」と「財政再建」の両立が不可能かと言えば、そんなことはなく、税金をごっそり取って、一部を需要創出効果の高い公共事業に回せばよいのだ。…こうした理論的には簡単なことが欧米では政治的な理由で実行できない。

 ところが日本の場合、「東日本の復興」「今後の震災への備え」と、必要不可欠な公共事業に事欠かない。…各種の世論調査を見ても、財政健全化のための増税を国民は支持している。つまり、欧米で見られる政治の閉塞が日本には存在せず、そのことが、円高の一因となっている。このポリティカルキャピタルを有効に使い、復興のための公共事業を2~3年で集中的に実施すればよいのだ。


 では、「景気刺激」と「財政再建」の両方が存立可能かについて、見て行きましょう。

<税と消費>

ケインズの仮定

(1)限界消費性向は、0<1の間にある。
(2)平均消費性向は、所得が増加すると、低下する。
(3)消費は所得に依存し、利子率の影響は少ない。


ケインズの消費関数

 C=C+cY 
 C>1 
 0<c<1
 

 ケインズは、ある人の現在の消費は、その人の現在の所得に依存するとしました。

 IS-LMモデルによれば、減税は、消費を刺激し、需要を増やすと考えます。増税は反対に需要を減らすと考えられます

フリードマンの恒常所得仮説  

 これは、将来の所得に関して、恒常所得と、変動所得に分けたものです。

 恒常所得とは、将来にわたって、予想されるものです。例えば、高学歴で卒業した場合、将来にわたって恒常的に高所得が予想されます。

 変動所得とは、一時的な所得増のことです。日本で、ある一部の地域が寒冷気候で、農産物が少なかった場合、別な地域の農家は、所得が上がる可能性があります。
 宝くじが当たった場合も変動所得と考えられます。両者ともに、一時期の所得増と考えられるからです。
 
 そして、消費に影響を与えるのは、前者の恒常所得と考えます。100万円給与が上がれば、その人の消費はその分増えます。気候変動で、100万円収入が増えても、全部を使い切らずに、貯蓄に回すだろうというものです。

 フリードマンは、将来予測を加えることによって、ケインズの消費関数=現在の所得に関係付けようとしているのは誤りだと説明します。

 IS-LMモデルによれば、減税は、消費を刺激し、需要を増やすと考えます。増税は反対に需要を減らすと考えられます。

 ですが、恒常所得モデルでは、消費は恒常所得の変化に反応し、租税の一時的な変更(変動)は、消費と需要に、無視できる程度の影響しか与えないと考えます

 実際に、アメリカでの税制改革は、この仮説を裏付けました。
①1964年の恒久減税は、永続的な減税だったため、経済を刺激する効果がありました。
②1968年の臨時増税は、1年限りのものでした。増税は消費を抑制せずに、失業は減り、インフレ率は上昇しました。

 単純なケインズの消費関数では、説明できなかったのです。

<増税すれば、消費が減る?>

 1997年、当時の橋本内閣の下で、定額所得減税を止め、4月に消費税は3%→5%に上がりました。

96→97GDP.jpg

 別に、消費が減ったわけではありません。消費税増税の影響は3か月ほどで収束しました。97年→98年不況は、金融問題(山一證券・拓銀倒産)など、別な要因だったことがすでに明らかになっています。

http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/syakaihosyou/syutyukento/dai9/siryou3-4.pdf
『社会保障 税の一体改革の論点に関する研究報告書』参照


 97年度の成長率は、プラス1.6%です。消費税増税は同年4月です。この年はプラス成長なのです。

 98年度が-1.5%です。

 また、1997年の税率引き上げが消費に対するマイナスの所得効果は0.3兆円で、GDP比0.06%相当です。

「消費税増税が、景気後退の主因である」とする説は、すでに破綻しています。


宇南山卓『消費増税、景気に影響軽微』日経H23.10.18

…総務相統計局の「家計調査」を用いて季節性などを調整したうえで、96年第4四半期と比較した消費水準を見たのが下のグラフだ。消費税引き上げが実施された97年4月前後は代替効果により大きく変動しているが、8月にはほぼ元の水準に戻っている。

97年消費税増税の影響


…消費税が景気を後退させたとみなされたのはいわば誤解によるものだ。経済企画庁(当時)が暫定景気基準日付で、97年3月に景気の山があったと判断したため、景気悪化の主犯とされた。その後の確定判断では景気の山は97年5月に変更されており、6月に表面化したアジア通貨危機を転換点とみるべきだ。過去の景気判断の変更に対する注目度は低かったため、景気後退を招いたとの見方は払拭されていないが、データに基づき正確に評価すべきだ。



http://synodos.livedoor.biz/archives/1836270.html
【緊急特別インタビュー】世界一やさしい“増税なしの”復興財源捻出方法 ―― 18兆円の「日銀埋蔵金」とは何か? 高橋洋一

 しかし不況下の増税は、さらなる不況圧力を招き、国民の生活に大きなマイナス圧力をもたらすことは明白だ。たとえば、1997年の消費税2%増税の際には、大きな不況が日本を覆い、たしかに消費税収は微増したものの、結局他の税収(法人税・所得税)が大きく減少、2011年までの14年間かけて約12兆円も税収全体が減ってしまうという事態が起きた。財政赤字削減のための増税が、結果的に景気の悪化を招き、財政赤字を逆に悪化させる事態をもたらしたのだ。

 それどころか、1997年の2%の消費税増税にあおられた大きな景況感の悪化により、日本の年間の自殺者数は、2万人台の前半で推移していたところから、3万人強へと一気に増加するという事態を招いた。しかもその3万人強という年間の自殺者数の推移はもう、かれこれ10年以上定常化してしまっているという状況なのだ――。



 上記は事実ではないのです。


<追記>

H23.9.21『米、地方ギリシャ化の恐怖』
 米東部ロードアイランド州セントラルフォールズ市。人口2万人弱の小都市が8月、米連邦破産法9条の適用を申請し、事実上破綻した。最大の理由は年金債務の重圧。市の年間予算の4倍を超える8000万ドルの積み立て不足を抱えていた。
 …この破綻劇、一都市の失政とは言い切れない。近隣も似た問題を抱え、州都プロビデンスでさえ怪しい。
…「地方自治体は三重苦」…景気後退で税収が減少、高齢化で年金が悪化、それにインフラ改修費の膨張だ。今年の破綻は全米で5件だが・・・地方の根源的な痛みはむしろ悪化が進んでいる。


 政府は大きくならざるを得ないのです。過去(インフラの累積・維持費)と未来(年金)から。


<民間にできることは民間に・・政府肥大化>

 これを行えば行うほど、また、行政の仕事は増えます。

 新しい事業所・事業に対する、禁止・許可・免除・特許・認可・代理といった事務を行うとともに、これらを受け付ける 確認・公証・通知・受理の仕事も増えます。

 市場化=「無認可、無許可の事業も、どんどんやらせろ!」ではないですよね。これじゃあ、無政府状態になってしまい、かえって、市民の生活コスト(時間も費用も)は上昇します。
 政府の仕事は、「整理」することです。

 また、これらの事務をできるだけ透明・公正にするために、行政手続法という、新しい法律が平成になって施行されました。

 できるだけ市場メカニズムを使うためにも、政府の仕事は大きくならざるを得ないのです。矛盾ですが、事実です。


<追記 ティーパーティーと反対の動き>


【ニューヨーク=吉形祐司】米ニューヨークのウォール街の近くで連日行われているデモに参加している若者たちの熱気は、1日、市警によって大量の逮捕者が出た後も、衰える気配がない。

 「ウォール街を占拠せよ」をスローガンにしたデモは、改善の兆しが見えない暮らしに対する若者たちの不満を背景にしており、政治にも波紋を広げ始めている。

 「ウォール街、占拠」。男性の音頭で大合唱が起こる。ウォール街から約100メートルにあるズコッティ公園は、1000人を超える若者であふれている。9月16日以降、2週間以上、ここで毎日集会を開き、街に繰り出している。

 配布されるパンフレットには「私たちは99%」とあり、ごく少数の富裕層に対する敵意をむき出しにしている。参加者たちは、ウォール街を貧富の格差を作り出す米国経済の象徴とみなしている。サム・ウッドさん(21)は「大学に行く資金もなく失業中。大企業にもっと税金を払わせるべきだ。変革が訪れるまで、この場を離れない」と息巻いた。

 1日は、デモ隊が観光名所でもあるブルックリン橋に集結した。市警は、交通を妨害したとして逮捕に踏み切ったという。それでも逮捕された人々は数時間後に釈放された。

(2011年10月2日23時38分 読売新聞)
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comment

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No title

>97年→98年不況は、金融問題(山一證券・拓銀倒産)など、別な要因だったことがすでに明らかになっています。

増税が原因だと思っていましたが、そうではないんですね。
別な要因とは何なのでしょうか?

あと、復興増税が話題になっていますが、復興増税がGDPに影響を与えるものなのでしょうか?

以上2点のご教授をお願いします。

No title

 消費税については、

http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/syakaihosyou/syutyukento/dai9/siryou3-4.pdf
『社会保障 税の一体改革の論点に関する研究報告書』をご覧下さい。

 また、「不況→自殺者増という相関関係」はありますが、「不況だから自殺者増」という因果関係があるわけではありません。

 自殺の原因は病気です。「不況になると病気が増え、自殺者が増える」というのは、「風が吹けば桶屋が儲かる」と同じ論理です。

どうでしょうか

>97年→98年不況は、金融問題(山一證券・拓銀倒産)など、別な要因だったことがすでに明らかになっています。

 これは断定しすぎでは・・・。
 消費税率引き上げ単独ではなくて、消費税のほか、所得税減税の打ち切り2兆円、医療費負担の増加(本人負担1割を3割負担へ)で2兆円などで、総額9兆円の(実質的な)可処分所得の減少がありましたね。これは平年度ベースだと思いますが、97年でも、6~7兆円の減少があったはず。
 これだけ需要が民間消費(次の式で①)で減少しても、政府の歳出(次の式で③)がその分増えれば、需要の総額は縮小しません。

 需要=①民間消費+②設備投資+③(政府歳出ー税)+④(輸出ー輸入)・・・ちょっとアバウトですが

 例えば、消費税3%を導入した89年度は、消費税収の増収3.3兆円に対して歳出総額を前年度比で4兆円弱増加(当初予算ベース)させています。ところが、97年度は消費税その他で6~7兆円消費需要をカットしたにもかかわらず、当初予算(歳出)は前年度比で0.3兆円弱しか増やしていません。
 これでは底が抜けるのが当然でしょう。元々、バブルで需要超過状態だった89年度と異なり、97年頃は、バランスシート不況などで、ぎりぎり政府需要でかろうじて経済を支えていたはずですから。

 もちろん、政府(財務省)の公式見解では、国内の金融危機や、東アジア金融危機が不況の原因とされていますし、たしかに、日銀短観の「貸出態度DI」(一般企業から見た金融機関の貸出態度)がこの時期に急減していることは事実で、しかもこの時期に企業の設備投資が急減していることも事実です。
 ところが、一般企業の資金借入状況を財務省の「法人企業統計」で見ると、この時期に一般企業の金融機関からの借入額は「まったく」減少していません。
 また、日銀の資金循環統計をみると、一般企業(非金融法人企業)は、この時期(=98年以降)は「資金余剰部門」になっています。つまり、一般企業は、銀行から借りられないために設備投資を縮小した訳ではないのです。資金があるのに設備投資を減らしているのです。
 この2点を示すグラフは、次のページの下段の2つの図を見て下さい。
http://kitaalps-turedurekeizai.blogspot.com/2011/01/blog-post_17.html
 ですから、少なくとも、この不況の原因として、(金融危機等で生じた)金融機関の貸出の変動という経路は考えられないと思えるのです。

 ただ、国内需要の縮小に加えて、金融危機などが将来不安を引き起こし、企業の投資マインドに影響した可能性はありますね。

No title

 97年度の成長率は、プラス1.6%です。消費税増税は同年4月です。この年はプラス成長なのです。

 98年度が-1.5%です。

 また、1997年の税率引き上げが消費に対するマイナスの所得効果は0.3兆円で、GDP比0.06%相当です。「消費税増税が、景気後退の主因である」とする説は、すでに破綻しています。

http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/syakaihosyou/syutyukento/dai9/siryou3-4.pdf
『社会保障 税の一体改革の論点に関する研究報告書』をご覧下さい。

訂正と内閣府のレポート

ありがとうございます。

1 「97年度の成長率は、プラス1.6%です。消費税増税は同年4月です。この年はプラス成長なのです。 98年度が-1.5%です。」

 これは、まったくご指摘のとおりでした。
 「97年度は消費税その他で6~7兆円消費需要をカットしたにもかかわらず、当初予算(歳出)は前年度比で0.3兆円弱しか増やしていません。」と書きましたが、この「0.3兆円弱しか増やしてい」ないのは、 98年度予算(97年度との比較で)でした(・・・なお、98年度はその後の2回の補正予算で景気対策として10.3兆円の大規模な財政出動をしています)。

 原因は単なる読み間違い(和暦資料と西暦)ですが、こうした大きな変動が経済全体に波及するには半年~1年程度はかかるだろうという認識もあって、混乱が生じたと思います。・・・あわてていろいろほかの記述もチェックしました(幸い今回だけのようで)。

2 『社会保障 税の一体改革の論点に関する研究報告書』について

 これはお役所が一定の政策目的の実現に資するように作成したものではないかと思います。例えば

(1)景気後退期の導入と拡張期での導入の差をまったく意識していない。
 民間シンクタンクのレポートなど(複数)では、景気後退期の導入ではマイナスの影響が大きいのに対して、景気拡張期の導入ではほとんど影響がないという説明があります。
 しかし、この内閣府のレポートは、日本の2000年代の国民負担の増加の例や、ドイツとイギリスの導入の例を挙げていますが、こうした観点についてまったくふれていません。仮に、こうした観点に根拠がないものなら、一言でも、これに関して付言されるべきと思いますが、まったくふれられていないません。(見落としているかもしれませんが)
 特に、日本は、バブル崩壊後、政府の財政出動や阪神淡路の復興のための財政出動でかろうじで立ち上がりかけたところでした。当時は、各企業のバランスシートの修復もまだ十分ではなく、設備投資も弱かったはずです(今回の世界同時不況での米国や英国の企業でバランスシートが傷ついたのは主に金融機関や個人でしたが、日本のバブル崩壊では、一般の実体経済企業のバランスシートが傷つき、それが設備投資を抑制していたと思います)。
 これは、少なくとも、ユーロ導入後ユーロ圏内での競争力の強さで実体経済企業が好調のドイツの例とはまったく異なる環境です。イギリスについては、内閣府のレポート自身もまだ結果が出ていないと書いています。

(2)サービス消費の上昇についておかしな記述がある。
 このレポートの47ページに
「1997年7-9月期には、消費は前年同期比で増加したが、・・・耐久財や半耐久財は依然マイナスであった。さらに1997年7-9月期の非耐久財の増加は種々の特殊要因(1996年の冷夏)から前年同期の水準が異常に低かったことを反映するにすぎないとし、この時点の消費の回復を疑問視する考え方もある(八田、2002,2003)。しかし、たとえ非耐久財が前年と同水準であったとしても、サービスの増加幅が大きいために7-9月期の消費全体はプラスであった(図)。サービス消費の増加は、携帯電話の普及による通信サービスの増加が大きく寄与していることが主因であり、一時的な要因によるものではない。」

とあります。ここで「携帯電話の普及」をこのように扱うのは明らかにおかしいです。この影響は、消費税導入の影響を把握する場合には、別の要因の影響として分離し除外されるべきもののはずです(もちろん、その一部は耐久消費財等の消費抑制でまかなわれているかもしれません。)。

 そして、この影響は「一時的な要因によるものではない」ので、この分の少なくとも一定割合が、それ以後の消費を嵩上げしているはずです

 そこで、このレポートが「1997年の税率引き上げが消費に対するマイナスの所得効果は0.3兆円で、GDP比0.06%相当」とする根拠としているCashin and Unayama(2010)をさっと見ると、こうした点についてはまったく検討されずふれられていません。つまり、その分、この論文は消費税導入によるマイナスの所得効果を過少に見積もっている可能性が強いと思います。・・・まあ、少なくとも、こうした点を考慮せずに結論を出しているレポートは十分な検討が尽くされたものとは言えないと思います。

(3)ミクロデータを積み上げただけのマイナスの所得効果だけで影響を評価していること。
 例えば、ここでは家計の世帯消費の減少額に単純に世帯数をかけて総額を計算して終わりにしていますが、こうした世帯消費の減少は必ず生産・供給側に影響を及ぼすはずです。例えば、消費税が上乗せされた新しい均衡価格では、消費される数量が減少するはずです。それは原材料、中間財、雇用に影響が波及していくはずです。
 あるいは、消費税の消費者への転嫁は必ずしも100%ではないはずです。通常、供給超過ー需要過少経済では転嫁の割合は低くなるはずです。確かに当時は、GDPギャップは一時的にプラスになった時期とされますが、GDPギャップは計算方法次第のところがあり、一般的な方法では普通は、供給能力と実際の産出のギャップを表していません。
 当時の労働分配率はまだ高いままだったと思いますが、それは設備や労働力の稼働率が低下していることを示しており、供給は依然として超過傾向にあったはずです。
 仮に、いくらかでも転嫁できない部分があれば、各企業が行う納税は、翌年度の5,6月頃になり、それによるキャッシュフロー減少の影響はそれ以降に出てくるはずです。

等々。私の認識の誤りや誤解もあるかもしれませんが。

 お役所のレポートは、基本的には、ある政策を実現する意図に沿って書かれるものです。このレポートは、「本報告書は、与謝野大臣の指示を受け」「内閣府が整理を行った」ものですから、当然、その意図に沿って整理されているはずです。
 

No title

 「増税になると、GDPが下がる」「消費税が上がると、消費が減る」という因果関係は証明できず、事実的にもないということです。

No title

うーん、一切合切を単なる断定で終了ですか。ま、時間の無駄だということですね。

No title

 ご意見、価値観については、正誤判定できません。よろしくお願いいたします。

1997年の消費税増税の件

宇南山卓氏の記事には次のような指摘も:
総合的な判断の下の経済学
http://blog.goo.ne.jp/keisai-dousureba/e/dd85adfed8804ad881f3af04f64b8322

ついでに
宇南山卓氏の元記事URL書かれていなかった(?)ので
(中)消費増税、景気に影響軽微
http://www.nikkei.com/access/article/g=96959996889DE1E7E4E4E0E1EAE2E3E5E3E2E0E2E3E39997EAE2E2E2
http://www.nikkei.com/content/pic/20111018/96959996889DE1E7E4E4E0E1EAE2E3E5E3E2E0E2E3E39997EAE2E2E2-DSKDZO3566244017102011KE8000-PB1-13.jpg



>>(名無し)さん
どうでもいいけど、何か適当な名前でいいからHN付けてくださいな。レスに困る。
あと、ご意見については正誤判定できません、と言いつつ根拠無しの断定だけで物事論じようとするのは愚の骨頂。

No title

>ご意見については正誤判定できません、と言いつつ根拠無しの断定だけで物事論じようとするのは愚の骨頂。



 「増税になると、GDPが下がる」「消費税が上がると、消費が減る」という因果関係は証明できず、事実的にもないということです。

 上記に根拠は要りません。事実のみで十分です。

1「消費税が上がると消費がへる」は、事実ではありませんでした。
2「増税になると,GDPが下がる」も、1997年度、事実ではありませんでした。

 これは否定できません。「特殊例だ」と論証するなら、根拠(事実・メカニズム)をお願いします。

 政府の報告書が「論証不足」であるかもしれませんし、論文としては不適切かもしれません。学生レポートなら「不可」かもしれません。

 そのことと、前提となる事実は、違います。よろしくお願い致します。

No title

>>菅原晃さん
>事実のみで十分です。
>1「消費税が上がると消費がへる」は、事実ではありませんでした。
>2「増税になると,GDPが下がる」も、1997年度、事実ではありませんでした。

その上記2つの結果は当時が景気拡張していた時期だからのものではないか、と言いたいんですよ。
KitaAlpsさんが既に言及されていましたが
>景気後退期の導入と拡張期での導入の差をまったく意識していない。
と。

1997年あたりまで景気が持ち直してきていた時期なので当然、菅原晃さんがご指摘されたとおりでしょうし、
ついでに、そもそも最初の3%導入のときも同様に当時の消費税導入は問題なかったと思います。

>>菅原晃さん
>アメリカでの税制改革は、この仮説を裏付けました。
>①1964年の恒久減税は、永続的な減税だったため、経済を刺激する効果がありました。
>②1968年の臨時増税は、1年限りのものでした。増税は消費を抑制せずに、失業は減り、インフレ率は上昇しました。
の例にしても、拡張期。
この例ではアメリカの当時の臨時増税は1年限りのものですが、日本は消費税はそれとは異なります。
また、1997年のアジア通貨危機や山一證券と拓殖銀行破綻による景気後退が起こってから、その金融危機により消費動向への影響がでました。
翻って現在、まだ日本は(アジア通貨危機やら山一證券やら拓殖銀行やらはもう関係ないが)景気後退中ですが消費税を増税した場合、上記の例と同じになるでしょうか。



>>KitaAlpsさん
>景気後退期の導入と拡張期での導入の差をまったく意識していない。

と指摘されていたのですが、それに対して、

>>菅原晃さん
>事実のみで十分です。
>1「消費税が上がると消費がへる」は、事実ではありませんでした。
>2「増税になると,GDPが下がる」も、1997年度、事実ではありませんでした。

は、回答としてずれていると思いませんか?

と、言いたかったんです。
以上、よろしくお願い致します。

No title

増税と消費の説明ありがとうございました。

増税でもGDPが落ちないとなれば、増税により社会保障を強化した方がよさそうですね。

No title

>>菅原晃さん

家計消費支出と民間最終消費支出ってともに遅行指標で、遅行指数は一致指数に半年から1年遅れの動きを示す、ということを考えると、
図の「異時点間の代替効果」による部分は別として所得効果の部分がどう変動するかに影響が出るのは1997年秋or年末頃以降(????)になります。
1996年と1997年のデータを以って

>1「消費税が上がると消費がへる」は、事実ではありませんでした。
>2「増税になると,GDPが下がる」も、1997年度、事実ではありませんでした。

と、するのも乱暴な気がしますが。。。

No title

>その上記2つの結果は当時が景気拡張していた時期だからのものではないか、と言いたいんですよ。

 これを主張するのは、全く根拠がありません。

「景気拡張期なら、増税しても消費は落ちない・GDPは落ちない」

 この因果関係を証明するのですか?

 そもそも、景気拡張って定義できるのですか?期間は?GDPプラスを拡張期と言うなら、戦後2回を除き、すべて拡張期ですが。

 それとも、1%、2%程度の成長期なら拡張期と言わない?
3%なら拡張期なのですか?

 2年続けば拡張期ですか?3年を言うのですか?

 それとも、毎年、成長率が前年よりアップし続けている時を「拡張期」というのですか?それが続けば、あなたが主張する、増税のタイミングは分かるのですか?

 後退期とは何ですか?前年2%、今年1%なら後退期ですか?それはいつ分かるのですか?

 「今年は後退期だ」といつ確定するのですか?

 2010年(確報はまだでいない)は確実に2009年(確報値)に対してGDPはアップしています。拡張期?です。では、2011年に増税するのは適切なのですか?

「景気拡張期なら、増税しても消費は落ちない・GDPは落ちない」
「景気拡張期でも、増税しても消費は落ちる・GDPは落ちる」

「景気後退期でも、増税しても消費は落ちない・GDPは落ちない」
「景気後退期なら、増税しても消費は落ちる・GDPは落ちる」

 ちょっと考えただけで、これらをすべて論証しなければなりませんが。

 事実は一つです。

1「消費税が上がると消費がへる」は、事実ではありませんでした。
2「増税になると,GDPが下がる」も、1997年度、事実ではありませんでした。

 そこから、帰納的に、「因果関係」を導き出すことは、不可能です。 ですから、「増税しても消費は減らない」を、理論として、導き出すことも不可能です。

 一方、記事で指摘したように、

「IS-LMモデルによれば、減税は、消費を刺激し、需要を増やすと考えます。増税は反対に需要を減らすと考えられます。」

 は、仮説であって、事実ではありませんでした。

 「増税すれば需要が減る」という法則は、事実ではないのです。

 神話に振り回されてはいませんか?

No title

>図の「異時点間の代替効果」による部分は別として所得効果の部分がどう変動するかに影響が出るのは1997年秋or年末頃以降(????)になります。


1997年度の消費支出(名目・・実質はもっと伸びている)です。

4-6月期 7-9月期 10-12月期
68,630.1 71,690.7 73,958.8

 あなたの言う時期に、消費支出は伸びています。

>1「消費税が上がると消費がへる」は、事実ではありませんでした。
>2「増税になると,GDPが下がる」も、1997年度、事実ではありませんでした。
と、するのも乱暴な気がしますが。。。



 乱暴でもなんでもなく、1997年4月→98年3月期間、GDPも消費も、「伸びた」のですが。これ以上でも以下でもありません。

 結局何が言いたいのですか?「増税すると消費が減る,GDPが減る」ですか?であるならば、その理論と、事実を示して下さい。

 「こう思いたいのだが」「考えたいと思うのだが」は、勘弁して下さい。



No title

>>菅原晃さん

>>1997年度の消費支出(名目・・実質はもっと伸びている)です。
>>4-6月期 7-9月期 10-12月期
>>68,630.1 71,690.7 73,958.8
>>あなたの言う時期に、消費支出は伸びています。

実質値の伸びに対し名目値の伸びが小さいってことは
PCEデフレーターは右肩下がりに転じたってことですよね。
デフレに転じています。

No title

97年度は、インフレです。消費者物価は上昇しています。

結局、gitsさんは、何を主張したいのですか?

「景気拡張していた時期だからのものではないか、と言いたいんですよ。」

 思い込みだけでは・・
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