行動経済学の教室
次回更新は、8月18日です。

ガブッ!とわかる世界一やさしい行動経済学の教室 [単行本(ソフトカバー)]
山岡 道男 (著), 浅野 忠克 (著)
http://www.amazon.co.jp/%E3%82%AC%E3%83%96%E3%83%83%EF%BC%81%E3%81%A8%E3%82%8F%E3%81%8B%E3%82%8B%E4%B8%96%E7%95%8C%E4%B8%80%E3%82%84%E3%81%95%E3%81%97%E3%81%84%E8%A1%8C%E5%8B%95%E7%B5%8C%E6%B8%88%E5%AD%A6%E3%81%AE%E6%95%99%E5%AE%A4-%E5%B1%B1%E5%B2%A1-%E9%81%93%E7%94%B7/dp/4757219040
経済教育学会でお世話になっている両先生の最新刊です。お二人は、「アメリカの高校生が読んでいる世界経済の教科書」をはじめ、入門経済学シリーズを積極的に発刊しています。
今回のこの本も、入門シリーズですが、授業にも役立つポイントがいくつかありましたので、紹介します。
まず、行動経済学と既存経済学の違いです。
P005
…「合理的経済人(「ホモ・エコノミカス」。つまり、従来の経済学(「主流派経済学」ともいいます)が想定している人間がモデルです。
…合理的経済人は、意思決定に必要な完全情報を有していて、計算能力も完全で、自分の効用(満足度)を最大化できると仮定します。
これに対して、行動経済学が想定している人間は「限定合理的」=例えば、感情によって動くというものです。
P016
多くの人はなるべく合理的であろうと考えて行動していますが、気が付くとその行動には偏り(バイアス)が出てしまうということがしばしばあります。人間は限定合理的な生き物なのです!行動経済では、この限定合理的な人間(普通の人)が主人公なのです。
P018
人間を不合理のかたまり(限定合理的)としてとらえた上で、現実の経済活動においてどのようにふるまうかを観察、分析する学問が行動経済学です。行動経済学では、「人の嗜好や好みは状況や雰囲気に応じて、その都度変化する」と考えます。
合理的ではない例です。
飛行機事故と交通事故。飛行機事故は年間200万回フライトのうち、1回だそうです。1/200万回です。しかし日本人が死亡交通事故にあう確率は、1.4万人に1人の割合です。
ですが、主観的には「飛行機事故」の方にイメージが引きずられてしまいます。
ギャンブルで、コインの表が5回続けて出たとします。次は裏にかけたいところです。ですが、本来は、次のコインの裏表が出る確率は、1/2です。前回表が出たからと言って、次は裏が出やすいということはありません。
「選択肢が多いほど効用を最大化できる」とするのが伝統的経済学です。ですが実際には、「選択肢が多すぎると、混乱する」のです。選択麻痺という状態です。
ジャムの試食が、6種類の場合と、24種類の場合の実験です。当然後者の方が「選択肢が多い」のですが、売れたのは前者の6種類の方でした。人間は選択肢が多すぎるとかえって選択そのものをあきらめてしまうのです。これは「ジャムの法則」といいます。
「松」「竹」「梅」のすしセットがあります。
加えて「ホタテ盛り」「日替わり限定セット」「マグロ尽くし」「海鮮丼」「ちらし・・」と増えれば増えるほど、「分からなく」なってきます。
ちなみに3種の場合、一番売れるのは「竹」です。
<コミットメント宣言の大切さ>
人間は、現在を大切にするという「時間選択理論」があります。1年後の101万円と、今の100万円、どちらがほしいかを選ぶ場合、多いのは、圧倒的に現在の100万円です。
次のような実験があります。
イスラエルの学生に2つのレポート課題を設定します。
①イスラエルの母国語であるヘブライ語の文献で、将来役立たないテーマ
②第2言語である英語の文献で、将来役に立つテーマ
締め切りを2つ用意しました。1週間後と10週間後です。結果として1週間後の場合は、①、10週間後の場合は、②を選択しました。
近い将来の場合、手っ取り早く片付けようとし、遠い将来の場合は、理想的な課題を選ぶのです。
同書p158

どうでしょうか。生徒に宿題を出す場合、夏休み後に提出させるような長期課題の場合は、少々難解なもの(例えば原稿用紙10枚分の小論文)、明日までの宿題の場合、簡便なもの(例えばドリル学習)を用意すると、生徒の満足度は高まります。
会社でも使えますね。長期的課題の場合と、短期的目標の場合。部下の能力を最大限に発揮させるためには、「じっくり」と「手っ取り早く」の両方の視点が必要です。
また、これらの宿題を学生に課す場合、人間は自分の判断を高くしがちだということも、見落としてはいけません。
これから論文を書く学生に、完成までの期間を質問した実験です。
①もっとも順調な場合にかかる期間
②もっとも手間取った場合にかかる期間
学生の平均は、①の場合は27.4日間、②の場合は48.6日間でした。その平均は、33.9日です。そして実際に論文に費やした時間は、55.5日でした。予定より、1.6倍長くかかったのです。しかも、②の時間よりも、1週間余計にかかるのです。
「計画は1.6倍に遅れる傾向」にあるのです。そう考えると、生徒の課題の遅れを意識した時間設定ができます。
また、実際に論文を作成する場合、27.4日とか、48.6日とか、学生は口にしません。しかし、自分が口に出した27.4日とか、48.6日が目標になって行動を起こすことが分かりました。
論文完成の時間を問われた学生は、自分が答えた時間を意識せざるを得なくなり、優先的に論文を書くようになった―のです。
「宣言することで自分の行動を制約する」のです。これを「コミットメント」と言います。将来における自分の行動を約束することで、その約束を守るように自発的に行動することです。
小学校で、児童に「自分の今学期の目標」などを書かせて、掲示することがあります。あれは有効な手段の一つだったのですね。
あるいは、「こうしろ」と生徒に言うより、生徒から「こうします」という目標を引き出す。この方が、より「自発的」に行動します。
このように、「コミットメント」は、人間の意志決定において、重要だということが分かりました。
アメリカのFRB議長が、「将来的な見通し」について「こうする」と語ることが、いかに重要なことかが分かります。
いっぽう、「一度宣言したことなので、その成功欲求」に縛られると、コスト的に合わないと気がついても、やめようと考えなくなってしまいます。英仏共同開発のコンコルドは開発途中で「採算に合わない」ことが分かりましたが、あまりに巨大なカネをつぎ込んでしまったため、引き返せなくなりました。「コンコルドの誤謬」として有名です。
日本では八ッ場(やんば)ダムの混乱がありました。やっと「合意形成した」のに、「止めるといったら止める」と担当大臣が宣言し、その後は、大臣が変わると、その宣言自体を「見直す」といったり・・・。
原子力政策もそのような例として、同書では取り挙げられています。「サンク コスト理論」として知られています。
<外為特別会計>
日経H23.7.21

災害復興の財源に、外為特別会計を使う案が、検討されるようです。
2011年6月21日 『米国債を売れ 外貨準備を復興財源に』記事を再掲します。
<外債を売ることは可能か>
外貨準備を復興財源に使うことについて反対論は大きく3つある。
①まずは為替相場への影響だ。米国債を一手に大量売却すれば、ドルの下落つまり円高になり、日本の輸出産業に大きなマイナスの影響を与える恐れがあるというものだ。
榊原英資 青山学院大教授 『外貨準備を減らせば、円高になる 日本が持つ外貨準備を売却すれば必ず円高になる。将来の極端な円安に備える意味でも現在の水準を維持しておくべきだ』p30
…兆円単位で外貨準備をとり崩したら、為替市場におけるドル売り介入になり、必ず円高になる。
円売りドル買いや、ドル売り円買いなどの為替介入は、超短期1ヶ月や2ヶ月程度の相場に影響を与えることはできますが、長期的にはまったく影響を与えることはありません。
http://allabout.co.jp/finance/gc/312608/『日銀の為替介入の効果とは?掲載日:2010年09月23日』
2010年9月15日に実施された日銀の為替介入で円高に歯止めがかかりました。しかし、過去、介入によって長期トレンドを捻じ曲げられたことはないのです。

…たとえば、前回日本が行った大規模な介入時の為替推移は上記URLのようでした。2003~2004年春にかけて総額35兆円もの大規模な介入がなされ、その都度短期的な効果はあったのだと思いますが、月足で見ると何の効果も見えず、円高はこの間ぐんぐんと進みました。
…結局大海である市場の波の向きは水鉄砲では変えることはできず、政府が為替介入を一切しなくなった2005年から、1円の政府預金を減らさずとも自然に円安に戻って行ったのです。このように為替の長期トレンドを決めるのは市場であって介入ではありません。市場はその時々のファンダメンタルズによって決まるのです。
つまり、10兆円程度ずつ、売ることは可能です。
②もう1つの反対論は、米国が納得しないというものだ。
橋本竜太郎首相(当時)が、’97年6月23日に「米国債を売りたい誘惑にかられたことがある」と発言し、翌日、NY株式市場が’87年のブラックマンデー以来の下げ幅を記録しました。その後、影響力の大きさに驚いた、日本政府は、「米国債売却」をタブーにしてきたというのですが。
p23

日経H23.6.9 『日本の中長期国債 中国、買い越し最高』

中国が日本の中長期国債を積極的に買い増している。
…一方、米国債の保有残高は3月末まで、5ヶ月連続で減少した。…ドル以外の資産に分散している。
…米国債の保有は減る傾向だ。…昨年10月末に比べると、残高は約300億ドル落ち込んだ。
…中国政府は外貨準備の運用先を明らかにしていない…。
中国は、世界最大の米国債保有国(約1.5兆ドル=120兆円)です。そのうち、中国は300億ドル(2兆4000億円分)の米国債を売却しています。アメリカ政府の許可を得ているのでしょうか?「運用先を明らかにしていない」のですから、それはないのでしょうね。
米国が納得しようがしまいが、市場メカニズムによる行動は可能のようです。
③3番目の反対理由は、外貨準備は政府が円建ての短期証券を発行して国内の金融市場から資金調達(借金)し、それを原資に外国資産を購入していたものだから、もし外貨準備を売って円にするなら、まずは債務を返済しなければならないというものだ。つまり、この財源として外貨準備を使うのはそれに見合う国債を発行するのと同じことになるという主張である。
問題は、この③番目の理由です。先に答を言うと、この「エコノミスト編集部」に問い合わせた所、結局、この③番目の理由どおり、新たに国債発行をしなければいけないことになり、この記事の主張自体、「?」と言うものでした。編集部が、「復興債にそのまま回すのは無理」と認めたことになります。つまり「マッチポンプ」です。

バランス・シートですから、必ず「資産」=「負債」になります。もしも、左側「外貨資産」79.9兆円を売れば、左側「政府短期証券(国債)」79.9兆円返済になります。つまり、このバランス・シートは、現在の「資産136.4兆円=負債136.4兆円」が、「資産56.5兆円=負債56.5兆円」になるのです。
さて、この短期証券を返済された方です。つまり、金融機関(銀行・保険会社・証券会社etc)はこの79.9兆円をどうしようとするのでしょうか。
まず、日本は、カネ余りです。貸出先がないので、金融機関は、国債を買って運用しています。
日本経済新聞「余剰マネー国債に流入」2010年.6月.25日
日本国債に投資マネーが流れ込んでいる。10年物国債利回りは前日比0.040%低下(債券価格は上昇)し、1.125%となった。2003年8月以来、6年10か月ぶりの低水準をつけた。
長期金利低下の理由の一つはカネ余りだ。個人や企業などが銀行預金などに資金を寝かせる一方、企業が設備投資を絞っていることから銀行の貸し出し需要は低迷。国内銀行の預金と貸出額の差額は4月末時点で前年同月比17.2%増の約159兆円となり、過去最大となった。
銀行はこの差額を国債に振り向けている。4月末時点で国内銀行が保有する日本国債の残高は約137兆円と27.6%増え、過去最高を更新した。

このグラフは,「都銀・地銀・第二地銀」の資金余りの状況を示しています。個人や企業から集めた預金額から,貸出額を差し引いたものです。130兆円のお金が,どこにも投資先がなく,放置されています。このお金は,銀行にとっては,ただ預かっているだけで,刻々と赤字になってしまう「お荷物のお金」です。預金者に金利をつけて返さなければいけないからです。銀行も,一刻も早くお金を借りてほしいのです。
日経H22.3.14

簡単に言えば、「借り手」がいないのに、「国債」を返却されても、金融機関は困ります。

そこで、「震災復興に、このカネを回せ」論が出てきます。
…震災で失われたインフラや仮設住宅の建設、放射能被害に対する保証などのために緊急に5兆円を超える財源が必要だという。復興のために特別国債を発行する案も提案されているが、結局は国の負債になることについては変わりない。まず考えるべきは、国が保有する外貨準備の取り崩しだ。現在日本の外貨準備は約90兆円に達しており、これは中国に次いで世界第2位だ。…外貨準備の約7割は米国債で運用されており、まったく有効に活用されていない。
結局、このカネは、直接、①「復興に回る=企業や、家計が、借金し、工場を再開したり、家を立て直したりする」か、②国や地方自治体が借金して(税金では回収できない)、そのカネを復興(道路や港の再生=インフラ整備)に使うしか、使い道はありません。
でも、①に需要がそんなにあるとは思えません。倒産が相次いでいる状況で、再建するのは、並大抵のことではできないからです。2重ローン問題もあります。
日経H23.6.9

そうすると、②に期待するしかありません。例えば、2次補正予算は、「10兆~15兆円」が想定されています。
結局、外債を売り払った分、短期証券を返済し、さらに新たな国債を発行し、そのカネを財源に回すことになります。

結局、過去の借金の額(国債発行額)は、そんなに変わらない事になります。
ただし、外国債券運用による「長期金利 > 短期金利」よりも、 「復興による利益 > 短期金利」であれば、カネがより有効に使われることになります。
<追記 短期国債保有者>

<追記 人口減 加速>
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110809-00000092-jij-pol
総人口、82万7千人減=震災で東北22市町村除外―総務省
時事通信 8月9日(火)17時18分配信
総務省が9日発表した住民基本台帳に基づく2011年3月末時点の日本人の総人口は、前年比82万7235人減の1億2623万625人となった。2年連続減少だが今回は東日本大震災の影響で岩手、宮城、福島3県の計22市町村が集計から除外された。
この82万と言う数字は、下記の市に匹敵します。(H23年7月現在)
堺市 842,134
新潟市 812,192
浜松市 800,912
つまり、上記クラスの市が、丸ごとなくなった計算になります。毎年この勢いで減ると・・・
日経H23.8.10
…22市町村を除いた前年比較では12万2679人の減少。総人口は前年に続き2年連続で減った。
統計数が、ネタ元によって違います。どっちが正解ですか?

ガブッ!とわかる世界一やさしい行動経済学の教室 [単行本(ソフトカバー)]
山岡 道男 (著), 浅野 忠克 (著)
http://www.amazon.co.jp/%E3%82%AC%E3%83%96%E3%83%83%EF%BC%81%E3%81%A8%E3%82%8F%E3%81%8B%E3%82%8B%E4%B8%96%E7%95%8C%E4%B8%80%E3%82%84%E3%81%95%E3%81%97%E3%81%84%E8%A1%8C%E5%8B%95%E7%B5%8C%E6%B8%88%E5%AD%A6%E3%81%AE%E6%95%99%E5%AE%A4-%E5%B1%B1%E5%B2%A1-%E9%81%93%E7%94%B7/dp/4757219040
経済教育学会でお世話になっている両先生の最新刊です。お二人は、「アメリカの高校生が読んでいる世界経済の教科書」をはじめ、入門経済学シリーズを積極的に発刊しています。
今回のこの本も、入門シリーズですが、授業にも役立つポイントがいくつかありましたので、紹介します。
まず、行動経済学と既存経済学の違いです。
P005
…「合理的経済人(「ホモ・エコノミカス」。つまり、従来の経済学(「主流派経済学」ともいいます)が想定している人間がモデルです。
…合理的経済人は、意思決定に必要な完全情報を有していて、計算能力も完全で、自分の効用(満足度)を最大化できると仮定します。
これに対して、行動経済学が想定している人間は「限定合理的」=例えば、感情によって動くというものです。
P016
多くの人はなるべく合理的であろうと考えて行動していますが、気が付くとその行動には偏り(バイアス)が出てしまうということがしばしばあります。人間は限定合理的な生き物なのです!行動経済では、この限定合理的な人間(普通の人)が主人公なのです。
P018
人間を不合理のかたまり(限定合理的)としてとらえた上で、現実の経済活動においてどのようにふるまうかを観察、分析する学問が行動経済学です。行動経済学では、「人の嗜好や好みは状況や雰囲気に応じて、その都度変化する」と考えます。
合理的ではない例です。
飛行機事故と交通事故。飛行機事故は年間200万回フライトのうち、1回だそうです。1/200万回です。しかし日本人が死亡交通事故にあう確率は、1.4万人に1人の割合です。
ですが、主観的には「飛行機事故」の方にイメージが引きずられてしまいます。
ギャンブルで、コインの表が5回続けて出たとします。次は裏にかけたいところです。ですが、本来は、次のコインの裏表が出る確率は、1/2です。前回表が出たからと言って、次は裏が出やすいということはありません。
「選択肢が多いほど効用を最大化できる」とするのが伝統的経済学です。ですが実際には、「選択肢が多すぎると、混乱する」のです。選択麻痺という状態です。
ジャムの試食が、6種類の場合と、24種類の場合の実験です。当然後者の方が「選択肢が多い」のですが、売れたのは前者の6種類の方でした。人間は選択肢が多すぎるとかえって選択そのものをあきらめてしまうのです。これは「ジャムの法則」といいます。
「松」「竹」「梅」のすしセットがあります。
加えて「ホタテ盛り」「日替わり限定セット」「マグロ尽くし」「海鮮丼」「ちらし・・」と増えれば増えるほど、「分からなく」なってきます。
ちなみに3種の場合、一番売れるのは「竹」です。
<コミットメント宣言の大切さ>
人間は、現在を大切にするという「時間選択理論」があります。1年後の101万円と、今の100万円、どちらがほしいかを選ぶ場合、多いのは、圧倒的に現在の100万円です。
次のような実験があります。
イスラエルの学生に2つのレポート課題を設定します。
①イスラエルの母国語であるヘブライ語の文献で、将来役立たないテーマ
②第2言語である英語の文献で、将来役に立つテーマ
締め切りを2つ用意しました。1週間後と10週間後です。結果として1週間後の場合は、①、10週間後の場合は、②を選択しました。
近い将来の場合、手っ取り早く片付けようとし、遠い将来の場合は、理想的な課題を選ぶのです。
同書p158

どうでしょうか。生徒に宿題を出す場合、夏休み後に提出させるような長期課題の場合は、少々難解なもの(例えば原稿用紙10枚分の小論文)、明日までの宿題の場合、簡便なもの(例えばドリル学習)を用意すると、生徒の満足度は高まります。
会社でも使えますね。長期的課題の場合と、短期的目標の場合。部下の能力を最大限に発揮させるためには、「じっくり」と「手っ取り早く」の両方の視点が必要です。
また、これらの宿題を学生に課す場合、人間は自分の判断を高くしがちだということも、見落としてはいけません。
これから論文を書く学生に、完成までの期間を質問した実験です。
①もっとも順調な場合にかかる期間
②もっとも手間取った場合にかかる期間
学生の平均は、①の場合は27.4日間、②の場合は48.6日間でした。その平均は、33.9日です。そして実際に論文に費やした時間は、55.5日でした。予定より、1.6倍長くかかったのです。しかも、②の時間よりも、1週間余計にかかるのです。
「計画は1.6倍に遅れる傾向」にあるのです。そう考えると、生徒の課題の遅れを意識した時間設定ができます。
また、実際に論文を作成する場合、27.4日とか、48.6日とか、学生は口にしません。しかし、自分が口に出した27.4日とか、48.6日が目標になって行動を起こすことが分かりました。
論文完成の時間を問われた学生は、自分が答えた時間を意識せざるを得なくなり、優先的に論文を書くようになった―のです。
「宣言することで自分の行動を制約する」のです。これを「コミットメント」と言います。将来における自分の行動を約束することで、その約束を守るように自発的に行動することです。
小学校で、児童に「自分の今学期の目標」などを書かせて、掲示することがあります。あれは有効な手段の一つだったのですね。
あるいは、「こうしろ」と生徒に言うより、生徒から「こうします」という目標を引き出す。この方が、より「自発的」に行動します。
このように、「コミットメント」は、人間の意志決定において、重要だということが分かりました。
アメリカのFRB議長が、「将来的な見通し」について「こうする」と語ることが、いかに重要なことかが分かります。
いっぽう、「一度宣言したことなので、その成功欲求」に縛られると、コスト的に合わないと気がついても、やめようと考えなくなってしまいます。英仏共同開発のコンコルドは開発途中で「採算に合わない」ことが分かりましたが、あまりに巨大なカネをつぎ込んでしまったため、引き返せなくなりました。「コンコルドの誤謬」として有名です。
日本では八ッ場(やんば)ダムの混乱がありました。やっと「合意形成した」のに、「止めるといったら止める」と担当大臣が宣言し、その後は、大臣が変わると、その宣言自体を「見直す」といったり・・・。
原子力政策もそのような例として、同書では取り挙げられています。「サンク コスト理論」として知られています。
<外為特別会計>
日経H23.7.21

災害復興の財源に、外為特別会計を使う案が、検討されるようです。
2011年6月21日 『米国債を売れ 外貨準備を復興財源に』記事を再掲します。
<外債を売ることは可能か>
外貨準備を復興財源に使うことについて反対論は大きく3つある。
①まずは為替相場への影響だ。米国債を一手に大量売却すれば、ドルの下落つまり円高になり、日本の輸出産業に大きなマイナスの影響を与える恐れがあるというものだ。
榊原英資 青山学院大教授 『外貨準備を減らせば、円高になる 日本が持つ外貨準備を売却すれば必ず円高になる。将来の極端な円安に備える意味でも現在の水準を維持しておくべきだ』p30
…兆円単位で外貨準備をとり崩したら、為替市場におけるドル売り介入になり、必ず円高になる。
円売りドル買いや、ドル売り円買いなどの為替介入は、超短期1ヶ月や2ヶ月程度の相場に影響を与えることはできますが、長期的にはまったく影響を与えることはありません。
http://allabout.co.jp/finance/gc/312608/『日銀の為替介入の効果とは?掲載日:2010年09月23日』
2010年9月15日に実施された日銀の為替介入で円高に歯止めがかかりました。しかし、過去、介入によって長期トレンドを捻じ曲げられたことはないのです。

…たとえば、前回日本が行った大規模な介入時の為替推移は上記URLのようでした。2003~2004年春にかけて総額35兆円もの大規模な介入がなされ、その都度短期的な効果はあったのだと思いますが、月足で見ると何の効果も見えず、円高はこの間ぐんぐんと進みました。
…結局大海である市場の波の向きは水鉄砲では変えることはできず、政府が為替介入を一切しなくなった2005年から、1円の政府預金を減らさずとも自然に円安に戻って行ったのです。このように為替の長期トレンドを決めるのは市場であって介入ではありません。市場はその時々のファンダメンタルズによって決まるのです。
つまり、10兆円程度ずつ、売ることは可能です。
②もう1つの反対論は、米国が納得しないというものだ。
橋本竜太郎首相(当時)が、’97年6月23日に「米国債を売りたい誘惑にかられたことがある」と発言し、翌日、NY株式市場が’87年のブラックマンデー以来の下げ幅を記録しました。その後、影響力の大きさに驚いた、日本政府は、「米国債売却」をタブーにしてきたというのですが。
p23

日経H23.6.9 『日本の中長期国債 中国、買い越し最高』

中国が日本の中長期国債を積極的に買い増している。
…一方、米国債の保有残高は3月末まで、5ヶ月連続で減少した。…ドル以外の資産に分散している。
…米国債の保有は減る傾向だ。…昨年10月末に比べると、残高は約300億ドル落ち込んだ。
…中国政府は外貨準備の運用先を明らかにしていない…。
中国は、世界最大の米国債保有国(約1.5兆ドル=120兆円)です。そのうち、中国は300億ドル(2兆4000億円分)の米国債を売却しています。アメリカ政府の許可を得ているのでしょうか?「運用先を明らかにしていない」のですから、それはないのでしょうね。
米国が納得しようがしまいが、市場メカニズムによる行動は可能のようです。
③3番目の反対理由は、外貨準備は政府が円建ての短期証券を発行して国内の金融市場から資金調達(借金)し、それを原資に外国資産を購入していたものだから、もし外貨準備を売って円にするなら、まずは債務を返済しなければならないというものだ。つまり、この財源として外貨準備を使うのはそれに見合う国債を発行するのと同じことになるという主張である。
問題は、この③番目の理由です。先に答を言うと、この「エコノミスト編集部」に問い合わせた所、結局、この③番目の理由どおり、新たに国債発行をしなければいけないことになり、この記事の主張自体、「?」と言うものでした。編集部が、「復興債にそのまま回すのは無理」と認めたことになります。つまり「マッチポンプ」です。

バランス・シートですから、必ず「資産」=「負債」になります。もしも、左側「外貨資産」79.9兆円を売れば、左側「政府短期証券(国債)」79.9兆円返済になります。つまり、このバランス・シートは、現在の「資産136.4兆円=負債136.4兆円」が、「資産56.5兆円=負債56.5兆円」になるのです。
さて、この短期証券を返済された方です。つまり、金融機関(銀行・保険会社・証券会社etc)はこの79.9兆円をどうしようとするのでしょうか。
まず、日本は、カネ余りです。貸出先がないので、金融機関は、国債を買って運用しています。
日本経済新聞「余剰マネー国債に流入」2010年.6月.25日
日本国債に投資マネーが流れ込んでいる。10年物国債利回りは前日比0.040%低下(債券価格は上昇)し、1.125%となった。2003年8月以来、6年10か月ぶりの低水準をつけた。
長期金利低下の理由の一つはカネ余りだ。個人や企業などが銀行預金などに資金を寝かせる一方、企業が設備投資を絞っていることから銀行の貸し出し需要は低迷。国内銀行の預金と貸出額の差額は4月末時点で前年同月比17.2%増の約159兆円となり、過去最大となった。
銀行はこの差額を国債に振り向けている。4月末時点で国内銀行が保有する日本国債の残高は約137兆円と27.6%増え、過去最高を更新した。

このグラフは,「都銀・地銀・第二地銀」の資金余りの状況を示しています。個人や企業から集めた預金額から,貸出額を差し引いたものです。130兆円のお金が,どこにも投資先がなく,放置されています。このお金は,銀行にとっては,ただ預かっているだけで,刻々と赤字になってしまう「お荷物のお金」です。預金者に金利をつけて返さなければいけないからです。銀行も,一刻も早くお金を借りてほしいのです。
日経H22.3.14

簡単に言えば、「借り手」がいないのに、「国債」を返却されても、金融機関は困ります。

そこで、「震災復興に、このカネを回せ」論が出てきます。
…震災で失われたインフラや仮設住宅の建設、放射能被害に対する保証などのために緊急に5兆円を超える財源が必要だという。復興のために特別国債を発行する案も提案されているが、結局は国の負債になることについては変わりない。まず考えるべきは、国が保有する外貨準備の取り崩しだ。現在日本の外貨準備は約90兆円に達しており、これは中国に次いで世界第2位だ。…外貨準備の約7割は米国債で運用されており、まったく有効に活用されていない。
結局、このカネは、直接、①「復興に回る=企業や、家計が、借金し、工場を再開したり、家を立て直したりする」か、②国や地方自治体が借金して(税金では回収できない)、そのカネを復興(道路や港の再生=インフラ整備)に使うしか、使い道はありません。
でも、①に需要がそんなにあるとは思えません。倒産が相次いでいる状況で、再建するのは、並大抵のことではできないからです。2重ローン問題もあります。
日経H23.6.9

そうすると、②に期待するしかありません。例えば、2次補正予算は、「10兆~15兆円」が想定されています。
結局、外債を売り払った分、短期証券を返済し、さらに新たな国債を発行し、そのカネを財源に回すことになります。

結局、過去の借金の額(国債発行額)は、そんなに変わらない事になります。
ただし、外国債券運用による「長期金利 > 短期金利」よりも、 「復興による利益 > 短期金利」であれば、カネがより有効に使われることになります。
<追記 短期国債保有者>

<追記 人口減 加速>
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110809-00000092-jij-pol
総人口、82万7千人減=震災で東北22市町村除外―総務省
時事通信 8月9日(火)17時18分配信
総務省が9日発表した住民基本台帳に基づく2011年3月末時点の日本人の総人口は、前年比82万7235人減の1億2623万625人となった。2年連続減少だが今回は東日本大震災の影響で岩手、宮城、福島3県の計22市町村が集計から除外された。
この82万と言う数字は、下記の市に匹敵します。(H23年7月現在)
堺市 842,134
新潟市 812,192
浜松市 800,912
つまり、上記クラスの市が、丸ごとなくなった計算になります。毎年この勢いで減ると・・・
日経H23.8.10
…22市町村を除いた前年比較では12万2679人の減少。総人口は前年に続き2年連続で減った。
統計数が、ネタ元によって違います。どっちが正解ですか?
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