榊原英資 早稲田大学教授
榊原英資 早稲田大学教授 日本経済新聞21年12月20日 『構造的デフレには、構造改革を』
…現状のデフレは、需給ギャップや貨幣政策によるものではない。グローバリゼーションを背景にした、供給サイドの要因によるもので、規制の緩和や、流通革命なども大きく影響している。…先進国では、すでに「モノ」が溢れ、かつての販売を支えてきた買い替え需要が次第に弱くなってきているのだ…。
<なぜ日本だけがデフレか>
榊原さんは、「グローバリゼーションを背景にした、供給サイドの要因」が、デフレの原因といいます。中国や、ベトナム、ミャンマーのような人件費の低いところでモノが生産され、それが世界に輸出されるので、モノの値段が下がるのだということです(カテゴリー榊原英資 参照)。
これは、「良いデフレ論」と昔言われましたが、典型的な誤りです。
デフレは、物価が下がる=お金の価値が上がる事です。1000万円だった家が、翌年950万に下がるとします。このばあい、お金の価値は、50÷950×100=5.26%アップします。つまり、金利が5.26%ついたのと同じ=1000万円が1年後に1052万6千円になったことと同じなのです。このような状態の中、名目金利をいくら下げても(たとえば限りなく0%に近く)、実質金利は5%以上もついてしまうのです。金利政策は無効になります。「0金利」政策を採用しても、物価が1%下落したら、実質金利は1%ついてしまうのです。
お金をただ持っているだけで、金利がつくのです。1年待てば、「物価が下がる(デフレ)」というのは、こういうことです。これなら、誰もお金を使おうとはしません。黙っていても、高金利がつくのですから。これがデフレです。「良いデフレ」など、あり得ません。
世界中の国が、中国からの輸入を増やしたのに、日本だけがデフレでした。岩田規久生『景気ってなんだろう』ちくまプリマー新書 2008 p157
どうして、日本と同じように、あるいは日本以上に中国・ASEAN製品を輸入しているアメリカやEUが、インフレだったのでしょうか。
中井浩之 埼玉大学客員教授 グローバル化経済の転換点 中公新書 2009 p166-167
グラフ

もしも榊原さんが言うように、「グローバリゼーションを背景にした、供給サイドの要因」が、デフレの原因であれば、世界中にデフレが波及するはずです。にもかかわらず、日本だけがデフレ・・・。
日本のように供給能力過剰の国(貿易黒字国)は、デフレ要因が働くはずですが、日本だけがデフレ・・・。
ということは、榊原さんが否定してる部分、「…現状のデフレは、需給ギャップや貨幣政策によるものではない」。ではなく、その反対、 「…現状のデフレは、需給ギャップや貨幣政策によるものだ」。が正解ということになります。
1 需給ギャップ
需要と供給
三面等価の図を見てみましょう。総生産GDP=総分配GDI=総支出GDEです。総生産は、我々の所得の総額です。
総生産Y=C+I+G+EX(総需要)

C=家計が主体の消費(Consumption )、I=企業が主体の投資(Investment)、G=政府最終支出、EX=輸出を足します。
Y(つまりGDP)を伸ばす=C、I、G、EXのいずれかを増やすということです。
「内閣府の試算では、1~3月期の需要不足は45兆円(年率換算)」ということは、Y=C+I+G+EX-45です。
Y=家計+企業+政府+輸出-(45)
なんと、総生産GDP(=総所得GDI)が(45)兆円も減る計算になります。
だから、右辺に+(45)を加えてやらなければなりません。(45)をプラスできるのは、家計でしょうか、企業でしょうか、政府でしょうか、輸出でしょうか?
家計は消費を節約しています。企業も在庫調整を進めています。輸出は前代未聞の落ち込みです。
残りは「政府」しかありません。政府が支出を(45)兆円(年率換算)増やせばよいのです「2009年度補正予算14兆円」を成立させたのは、こういうわけです。
日本は、その需要に対して、供給能力が過剰なのです。日本人が必要としている量以上に、生産力があるのです。
供給>需要
そのギャップを、「輸出」で埋めてきましたが、一昨年のリーマン・ショック以降、「輸出」がガタ落ちになりました。需給ギャップが(45)兆円にもなってしまったのです。
モノ・サービスが売れない場合、企業は、「価格」を下げるか「生産量」を減らすかで対応します。ジーユーや、スーパーのSEIYUが1000円を切るジーンズを販売し、すき屋が牛丼を280円に値下げしたのは前者です。
一方、一昨年来、製造業において「派遣切り」が話題となったのは、製造業が「在庫量」を調整しようと、生産を縮小したのが原因です。
日本は供給能力過剰なのです。
2 貨幣政策
日銀は、物価上昇率0%を目標にしてきました。ゼロを上限とする物価目標政策です。こんな状態でデフレが解消されるわけはありません。
グラフ 原田泰『日本はなぜ貧しい人が多いのか』新潮選書2009 p242
P250

「…日銀は、消費者物価の前年同月比上昇率が少しでもゼロ%を上回れば、金融を引き締めてきた…すなわち、日銀が実質的にゼロ%物価目標を採用しているから、物価が上がらないことになる。…物価を決めているのは金融政策である。日本銀行が、実質的な物価上場率目標をいくつにするかで、物価上昇率が決まる」のです。
「…現状のデフレは、需給ギャップや貨幣政策による」ものだが正解なのです。
…現状のデフレは、需給ギャップや貨幣政策によるものではない。グローバリゼーションを背景にした、供給サイドの要因によるもので、規制の緩和や、流通革命なども大きく影響している。…先進国では、すでに「モノ」が溢れ、かつての販売を支えてきた買い替え需要が次第に弱くなってきているのだ…。
<なぜ日本だけがデフレか>
榊原さんは、「グローバリゼーションを背景にした、供給サイドの要因」が、デフレの原因といいます。中国や、ベトナム、ミャンマーのような人件費の低いところでモノが生産され、それが世界に輸出されるので、モノの値段が下がるのだということです(カテゴリー榊原英資 参照)。
これは、「良いデフレ論」と昔言われましたが、典型的な誤りです。
デフレは、物価が下がる=お金の価値が上がる事です。1000万円だった家が、翌年950万に下がるとします。このばあい、お金の価値は、50÷950×100=5.26%アップします。つまり、金利が5.26%ついたのと同じ=1000万円が1年後に1052万6千円になったことと同じなのです。このような状態の中、名目金利をいくら下げても(たとえば限りなく0%に近く)、実質金利は5%以上もついてしまうのです。金利政策は無効になります。「0金利」政策を採用しても、物価が1%下落したら、実質金利は1%ついてしまうのです。
お金をただ持っているだけで、金利がつくのです。1年待てば、「物価が下がる(デフレ)」というのは、こういうことです。これなら、誰もお金を使おうとはしません。黙っていても、高金利がつくのですから。これがデフレです。「良いデフレ」など、あり得ません。
世界中の国が、中国からの輸入を増やしたのに、日本だけがデフレでした。岩田規久生『景気ってなんだろう』ちくまプリマー新書 2008 p157
どうして、日本と同じように、あるいは日本以上に中国・ASEAN製品を輸入しているアメリカやEUが、インフレだったのでしょうか。
中井浩之 埼玉大学客員教授 グローバル化経済の転換点 中公新書 2009 p166-167
グラフ

もしも榊原さんが言うように、「グローバリゼーションを背景にした、供給サイドの要因」が、デフレの原因であれば、世界中にデフレが波及するはずです。にもかかわらず、日本だけがデフレ・・・。
日本のように供給能力過剰の国(貿易黒字国)は、デフレ要因が働くはずですが、日本だけがデフレ・・・。
ということは、榊原さんが否定してる部分、「…現状のデフレは、需給ギャップや貨幣政策によるものではない」。ではなく、その反対、 「…現状のデフレは、需給ギャップや貨幣政策によるものだ」。が正解ということになります。
1 需給ギャップ
需要と供給
三面等価の図を見てみましょう。総生産GDP=総分配GDI=総支出GDEです。総生産は、我々の所得の総額です。
総生産Y=C+I+G+EX(総需要)

C=家計が主体の消費(Consumption )、I=企業が主体の投資(Investment)、G=政府最終支出、EX=輸出を足します。
Y(つまりGDP)を伸ばす=C、I、G、EXのいずれかを増やすということです。
「内閣府の試算では、1~3月期の需要不足は45兆円(年率換算)」ということは、Y=C+I+G+EX-45です。
Y=家計+企業+政府+輸出-(45)
なんと、総生産GDP(=総所得GDI)が(45)兆円も減る計算になります。
だから、右辺に+(45)を加えてやらなければなりません。(45)をプラスできるのは、家計でしょうか、企業でしょうか、政府でしょうか、輸出でしょうか?
家計は消費を節約しています。企業も在庫調整を進めています。輸出は前代未聞の落ち込みです。
残りは「政府」しかありません。政府が支出を(45)兆円(年率換算)増やせばよいのです「2009年度補正予算14兆円」を成立させたのは、こういうわけです。
日本は、その需要に対して、供給能力が過剰なのです。日本人が必要としている量以上に、生産力があるのです。
供給>需要
そのギャップを、「輸出」で埋めてきましたが、一昨年のリーマン・ショック以降、「輸出」がガタ落ちになりました。需給ギャップが(45)兆円にもなってしまったのです。
モノ・サービスが売れない場合、企業は、「価格」を下げるか「生産量」を減らすかで対応します。ジーユーや、スーパーのSEIYUが1000円を切るジーンズを販売し、すき屋が牛丼を280円に値下げしたのは前者です。
一方、一昨年来、製造業において「派遣切り」が話題となったのは、製造業が「在庫量」を調整しようと、生産を縮小したのが原因です。
日本は供給能力過剰なのです。
2 貨幣政策
日銀は、物価上昇率0%を目標にしてきました。ゼロを上限とする物価目標政策です。こんな状態でデフレが解消されるわけはありません。
グラフ 原田泰『日本はなぜ貧しい人が多いのか』新潮選書2009 p242
P250

「…日銀は、消費者物価の前年同月比上昇率が少しでもゼロ%を上回れば、金融を引き締めてきた…すなわち、日銀が実質的にゼロ%物価目標を採用しているから、物価が上がらないことになる。…物価を決めているのは金融政策である。日本銀行が、実質的な物価上場率目標をいくつにするかで、物価上昇率が決まる」のです。
「…現状のデフレは、需給ギャップや貨幣政策による」ものだが正解なのです。
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