ユニクロ型デフレで日本は沈む

文芸春秋2010年1月「ユニクロ型デフレで日本は沈む」荻原博子浜矩子

荻原さんは、経済学を知らないので、別に構いません(円高になると、輸入品が安くなり、デフレが加速するなどと言っていますが、まったく根拠はありません)が、浜さんは、経済学者なので、言っていることが間違っていたり、主張が変わるのは、混乱のもとです。

(1)

 …ここまでデフレが進んだのは、いわば日本がグローバル化に過剰に反応してきたからだといえると思います。…安い労働力を求めて海外に生産拠点を移せば、失業者が増えます。失業しないまでも日本の労働者は外国の安い労働力と競合関係に入りますから賃金は増えない。…だから、この10年のデフレは「ユニクロ型デフレ」とでも呼びたいですね。

(2)
萩原
 日本のグローバル化に適応した経済の構造自体が激しいデフレを招いているとしたら、景気が上向いてもデフレから脱却できるとか、財政出動をすればデフレが解消されるというものではありませんね。


 そうなんですこれまでの経済学や経済政策の常識が全く通用しない世界になっていますから、全く違う発想が求められているんだと思います。


 …巨額の財政出動に踏み切れば、ますます借金がかさみます。「事業仕分け」などで財政を縮小すれば、さしあたりはデフレの拍車をかけることになってしまうかもしれません。…むしろ思い切って国民に国債大量増発を納得してもらうことも必要かもしれません。その上でそのカネを従来型とは違う21世紀グローバル時代型デフレへの対応に使っていく。

(3)

 こうして議論している間にも今度はアラブ首長国連邦の一角、ドバイ発の信用不安が地球経済を震撼させることになりましたね…グローバル時代は、連鎖の時代ですから…ハイパーデフレがさらに超ハイパーデフレ化する恐れも出てきました


(1)「ユニクロ型デフレ」は存在しない

浜さんの言う、「ユニクロ型デフレ」です。

 ①グローバル化→製造業は賃金の安い国へ(あるいは日本の製造業の賃金低下)→デフレ
 ②ユニクロ→中国拠点→安く製造→日本へ輸入→デフレ

 まず①ですが、日本の製造業の割合は、2割以下です。サービス業が7割を超えています。サービス業は「輸出・輸入」することができません日本の賃金の低下は、「製造業の外国との価格競争」ではなく、第3次産業=サービス業によるものなのです。

 参考引用文献:原田泰『日本はなぜ貧しい人が多いのか』新潮選書2009 p248-249
 消費者物価全体を100とした時、占めるウエイトは、サービス業が40.9(情報通信費含む)、耐久消費財5.5 となります。消費者物価に一番大きな影響を与える、ウエイトが一番大きなものは、「輸出入できない」サービス業です。しかも、サービス価格のうち最も大きなコストは人件費です。製造業の海外移転(国内賃金低下)によってもたらされたものではありません

 消費者物価のなかで、ウエイトの一番大きなものはサービスで、サービス価格のうちもっとも大きなコストは人件費(賃金)である。賃金は、それ以外にも、すべての物価の中にコストとして入っている。賃金はまた、所得でもある。所得が増えれば需要が増え、需要が増えれば物価も上がりやすくなる。物価が上がれば、賃金も上がりやすくなる。物価が上がった時に、賃金が上がらなければ利潤は増える。物価と利潤が上がっているのに、いつまでも賃金を抑えておくことはできない。しかし、現実に物価は上がっていない。となると、物価があがらないから賃金があがらず、賃金があがらないから物価もあがらないということになる。

 しかも、日本の輸出は、パナソニックやトヨタなど、一般消費者向けの商品ではありません7割以上が、工業用原料と、資本財(5割)です。(参考資料 JETRO)

 資本財とは、半導体の原材料、鉄鋼、工作機械、プラントなどです。これらを含め、日本の輸出の7割は、「企業相手」であり、しかも、これらは、「日本企業の独壇場」です。シリコン・ウエハー(DRAMの心臓)や、金属並みの強度を持つ繊維(旅客機用)、コマツの建機、中国が自動車を生産するときの金型etc。これらがないと、韓国も中国も、輸出国足り得ません。
 これらの輸出業界は、高付加価値=「簡単にいえば、高値」業界です。しかも、賃金低下はしていません(リーマンショック以後は除く)。製造業=デフレ要因とは言えないのです。

 次に②です。中国・香港や、東南アジアから、安い工業製品が入ってきて日本のモノの価格を押し下げた=「良いデフレ論」ですが、こんなことは、まったくありません

 なぜなら、同時期、日本以上に、中国・香港や、東南アジアから輸入している、米国も欧州も、デフレにはなっていないからです。つまり、日本だけが「デフレ」だったからです。外国から安いものが入ってきて、デフレになるのなら、日本以上に中国製品を輸入する米国や欧州は、なぜデフレにならないのでしょう

グラフ 中井浩之(埼玉大学)『グローバル化経済の転換点』中公新書2009p167
中国輸出先

 中国からの輸出は、1位米国向け19.4%、2位東アジア圏16.5%、3位ユーロ圏11.5%、4位日本10.3%です。2002年には、アメリカ向けの割合は、25.3%(日本19.3%)でした。それなのに、なぜ日本だけデフレ

<デフレの正体は日銀の政策>

 日銀は、物価上昇率0%を目標にしてきました。ゼロを上限とする物価目標政策です。こんな状態でデフレが解消されるわけはありません

グラフ 原田泰『日本はなぜ貧しい人が多いのか』新潮選書2009 p242
日銀 物価上昇率0目標政策

P250 
「…日銀は、消費者物価の前年同月比上昇率が少しでもゼロ%を上回れば、金融を引き締めてきた…すなわち、日銀が実質的にゼロ%物価目標を採用しているから、物価が上がらないことになる。…物価を決めているのは金融政策である。日本銀行が、実質的な物価上場率目標をいくつにするかで、物価上昇率が決まる」

のです。

(3)
 ドバイ発の信用不安が地球経済を震撼させることになりましたね…グローバル時代は、連鎖の時代ですから…ハイパーデフレがさらに超ハイパーデフレ化する恐れも出てきました。

 「ハイパーデフレが超ハイパーデフレ」・・・・・アニメのような表現ですが、デフレが波及することはありませんデフレは「各国中央銀行の政策」によるからです。


(2)じゃあ、どうすればいいかの具体策は?

荻原
 景気が上向いてもデフレから脱却できるとか、財政出動をすればデフレが解消されるというものではありませんね。

 そうなんです。


 財政出動では解決しないと言っているのに、次では、

「事業仕分け」などで財政を縮小すれば、さしあたりはデフレの拍車をかけることになってしまうかもしれません。…むしろ思い切って国民に国債大量増発を納得してもらうことも必要かもしれません。その上でそのカネを従来型とは違う21世紀グローバル時代型デフレへの対応に使っていく。

 と、財政出動を提案しています。矛盾しています。しかも、この人は、前号の論文で、「財政出動はバブルを招くから、ダメだ」と主張していました。

 このブログ、前回の浜矩子 2009年12月8日 に載せた文章です。

文藝春秋2009年12月号 浜矩子『国債バブルがはじける時』

 この人は、同志社大学経済学部の教授です。
 彼女は、金融危機後に、各国の政府と中央銀行が、提供している低金利政策や財政支出の拡大について、「国債バブル」という表現を使っています。それらの財政出動や金利政策は、恐慌からの脱出にはふさわしくないと考えています。

 過剰な生産と投資を調整し、膨らみすぎた世界経済を縮小させることが出発点になるというふうに主張しています。国債については、

 政府が市場に投下している、巨額の札束の元手は、恐慌下で税収が減っているため、結局のところ国債という未来からの借金である。それは国債バブルでもある。

としています。

 その「財政バブル」についてこのようにも解説しています。

 2009年の主要な先進国の財政赤字の対 GDP 比は英国12.8%米国10.2%。日本7.8%フランス6.7%となり、先進7か国の財政赤字は、合計約220兆円と、2007年の4倍に達するという。しかも「財政バブル」を支えているのは未来からの借金である国債である。

「膨張しすぎた金融の世界をまともなサイズに縮小しなければいけない」と、イギリスの金融サービス機構長官アデア・ターナーの言葉を引用します。

 要するに、彼女の考え方は、実体経済に基づいた経済規模に戻せということです。

今回の、対談との間に、論理の整合性がありません。
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