藻谷浩介 その9『デフレの正体』角川oneテーマ21
藻谷浩介 その9『デフレの正体』角川oneテーマ21
著者は、GDPの構成要素の一つ、内需を増やす方策を述べます。
p264
「内需を維持しつつ同時に生産性も高めていける」という、日本の歴史はじまって以来の大チャンスなのです。
その一方、その指標である、GDPの三面等価を否定します。
p168「三面等価の呪縛」
「常に正しい」三面等価式を持ち出すとは、何やら神聖不可侵な雰囲気の議論でありますが…結果発生した消費者余剰は、高齢者が老後に備えて確保する極めて固定性の高い貯蓄という形で「埋蔵金」化してしまい、経済社会に循環していません。こういう現実を、「常に正しい」三面等価式ではどう説明するのでしょうか。
P168
…消費者人口の減少→供給能力過剰→在庫積み上がりと価格競争激化→…(在庫が腐る)という現象です。
P169
…製造業や小売業、不動産業などの場合、「在庫の増加」自体は…「投資」の一種として説明されます。…「在庫投資が増えた…」ということで前向きに処理されるわけです。…ということは、売れようが売れまいが在庫を積み増しながら生産を続ければ、GDPは増え続けるわけです。…「三面等価というのは発生ベースの話であって、その後に起きる在庫処分などは知ったことではない」ということであれば、この式は「常に正しい」どころか、時価会計の時代にはそぐわない、実質的には意味のないものになってしまいます。
この点について、検証します。長いですがよろしくお願いします。
<GDPとは何か>
拙著:『高校生からのマクロ・ミクロ経済学入門』より
GDPは国内総生産(Gross Domestic Product)のことです。ある一定期間に,国内で生産されたすべてのモノ・サービスの付加価値の総額です。教科書・資料集では,このように説明されています。
GDPの計算 帝国書院資料集『アクセス現代社会2008』 2008年 p87

上の図で,農家は100万円分の生産,製粉業者は130万円分の生産,パン屋は200万円分の生産をしていますので,総生産は,430万円になりそうです。しかし,製粉業者は,原材料として,100万円分の小麦を仕入れています(中間生産物と言います)ので,実際のもうけ(付加価値と言います)は130-100=30万円になります。同じように,パン屋の場合は,200-130=70万円になります。ですから,農家100万円+製粉業者30万円+パン屋70万円,合計200万円が,この国のGDP(国内総生産)になります。付加価値とは、もうけのことです。儲けの合計がGDPです。
<GDPは,給料の総額>
なぜ,「GDP」が大事なのでしょうか。「別に,少しくらい減ってもかまわないのでは?」と言う声が聞こえてきそうです。あるいは,「GDPって増えなくてもいいんじゃない?」とか。
実は,こだわるのには,理由があります。それは,「GDPは,我々の給料の総額」だからです。
皆さんは,これからの日本は少子高齢化で人口が減るので,「自分の給料(アルバイト代)が減ってもかまわない」と自信を持って言えるでしょうか?たぶん,簡単には言えないと思います。「GDPあるいは,1人あたりGDPが減る」ということは,「我々の給料」が減るということです。
「GDPが増えない(成長率0%)」ということは,「日本人の所得が,全体では増えない」ということです。そうなると,決まった「GDP」の範囲内で,「誰かの所得が増えれば,誰かの所得が減る」という,ゼロサム・ゲーム(勝つか負けるか)をずーっと続けていくことになります。
高度経済成長時代に,「所得倍増計画」というのがありました。実際に我々日本人の所得は,倍増,3倍増になり,世界第2位の経済大国になりました。海外旅行でも,パソコンでも,携帯電話でも,何でも購入することが出来ます。家庭用TVは1人に1台とも言われています。好きなときに,回転寿司を食べられるようになりました。やはり豊かになったのは間違いありません。
「GDP(国内総生産)が増える」=「我々の所得(給料)が増える」ことなのです。このことを示すのが, 「GDPの三面等価」です。

桐原書店 教科書『新政治経済改訂版』H19 p114
三面等価とは,「GDP」を,①生産,②分配,③支出の,どの面から見ても同じであり,①生産=②分配=③支出になるというものです。
ラーメン屋さんを考えてみましょう。ラーメン屋さんの1ヶ月の売上げが,100万円だったとします。麺や具などの原料費(中間生産物)が50万円だったとすると,このラーメン屋さんの「GDP」(①生産)は50万円になります。
ラーメン屋さんは,その中から,アルバイト代や,お店の家賃,銀行にお金を借りているなら利息,税金,そのほかを払い,残った額がラーメン屋さんに溜(た)まり(留保(りゅうほ))ます。これらを②分配と言います。これらの総額は,50万円になります。
一方,ラーメン屋さんの1ヶ月の売上げ「GDP」は,お客さんが払ってくれた額です。これを③支出面から見た「GDP」と言います。お客さんが払った額は50万円です。お客さんは,実際には100万円払っていますが,総売上-中間生産物(この場合麺や具などの原料費)=もうけ(付加価値)になりますので,50万円が「GDP」でしたね。
このように,「GDP」50万円は,①生産,②分配,③支出の,どの面から見ても同じになります。
GDP=①総生産
=②分配(所得)=GDI(国内総所得)
=③支出(購入)=GDE(国内総支出)

帝国書院『アクセス現代社会2009』 P90 三面等価の原則
ですので,この表のように,GDP(国内総生産)=GDI (国内総所得)=GDE(国内総支出)ということになります。
このように,「GDPの三面等価」の原則から,「GDP(国内総生産)」=「我々の所得GDI (給料)」だということが分かります。ですから,「GDPあるいは,1人あたりGDPが減る」ということは,「我々の給料」が減るということです。日本は,これから総人口が減ります。「GDP」は減るか,増えても微増でしょう。ですので,大切なのは,「GDP」を全人口数で割った,「1人あたりGDP」です。1人あたりの「GDP」が今のままであれば,「我々の所得」も今のままを維持できることになります。
<GDPは付加価値の総額>
藻谷浩介『デフレの正体』角川oneテーマ21 p230
P177
GDPも同じでして、「…個人所得や個人消費、企業業績を何とか支え向上させていこうとする努力の先に、GDPの維持ないし成長がある」のです。
P158
日本の産業は、付加価値額を上げる方向に、人減らしではなく商品単価向上に向け努力すべきなのです。
そうです。付加価値額+付加価値額+付加価値額・・・・の合計がGDPだからです。
P145
以下の産業を…付加価値額の高い順に…並べてみてください。
①自動車(部品を除いて完成車組み立ての大企業のみとする)
②エレクトロニクス
③建設
④食品製造
⑤小売(百貨店、スーパー、専門チェーン、通販など)
⑥繊維・化学・鉄鋼
⑦サービス(飲食業や宿泊業、清掃業、コンサルティングサービスなど)
もしかして皆さん、並んでいる順だと…感じませんでしたか?それは逆です。⑦のサービスが一番付加価値率が高くて半分近くもあり、①の自動車が一番低くて2割を切っています。…このクイズに正解する人は本当に少ないです。
筆者は「日本はモノづくりの国だ(サービス業)ではない」と誤解しているので、クイズにしてみたのでしょう。
P67
…では「モノは売れていないが、サービスの売上はどんどん伸びている」というような事態が起きているのでしょうか。旅行産業を見ても外食産業を見ても、残念ながらまったくそんなことはありません。それにそもそも「日本はモノづくりの国」でありまして、国内でモノが売れないところへ輸出(=外国へのモノの売上)まで急落して皆さんが困っているのです。
P152
…車や住宅、電気製品といった、消費者一人当たりが買う量が限定されているような商品が日本経済の中心的な存在となってきたのでなければ、極端なことを言えば日本の主産業が…国際金融のように顧客の頭数と売上に関係ないようなものばかりであれば、私が言っているようなGDPの縮小は起きなかった…。ハーレーダビッドソンのオートバイだのフェラーリだのも…一種の芸術品なので、日本での売上はむしろ増えています。そういう産業が発達して日本経済の中核をなしていれば良かったのですが。
オートバイ国内販売台数は、1980年代の1割になりました。自動車生産台数も、ピーク時の7割です。
<日本の主産業はサービス業>
とうほう『政治・経済資料2010』p232-233


日本は、サービス業の国です。家計支出においても、サービスへの支出が増加し続けているのです。
<三面等価の否定>
p168
「三面等価の呪縛」
「常に正しい」三面等価式を持ち出すとは、何やら神聖不可侵な雰囲気の議論でありますが…結果発生した消費者余剰は、高齢者が老後に備えて確保する極めて固定性の高い貯蓄という形で「埋蔵金」化してしまい、経済社会に循環していません。こういう現実を、「常に正しい」三面等価式ではどう説明するのでしょうか。
P168
…消費者人口の減少→供給能力過剰→在庫積み上がりと価格競争激化→…(在庫が腐る)という現象です。
P169
…製造業や小売業、不動産業などの場合、「在庫の増加」自体は…「投資」の一種として説明されます。…「在庫投資が増えた…」ということで前向きに処理されるわけです。…ということは、売れようが売れまいが在庫を積み増しながら生産を続ければ、GDPは増え続けるわけです。…「三面等価というのは発生ベースの話であって、その後に起きる在庫処分などは知ったことではない」ということであれば、この式は「常に正しい」どころか、時価会計の時代にはそぐわない、実質的には意味のないものになってしまいます。
在庫処分は、GDPの三面等価式(フロー)ではなく国富(ストック)で処理されます。ですから、在庫が腐ると、国富が減るのです。GDPの三面等価とは関係ありません。
注)このGDP(フロー)と国富(ストック)については、後日、詳しく説明いたします。
とうほう『政治・経済資料2010』p232-233

その年の在庫投資は、三面等価式で、投資(I)に入ります。

「在庫投資が増えた…」ということで前向きに処理されるわけです。売れようが売れまいが在庫を積み増しながら生産を続ければ、GDPは増え続ける
についてです。
そもそも、在庫投資のGDPにしめる割合は1%以下なので、GDPにはたいして影響しません。

在庫には、①仕入れた原材料段階のもの、それを加工した②製品になった段階のものの、2つがあります。また、「意図した在庫」と「意図せざる在庫」があります。前者は売上を予想して企業が増減させた在庫、後者は企業の予想が外れた売れ残り在庫です。 GDP統計上、両者は区別できません。
企業は在庫を積み上げることはしません。最小の負担で、最大の利潤をあげることが目的だからです。
トヨタの「カンバン」方式は、在庫を極小にする試みです。また、一昨年のリーマン・ショック以降、派遣労働者の契約打ち切り、いわゆる派遣切りが問題になりました。これは、企業が在庫調整を進めた結果です。
在庫積み上がりと価格競争激化→…(在庫が腐る)
として、価格を下げるのではなく、在庫を生かすために、数量を調節するのです。いすづ自動車が派遣切りをしたのは、「車」を安く売るのを防ぎ、数量を調整したからです。在庫を生産し続け、結果としてGDPがアップすることはありません。
この、在庫の増減は、景気の予測をするうえで、重要な指標とされています。「最大利潤」を目的にした企業が、「売れようが売れまいが在庫を積み増しながら生産を続ければ、GDPは増え続ける。ですがその在庫を処分せざるを得なくなって評価損が発生したら?…営業余剰が減少するのでGDPも減るのではないでしょうかp169」という行動はとりません。
<サービスは時間に制約されない>
p172~
人口の減少は、国民が経済活動に使える時間の総合計=人口×365日×24時間(これを国民総時間と仮称…)の減少でもあります。…その中で消費に回す時間をこれ以上増やせるのか。…それは従来よりも高価なものを消費してもらうことによってしか達成できませんね。…高価な車やヨット…でもそれには乗る時間が必要です。高価なステージ…やっぱり時間が必要だ。
…より高い商品やサービスの購入につぎ込み続け、しかも買った後には使わない、という状況を想定しない限り、「消費の対時間生産性」がいつまでも伸び続けるというのは想像できません。
一つの打開戦略は…日本の商品がフランス、イタリア、スイスに対抗できるようなブランドを獲得…価値の高い商品をなるべく消費することです。…ですがすべての商品がそうなれるというわけではありません。
…ぜひこの「時間の経済学」を考え直し、そして、国民総時間の減少という制約を日本は乗り越えられるのか、という私の問いに答えを出してください。
確かに、モノを使うことは、時間に制約されます。ですが、サービスは、同時間に複数のサービスを同時に使うことが可能です。ここに成長の鍵があります。
たとえば、TVを見ながらパソコンを使い、携帯電話を使うことは、日本の日常生活で当たり前になりました。電気代、通信費の増大です。エアコンも同時に使用します。パソコンのクリック一つで、買い物に行く時間を節約します。宅配サービスが代行しています。
電車に乗りながら(交通サービス)、携帯やPC、IPADを使う、英会話教材を使うのも同じです。
また、コンサートに出かけてサービスを消費する間に、ベビーシッターや、掃除代行サービスを使用することが可能です。
さらに、寝ている間でも、24時間安心の、セキュリティーサービスを使用することが可能になりました。寝ていても、消費活動が可能なのです。これも新たなサービスです。
私たちが預けた、カネは、24時間、世界中を駆け巡っています。金融業は、最大のサービス業です。
IT革命は、時間の節約という、革命を起こしたのです。日本は「サービス業」の伸びている国なのです。
著者は、GDPの構成要素の一つ、内需を増やす方策を述べます。
p264
「内需を維持しつつ同時に生産性も高めていける」という、日本の歴史はじまって以来の大チャンスなのです。
その一方、その指標である、GDPの三面等価を否定します。
p168「三面等価の呪縛」
「常に正しい」三面等価式を持ち出すとは、何やら神聖不可侵な雰囲気の議論でありますが…結果発生した消費者余剰は、高齢者が老後に備えて確保する極めて固定性の高い貯蓄という形で「埋蔵金」化してしまい、経済社会に循環していません。こういう現実を、「常に正しい」三面等価式ではどう説明するのでしょうか。
P168
…消費者人口の減少→供給能力過剰→在庫積み上がりと価格競争激化→…(在庫が腐る)という現象です。
P169
…製造業や小売業、不動産業などの場合、「在庫の増加」自体は…「投資」の一種として説明されます。…「在庫投資が増えた…」ということで前向きに処理されるわけです。…ということは、売れようが売れまいが在庫を積み増しながら生産を続ければ、GDPは増え続けるわけです。…「三面等価というのは発生ベースの話であって、その後に起きる在庫処分などは知ったことではない」ということであれば、この式は「常に正しい」どころか、時価会計の時代にはそぐわない、実質的には意味のないものになってしまいます。
この点について、検証します。長いですがよろしくお願いします。
<GDPとは何か>
拙著:『高校生からのマクロ・ミクロ経済学入門』より
GDPは国内総生産(Gross Domestic Product)のことです。ある一定期間に,国内で生産されたすべてのモノ・サービスの付加価値の総額です。教科書・資料集では,このように説明されています。
GDPの計算 帝国書院資料集『アクセス現代社会2008』 2008年 p87

上の図で,農家は100万円分の生産,製粉業者は130万円分の生産,パン屋は200万円分の生産をしていますので,総生産は,430万円になりそうです。しかし,製粉業者は,原材料として,100万円分の小麦を仕入れています(中間生産物と言います)ので,実際のもうけ(付加価値と言います)は130-100=30万円になります。同じように,パン屋の場合は,200-130=70万円になります。ですから,農家100万円+製粉業者30万円+パン屋70万円,合計200万円が,この国のGDP(国内総生産)になります。付加価値とは、もうけのことです。儲けの合計がGDPです。
<GDPは,給料の総額>
なぜ,「GDP」が大事なのでしょうか。「別に,少しくらい減ってもかまわないのでは?」と言う声が聞こえてきそうです。あるいは,「GDPって増えなくてもいいんじゃない?」とか。
実は,こだわるのには,理由があります。それは,「GDPは,我々の給料の総額」だからです。
皆さんは,これからの日本は少子高齢化で人口が減るので,「自分の給料(アルバイト代)が減ってもかまわない」と自信を持って言えるでしょうか?たぶん,簡単には言えないと思います。「GDPあるいは,1人あたりGDPが減る」ということは,「我々の給料」が減るということです。
「GDPが増えない(成長率0%)」ということは,「日本人の所得が,全体では増えない」ということです。そうなると,決まった「GDP」の範囲内で,「誰かの所得が増えれば,誰かの所得が減る」という,ゼロサム・ゲーム(勝つか負けるか)をずーっと続けていくことになります。
高度経済成長時代に,「所得倍増計画」というのがありました。実際に我々日本人の所得は,倍増,3倍増になり,世界第2位の経済大国になりました。海外旅行でも,パソコンでも,携帯電話でも,何でも購入することが出来ます。家庭用TVは1人に1台とも言われています。好きなときに,回転寿司を食べられるようになりました。やはり豊かになったのは間違いありません。
「GDP(国内総生産)が増える」=「我々の所得(給料)が増える」ことなのです。このことを示すのが, 「GDPの三面等価」です。

桐原書店 教科書『新政治経済改訂版』H19 p114
三面等価とは,「GDP」を,①生産,②分配,③支出の,どの面から見ても同じであり,①生産=②分配=③支出になるというものです。
ラーメン屋さんを考えてみましょう。ラーメン屋さんの1ヶ月の売上げが,100万円だったとします。麺や具などの原料費(中間生産物)が50万円だったとすると,このラーメン屋さんの「GDP」(①生産)は50万円になります。
ラーメン屋さんは,その中から,アルバイト代や,お店の家賃,銀行にお金を借りているなら利息,税金,そのほかを払い,残った額がラーメン屋さんに溜(た)まり(留保(りゅうほ))ます。これらを②分配と言います。これらの総額は,50万円になります。
一方,ラーメン屋さんの1ヶ月の売上げ「GDP」は,お客さんが払ってくれた額です。これを③支出面から見た「GDP」と言います。お客さんが払った額は50万円です。お客さんは,実際には100万円払っていますが,総売上-中間生産物(この場合麺や具などの原料費)=もうけ(付加価値)になりますので,50万円が「GDP」でしたね。
このように,「GDP」50万円は,①生産,②分配,③支出の,どの面から見ても同じになります。
GDP=①総生産
=②分配(所得)=GDI(国内総所得)
=③支出(購入)=GDE(国内総支出)

帝国書院『アクセス現代社会2009』 P90 三面等価の原則
ですので,この表のように,GDP(国内総生産)=GDI (国内総所得)=GDE(国内総支出)ということになります。
このように,「GDPの三面等価」の原則から,「GDP(国内総生産)」=「我々の所得GDI (給料)」だということが分かります。ですから,「GDPあるいは,1人あたりGDPが減る」ということは,「我々の給料」が減るということです。日本は,これから総人口が減ります。「GDP」は減るか,増えても微増でしょう。ですので,大切なのは,「GDP」を全人口数で割った,「1人あたりGDP」です。1人あたりの「GDP」が今のままであれば,「我々の所得」も今のままを維持できることになります。
<GDPは付加価値の総額>
藻谷浩介『デフレの正体』角川oneテーマ21 p230
P177
GDPも同じでして、「…個人所得や個人消費、企業業績を何とか支え向上させていこうとする努力の先に、GDPの維持ないし成長がある」のです。
P158
日本の産業は、付加価値額を上げる方向に、人減らしではなく商品単価向上に向け努力すべきなのです。
そうです。付加価値額+付加価値額+付加価値額・・・・の合計がGDPだからです。
P145
以下の産業を…付加価値額の高い順に…並べてみてください。
①自動車(部品を除いて完成車組み立ての大企業のみとする)
②エレクトロニクス
③建設
④食品製造
⑤小売(百貨店、スーパー、専門チェーン、通販など)
⑥繊維・化学・鉄鋼
⑦サービス(飲食業や宿泊業、清掃業、コンサルティングサービスなど)
もしかして皆さん、並んでいる順だと…感じませんでしたか?それは逆です。⑦のサービスが一番付加価値率が高くて半分近くもあり、①の自動車が一番低くて2割を切っています。…このクイズに正解する人は本当に少ないです。
筆者は「日本はモノづくりの国だ(サービス業)ではない」と誤解しているので、クイズにしてみたのでしょう。
P67
…では「モノは売れていないが、サービスの売上はどんどん伸びている」というような事態が起きているのでしょうか。旅行産業を見ても外食産業を見ても、残念ながらまったくそんなことはありません。それにそもそも「日本はモノづくりの国」でありまして、国内でモノが売れないところへ輸出(=外国へのモノの売上)まで急落して皆さんが困っているのです。
P152
…車や住宅、電気製品といった、消費者一人当たりが買う量が限定されているような商品が日本経済の中心的な存在となってきたのでなければ、極端なことを言えば日本の主産業が…国際金融のように顧客の頭数と売上に関係ないようなものばかりであれば、私が言っているようなGDPの縮小は起きなかった…。ハーレーダビッドソンのオートバイだのフェラーリだのも…一種の芸術品なので、日本での売上はむしろ増えています。そういう産業が発達して日本経済の中核をなしていれば良かったのですが。
オートバイ国内販売台数は、1980年代の1割になりました。自動車生産台数も、ピーク時の7割です。
<日本の主産業はサービス業>
とうほう『政治・経済資料2010』p232-233


日本は、サービス業の国です。家計支出においても、サービスへの支出が増加し続けているのです。
<三面等価の否定>
p168
「三面等価の呪縛」
「常に正しい」三面等価式を持ち出すとは、何やら神聖不可侵な雰囲気の議論でありますが…結果発生した消費者余剰は、高齢者が老後に備えて確保する極めて固定性の高い貯蓄という形で「埋蔵金」化してしまい、経済社会に循環していません。こういう現実を、「常に正しい」三面等価式ではどう説明するのでしょうか。
P168
…消費者人口の減少→供給能力過剰→在庫積み上がりと価格競争激化→…(在庫が腐る)という現象です。
P169
…製造業や小売業、不動産業などの場合、「在庫の増加」自体は…「投資」の一種として説明されます。…「在庫投資が増えた…」ということで前向きに処理されるわけです。…ということは、売れようが売れまいが在庫を積み増しながら生産を続ければ、GDPは増え続けるわけです。…「三面等価というのは発生ベースの話であって、その後に起きる在庫処分などは知ったことではない」ということであれば、この式は「常に正しい」どころか、時価会計の時代にはそぐわない、実質的には意味のないものになってしまいます。
在庫処分は、GDPの三面等価式(フロー)ではなく国富(ストック)で処理されます。ですから、在庫が腐ると、国富が減るのです。GDPの三面等価とは関係ありません。
注)このGDP(フロー)と国富(ストック)については、後日、詳しく説明いたします。
とうほう『政治・経済資料2010』p232-233

その年の在庫投資は、三面等価式で、投資(I)に入ります。

「在庫投資が増えた…」ということで前向きに処理されるわけです。売れようが売れまいが在庫を積み増しながら生産を続ければ、GDPは増え続ける
についてです。
そもそも、在庫投資のGDPにしめる割合は1%以下なので、GDPにはたいして影響しません。

在庫には、①仕入れた原材料段階のもの、それを加工した②製品になった段階のものの、2つがあります。また、「意図した在庫」と「意図せざる在庫」があります。前者は売上を予想して企業が増減させた在庫、後者は企業の予想が外れた売れ残り在庫です。 GDP統計上、両者は区別できません。
企業は在庫を積み上げることはしません。最小の負担で、最大の利潤をあげることが目的だからです。
トヨタの「カンバン」方式は、在庫を極小にする試みです。また、一昨年のリーマン・ショック以降、派遣労働者の契約打ち切り、いわゆる派遣切りが問題になりました。これは、企業が在庫調整を進めた結果です。
在庫積み上がりと価格競争激化→…(在庫が腐る)
として、価格を下げるのではなく、在庫を生かすために、数量を調節するのです。いすづ自動車が派遣切りをしたのは、「車」を安く売るのを防ぎ、数量を調整したからです。在庫を生産し続け、結果としてGDPがアップすることはありません。
この、在庫の増減は、景気の予測をするうえで、重要な指標とされています。「最大利潤」を目的にした企業が、「売れようが売れまいが在庫を積み増しながら生産を続ければ、GDPは増え続ける。ですがその在庫を処分せざるを得なくなって評価損が発生したら?…営業余剰が減少するのでGDPも減るのではないでしょうかp169」という行動はとりません。
<サービスは時間に制約されない>
p172~
人口の減少は、国民が経済活動に使える時間の総合計=人口×365日×24時間(これを国民総時間と仮称…)の減少でもあります。…その中で消費に回す時間をこれ以上増やせるのか。…それは従来よりも高価なものを消費してもらうことによってしか達成できませんね。…高価な車やヨット…でもそれには乗る時間が必要です。高価なステージ…やっぱり時間が必要だ。
…より高い商品やサービスの購入につぎ込み続け、しかも買った後には使わない、という状況を想定しない限り、「消費の対時間生産性」がいつまでも伸び続けるというのは想像できません。
一つの打開戦略は…日本の商品がフランス、イタリア、スイスに対抗できるようなブランドを獲得…価値の高い商品をなるべく消費することです。…ですがすべての商品がそうなれるというわけではありません。
…ぜひこの「時間の経済学」を考え直し、そして、国民総時間の減少という制約を日本は乗り越えられるのか、という私の問いに答えを出してください。
確かに、モノを使うことは、時間に制約されます。ですが、サービスは、同時間に複数のサービスを同時に使うことが可能です。ここに成長の鍵があります。
たとえば、TVを見ながらパソコンを使い、携帯電話を使うことは、日本の日常生活で当たり前になりました。電気代、通信費の増大です。エアコンも同時に使用します。パソコンのクリック一つで、買い物に行く時間を節約します。宅配サービスが代行しています。
電車に乗りながら(交通サービス)、携帯やPC、IPADを使う、英会話教材を使うのも同じです。
また、コンサートに出かけてサービスを消費する間に、ベビーシッターや、掃除代行サービスを使用することが可能です。
さらに、寝ている間でも、24時間安心の、セキュリティーサービスを使用することが可能になりました。寝ていても、消費活動が可能なのです。これも新たなサービスです。
私たちが預けた、カネは、24時間、世界中を駆け巡っています。金融業は、最大のサービス業です。
IT革命は、時間の節約という、革命を起こしたのです。日本は「サービス業」の伸びている国なのです。
スポンサーサイト
theme : 間違いだらけの経済教育
genre : 学校・教育