食料なんて余っている

<食料なんて余っている>

トリストラム・スチュワート『世界の食料ムダ捨て事情』 NHK 出版2010年 写真も

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 世界の農業生産物・水産物は、過剰生産状態です。簡単に言えば、「余っている」のです。この事実を踏まえなければ、「日本の、農業自給率問題?(勝手に農水省が問題にしているだけですが)」なるものを、判断することはできません。

 川島博之『食糧危機をあおってはいけない』文藝春秋 2009 

p193…たとえばFAOはもともと「世界の食糧の生産を増やして飢餓を無くそう」という趣旨で、第二次大戦後まもなく国連傘下に設立された団体です。…当然報告書にしても…「食糧は余っていますよ」とは書かず…ところが、大学の先生たちはそんな責任はありませんから「食糧なんて余ってるよ」と本音ベースで話してくれるわけです。


<小売段階でのムダ>

p49~
 1997年、アメリカ政府は、同国の小売業が毎年約250万トンの食物を無駄にしていると見積もった。それはアメリカの食料総供給量の約2%にあたる。日本の小売業の無駄は公式には260万トン。イギリスの小売業の無駄については…1人当たりの比較では、アメリカの小売業の3倍以上に上る。
…とてつもない数字だが…それでもまだ少ないとされている。…それは食品産業全体で最も効率的企業から提供された廃棄物の統計に基づく推計で計算されたもの…。…さらに悪いことには…数字は小売業者自身から自発的に提供されたデータに基づいていて…

p288
…実際、日本国内で生み出される1900万トンの食品廃棄物のうち600万トンをコンビニとスーパーが出しているのである。


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 なぜ、このような廃棄物が出るのでしょうか?

p52~
 …まず第一に、スーパーは顧客の好みの商品を常に用意しておく必要があると思っている。目当ての品がないことに不満を持ち、得意客が去るのを恐れているのだ。
第二の要因は、在庫過剰で捨ててしまうことになっても利益が出るように価格が設定されていることだ。
 

工場ゴミ1.jpg
工場ゴミ2.jpg

 小売価格には、「廃棄される分」の価格も、きちんと含まれているのです。専門家は食料が余っていることを知っています。

 p103
 ロンドン市立大学教授で食料政策が専門のティム・ラング博士…「食品は国民に押し付けられ、消費者もそれに加担している。食料が有り余っているというモデルは、消費文化の一部になっている。供給が需要を支配しているわけです。本末転倒ですよ」
 

 余っているので、日本では「米の減反」ヨーロッパでも「作付面積の削減←補助金」が行われてきました。

p164
 農業部門の無駄のもう一つの主要な原因―は、農業補助金の仕組みから生じる。ユーロの共通農業政策(CAP)は、農家が栽培して市場で売れなかったものを、高い保障価格―世界市場よりずっと高く設定されている―で買い上げることを約束した。…農家は、ヨーロッパの全人口が消費しきれないワインの他、穀物やバターの山を作り出していたのだ。…この過剰生産という問題に対処するために、ECは“休耕地指定”なる策を考えた。それにより、農家は土地の最低10%を耕作せずに金を受け取り…。この政策は農産物の高騰後、2008年まで続いた。


 先進国では、どこもやっていることは同じだったのですね。

p166
アメリカでは同様の農業補助金改革は行われておらず、農家はいまだに自由市場が別の状況ならおそらく必用としないほど大量に生産して、補助を受けている。…多量の余分な食物…多くはゴミ箱にたどり着くことになる。ほかに行き場はない。

p95 
…例えばレタスは、全食品中わたしたちがいちばんよく捨てるもので、イギリスで購入されるサラダのうち、重量で見ると45%、金銭的には60%がゴミ箱行きになる。

p104
…イギリス…家庭が生み出す合計540万トンの…廃棄物は、人々が食べるために購入する全商品の実に25%にも当たる。それには職場での廃棄物や、食堂、ファストフード店、レストランでの食べ残しのさらなる数百万トンは含まれていない。…食堂ではおよそ5分の1の食べ物が無駄にされており、また学校給食の24~35%がゴミ箱行きになるという別の報告もある。

p111
…イギリスの世帯では、年間約102億ポンド(約1兆5300億円)の食品が捨てられており、国民1人当たり平均167ポンド(約25050円)…になる。アメリカにおける調査では同国の消費者の出す食品廃棄物は毎年540億ドルとなっている。
 

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<廃棄される野菜> 

 食料が足りない?そんなことは全然ないのです。天候不順で足りなくなったら?規格外で廃棄されているものを、流通させればすみます。

p153
 2007年、イギリス
で異常気象が続いた夏のジャガイモ収穫時のことだ。…全国で凡そ40%のジャガイモが駄目になり、ところによっては全滅だった。この破壊的損失の埋め合わせとして、小売業は海外からの輸入を余儀なくされると誰もが思うだろう。…それでも小売業者はほとんどのジャガイモを国内から調達することができた。それら追加分のジャガイモはいったいどこから来たのか。
…スーパーは彼らの余りに厳しい見た目の基準を緩めただけだというのだ。生産者はスーパーに“小さめの”ジャガイモを受け取るよう交渉し、検品担当者は非公式にテストを簡略化したのだった。

 このきびしい規格(曲がっている、ちょっと小さい、傷がついているetcでハネる)は、消費者が要求するだけではなく、国(EU)として設けているのです。

p144~
…ニンジンの29%が抜き取られていた。そのうちの半分が外見の“欠陥”、例えば形や大きさ不適当であったり、破損していたり、傷があるという―ニンジンそのものの食品としての品質には関係のない―理由で不合格になったものだ。
…基本的にヨーロッパの統一ルールとされるもののことだ。
…EU全ての農産物の外見を同じにすることを意図したものだ。こうした基準は日本やアメリカからの輸入品にも課せられている。

p150
…融通の利かない小売市場のせいで収穫する価値が無くなってしまうわけだ。例年作物の平均10~12.5%といったところらしい。…ニンジンの平均28%は人間の食品連鎖から外れ土に戻される…。…これに消費者が出す無駄を加えれば、イギリスで栽培される大量のニンジンは、農場から食卓に行き着くまでに58%がゴミになってしまい、たった42%しか人々の口に入らないのだ。


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p161
…まっすぐ過ぎる。曲がり方が極端すぎる、小さすぎる、大きすぎるという理由で廃棄されるバナナはその収穫量の20~40%およそ2000万トンに達する。


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 水産業も、同じです。

p168
 廃棄物は、農業と並ぶもうひとつの第一次産業の領域でも、慢性的問題となっている。それは漁業である。…つまり、小さすぎたり、お目当ての種類でなかったりするものが海に戻されることだ。欧州委員会の概算では、捕獲される40~60%の魚が海に返されてる…。…北海での年間投棄量はほぼ100万トンに達する
…船長は水揚げできる量に限界があるのを知っているので最高級種だけを残して、それほど儲からないものは…全て捨ててしまう…。

p176
…世界中で実際に消費される魚ベースのタンパク質の量は、世界の海で毎年殺される海洋動物のおよそ10%ほどにしかならない…。


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<途上国のロス>

 発展途上国でも、食品廃棄物は、大量にあります。こちらの場合は、保存の仕方がまずい、運び方がまずい、冷蔵庫がないといった、インフラの未整備にあります。

p186
 パキスタンの農家は約40種類の野菜と20種類の果物という羨ましい程の作物を生産している。ヨーロッパと異なり、パキスタンの土地では年に最大3回収穫が可能だ。それでも不注意による無駄のため、何百万人もの国民がおなかを空かせることになるのだ。

p193~
 …パキスタンの小麦の12.5%が畑から製粉所に届くまでに失われるとされる。それには小売業者と消費者の廃棄分は含まれていない。農民たちが地下に掘った原始的な穴に防水布で覆って貯蔵しておいた、地区の全収穫が失われてしまった例だ。洪水に見舞われ腐ってしまったのだ。
…パキスタンは世界第3位の牛乳生産国だが、年間生産量380億リットルの15%もの量を無駄にしている。
…必要な損失の話は、多くの途上国で繰り返し聞かされる。裕福な国々で無駄にされるすべての食物に加え、世界のお腹を空かせている国々でも何百万トンという食物が無駄に失われているのだ。

p196~
 …1993年、中国は穀物の収穫の15%を失った。11%もの米が駄目にされていたが、農民が管理の悪い建物に貯蔵していたせいだ。ベトナムでは同様に通常10%~25%の米が失われ、極端な状況では40~80%にのぼることもある。アジア中で米の平均的損失は13%前後で、ブラジルとバングラデシュの損失はそれぞれ22%、20%となっている。…すべての低所得国が15%の割合で穀物を失っているなら、収穫後の損失は1億5000万トンに達する。これはFAOが飢えに苦しむ途上国の人々のお腹を満たすのに必要とした計算した量の6倍に及ぶ。

p198~
 …乳製品は非常に無駄が出やすい。農場や市場に冷蔵や低温殺菌といった技術がないためだ。アフリカ東部と中東だけでも、2004年の牛乳の損失は、9千万ドルに上る。ウガンダでは、損失は全牛乳生産量の27%に達する。
途上国の乳製品輸入は1998年から2001年の間に全体で43%増えている。それについてFAO「不必要であり、収穫後の損失削減という簡単な方法で減らすことができる」としている。

 …スリランカは…年間の青果の損失率が30~40%。…旧首都コロンボ―まともな食生活のためにじゅうぶんな青果を買えない人たち何千人もいる町だ―の中央青果市場だけでも…概算で毎日11トンの果物等の野菜を捨てている。現在、同国でふんだんに取れる果物の大部分はポリ袋に入れられて、熱帯の暑さの中、でこぼこ道を車で何キロも走り、その間に農民の丹精した作物は甘くてべとつくピューレになってしまう。繰り返し利用できるプラスチックの箱を導入し、果物や野菜を収穫した時点ですでに出てそっと積み重ねる―…ことでこの問題はほとんどたちどころに解決するのだ。

p201
…例えば、インドの青果市場についての調査では17%の店に覆いがなく、冷蔵貯蔵設備があるのはわずか6%だった。…インドの食品産業においては、合計で毎年5180億ルピー(約120億ドル)の食物が無駄になっており、その多くはインフラの欠如が原因なのである。
 

 発展途上国では、こんなに無駄にしているのに、いざ食料高騰(例:2008年)が起きれば、ここぞとばかりに、高く買ってくれるところに売ります。自国民(所得が低い人々)のことなんか、構っていられません。

p206
 理屈では、パキスタンは2008年、世界の他地域にとてつもない打撃を与えた世界的食料供給のひっ迫から比較的隔離されているはずだ。なぜなら、小麦はほぼ自給でき、貿易障壁により世界市場の変動から守られていたからだ。
…けれどもこれらの方法のどれも完璧には機能しない。パキスタンのような国では…国内外での価格の開きが大きくなればなるほど、密輸業者と堕落した役人にとっては国境をまたぐ取引への誘惑が大きくなる。…2007年から8年も例外ではなかった。同国は穀物を輸出し、そのあとで何百万トンを輸入しなければならなかった。


<廃棄量>

 では、これらの廃棄される食料と、飢餓状態にあるとされる人々の食料の、数値割合はどのようになるのでしょうか?

p114
…2007年、世界中に9億2300万人の栄養不足の人たちがいて、そのほぼすべて…が途上国に住んでいるという。栄養不足の人々が不足している熱量はひとり当たり1日平均250キロカロリーだった。

p117
 イギリスだけでも、家庭のゴミ箱には3000万人の飢餓を和らげるだけの穀物―おもにパンの形で―が捨てられている。つまり、3000万人に栄養不良を回避するために必要な1日当たり250キロカロリーを余分に供給できるということだ。アメリカ…の量はさらに1億9400万人の人々の飢餓を和らげる栄養を提供することになる。…イギリスの消費者およびアメリカの小売業者や飲食業者、家庭によって廃棄される肉製品や乳製品を生み出すために使われる、小麦粉、トウモロコシ、大豆などの作物を含めると、15億人の飢餓を和らげるにじゅうぶんな…余りある―量になる。

 …アメリカでは、家庭、スーパー、レストラン、コンビニによって無駄にされた食品は世界の栄養不良の人のお腹をひとり残らず満たすのに必要な量の2倍に及ぶ。その合計にイギリスおよぶヨーロッパの消費者と食品業界が捨てた食品を推定して加えると、世界中の飢餓に苦しむ人たちすべてのお腹を満たす3倍から7倍になる。

p210
 …アメリカ…。…2004年、店やレストランに行き着いた食品は1日消費者ひとり当たりにすると、3900キロカロリー分になる。ここから…損傷品、食べ残しやその他の家庭や販売システムで出る損失を引いた残りは、1日ひとり当たりたった2717キロカロリーにしかならない。全ての食品が店やレストランから人々の口に届くまでに30.3%が失われることになる。

p212
 …アメリカの廃棄食品量は30~50%。一日にひとり当たり1200~1900キロカロリーという。ほとんど信じがたい数字になる。

p125
 金持ちの国々で無駄にされる多くの食品は、“資源対カロリー効率”と呼ばれるものが低い。…例えば、1トンのトマトは17万キロカロリーに相当するが、それを生産するのに3100万キロカロリーの一次エネルギーを要する。…イギリスで人々が家庭用ゴミに捨てている6万1300トンの申し分のないトマトを栽培するエネルギーは、1億500万の人々を飢餓から解放するのにじゅうぶんな小麦の栽培に要するのと同量なのだ。

p216
 …流通、小売、施設、家庭で生じる廃棄物は世界で1日ひとり当たり800キロカロリーに相当し、合計すると、世界の食料供給量の30%以上が実際に無駄にされたことになる。


 結論です。

p219
…すべての国が、自国の食料供給を必要量の約130%という推奨されている水準にとどめ、貧しい国が収穫後の損失を減らせば、全世界の食料供給量の33%を節約することになる。これほどの“不必要な余剰”は世界中の栄養不良の人々の、空腹を満たす量の23倍、あるいは、新たに30億人の人々の栄養必要量を供給するだけの量になる。
 

 何度も言います。土地も、食料も、余っているのです。

参考引用文献 浅川芳裕『日本は世界第5位の農業大国』講談社+a新書 2010
 P162
 山田正彦農林水産副大臣は、「自給率が低いままでは飢えた民衆が略奪を始め、暴動が続発する大飢餓パニックが起こる」と自著で記し、自給率の向上こそが食料安全保障につながると力説する。


 こんなことは、起きません。起きたら? 廃棄している、曲がったニンジン、粒の小さいジャガイモ、でかすぎるきゅうりを食べれば(必ず流通ルートに乗ってくる)十分です。

<なぜ輸入するのか>

アダム・スミス『国富論』
消費こそがすべての生産の唯一の目的であり」

ポール・クルーグマン『良い経済学悪い経済学』
 「経済学入門では,貿易とは競争ではなく,相互に利益をもたらす交換であることを学生に納得させるべきである。もっと基本的な点として,輸出ではなく,輸入が貿易の目的であることを教えるべきである」
 

 貿易(交換)をするのは、輸出ではなく、輸入が目的であり、生産(われわれが働く)し、その生産物を出荷(輸出と同じ)し、カネを稼ぐ目的は、消費するためです。

 われわれが、豊かに消費生活を送るのが、生産(輸出)の目的です。

 ここが経済学の肝(世の中の常識とは正反対)です。

 円安より円高が望ましく、貿易黒字はなくても構わない(輸入額が多ければ、それだけ豊かな消費生活を送る)のです。

 日本の 供給側は GDP+輸入です。これが多ければ多いほど、消費生活は豊かになります。

 輸出(生産)は手段で、輸入(消費)が目的なのです。これは日常生活の論理そのものです。

 われわれが、グレープフルーツ、マンゴー、スターフルーツ、ライチ、ドリアン、ふかひれ、イクラ、牛肉、高級ワイン、スコッチウイスキー、チェダーチーズを食べて、食生活が豊かになったことが、その証拠です。
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