WTO・FTA/EPA・TPP その3
<最初に>
メカニズムを説明できていない時点で敗北確定
窮めつけ→経済学は常識とは異なるから-
だれがそんな説明で納得するんだよ
所詮経済学は占星術と変わらないという証左だな
メカニズムやシステム論でなく権威論に執着するのは未熟な学問である証左だということだよ
TPPに関して、このブログを見ている人が増えているようです。中には、上のような、コメントを残す人がいます。
貿易の利益(メカニズム)は、このブログカテゴリ 『リカード 比較優位 比較生産費説』の1~18を見て下さい。
ここの説明を抜きに、中野剛司の本文記事を見ても、一般の人(常識に染まって、経済学的理解できないひと)には理解できません。
リカードを理解した人でないと、経済学の真意(常識とは180度違う)は理解できません。
N・グレゴリー・マンキュー『マンキュー経済学 第2版』 東洋経済新報社 2005 p79-80
貿易の利益に関する…リカードの結論は、時代を超えて支持されてきた。政策問題に関して、経済学者の意見は分裂しがちであるが、自由貿易支持に関してはまとまるのである。自由貿易を支持する議論の中核は、この2世紀もの間ほとんど変化していない。…リカードの時代と比べると経済学の範囲が広がり、理論は洗練されてきたが、貿易規制に対する経済学者の反対意見は基本的には比較優位の原理に基づいたままである。
<TPP>
環太平洋経済連携協定です。’06年にシンガポール・ニュージーランド・チリ・ブルネイ間のFTAが母体です。これに、米(オバマ政権下で正式加盟表明)・豪・ペルー・ベトナム・マレーシアが加わった9国で、今年11月の合意を目指して交渉が行われています。日本は、この参加を検討している状態です。
米国は、このTPPを、APEC(アジア太平洋経済協力会議:21か国)の自由貿易圏化(EUのような、域内統合を連想してください)の基礎的なモデルと位置付けています。このため、APEC参加国がTPP参加国になる(参加国増)になる可能性が高いのです。

TPPは、関税撤廃で例外分野が認められないなど、従来のFTAよりも、自由化のレベルは非常に高いレベルになっています。米国が参加を決めたのは、オバマ政権下「貿易額を5年で倍増する」との公約を達成する目的があると言われています(輸出≡輸入増なので、輸入も拡大しますが)。また、非関税障壁もこの際、いっぺんに改定させようという狙いも、米産業にあります(「TPPのための米国企業連合」の発表した15原則)。ですが、将来的には、APEC自体に拡大するという戦略があります。
話がそれますが、アメリカは、FTAにおいても、自国産業保護については、例外を求めます。豪との2005年FTAでは、砂糖と酪農品の自由化を拒否しています。鉄鋼産業保護のために、「バイ・アメリカン法」が導入されましたし、国内航路で自国海運業保護の「ジョーンズ法」もあります。アメリカだって、決して「完全自由化」ではないのです(背景には、「議会承認が必要=議員は利害代表者」というものがあります)。
また、米国が要求する投資家と国の紛争解決の規定については、豪ともめています。主権侵害との反対意見があるからです。
TPP参加は、「日本への開国押し付け」なのでしょうか。TPPの柱は次の3点です。
①物品貿易
②電気通信サービス・電子商取引
③分野的横断的事項(各国規制の統一)
このうち、③以外は、すでに日本は、過去のFTAでほぼ実現している内容です。さらにEPAで、ヒトの自由化も一部認めたように、実質的にTPPの内容を上回っている場合もあります。
最新の動向では、完全自由化を目指した当初の流れとは別に、柔軟で現実的な方向(3月段階)になっています。最後は妥協する可能性が高いとみなされています。豪は米に対し、砂糖や牛肉の関税削減を求め、米は豪に知的財産権の保護強化を要求しています。
いずれにしても、日本にとってのTPP参加は、「遅いか早いか」の問題(APECがいずれ目指している方向)です。問題を先送りしても、必ずまた同じ局面に遭遇します。
読売『TPP7回交渉開始』H23.6.21
…日本政府は…6月としていたTPP交渉への参加判断を先送りしたが、9カ国は、11月に米国で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議にあわせた大筋合意に向け協議を加速させる方針だ。
<貿易自由化について>
巷では、TPP(環太平洋経済協定)や、日本と他国の2国(多国)間協定FTAを巡って、賛否両論あるようです。
各省庁でも、TPP参加に関し、試算を計上して、数値をはじいています。
(1)内閣府 GDP2.4~3.2兆円増
(2)農水省 農業関連GDP4.1兆円減→全体で7.9兆円減、環境を含めると、11.6兆円減 雇用340万人減。
(3)経産省 不参加の場合、2020年までに、GDP10.5兆円減。雇用81.2万人減。
てんで、バラバラです。いくら将来に関する予測が難しいといっても、GDPが10兆円規模で「減」あるいは、「増」など、あまりに開きが大きすぎます。
で、なぜこのような数値になるかというと、それは、「ポジション・トーク」つまり、その業界の権益を守るために、算出したデータだからです。農水省は農林漁業を代弁し、経産省は製造業を代弁しています。それらの業界を代表して権益・損を主張する、すなわち、「ポジション・トーク」ということになります。
山下一仁 『経済教室 高品質生かし輸出に活路』日経H23.6.10
…農水省のデータは…10年前の中国からの輸入米価格と現在の日本米価格を比べて内外価格差を4倍と過大に見積もり、影響額を意図的に大きくしたものである。現在では…内外価格差は1.3倍まで縮小しており…
<中野剛志『TPP亡国論』>

京都大学大学院に出向中の、経産省職員だそうです。残念ながら、経済学の素養がないため、事実的にも間違っていますし、理論的にも、おかしいです。
経済学と、世の中の常識は、180度違います。ですので、世の中の常識(これは経済学的非常識)に基づいて自説を展開すると、「トンでも論」にひた走ってしまいます。ですが、その方の思考回路が「常識」の範疇にとどまっているので、自分の考えが「おかしい」ことに気付けません。昔流行った「○○の壁」現象です。
例えはおかしいかもしれませんが、プロ野球指導者が、素人指導者の教え方について、「全く見当違い」というようなものかもしれません。
例えば、ピッチャーは、キャッチボールの時に、手のひらを後ろ側に向けて、手を引きます。野手は、手の甲を後ろ側に向けて、手を引きます。ピッチャー指導方法は、初めから違います。(肘を肩より上げさせる・・・ムチのように手をしならせて投げさせるため)
あるいは、素人指導者による、うさぎ跳びみたいな練習方法です。未だにこれに近いことをやっている練習メニューがありますが、関節を90度以上に折り曲げる筋トレに、意味はまったくありません。逆に、関節を痛めてしまうだけです。プロのトレーナーによる練習メニューを取り入れる、Jリーグでも、野球でも、こんな練習は行われていません。
これらは「理論的」に明らかなのですが、世の中の「常識」に染まっている人には、「おかしい」ことが理解できません。
「燕雀いずくんぞ鴻鵠の志を知らんや」の世界かもしれません。
彼の本を読んではいませんが、その主張はここで述べられています。ちょっと、間違い部分を拾ってみましょうか。
http://www.the-journal.jp/contents/newsspiral/2011/01/tpp_5.html
『中野剛志:TPPはトロイの木馬──関税自主権を失った日本は内側から滅びる』
(1)
「日本の食糧自給率の低さ、とりわけ穀物自給率がみじめなほど低い」
「石油よりも危険なのは食料です。中東の石油は生産量のほとんどを輸出用に回していて、外国に買ってもらわないと経済が成り立たないため、売る側の立場は意外と弱いものです。ところが穀物の場合は、輸出は国内供給のための調整弁でしかなく、不作になれば売らないと言われかねません。」
食料自給率について、論じる時点で、もう???です。
ブログカテゴリ:農業自給率UPは無意味 参照
また、農業生産物は、国内消費を犠牲にしてでも、「高く買ってくれるところ」に売ります。発展途上国では、実際にそのような事例が、たくさんあります。農家になって考えてみてください。高く買うところと安く買うところ、どちらに売りますか?
http://abc60w.blog16.fc2.com/blog-entry-251.html
自給率アップは無意味 その1/2
http://abc60w.blog16.fc2.com/blog-entry-473.html
農業の神話(2) 食料危機で、日本が飢餓
発展途上国では、いざ食料高騰(例:2008年)が起きれば、ここぞとばかりに、高く買ってくれるところに売ります。自国民(所得が低い人々)のことなんか、構っていられません。
トリストラム・スチュワート『世界の食料ムダ捨て事情』 NHK 出版2010p206
理屈では、パキスタンは2008年、世界の他地域にとてつもない打撃を与えた世界的食料供給のひっ迫から比較的隔離されているはずだ。なぜなら、小麦はほぼ自給でき、貿易障壁により世界市場の変動から守られていたからだ。
…けれどもこれらの方法のどれも完璧には機能しない。パキスタンのような国では…国内外での価格の開きが大きくなればなるほど、密輸業者と堕落した役人にとっては国境をまたぐ取引への誘惑が大きくなる。…2007年から8年も例外ではなかった。同国は穀物を輸出し、そのあとで何百万トンを輸入しなければならなかった。
(2)
質問 「─TPPは実質、日米の自由貿易協定(FTA)とおっしゃいましたが、米国への輸出が拡大することは考えられませんか」
回答 「残念ながら無理です。米国は貿易赤字を減らすことを国家経済目標にしていて、オバマ大統領は5年間で輸出を2倍に増やすと言っています。米国は輸出倍増戦略の一環としてTPPを仕掛けており、輸出をすることはあっても輸入を増やすつもりはありません。これは米国の陰謀でも何でもないのです。」
「米国が輸出拡大戦略をとろうとして輸入しないようにしているということぐらい知ってもらわないと、戦略を立てようがありません。」
全くお話になりません。 輸出拡大は、必ず輸入拡大を伴います。輸入は、どうやっても増えるのです。輸入を抑え、輸出を増やすのは交換(トレード・貿易)原理上、不可能です。
アメリカの輸出入額推移については、
http://abc60w.blog16.fc2.com/blog-entry-348.html
カテゴリ:倉西雅子 鶴見大学 参照
中国・世界各国輸出入推移については、
http://abc60w.blog16.fc2.com/blog-entry-355.html
カテゴリ:倉西雅子 鶴見大学 参照





(3)
「安い製品が入ってきて物価が下がることは、デフレの状況においては不幸なことなのです。デフレというものは経済政策担当者にとって、経済運営上もっともかかってはいけない病だというのが戦後のコンセンサスです。物価が下がって困っている現状で、安い製品が輸入されてくるとデフレが加速します。安い製品が増えて物価が下落して影響を受けるのは農業だけではありません。デフレである日本がデフレによってさらに悪化させられるというのがこのTPP、自由貿易の問題です。」
「安い輸入品が入るから、デフレ」は事実ではありません。これはユニクロ製品などの輸入製品が、日本の物価を押し下げるなどという、「よいデフレ論」といい、すでに誤りであることは実証済みです。
また、日本のデフレは、非貿易財=サービス業で起こっていて、デフレに対する、貿易財と非貿易財の影響では、後者が主です。
http://abc60w.blog16.fc2.com/blog-entry-498.html
論語(経済学)読みの論語(経済学)知らず 池田信夫 その1 参照
岩田規久男 『デフレと超円高』講談社新書 2011 p101

週間ダイヤモンド

(4)
グローバル化の世界は関税じゃなく通貨だということがここでも言えます。・・・とっちにしたって世界不況ですから海外でモノは売れませんよ。失業率が10%の米国で何を売るんですか。
世界のGDPが縮小するならともかく、拡大し続け、輸出入も伸び続けています。今後も、GDPが増える限り、世界全体の輸出入も増えます。
http://abc60w.blog16.fc2.com/blog-entry-149.html
再掲 新聞を解説(2) 「グローバル化が、格差を拡大した」という間違い 参照
山川出版社 教科書『詳説政治経済』2006 p154

(5)
「私は1996年に社会人になり、以来、一度も名目GDPの成長を経験していません。」
名目GDPは、伸びていることもありました。

このように、中野剛志氏の主張は、「ためにするため」の議論になっています。少なくとも、事実については調べてから、本を書きましょう。視野が狭い(経済学を知らない)のだから、仕方ないのかもしれませんが、立場を考えると、?です。
一方、この本を「素晴らしい」と評価する人が多いのですから、困ったことです。
http://www.amazon.co.jp/product-reviews/4087205843/ref=dp_top_cm_cr_acr_txt?ie=UTF8&showViewpoints=1
アマゾンカスタマーレビュー TPP亡国論 (集英社新書) 参照
<追記>
意見をいただきました。
>あなたのTPP参加による日本のメリットとデメリットを説明するべきでしょう。
という、コメントをいただきました。
メリット
「特化前(輸出入が広がらない状態)は,生産量≧消費量だったものが,特化後(輸出入が増えた状態)は生産量<消費量となり,消費者効用が増大する」
カテゴリ リカード 比較優位 比較生産費説を参照ください。
デメリット
短期的には、生産者は、雇用変化(流動)が起こる。当然摩擦が生じる。
このデメリットですが、長期的には、「生産性の高い=付加価値の高い=給料の多い」業界の雇用が増えることになります。
例:60年代石炭産業→石油産業(エネルギー革命)
<追記2 なぜ輸入するのか>
アダム・スミス『国富論』
「消費こそがすべての生産の唯一の目的であり」
ポール・クルーグマン『良い経済学悪い経済学』
「経済学入門では,貿易とは競争ではなく,相互に利益をもたらす交換であることを学生に納得させるべきである。もっと基本的な点として,輸出ではなく,輸入が貿易の目的であることを教えるべきである」
貿易(交換)をするのは、輸出ではなく、輸入が目的であり、生産(われわれが働く)し、その生産物を出荷(輸出と同じ)し、カネを稼ぐ目的は、消費するためです。
われわれが、豊かに消費生活を送るのが、生産(輸出)の目的です。
ここが経済学の肝(世の中の常識とは正反対)です。
円安より円高が望ましく、貿易黒字はなくても構わない(輸入額が多ければ、それだけ豊かな消費生活を送る)のです。
日本の 供給側は GDP+輸入です。これが多ければ多いほど、消費生活は豊かになります。
輸出(生産)は手段で、輸入(消費)が目的なのです。これは日常生活の論理そのものです。
われわれが、グレープフルーツ、マンゴー、スターフルーツ、ライチ、ドリアン、ふかひれ、イクラ、牛肉、高級ワイン、スコッチウイスキー、チェダーチーズを食べて、食生活が豊かになったことが、その証拠です。
<コメントに対する回答>
中野氏の主張は、「輸出は善」「輸出は増えない(アメリカが輸入を増やすつもりはない)」「貿易は勝ち負け」という、あやまった考え方に基づくものです。
貿易の利益は、「輸入」拡大です。その輸入拡大絶対に輸出拡大を伴います。「カモにされる」ことはありませんし、メリットは必ず生じますし、韓国はすでにアメリカとのFTAを完成させています。
さて、リカード説が資本移動はない、完全雇用 セイの法則が成り立つを前提にしている、関税はなぜ存在するかetcについてです。(日本は絶対優位国ではないだろう・・これは絶対優位は関係ないのがリカード説なのでご理解下さい)
交換とは何か、実際にはどうなっているか
1 貿易の目的は輸入
2 日常生活(交換)は貿易
3 貿易・世界経済はゼロサムゲームではない
1989年→2008年の変化
輸出額は4兆ドルから16兆ドル超で、4倍を超えた
世界GDPは20兆円→60兆円で、3倍を超えた
冷戦崩壊後、世界の経済規模は、3倍~4倍になっています。
当然、リカードモデルをベースに、さまざまな要素を加味したモデルは作られています。
労働力だけではなく、資本や土地などの「さまざまな要素生産性」を加味すると、「ヘクシャー・オリーン(ヘクシャー・オリーン・サミュエルソン)HOSモデルになります。
「各国は相対的に自国に豊富に存在する生産要素をまとめて使用する財に比較優位を持つ」ことになります。「資本」優位の国、「労働」優位の国、「土地生産性」優位の国・・・・となり、その比較優位な産業に特化するものです。また、ここでいう特化とは、部分特化~完全特化です。リカードモデルもそうですが、部分特化~完全特化なので、別に完全雇用を前提にしなくても、実際には成り立ちます。
次に資本移動です。これも、モデルがあります。結論から述べれば、「資本流入国の国内総生産は上昇し、世界全体のGDPの合計は増加する」というものです。実際には、1973年以降、資本の自由化・変動為替相場で、世界貿易・GDP量ともに増大しています。
ただ、直接投資(資本移動)の影響は複雑(失業・完全雇用、独占が存在するか否かetc)で、状況によって異なります。個々のケースで判断しないと分かりません。
HOSモデルモデルでも、商品貿易と生産要素(資本含む)の国際間移動は、仮定を変えることで両者の間に補完的な関係が成り立っていることが分かります。
また、なぜ関税があるか?ですが、貿易政策による貿易量の変化から、利益を受けるものがいる一方、被害を受けるヒト・モノ・業界があるからです。もちろん、経済学では、関税、数量、輸出税などの効果について 分析されています。
保護貿易の理論は、最適関税の理論、幼稚産業保護論、市場の失敗是正論、戦略的貿易政策論etcがあります。結論から言うと、各国のGDP(国内総生産)増大により、税収を上げる為に関税を使うことはなくなっています。雇用の移動(摩擦を伴う)には、保護貿易は最適な手段ではないことが明らかになっています。雇用への補助金の給付と言った直接給付が望ましいことが分かっています。ダンピングに関しては、輸入規制ではなく、独占をなくす=市場メカニズム導入が最適です。貿易収支(黒字を減らす・赤字を減らす)は、論外です。
TPPを選択しなくても、ASEAN+中国韓国日本のFTA、EUと日本のFTAと、そしてTPPの拡大版APECと、次から次へと「自由貿易課題」が日本に訪れます。TPPだけ反対し、導入を阻止すればOKという問題ではないのです。
メカニズムを説明できていない時点で敗北確定
窮めつけ→経済学は常識とは異なるから-
だれがそんな説明で納得するんだよ
所詮経済学は占星術と変わらないという証左だな
メカニズムやシステム論でなく権威論に執着するのは未熟な学問である証左だということだよ
TPPに関して、このブログを見ている人が増えているようです。中には、上のような、コメントを残す人がいます。
貿易の利益(メカニズム)は、このブログカテゴリ 『リカード 比較優位 比較生産費説』の1~18を見て下さい。
ここの説明を抜きに、中野剛司の本文記事を見ても、一般の人(常識に染まって、経済学的理解できないひと)には理解できません。
リカードを理解した人でないと、経済学の真意(常識とは180度違う)は理解できません。
N・グレゴリー・マンキュー『マンキュー経済学 第2版』 東洋経済新報社 2005 p79-80
貿易の利益に関する…リカードの結論は、時代を超えて支持されてきた。政策問題に関して、経済学者の意見は分裂しがちであるが、自由貿易支持に関してはまとまるのである。自由貿易を支持する議論の中核は、この2世紀もの間ほとんど変化していない。…リカードの時代と比べると経済学の範囲が広がり、理論は洗練されてきたが、貿易規制に対する経済学者の反対意見は基本的には比較優位の原理に基づいたままである。
<TPP>
環太平洋経済連携協定です。’06年にシンガポール・ニュージーランド・チリ・ブルネイ間のFTAが母体です。これに、米(オバマ政権下で正式加盟表明)・豪・ペルー・ベトナム・マレーシアが加わった9国で、今年11月の合意を目指して交渉が行われています。日本は、この参加を検討している状態です。
米国は、このTPPを、APEC(アジア太平洋経済協力会議:21か国)の自由貿易圏化(EUのような、域内統合を連想してください)の基礎的なモデルと位置付けています。このため、APEC参加国がTPP参加国になる(参加国増)になる可能性が高いのです。

TPPは、関税撤廃で例外分野が認められないなど、従来のFTAよりも、自由化のレベルは非常に高いレベルになっています。米国が参加を決めたのは、オバマ政権下「貿易額を5年で倍増する」との公約を達成する目的があると言われています(輸出≡輸入増なので、輸入も拡大しますが)。また、非関税障壁もこの際、いっぺんに改定させようという狙いも、米産業にあります(「TPPのための米国企業連合」の発表した15原則)。ですが、将来的には、APEC自体に拡大するという戦略があります。
話がそれますが、アメリカは、FTAにおいても、自国産業保護については、例外を求めます。豪との2005年FTAでは、砂糖と酪農品の自由化を拒否しています。鉄鋼産業保護のために、「バイ・アメリカン法」が導入されましたし、国内航路で自国海運業保護の「ジョーンズ法」もあります。アメリカだって、決して「完全自由化」ではないのです(背景には、「議会承認が必要=議員は利害代表者」というものがあります)。
また、米国が要求する投資家と国の紛争解決の規定については、豪ともめています。主権侵害との反対意見があるからです。
TPP参加は、「日本への開国押し付け」なのでしょうか。TPPの柱は次の3点です。
①物品貿易
②電気通信サービス・電子商取引
③分野的横断的事項(各国規制の統一)
このうち、③以外は、すでに日本は、過去のFTAでほぼ実現している内容です。さらにEPAで、ヒトの自由化も一部認めたように、実質的にTPPの内容を上回っている場合もあります。
最新の動向では、完全自由化を目指した当初の流れとは別に、柔軟で現実的な方向(3月段階)になっています。最後は妥協する可能性が高いとみなされています。豪は米に対し、砂糖や牛肉の関税削減を求め、米は豪に知的財産権の保護強化を要求しています。
いずれにしても、日本にとってのTPP参加は、「遅いか早いか」の問題(APECがいずれ目指している方向)です。問題を先送りしても、必ずまた同じ局面に遭遇します。
読売『TPP7回交渉開始』H23.6.21
…日本政府は…6月としていたTPP交渉への参加判断を先送りしたが、9カ国は、11月に米国で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議にあわせた大筋合意に向け協議を加速させる方針だ。
<貿易自由化について>
巷では、TPP(環太平洋経済協定)や、日本と他国の2国(多国)間協定FTAを巡って、賛否両論あるようです。
各省庁でも、TPP参加に関し、試算を計上して、数値をはじいています。
(1)内閣府 GDP2.4~3.2兆円増
(2)農水省 農業関連GDP4.1兆円減→全体で7.9兆円減、環境を含めると、11.6兆円減 雇用340万人減。
(3)経産省 不参加の場合、2020年までに、GDP10.5兆円減。雇用81.2万人減。
てんで、バラバラです。いくら将来に関する予測が難しいといっても、GDPが10兆円規模で「減」あるいは、「増」など、あまりに開きが大きすぎます。
で、なぜこのような数値になるかというと、それは、「ポジション・トーク」つまり、その業界の権益を守るために、算出したデータだからです。農水省は農林漁業を代弁し、経産省は製造業を代弁しています。それらの業界を代表して権益・損を主張する、すなわち、「ポジション・トーク」ということになります。
山下一仁 『経済教室 高品質生かし輸出に活路』日経H23.6.10
…農水省のデータは…10年前の中国からの輸入米価格と現在の日本米価格を比べて内外価格差を4倍と過大に見積もり、影響額を意図的に大きくしたものである。現在では…内外価格差は1.3倍まで縮小しており…
<中野剛志『TPP亡国論』>

京都大学大学院に出向中の、経産省職員だそうです。残念ながら、経済学の素養がないため、事実的にも間違っていますし、理論的にも、おかしいです。
経済学と、世の中の常識は、180度違います。ですので、世の中の常識(これは経済学的非常識)に基づいて自説を展開すると、「トンでも論」にひた走ってしまいます。ですが、その方の思考回路が「常識」の範疇にとどまっているので、自分の考えが「おかしい」ことに気付けません。昔流行った「○○の壁」現象です。
例えはおかしいかもしれませんが、プロ野球指導者が、素人指導者の教え方について、「全く見当違い」というようなものかもしれません。
例えば、ピッチャーは、キャッチボールの時に、手のひらを後ろ側に向けて、手を引きます。野手は、手の甲を後ろ側に向けて、手を引きます。ピッチャー指導方法は、初めから違います。(肘を肩より上げさせる・・・ムチのように手をしならせて投げさせるため)
あるいは、素人指導者による、うさぎ跳びみたいな練習方法です。未だにこれに近いことをやっている練習メニューがありますが、関節を90度以上に折り曲げる筋トレに、意味はまったくありません。逆に、関節を痛めてしまうだけです。プロのトレーナーによる練習メニューを取り入れる、Jリーグでも、野球でも、こんな練習は行われていません。
これらは「理論的」に明らかなのですが、世の中の「常識」に染まっている人には、「おかしい」ことが理解できません。
「燕雀いずくんぞ鴻鵠の志を知らんや」の世界かもしれません。
彼の本を読んではいませんが、その主張はここで述べられています。ちょっと、間違い部分を拾ってみましょうか。
http://www.the-journal.jp/contents/newsspiral/2011/01/tpp_5.html
『中野剛志:TPPはトロイの木馬──関税自主権を失った日本は内側から滅びる』
(1)
「日本の食糧自給率の低さ、とりわけ穀物自給率がみじめなほど低い」
「石油よりも危険なのは食料です。中東の石油は生産量のほとんどを輸出用に回していて、外国に買ってもらわないと経済が成り立たないため、売る側の立場は意外と弱いものです。ところが穀物の場合は、輸出は国内供給のための調整弁でしかなく、不作になれば売らないと言われかねません。」
食料自給率について、論じる時点で、もう???です。
ブログカテゴリ:農業自給率UPは無意味 参照
また、農業生産物は、国内消費を犠牲にしてでも、「高く買ってくれるところ」に売ります。発展途上国では、実際にそのような事例が、たくさんあります。農家になって考えてみてください。高く買うところと安く買うところ、どちらに売りますか?
http://abc60w.blog16.fc2.com/blog-entry-251.html
自給率アップは無意味 その1/2
http://abc60w.blog16.fc2.com/blog-entry-473.html
農業の神話(2) 食料危機で、日本が飢餓
発展途上国では、いざ食料高騰(例:2008年)が起きれば、ここぞとばかりに、高く買ってくれるところに売ります。自国民(所得が低い人々)のことなんか、構っていられません。
トリストラム・スチュワート『世界の食料ムダ捨て事情』 NHK 出版2010p206
理屈では、パキスタンは2008年、世界の他地域にとてつもない打撃を与えた世界的食料供給のひっ迫から比較的隔離されているはずだ。なぜなら、小麦はほぼ自給でき、貿易障壁により世界市場の変動から守られていたからだ。
…けれどもこれらの方法のどれも完璧には機能しない。パキスタンのような国では…国内外での価格の開きが大きくなればなるほど、密輸業者と堕落した役人にとっては国境をまたぐ取引への誘惑が大きくなる。…2007年から8年も例外ではなかった。同国は穀物を輸出し、そのあとで何百万トンを輸入しなければならなかった。
(2)
質問 「─TPPは実質、日米の自由貿易協定(FTA)とおっしゃいましたが、米国への輸出が拡大することは考えられませんか」
回答 「残念ながら無理です。米国は貿易赤字を減らすことを国家経済目標にしていて、オバマ大統領は5年間で輸出を2倍に増やすと言っています。米国は輸出倍増戦略の一環としてTPPを仕掛けており、輸出をすることはあっても輸入を増やすつもりはありません。これは米国の陰謀でも何でもないのです。」
「米国が輸出拡大戦略をとろうとして輸入しないようにしているということぐらい知ってもらわないと、戦略を立てようがありません。」
全くお話になりません。 輸出拡大は、必ず輸入拡大を伴います。輸入は、どうやっても増えるのです。輸入を抑え、輸出を増やすのは交換(トレード・貿易)原理上、不可能です。
アメリカの輸出入額推移については、
http://abc60w.blog16.fc2.com/blog-entry-348.html
カテゴリ:倉西雅子 鶴見大学 参照
中国・世界各国輸出入推移については、
http://abc60w.blog16.fc2.com/blog-entry-355.html
カテゴリ:倉西雅子 鶴見大学 参照





(3)
「安い製品が入ってきて物価が下がることは、デフレの状況においては不幸なことなのです。デフレというものは経済政策担当者にとって、経済運営上もっともかかってはいけない病だというのが戦後のコンセンサスです。物価が下がって困っている現状で、安い製品が輸入されてくるとデフレが加速します。安い製品が増えて物価が下落して影響を受けるのは農業だけではありません。デフレである日本がデフレによってさらに悪化させられるというのがこのTPP、自由貿易の問題です。」
「安い輸入品が入るから、デフレ」は事実ではありません。これはユニクロ製品などの輸入製品が、日本の物価を押し下げるなどという、「よいデフレ論」といい、すでに誤りであることは実証済みです。
また、日本のデフレは、非貿易財=サービス業で起こっていて、デフレに対する、貿易財と非貿易財の影響では、後者が主です。
http://abc60w.blog16.fc2.com/blog-entry-498.html
論語(経済学)読みの論語(経済学)知らず 池田信夫 その1 参照
岩田規久男 『デフレと超円高』講談社新書 2011 p101

週間ダイヤモンド

(4)
グローバル化の世界は関税じゃなく通貨だということがここでも言えます。・・・とっちにしたって世界不況ですから海外でモノは売れませんよ。失業率が10%の米国で何を売るんですか。
世界のGDPが縮小するならともかく、拡大し続け、輸出入も伸び続けています。今後も、GDPが増える限り、世界全体の輸出入も増えます。
http://abc60w.blog16.fc2.com/blog-entry-149.html
再掲 新聞を解説(2) 「グローバル化が、格差を拡大した」という間違い 参照
山川出版社 教科書『詳説政治経済』2006 p154

(5)
「私は1996年に社会人になり、以来、一度も名目GDPの成長を経験していません。」
名目GDPは、伸びていることもありました。

このように、中野剛志氏の主張は、「ためにするため」の議論になっています。少なくとも、事実については調べてから、本を書きましょう。視野が狭い(経済学を知らない)のだから、仕方ないのかもしれませんが、立場を考えると、?です。
一方、この本を「素晴らしい」と評価する人が多いのですから、困ったことです。
http://www.amazon.co.jp/product-reviews/4087205843/ref=dp_top_cm_cr_acr_txt?ie=UTF8&showViewpoints=1
アマゾンカスタマーレビュー TPP亡国論 (集英社新書) 参照
<追記>
意見をいただきました。
>あなたのTPP参加による日本のメリットとデメリットを説明するべきでしょう。
という、コメントをいただきました。
メリット
「特化前(輸出入が広がらない状態)は,生産量≧消費量だったものが,特化後(輸出入が増えた状態)は生産量<消費量となり,消費者効用が増大する」
カテゴリ リカード 比較優位 比較生産費説を参照ください。
デメリット
短期的には、生産者は、雇用変化(流動)が起こる。当然摩擦が生じる。
このデメリットですが、長期的には、「生産性の高い=付加価値の高い=給料の多い」業界の雇用が増えることになります。
例:60年代石炭産業→石油産業(エネルギー革命)
<追記2 なぜ輸入するのか>
アダム・スミス『国富論』
「消費こそがすべての生産の唯一の目的であり」
ポール・クルーグマン『良い経済学悪い経済学』
「経済学入門では,貿易とは競争ではなく,相互に利益をもたらす交換であることを学生に納得させるべきである。もっと基本的な点として,輸出ではなく,輸入が貿易の目的であることを教えるべきである」
貿易(交換)をするのは、輸出ではなく、輸入が目的であり、生産(われわれが働く)し、その生産物を出荷(輸出と同じ)し、カネを稼ぐ目的は、消費するためです。
われわれが、豊かに消費生活を送るのが、生産(輸出)の目的です。
ここが経済学の肝(世の中の常識とは正反対)です。
円安より円高が望ましく、貿易黒字はなくても構わない(輸入額が多ければ、それだけ豊かな消費生活を送る)のです。
日本の 供給側は GDP+輸入です。これが多ければ多いほど、消費生活は豊かになります。
輸出(生産)は手段で、輸入(消費)が目的なのです。これは日常生活の論理そのものです。
われわれが、グレープフルーツ、マンゴー、スターフルーツ、ライチ、ドリアン、ふかひれ、イクラ、牛肉、高級ワイン、スコッチウイスキー、チェダーチーズを食べて、食生活が豊かになったことが、その証拠です。
<コメントに対する回答>
中野氏の主張は、「輸出は善」「輸出は増えない(アメリカが輸入を増やすつもりはない)」「貿易は勝ち負け」という、あやまった考え方に基づくものです。
貿易の利益は、「輸入」拡大です。その輸入拡大絶対に輸出拡大を伴います。「カモにされる」ことはありませんし、メリットは必ず生じますし、韓国はすでにアメリカとのFTAを完成させています。
さて、リカード説が資本移動はない、完全雇用 セイの法則が成り立つを前提にしている、関税はなぜ存在するかetcについてです。(日本は絶対優位国ではないだろう・・これは絶対優位は関係ないのがリカード説なのでご理解下さい)
交換とは何か、実際にはどうなっているか
1 貿易の目的は輸入
2 日常生活(交換)は貿易
3 貿易・世界経済はゼロサムゲームではない
1989年→2008年の変化
輸出額は4兆ドルから16兆ドル超で、4倍を超えた
世界GDPは20兆円→60兆円で、3倍を超えた
冷戦崩壊後、世界の経済規模は、3倍~4倍になっています。
当然、リカードモデルをベースに、さまざまな要素を加味したモデルは作られています。
労働力だけではなく、資本や土地などの「さまざまな要素生産性」を加味すると、「ヘクシャー・オリーン(ヘクシャー・オリーン・サミュエルソン)HOSモデルになります。
「各国は相対的に自国に豊富に存在する生産要素をまとめて使用する財に比較優位を持つ」ことになります。「資本」優位の国、「労働」優位の国、「土地生産性」優位の国・・・・となり、その比較優位な産業に特化するものです。また、ここでいう特化とは、部分特化~完全特化です。リカードモデルもそうですが、部分特化~完全特化なので、別に完全雇用を前提にしなくても、実際には成り立ちます。
次に資本移動です。これも、モデルがあります。結論から述べれば、「資本流入国の国内総生産は上昇し、世界全体のGDPの合計は増加する」というものです。実際には、1973年以降、資本の自由化・変動為替相場で、世界貿易・GDP量ともに増大しています。
ただ、直接投資(資本移動)の影響は複雑(失業・完全雇用、独占が存在するか否かetc)で、状況によって異なります。個々のケースで判断しないと分かりません。
HOSモデルモデルでも、商品貿易と生産要素(資本含む)の国際間移動は、仮定を変えることで両者の間に補完的な関係が成り立っていることが分かります。
また、なぜ関税があるか?ですが、貿易政策による貿易量の変化から、利益を受けるものがいる一方、被害を受けるヒト・モノ・業界があるからです。もちろん、経済学では、関税、数量、輸出税などの効果について 分析されています。
保護貿易の理論は、最適関税の理論、幼稚産業保護論、市場の失敗是正論、戦略的貿易政策論etcがあります。結論から言うと、各国のGDP(国内総生産)増大により、税収を上げる為に関税を使うことはなくなっています。雇用の移動(摩擦を伴う)には、保護貿易は最適な手段ではないことが明らかになっています。雇用への補助金の給付と言った直接給付が望ましいことが分かっています。ダンピングに関しては、輸入規制ではなく、独占をなくす=市場メカニズム導入が最適です。貿易収支(黒字を減らす・赤字を減らす)は、論外です。
TPPを選択しなくても、ASEAN+中国韓国日本のFTA、EUと日本のFTAと、そしてTPPの拡大版APECと、次から次へと「自由貿易課題」が日本に訪れます。TPPだけ反対し、導入を阻止すればOKという問題ではないのです。
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