マクロ経済学のミクロ的基礎づけ その5/5

<財政政策・金融政策の実際>
実際に、リーマン・ショックの後、各国(EU含む)政府は、「財政・金融」政策をフル出動させました。
2008年9月におこった、リーマン・ブラザーズというアメリカの投資会社の倒産に端を発する、世界的金融危機は、「100年に1度の危機」と言われました。
2008年11月15日,その金融危機を受けて,主要20カ国・地域(G20)緊急首脳会合(金融サミット)がワシントンで開かれました。
首脳宣言は,(1)自由貿易の支持と(2)保護主義反対を唱え,G20の足並みがそろいました。「今後1年間は投資やモノとサービスの貿易に新たな障壁を設けない」具体策など、首脳レベルで「自由貿易の堅持を確認するのは異例」のことでした。
さらに、2009年4月2日の金融サミットでは、首脳声明として、次の2点が確認されました 。
(1)成長を回復するために必要な規模の継続した財政努力を行うこと
(2)中央銀行はあらゆる金融政策を活用し、緩和政策を維持すること
「首脳声明では、成長と雇用の回復に向けて各国が必要な規模の継続した財政努力を行うことにコミットするとともに、中央銀行は、非伝統的な手法を含むあらゆる金融政策の手法を活用しながら、必要とされる間、緩和政策を維持することを誓約」したのです。
財政政策
アメリカ
過去最大規模の総額7,872億ドル(約75兆円、GDP比約5.5%)
(1)環境エネルギー対策や科学技術振興策、医療情報のIT化促進
(2)道路、橋梁の近代化や高速鉄道への投資といった公共投資
(3)失業保険の給付期間延長の継続やフードスタンプ(食料引換券)の増額等
ユーロ圏
ドイツ1,000億ユーロ、フランス284億ユーロ、イタリア800億ユーロ、スペイン490億ユーロ、イギリス600億ポンド(約672億ユーロ)
(1)失業保険給付の増額、職業訓練、求職支援等の「雇用対策やセーフティネットの構築」
(2)減税、一時金の支給、公共投資等の「有効需要の創出」
(3)省エネ化へ向けた住宅改修支援と低公害車への買換え補助や税制上の優遇措置等
日本
2009年度13兆9,256億円の補正予算
定額給付金による緊急的家計支援、緊急雇用対策、中小小規模企業対策、高速道路料金の大幅値下げ等、エコポイント・エコカー減税
金融政策
アメリカ
(1)FRB政策金利を過去最低0~0.25%とし、事実上のゼロ金利政策
(2) 流動性確保(マネタリーベース)以前の1000億ドル以下から、12月には2200億ドル
①長期国債買い取り
②コマーシャル・ペーパー買い取り
ユーロ圏
(1)欧州中央銀行(ECB)
②政策金利を大幅に引き下げ
③カバードボンド(金融機関が発行する担保付債券)の買取
(2)イングランド銀行(BOE)
①政策金利を大幅に引き下げ
②CPや社債の買取等を実施
(3)各国政府
金融機関への資本注入、銀行間取引への政府保証の付与等を継続
日本
(1)政策金利を引き下げ、0.1%に
(2)CPや社債の買取等を実施
各国の、政策金利は、次のように低下しました。
データ出典 『三菱商事フューチャーズHP 各国政策金利』

また、財政出動は、過去最大規模に上り、政府支出の割合も過去最高の水準となりました。
『政府支出GDPの45%に』日本経済新聞 H22.2.19
政府支出の規模が主要国で急速に膨らんでいる。経済協力開発機構(OECD)の2009年の統計によると、加盟28カ国の政府部門の支出は国内総生産の(GDP)の約45%に達し、過去最高の水準を記録した模様だ。・・・1960年の比率は30%弱。福祉政策の充実などを背景に70年代、80年代とほぼ一貫して上昇…。
さらに、賛否両論はあったものの、アメリカは、史上空前規模の金融緩和(QE2)を行い、デフレを回避し、失業率を改善させました。
2011-03-08 記事カテゴリ:デフレとは
http://abc60w.blog16.fc2.com/blog-entry-511.html 参照
これらの政策理論は、すでに各国政府が採用している、「ニューケインジアン理論」から、導きだされているものです。
以下は、現在、市場経済学者の間に、合意されている事実です。
齊藤誠他 『マクロ経済学』有斐閣 2010 p646
何らかの市場メカニズムの限界で、実際のGDPが潜在GDPを一時的に下回る不況に陥ることがある。その場合、財政政策や金融政策などのマクロ経済政策によって総需要を刺激し、実際のGDPを潜在GDPにまで引き上げることは、理論的にも、実際的にも十分に正当化できる。
…市場経済を前提にマクロ経済を考えている研究者のなかで、上述…に対して真正面から異論を唱えるものは少数派であろう。
…需要サイドとともに供給サイドが考慮され、マクロ経済政策に置き換えていくプロセスにおいて、需要サイドとともに供給サイドが考慮され、…新しい古典派…が十分に反映されている。
注)ただし、財政政策の出動に関して,学者の意見が分かれるのは,費用と効果の評価に違いがあるからです。
参考文献 谷内満『効果に過大な期待抱くな』日経H21.3.28 読売H21.8.23
財政政策賛成派
クルーグマン(プリンストン大学)
スティグリッツ(コロンビア大)
アロー(スタンフォード大)
サミュエルソン
フェルドシュタイン(ハーバード大 財政刺激策否定派だが,今回は必要)
懐疑派
☆バロー(ハーバード大)
☆ルーカス(シカゴ大)
サージェント(ニューヨーク大)
ブキャナン(ジョージメーソン大)
ベッカー(シカゴ大)
プレスコット(アリゾナ州立大)
★マンキュー(ハーバード大)
★テーラー(スタンフォード大)
☆はケインズ経済学を否定し,理論的にも実証的にも効果がないと考えている。
★はケインズ経済学の立場で,理論的には効果はあるが,実証的にはかなり限定的と考える。
現在の経済学は、もはや、「新しい古典派」だの、「ニューケインジアン」だのと、分けることができなくなっています。「市場に任せておくだけでOK」理論など、リーマン・ショックでぶっ飛んでしまいました。
そういう意味では、マクロ経済学という分野さえ、事実上存在しないとも言えます。
ラムゼー・モデルや、RBC(リアル・ビジネス・サイクル)モデル―(視点を変えればニューケインジアンモデルも同じ)、DSGE(動学的一般均衡)モデルなど、最先端のモデルでは、「ミクロ的基礎づけ」のない理論はあり得ないといっても過言ではありません。
一方、新しいIS-LMモデルでは、期待所得や、期待インフレ率など、将来予測を含み、AS曲線を導出しています。
注)ルーカスも、フリードマンも、クルーグマンも、キドランド・プレスコットも、ノーベル経済学賞受賞者です。
確実に言えることは、「一つの理論だけで、全てを解説できるというのは、詭弁」「経済学のカンどころですが、常に2つあるいは、それ以上の視点が、『同時』に必要」ということです。
どうにか、「問題を解決する方法はないだろうか」を模索しているのです。ですが、この新しい理論は、世間には知られていません。知られていないというのは、実際に政府内に入って、政策に影響を与える世代にはなっていないからです(日本の場合)。
「病気(不況)」のときに、「構造改革」といって需要を縮小させたり、金融緩和を「ジャブジャブにして効果なし」、財政政策を「ばらまき」と言ったり、「インフレはとんでもない」と言ったり、「デフレは大したことではない」と言ったり・・・

理論は科学ですが、その政策(実践)には価値観が伴います。理論と実践の間に横たわる、「永遠の課題」です。
TOO LATE 「ミネルヴァのフクロウは夜に飛ぶ」のです。
<日系は、マッチポンプ>
H23.6.9『経常収支、悪化は一時的』

「経常赤字転落」「国内で自由に使えるお金が少なくなり」という、否定的記述です。
一方、日経ビジネスオンラインでは、法政大学小峰先生がH23.6.8『貿易赤字国転落の誤解』としています。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20110606/220468/
http://www.asyura2.com/11/hasan72/msg/141.html
経済の中でも国際経済の分野は、「エコノミストの常識」と「一般の人々の常識」の食い違いが特に多く見られる分野である。その食い違いがあまりに多いので、私は『日本経済・国際経済の常識と誤解』(中央経済社、1997年)という本を書いてしまったほどである。
その誤解に満ち満ちた国際経済の分野でこのところ話題になっているのが、日本の貿易収支が赤字となっていることだ。このままいくと経常収支も赤字になる可能性があるとも言われている。これについては既に多くの議論が展開されつつあり、例えば、週刊東洋経済は6月4日号で「貿易赤字転落で発生する日本経済最悪シナリオとは」という記事を掲載し、週刊エコノミストは6月7日号で「ニッポン 経常赤字国転落」という特集を組んだ。
この貿易(経常)赤字国転落論にもエコノミストと一般人の常識の食い違いがあり、私から見ると、その食い違いの数はちょっと半端な数ではないように見える。以下、詳しく考えてみよう。
日経は、社内情報を共有していない様です。
<追記>
この記事内容について、日経(読者応答センター)に問い合わせた所、次のような回答でした.
1「経常赤字転落」は慣例的表現で、ずっとこうなっています。
2 その記事内容を受けて、あとは、読者が判断して下さい。
3 国際収支については、読者が勉強することが必要です。
4「『赤字になると国内で自由に使えるお金が減る』」は事実ではないのでは?」に対し、私は詳しくないので、分かりません。
との事でした。年配の男性でした。
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