マクロ経済学のミクロ的基礎づけ その4/5



注)IS曲線が水平になるのは、投資弾力性が高い場合です。投資量が利子率に大いに左右される場合です。
この場合、利子率が下がると投資需要が拡大し、結果総需要が増大します。そのため、総供給も増加しなければ財市場が均衡しなくなります。
このような、マネタリストの主張つまり、ある時は需要サイド(IS-LMモデル)で論じたり、長期には供給サイド(完全雇用)で論じたりというのは、統一理論を重視する「新しい古典派」には到底受け入れられません。「ケインジアン批判」では同じなのですが、そのよって立つ根拠が違うのです。
で、新しい古典派の説ですが、人間はすべて合理的で、情報もすべて持っているとする前提そのものが、「非現実的だ」とケインジアンからは非難されます。そのような前提を基にしては、いかに数学的な理論を駆使しても、「空理空論だ」と批判されます。
一方で、ケインジアンのIS-LMも、「空理空論で、政策効果について具体的なものではない」というのも、事実です。確かに、「ISは実質金利、LMは名目金利」ですから、ぐうの音も出ませんでした。経済学では「実質と名目」は厳密に区別して論じなければいけません。そもそもIS-LMは、その意味では、基礎部分の土台からしておかしいのです。
この論争を経て、1990年代には、「新しいケインジアン」が登場します。これは、「新しい古典派」の、考え方の手法を使っても、ケインジアン理論を構築できることがわかったからです。
<新しいケインジアン>
ケインジアンの主張は「価格は伸縮しないのだから、均衡しない」というものでした。
それに対し、新しい古典派の理論は次の3本柱でした。
1 価格や賃金は市場の需給で動く:「伸縮性」
2 人々が将来を織り込んで、行動することを想定に取り入れる」
:合理的期待形成
3 マクロ経済学のミクロ的基礎づけ
人々は、来期のデフレを予想するとします。将来もっと安くなる(全体の物価)のですから、今は消費を控えたほうが合理的です。しかも、借金は、「実質金利」が高くなるのですから、まるっきり損です。家のローンなど、「実質金利」が高くなるので、今はやめです。
実質金利 =名目金利-(予想)インフレ率
20% = 10% -(-10)%
企業の投資も同じです。今は実物投資をしても実質金利高いので、損です。来年になればもっと「実物」は安くなりそうだからです。しかも自社製品(個々の物価水準)の価格も「下がり」ます。
逆に、過去の借金(例:名目金利2%で借りた)は、実質金利が高くなるので、できるだけ早く返さなければなりません。
このように、「消費」も「投資」も落ち込んでしまいます。不況です。財・サービスが売れず、失業が増え、さらに全体の物価が下がります。最初の予想通り、デフレになります。
どうですか?事実(実際に起きたこと)は、「日本のデフレ」状態です。これは事実なので、「理論的におかしい」とは、否定できません。
この流れには、新しい古典派の理論(3本柱)がすでに含まれています。
1.価格は伸縮し、その結果デフレになっていますので、2.合理的期待形成理論も含みます。そのような条件下で、「消費は損」「投資は損」と消費者も企業も、一番合理的な選択をしています。つまり、3.ミクロ的基礎づけをベースにした行動です。
「新しい古典派の考え方」の手法を使っても、ケインジアン理論を構築できるのです。
新しい古典派のいうように、「放っておけば、市場原理が働き、需要不足や失業は解消され、均衡に向かう」というのは、実現しなかったのです。
一方、「価格や賃金は下がらないので均衡しない」という、ケインジアンの主張も事実(実際)ではありませんでした。
これらの事実は、どのような理論を用いようとも、「強烈に、理論の前に立ちはだかる、壁のような事実」でした。日本のデフレは、理論に、めちゃくちゃに影響を与えたのです。
では、「政府の介入」すなわち、「財政・金融政策」という、政策は「無駄」なのでしょうか?それとも有効?なのでしょうか。有効だとするのが、新しいケインジアン=ニューケインジアンです。

注)DSGE(動学的一般均衡)モデル
新しいIS-LMモデルは、RBC(リアル・ビジネス・サイクル)モデルに、「不完全競争市場」「名目価格の硬直性」を加えたものです。
続く
全文引用です。
高山正之 『ぼろは着てても』週刊新潮’11.6.9
…90年代半ば、ルワンダ内戦で…自衛隊派遣を言い立てた。
…難民キャンプにも武装ゲリラが出没…エイズは流行る。危険千万で…西欧諸国も尻ごみしていた。
…装備は小銃のほか機関銃1丁とほとんど丸腰で送り出した。
…自衛隊は…任期を無事務め上げたうえ、武装ゲリラに襲われたNGOの日本人医師の救出もやってのけた。
…任務終了後…制服の着用は仰々しいので認めない。各自私服で帰れと。
お前らは目立つことはないという意味だ。
…誰もましな着替えなど持っていない。…ロンドンから日航機に搭乗したとき周囲の乗客はひどい身なりの集団にちょっと驚いた。
…機長アナウンスでだった。
「このたびは任務を終え、帰国される自衛隊員の皆さま、お国のために誠にありがとうございました。国民に成り代わり機長より厚く御礼申し上げます。当機は一路日本に向かっております。皆さま故国でよい年を迎えられますよう」
…客席から拍手が沸き、その輪はやがて機内一杯に広がっていった。
機長は…「当然のことをしただけ」…。
成田に着いたあと65人の隊員はコックピットの見える通路に整列し機長に向かって敬礼した。
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