マクロ経済学のミクロ的基礎づけ その2/5

<短期:最も単純なIS-LMモデル>

 まず、「IS-LMモデル」について、学んでゆきましょう。

 ケインズの「有効需要」の原理を、ヒックスという経済学者(ノーベル経済学賞受賞)が簡潔に示したものです。もちろん、「IS-LM分析」で、すべての経済政策を説明できるわけではありませんが、政策の全体像を見るには適した理論です。

IS-LM曲線.jpg

 IS-LM曲線は、国民所得Y(=GDP)と、利子率を示します。

IS曲線は、財市場(モノ・サービス=いわゆる商品)を均衡(バランス)させるような利子率と国民所得の組み合わせです。ISのIはInvestment、投資です。SはSaving、貯蓄です。「投資-貯蓄曲線」です。財(モノ・サービス)市場を示します。

LM曲線は、貨幣市場(金融市場)の均衡(バランス)を維持する利子率と国民所得の組み合わせです。LはLiquidity Preference、貨幣への選び方の好み(流動性選好)です。MはMoney Supply、貨幣の供給量です。貨幣市場のL(需要)M(供給)を示します。

<金融政策>

 金融政策は,LM曲線をシフトさせます。

 日銀が景気を刺激するために,利子率rを下げます。貨幣の供給=マネタリーベースを増やし,利子率rを下げます。

IS-LM LM移動.jpg
 
 このシフトに基づいて,財政政策・金融政策の効果について検証しましょう。

 開放経済下(外国との資本移動が自由な場合=日本・米・EUなど)では,金融政策は有効だとされています。拡張的金融政策で,貨幣の供給=マネタリーベースを増やし,利子率rを下げます。

IS-LM LM移動 2.jpg

 新しいLM①曲線のもとで,新しい均衡点はE①になります。このとき,GDP=Yは増加していますY①。また,自国の利子率rは低下しています。

is-lm 4.jpg

 国内利子率rが外国より低い場合,利子率の高い国で資本を運用した方が利益は大きいので,資本が日本から外国に移動します。円売りドル買いになります。円安・ドル高で,輸出増・輸入減になります。輸出は総需要を増やします。

Y②=C+I(r)+G+(EX-IM)②

②効果により,新たな均衡点E②では,GDP=Yはさらに増加していますY②

 変動為替相場制で,資本の国際移動が行われる開放経済下では,金融政策は有効とされています。

<IS-LMモデルの欠陥>

 このように、財政政策・金融政策の効果を見るのには、大変適したモデルなのですが、欠陥も持っています。それは、「適切な量」が分からないというものです。
 
財政政策発動→GDP増→貨幣需要増→金利アップ→投資減・輸出減・・・・

金融政策発動→金利低下→投資増・輸出増・・・・
 

 どうですか?正反対の結果ですよね。ですから、「財政政策・金融政策」の両方を適切に組み合わせることによって、「望ましいGDP」を実現しようとするのですが…

 どちらの政策をどれだけ行えば(量)、最も適切な財政・金融政策なのでしょうか?これが、IS-LMモデルでは「わからない」のです。

 分かるのは、「とにかく財政政策と金融政策を行うこと」の必要性です。必要なことは、理解できるのですが、「どんぶり勘定で必要だ」では、「エイヤ!」で終わりです。

 IS-LMモデルが、答えを提供できないのは、ミクロ的な基礎がなく、「最適」を導き出せないからです。

 ミクロの需要曲線では、消費者効用の最大化が行われ、供給曲線は、企業にとって最大利潤点を結んだものでした。つまり、ミクロの考え方は、「最適水準」が分かるのです。

横山将義 嶋村紘輝著『図解雑学マクロ経済学』ナツメ社2006消費者余剰・生産者余剰 横山将義 嶋村紘輝著『図解雑学マクロ経済学』ナツメ社2006.jpg

 市場メカニズムの下で、生産者余剰も、消費者余剰(両者を合わせて総余剰といいます)も最大になっています。つまり、市場メカニズムの下で、「最も効率的な資源配分がなされている」ことになるのです。

「生産者は利益を最大限にするように行動する」です。

供給.jpg

 ⑦の矢印部分が、この生産者にとって、一番利益(利潤)が大きい点です。あと1個でも、生産を増やせば(減らせば)、儲けは少なくなってしまう、限界点です。企業は、この最大利益(利潤)の点で、財・サービスの生産量を決定することになっています。

注)この線がどのような意味を持つ線かは、拙著『高校生からのマクロ・ミクロ経済学入門Ⅱ』を参照下さい。このブログでは、スペースがなく、説明できません。 

 このように、需給曲線が導き出されるのです。

需給曲線.jpg

 もし、今年だけのGDP増を考えるのであれば、貯蓄Sも所得もすべて消費Cに充てればよいことになります。ですが、S貯蓄(I投資)をすべて使い切ってしまえば、来季の生産はできなくなります。単に、将来の消費を先食いしたことになるのです。
 これでは、最適な投資:財政政策など、導けません。つまり、IS-LMモデルは、「現在」だけを考え、「将来」を考慮していないのです。「動き」がなく、「止まっている」のです。

 IS-LMモデルでは、均衡時の消費・投資、そしてYが、望ましい状態にあるかどうかがわかりません。あくまでも、rとYの均衡を示し、「財政と金融政策の運用」について、モデルとして図示したものです。

 一方、ミクロ経済学で使用される重要・供給曲線は、効用の最大化=生産者と消費者の効用の最大点を示しています。ある意味、均衡状態とは、理想的な状態です。企業にとっては「利潤最大化」点であり、消費者にとっては「効用最大化点」です。

 ミクロ経済学では、右上がりの供給曲線で、「労働賃金」「売上」「限界費用」のもとに、企業にとって、一番効率的な状態を導出できます。

 いずれも、「費用対効果」コストバリューの最大点と考えられます。

 IS-LMモデルは、この「費用対効果」を検証することができません。Yを拡大する方法は分かりますが、それが望ましいか(ミクロで言う効用最大化とか、費用対効果が効率的なのかどうか)は検証できないのです。

ミクロ的基礎付けのある、需要 供給曲線.jpg

 さらに、IS曲線を動かして、財を一時的に使用して、Yを引き上げても、それは果たして2年後、3年後の影響、つまり、長期的に財・資源をどのように使ったら効率的なのかを分析することもできません。

 企業は、長期の見通しの中で、財・資源を使用します。たとえば、今季、1000億円借金して、財・資源を調達しても、工場と人の限界で、その1000億円分の財・資源を使いこなせなければ、まったく非効率になります。
 単に1000億円調達できても、それを財・資源・人・工場・土地にいかに振り分け、しかも、2年後、3年後を見通してそれぞれの資源が最大に効率的になるように(たとえば、新入社員がフルにその能力を発揮できるのは、2年後・3年後です)、を考えたうえで、資本を振り分けます。1年目工場拡張、2年目人材獲得、3年目財・資源調達・・・というようにです。

 そうすると、IS-LMモデル(財政・金融政策)によって、AD(総需要曲線)を動かしても、それはもともとミクロ的基礎づけがないので、結論的には「?」ということになります。両者に相互依存関係があるのに、「ASはASだけで考える、ADはADだけで考える(従来のIS-LMモデル)」のは、できなくなります。

 このように、ベースには、動的に考える視点が、必要です。そこで、 「合理的期待形成」説は、IS-LMモデルを徹底的に批判したのです。

経済学史 サミュエルソン.jpg

 その3に続く

<続:日経が変わった?>

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 貿易赤字・黒字記事が、囲み記事(メイン記事外れる)になりました。また、「赤字転落」という表現もなくなりました。今まで(毎月1回、財務省発表時に掲載)とは違っています。
http://abc60w.blog16.fc2.com/blog-entry-538.html
2011-05-22 「貿易黒字はもうけ」の誤り 参照


北海道湧別町 かみゆうべつチューリップ公園 5月27日
上湧別 チューリップ
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comment

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ええと、ミクロ的基礎付けのないマクロモデルで「財政政策の効果」「金融政策の効果」などもシミュレートしてるんですけど。ルーカス批判からやり直しては?

No title

ルーカス批判 ウイキペディアより

 過去のデータを用いて経済主体の行動を推定しその推定に基づいて将来採るべき政策を評価してきたため、政策の変化に対する経済主体の行動の変化を織り込むことが出来ず、適切な評価が困難となっていたのである。ロバート・ルーカスは従来のマクロ経済学が経済主体の期待を考慮していないことを批判して、現在の政策変更が将来に関する経済主体の期待に影響を与えるため経済主体の行動を変える可能性を指摘した。

 理論の構築と、政策提言の間に横たわる、緊張関係を示したものです。永遠の課題です。

No title

 技術的にルーカス批判の本質を言うと、「人々の行動様式(パラメーター)が変化すると、観察される経済変数同士の関係が崩れ、見た目上の経済変数の関係や経験則を利用して政策を行うことはできない」というものです。

伝統的フィリップス曲線の図式

πt+1=γπt+αyt+νt+1

において、γ=0.7とします。中銀がインフレ退治に動くと、γが0.72→0.59に変化します。これだと、
ニューフィリップス曲線

πt=βEtπt+1+(1-β)πt-1+αyt+vt

には、変化は生じません。β変化がないのです。

 見た目上のインフレ率の様式(パラメーター)が金融政策ルール
の微妙な変化が影響を受けてしまいます。ですから、

πt+1=γπt+αyt+νt+1

による推計で得られたパラメーターはそれ自体が解釈不能になるというものです。フィリップス曲線以外で生じた金融施策ルールの変化の影響を受ける可能性が高くなることになります。
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