ロックは名誉革命を擁護した?

とうほう『政治・経済 資料2009』2009年度見本 p15
ロック(英)John Locke(1632~1704)『市民政府二論』(1690年刊)
名誉革命(1688)を正当化

桐原書店『新政治経済 改訂版』H20.2.28 p9
名誉革命を正当した。

浜島書店『ニュービジョン現社』2009年度改訂見本 p143
名誉革命を理論的に支持


<ロックは名誉革命(1688-89)を擁護するために『市民政府論』を書いた?>

ジョン・ロック(1632-1704) イギリスの哲学者・政治思想家。
画像:ウイキペディア
ロック.jpg


1688年 イギリス名誉革命
1689年『市民政府論』『(統治二論)』

 名誉革命は、イギリスで、1688~89年に起こった革命です。国王ジェームズ二世を追放し、王の長女メアリとその夫である、オランダ総督ウィレムを統治者として迎えました。この革命で立憲君主制(王は君臨すれども統治せず)が確立しました。ほぼ無血のうちに達成されたので、「名誉」革命といいます。

 ロックは、社会契約説を説き、「市民の権利を守るのが政府の役割であり、政府がそれを侵害したら、私たちはそれに抵抗してよいという考え(抵抗権)」を打ち出しました。

ロック『市民政府論』鵜飼信成訳 岩波文庫 1995年 p221
 立法者が人民の所有を奪い取り、破壊しようとする場合、また恣意的な権力のもとに彼らを奴隷に陥れようとする場合には、立法者は人民との戦争状態に身を置くことになり、人民は、こうしてこれ以上服従する義務を免れ…てよいことになる。
 

 これが、名誉革命を「正当化・擁護した」というのですが・・・

デヴィッド・ヒューム(1711-76)『世界の名著32 ロック・ヒューム』中央公論社 1980年 p542
 名誉革命でさえ、そのような…理論(筆者注:社会契約論)には一致するどころではなかった。…変革されたのは王位継承だけであり…政府といっても王位に関する部分だけにすぎなかった。しかも一千万人近い人民に対してこのような変革を決定したのは…たった700人にすぎなかった。…この問題はちょっとでも人民の選択にゆだねられたと言えるだろうか
 

 本当に、人民の革命なの?というわけです。

 ロックの抵抗権は、「革命vs反革命」や、「王様←抵抗権」など、なんにでも使えてしまう論理です。名誉革命で王を追い出した側が、ロックを読んで、「俺たちのは抵抗権だった」と正当化したのですね。

 真相はこうです。

 ジョン・ダン『ジョン・ロック:信仰・哲学・政治』加藤節訳 岩波書店 1987 p47
 けれども最近においてこの問題を考察した著述家のうち、…少なくとも次の2点で同意しあっていると言って良い。第1点は、ロックが1689年に出版した『統治二論』のテキストの多くの部分を1683年の夏の終わりにオランダに向けてイギリスを離れたときまでには書き上げていたことである。そして第2点は、ロックが(1683年の時点における)その書物の様々な章句をそれに先だつ何年間にも渡って、執筆したこと、従ってそのテキストは、王位排斥法案をめぐる論争の過程で、シャフツベリの党派が採った多様な立場を反映していることに他ならない。


 王位排斥法案というのは、ジェームズ2世を王位につかせない法案です。シャフツベリの王位排斥法案は失敗に終わります。ロックは、このシャフツベリの反王暴動に連座した容疑を受け、シャフツベリ同様、オランダに亡命します。

 ロックの考えは、1681年当時のものなのです。名誉革命(1688-89)を擁護するために『市民政府論』を書いたのではありません


<ホッブズと、ロックの違い>


 ホッブズは、「人間は生まれながらに社会的」だとは考えません。

ホッブズ『リヴァイアサン』水田洋訳 岩波文庫 1992 第1巻 p210-211
 これによって明らかなのは、人々が、彼ら全てを威圧しておく共通の権力なしに生活しているときには、彼らは戦争状態と呼ばれる状態にあり、そういう戦争は万人の万人に対する闘争だということである。
 

 みなが自然権を行使すると、上記のようになります。みな、「自然法」を守らないから、こうなるのでしたね。

 これに対し、ロックは、人々は自然法に従い、平和に暮らしていたと考えます。

ロック『市民政府論』鵜飼信成訳 岩波文庫 1995年 p12
 自然状態には、これを支配する一つの自然法があり、何人もそれに従わなければならない。この法たる理性は…すべての人類に、一切は平等かつ独立であるから、何人も他人の生命、健康、自由または財産を傷つけるべきではない、ということを教えるのである。
 

 ロックの新しい点は、自然権に、財産(所有)権を加えたことですね。そして、この財産権(所有)を守るために、社会契約(政府を作る)となるのです。

 まず、財産は、一定ではなく「増える」と考えます(ここがホッブズとの大きな違いですね)。

 ゼロ・サムゲームではなく、富は増大するのです。それは「労働」を加えるからです。増えなければ「奪い合い」、増えれば「それらの維持が目的」となります。

P32~
 人は誰でも自分の一身については所有権をもっている。…彼の身体の労働…は、まさしく彼のものである…。…自然が備え(筆者注:例えば鉄鉱石)…その状態から取りだすものはなんでも(筆者注:例えば鉄鋼)労働を混えたものであり…このようにしてそれは彼の所有となるのである。…彼のこの労働によって他の人々の共有の権利を排斥するなにものかがそれに附加されたのである。

P50
 こういうわけで労働が、最初、共有物に所有権を設定したのである。


 労働を加えることによって、公共物ではなく独占物、すなわち、「所有権」が生じると考えていますね。この所有権を守るために、社会契約(政府)する必要があると考えます。

P127~
…彼らの生命自由及び資産、すなわち総括的に私が所有(property)と呼ぼうとするものの相互的維持のために…それ故、人々が国家として結合し、政府のもとに服する大きなまた主たる目的は、その所有の維持にある。


ロックなかりせば、今日の「民主主義」はなかったのですね。

松原隆一郎『経済学の名著30』ちくま新書 2009 p18
 ロックは…民主主義原理を…自由主義原理から導いたが、それは同時に生産要素の私的所有権をも定めた。現在の世界を支配する自由民主主義の基本原理は、ロックによって初めて述べられたのである。
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