新聞の間違い(14) 日経の社説さえ・・H21.5.14版

日本経済新聞社説 H21.5.14 
 2008年度の国際収支速報で…貿易黒字は9割も減った。海外への直接投資や証券投資による収入も減少した。外で稼ぐ日本が二重の打撃を被った格好だ。…貿易収支は28年ぶりに赤字に転じた。日本の代名詞だった「黒字大国」の座が揺らいでいる。
…米国の過剰消費のおかげで日本や中国は輸出を拡大し、巨額の対米黒字を続けてきた。その日中は米国債購入などで資金を還流させ、米国の赤字を穴埋めしてきた。…まず「外で稼ぐモデル」を再構築する必要がある。…輸出構造を見直し、成長力の高いアジアなどになどに照準を合わせたビジネスの展開をさらに進めるべきだ。…国内では…海外からの投資をもっと日本に呼び込む必要がある。日本国債を安定的に海外投資家に買ってもらうためにも…。

一見、正論のように見えますが、書いていることは整合性を欠いています

正しい経済学にのっとって、順番に説明してゆきましょう。
(1) 輸出は、稼ぎである。
(2) 黒字は稼ぎではない。
(3) 貿易黒字を伸ばすと、資本収支は赤字になり、海外資産が増える。
(4) 貿易黒字を伸ばすのと、海外からの投資を増やすのは、両立できない。

この社説では、(1)と(2)の区別がつきません。

(1)輸出は、稼ぎである
 まず、輸出は日本の稼ぎです。これは間違いありません。Y(GDP、GNP)=C+I+G+EXからIMを引いたものです。GDP(国内総生産)GNP(国民総生産)=Yは、我々が生んだ付加価値(もうけ)の総額で、我々の所得の総額です。もうけは、我々の所得として配分されるのです。
 Y=国内総生産、C=家計が主体の消費(Consumption )、I=企業が主体の投資(Investment)、G=政府最終支出、EX=輸出を足して、IM=輸入を引きます。ですから、Y(つまりGDP)を伸ばすには、C、I、G、EXのいずれかを増やすということです。

 ですから、トヨタや、パナソニックが「輸出」を伸ばせば、「もうけ」を稼ぐことになります。買ってもらう相手は、日本国民であれ、他企業であれ、政府であれ、外国であれ、どこでもかまいません売り上げ増=利益増=結果として日本全体のGDP増です。そして、これらの企業は、EXで稼いだ収入を、労働者への賃金・銀行や株主への利子や配当の支払いに回すために、外貨を円に換えます。

(2)貿易黒字は、稼ぎではない
(1)で、「輸出は、稼ぎである」と説明したことと、(2)「貿易黒字は、稼ぎではない」ということは、矛盾のように見え、一番理解が難しいところです。ですが、ここが理解できないと、新聞のように、「貿易黒字」で「稼ぐ」とか、「黒字大国」は望ましいといった誤りにつながってしまいます。
 「貿易」はEXですが、「貿易黒字」は「EX-IM」です。「EX-IM」は、資本収支赤字(海外投資)から、生まれるのです。つまり、「お金の貸し借り」が先で、「貿易黒字」は後なのです。
 三面等価の図を見て見ましょう。三面等価

 我々が、消費せず、税金にも回さなかったお金を、貯蓄Sと言います。その国内のS(貯蓄)が、I(企業の投資)、(G-T:公債)、(EX-IM:輸出―輸入:経常黒字:海外への資金の貸し出し)になるのです。S=144兆円、それがI93兆円、G-T32兆円、EX-IM18兆円に回るのです。EX-IM18兆円は、海外へのお金の貸し出し なのです。
外国債・外国株・外国社債などの購入や、外国への貸付額がEX-IM18兆円なのです。
 これらは、銀行などの金融機関、生命保険会社・投資信託などの機関投資家、政府、企業、個人です。これらは、資本収支赤字=海外資産増加になります。
 一方、「EX-IM」は経常黒字(含む貿易黒字)です。Y GDP(国内総生産)GNP(国民総生産)のうち、我々が、消費せず、税金にも回さなかったS部分は、我々個人に代わり、誰かが購入(消費・投資)しています。I(企業)が購入し、(G-T:公債)政府が購入し、(EX-IM:輸出―輸入)外国が購入しています。EX-IM18兆円は、輸出―輸入ですから、海外が日本から多く買ったこと、すなわち②貿易黒字です。
 「EX-IM」は①資本収支赤字=海外資産増加=②貿易黒字です。2007年の国際収支表です。国際収支表
 経常収支(貿易収支含む)黒字=資本収支赤字になっていることがお分かりでしょう。
 同時に、資本収支赤字=海外投資=日本の海外資産の増加であり、額は07年で250兆円超、世界一になっています。(出典:読売新聞)
対外資産 
 「貿易黒字はどこへいったのか」の答えは,「海外の資産になった」です。このことは,日本人の生活そのものが豊かになることを,必ずしも意味するものではないのです。
 また、これらの海外資産は、海外進出企業の利潤・利子・配当など、1年間に13.5兆円の黒字(所得収支)(06年末)を産み出しています。所得のうちわけは,外国債券の利子収入が7割,直接投資の収益が2割,外国株式の配当金が1割です。国際収支表の「所得収支」の項目に記載されます。

 その結果、「(3)貿易黒字を伸ばすと、資本収支は赤字になり、海外資産が増える。」が導き出されます。
 ただし、「日本や中国は輸出を拡大し、巨額の対米黒字を続けてきた。その日中は米国債購入などで資金を還流させ、米国の赤字を穴埋めしてきた」ではありません。
 トヨタや、パナソニックが「輸出」の主体です。一方、銀行などの金融機関、生命保険会社・投資信託などの機関投資家、政府、企業、個人が海外投資を行う主体です。これらは別々です。投資家が海外投資をするのは、自分のもうけのためであり、「日本の貿易黒字分」や「外貨が余っているから」投資しなければならないのではありません
 また、外国の政府・企業・個人からすると、社債・国債・株式を発行して資金を調達するのは、「貿易赤字」を穴埋めするために行っているのではありません。お金を貸してくれる主体は、国内であれ、海外であれ、企業・政府・個人にとってはどちらでもかまわないのです。
「EX-IM」は、資本収支赤字(海外投資)から、生まれるのです。つまり、「お金の貸し借り」が先で、「貿易黒字」は後なのです。

(4)貿易黒字を伸ばすのと、海外からの投資を増やすのは、両立できない

…まず「外で稼ぐモデル」を再構築する必要がある。…輸出構造を見直し、成長力の高いアジアなどになどに照準を合わせたビジネスの展開をさらに進めるべきだ。…国内では…海外からの投資をもっと日本に呼び込む必要がある。日本国債を安定的に海外投資家に買ってもらうためにも…。

 上記の文は、不可能なことを書いています。 ①貿易黒字=資本収支赤字、②貿易赤字=資本収支黒字です。
 「外で稼ぐモデル」を再構築する必要がある。…輸出構造を見直し、成長力の高いアジアなどになどに照準を合わせたビジネスの展開をさらに進めるべきだ は今までのように、 「①貿易黒字=資本収支赤字」にしろと言っており>、…国内では…海外からの投資をもっと日本に呼び込む必要がある。日本国債を安定的に海外投資家に買ってもらうためにも…「②貿易赤字=資本収支黒字」を達成しろ と言っています。同時に達成するのは、不可能です。

 以上が、「日本経済新聞」の主張=社説の解説になります。
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