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外貨準備を借金返済に使え

編集委員 太田康夫 日経1月17日『景気指標 海外支援の余裕いつまで』

 政府がアイルランド支援に乗り出す。外貨準備を使って欧州金融安定基金(EFSF)が、同国救済のため発行する債券およそ1000億円分を購入
…日本は経常黒字だから、国際金融への貢献が必要との指摘もある。それは正論だが、政府部門は赤字。政府はお金が余っている家計や企業部門にEFSF債の購入を働きかけるのが筋だろう。
…欧州がすべき支援を肩代わりする余裕があるなら、まずそのお金で自国の借金を返済すべきだ。
…財務状況を比べると、世界で最も支援が必要そうなのは日本だ。身の程をわきまえないと自らがアイルランドの二の舞になりかねない。


 日経の編集委員が、トンでも論を唱えています。

『グローバル金融攻防三十年 ―競争・崩壊・再生―』日本経済新聞社2010
という、本まで出している専門家?のはずなのに・・・経済学オンチです。

<無理>

 記事はこういうことです。

①アイルランドを助ける債券を、政府が購入。
②購入には外貨準備高のドルが充てられる。
③そんなカネあるなら、外貨準備のドルで、日本の国債の借金を返せ。

まず、外貨準備とは何かです。
 2009 国際収支表 シンプル

 ウィキペディアより 図も
外貨準備(がいかじゅんび foreign reserve)とは、中央銀行あるいは中央政府等の金融当局が外貨を保持すること。保持している外貨の量を外貨準備高(がいかじゅんびだか)という。


 円高を阻止するために、当局が「円売り・ドル買い」をした結果が、外貨準備高になります。 日本は、2003年~2004年にかけて、32兆8694円の為替介入を行いました。また、2010年にも野田財務大臣の元で、円高を回避するために、為替介入を行いました。

日本の外貨準備高

 大規模な介入は2003年04年です。ですが、その後毎年「外貨準備」が増えるのは、その外貨=簡単に言えばドルを、証券や預金で運用するから(結果論)です。ドルをどこに持つかですが、日銀の金庫には保管しません。外国債や銀行口座に置くことになります。これが1,096,185百万ドルですから、黙っていても、利子を生みます為替介入をしなくても、外貨残高はどんどん増えるのです。

 以下、外貨準備の内訳です。

平成23年1月11日 財務省

 平成22年12月末における我が国の外貨準備高は、1,096,185百万ドルとなり、平成22年11月末と比べ、4,846百万ドル減少した。


 減少する場合もあります。円高・ドル安になれば、見掛け上、円建てでは減少しますし、保有する外債・金(ゴールド)が価格下落すると、外貨準備高は減少します。

外貨準備内訳

 これが、日本の「対外純資産」の一部を構成します。日本の約260兆円の対外純資産のうち、外貨準備は約100兆円を占めます。

国際収支表→対外純資産 外貨準備強調


記者の主張です。
―政府がアイルランド支援に乗り出す。外貨準備を使って欧州金融安定基金(EFSF)が、同国救済のため発行する債券およそ1000億円分を購入。―

①アイルランドを助ける債券を、政府が購入。
②購入には外貨準備高のドルが充てられる。
そんなカネあるなら、外貨準備のドルで、日本の国債の借金を返せ

 ③外貨準備約100兆円で国債を返還すべきとのことですが、返済するなら、一度円に換えなければならず、その際、米国債やユーロ債を売ることになります。100兆円分、外債を売り暴落させ、円高にし、日本の国債返還に充てるということを主張しています。こんなことは、実際には無理です。外貨は外貨でしか運用できません。

<実際は可能>

 と、経済学的にはスタンダードな解説を試みましたが、実際には、100兆円分の外債を売るのは、可能のようです。実は、長期的にみると、日銀が「為替介入」を30兆円分したところで、「円高」を食い止めることは無理=市場に介入しても効果なしだったからです。

http://allabout.co.jp/finance/gc/312608/『日銀の為替介入の効果とは?掲載日:2010年09月23日』
 2010年9月15日に実施された日銀の為替介入で円高に歯止めがかかりました。しかし、過去、介入によって長期トレンドを捻じ曲げられたことはないのです。

為替介入効果

…たとえば、前回日本が行った大規模な介入時の為替推移は上記URLのようでした。2003~2004年春にかけて総額35兆円もの大規模な介入がなされ、その都度短期的な効果はあったのだと思いますが、月足で見ると何の効果も見えず、円高はこの間ぐんぐんと進みました。
結局大海である市場の波の向きは水鉄砲では変えることはできず、政府が為替介入を一切しなくなった2005年から、1円の政府預金を減らさずとも自然に円安に戻って行ったのです。このように為替の長期トレンドを決めるのは市場であって介入ではありません。市場はその時々のファンダメンタルズによって決まるのです。


 ということは、外貨準備を少しずつ売り(数兆円単位)、円に換え、国債の償還にあてることは、可能ということになります。
 日経記者さん、ごめんなさい。
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theme : マクロ経済学 ミクロ経済学
genre : 政治・経済

comment

Secret

99年度より政府短期証券の日銀買い入れを変更

外貨準備の話読みました。わざわざ、外貨準備の米国債(たぶん、米国のFRBの金庫に保管?)を売らなくても、日銀がその分の円を印刷して、政府短期証券を買い入れれば、円高にならず、国債の買い入れもできるのでは?

実は、1999年度から、それまで、ドル買いのための政府短期証券は、全量、日銀が購入していたものを、市場で売りっぱなしにしている。
外国の中央銀行では、紙幣を印刷して外貨を買いとっているものを、99年度から国民の預貯金を吸い上げて、米国債を購入する形にしているために、国債の残高が増え、国民の預貯金が米国債に変わってしまっている。デフレの一因ではないかと思います。

日銀のゼロインフレ政策のためにおこなっているのではないでしょうか?

No title

 外貨を購入(円売りドル買い)する場合、その円は、市場から調達します。その際、政府は短期証券(公債)を発行します。

市場⇔政府短期証券(公債)⇔外貨

 政府短期証券(負債)=外貨準備(債権)です。100兆=100兆となります。

外貨を売る(ドル売り円買いでも市場に影響はないです。
http://allabout.co.jp/finance/gc/312608/『日銀の為替介入の効果とは?掲載日:2010年09月23日

 さて、外貨準備売りですが、それはイコール政府短期証券売り(イメージとしては公債返却)です。 チャラです。

 公債を売ると、市中(当座預金)に現金が積みあがります。日銀が直接引き受けしても、同じです。

外貨⇔政府短期証券(公債)⇔市場

 モノ・サービス量はいきなり増えないのに、現金だけが増える→インフレです。

 外貨準備を売る→貨幣価値毀損政策のことです。
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