日経『米議会、元切り上げ圧力 中国は強くけん制』H22.3.17

日経『米議会、元切り上げ圧力 中国は強くけん制』H22.3.17

 人民元問題(筆者注:元がドルに対して安いとみなす問題)を巡って米中の対立が深まってきた。中国が相場上昇を抑えている人民元の切り上げを求める動きが米政界では強まっている。中国は…米国の圧力に反発する声が高まっている。
元安が国内産業を苦境に陥れているというという議会の主張は激しさを増している。…秋の中間選挙をにらみ、輸出増・輸入抑制を通じた雇用創出を印象づけたいからだ。主導するのは、労働組合の影響力が強い民主党議員だが、「切り上げ論に賛成しなければ国内雇用維持に反対しているとみなされ選挙で不利になる」。

…中国商務省…「自分たちの輸出を拡大するために他国に通貨の切り上げを要求するのは、一種の利己主義だ」…。中国人民銀行は…2008年夏から元の対ドル相場を1ドル6.83元前後に事実上固定している。相場を維持するための元売り・ドル買い介入は国内の過剰流動性を招き、不動産バブルやインフレの温床になっている。


<いつか来た道>

 貿易は、相互にWIN-WINの関係です。だから、世界的に一貫して、貿易額は増え続けています。理論だけではなく,実際に「自由貿易によって,全ての国が利益を得ることができる」からです。

世界貿易額 推移
  
 ところが、マクロ的(その国の消費者全体)には、WIN-WINなのですが、ミクロ的(例えば、個々の生産者、個々の製造業界)にとっては、死活問題になります。例えば、中国企業と競争を繰り広げる業界では、「中国に雇用を奪われた」と主張します。議員はその声を無視できません。過去には、日米貿易摩擦です。自動車を巡って、両国は激しく対立しました。

 80年代になると,日本からアメリカへの,集中豪雨的と言われた輸出が急増し,アメリカの貿易赤字は年々増え続けました。1987年には,アメリカの1,500億ドルの貿易赤字のうち,約560億ドルが,日本との貿易赤字だったのです。
 
 特に自動車産業では,80年代初頭に,日本車がアメリカ国内の販売台数の20%以上を占めるとともに,生産台数も,アメリカを抜いて世界第一位となりました。一方,アメリカの自動車産業は,不振におちいり,工場閉鎖,従業員の一時解雇(レイオフ)が相次ぎました。日本による失業の輸出であるとしたアメリカは,対日非難を強め,保護主義を台頭させました。

山川出版社 教科書『詳説政治・経済』2007 p195
日米貿易摩擦

 1986年には,日米半導体摩擦から,日米半導体協定が成立します。その中には,「日本は外国製半導体の日本国内のシェアを20%以上にするよう努力する」という,覚え書きが含まれていました。自由な貿易ではなく,数字の目標を掲げるという,管理貿易です。

 1989年には,日米構造協議が開かれます。日米間の貿易不均衡(日本の貿易黒字,アメリカの貿易赤字)の是正を目指した協議で,1990年に最終報告がまとまります。アメリカ企業が日本に進出できるよう,?大型店・スーパーの出店を規制した大規模小売店舗法の見直し,?商品の日本と外国との価格差を是正することなどを約束しました。アメリカ側は,1.財政赤字の削減,2.輸出競争力の強化,3.企業の投資活動の強化などを目標とします。

 1993年からは,日米包括経済協議が開かれます。日米構造協議を引き継いだ,アメリカ側が,自動車・半導体・保険などの分野で,アメリカ企業の日本市場への参入・数値目標を求める協議です。
 このころの,貿易不均衡を背景とした「日本の経済的脅威」をあおるアメリカの論調は,およそ次のようなものでした。

参考文献 野口旭『経済対立は誰が起こすのか』 1998 p34~

1.冷戦が崩壊し,軍事競争から経済競争の時代へと移った。最大の敵は,最も対米貿易黒字を抱える日本である。
2.冷戦時のアメリカは,西側諸国の経済発展のために,自国の市場を開放し続け,自国産業の利益を損なってきた。結果,アメリカの経済力は弱体化し,貿易赤字を抱えた。
3.アメリカのそのような政策につけ込み,日本は経済成長した。日本は,自国への外国企業の参入を規制し,自国産業を保護し,成長した輸出産業は,製品を,アメリカへ集中豪雨的に輸出した。
4.日本は経済大国になっても,欧米とは異なる経営様式や取引慣行を持ち,欧米企業が日本市場へ参入することを拒んでいる。
5.日本の不公正さは,一方的な貿易黒字にあらわれている。日本は市場を閉ざしている。
6.日本のやり方による,最大の被害国は,対日貿易赤字を抱えるアメリカである。
7.アメリカは自国産業の競争力を強化し,日本に市場開放させなければいけない。それは,具体的数値(シェア・輸入数量)によって明らかになる。
8.具体的数値が伸びない場合,アメリカは日本に制裁を加えるといった,おどしが必要だ。

 このような考え方は,アメリカのマスコミを通じて広がります。その結果,「閉鎖的でアンフェアな日本」という考え方は,一般の国民にも浸透しました。
 
 1995年春に,日本の自動車・部品市場における米国側の要求=「数値目標」を掲げた日米交渉は,何とか妥結しました。アメリカが,ちらつかせていた,日本制高級乗用車に対する100%制裁関税(例:100万円の日本製の車を,米国が輸入する際に,100万円の税金をかける)は,使われずにすみました。

 しかし,当時の世論調査では,アメリカ国民の72%はこの制裁関税を支持し,反対は19%に過ぎなかったのです。アメリカの世論も,重商主義=国際競争主義的な考え方に染まっていたのです。

 2010年現在の中国とアメリカの貿易摩擦には、選挙を控えたアメリカの議員の声が大きくなっているという背景があります。
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