「日銀・政府が円高阻止に向けて外国為替市場に介入」その2
シノドス ジャーナル( SYNODOS JOURNAL )
http://synodos.livedoor.biz/
に、『人口減少デフレ論の問題点 菅原晃』が連載中(2010.10.8~)です。
合わせてご覧ください。
カーナビラジオ 午後一番 北海道HBC H22年9月16日
「日銀・政府が円高阻止に向けて外国為替市場に介入」について、荻原博子さんに聞きました。
http://www.ogiwarahiroko.com/
Q 1ドル=100円て、決めちゃうことはできないんですか?
A 日本は1ドル=360円だった。マージャンでいえば、「なんだよ 日本だけがレートよくて独り勝ちしてるじゃん」、ゴルフでいえば、「日本だけがハンディいっぱいついてて、そりゃお前が優勝するよ」みたいな状況が続いていた。変動相場制で「マージャンもゴルフもやりましょう…対等にやりましょう」となって円が売られて85円までになった。
荻原博子さんは、経済ジャーナリストして有名で、TVでも著名ですし、本もたくさん出されています。ですが、その主張される内容は、「一般的な経済常識=トンでも論」になっています。
一般の人をそのように誤解させてしまう「経済教育」が間違っています。
大田弘子 2006~経済財政政策担当大臣 『経済セミナー10/11号』日本評論社 2010
いちばん良いのは、学校教育の中で、世の中がどういうメカニズムで動いているのか、基本的な仕組みをしっかり学ぶことですね。…身近な生活の中から理論を学ぶ理論を学ぶような授業がなされると良いですね。経済学の発想がおのずと身についていれば、日本の政策論議はずいぶんと発展するのではないでしょうか。
<なぜ変動相場制へ?>
1ドル=360円という固定相場制、ブレトンウッズ/IMF体制が崩壊したのは、「日本だけ一人勝ち」とか、「貿易不均衡」によるものではありません。
1945年当時,第二次世界大戦の戦勝国だったアメリカは,世界の鉱工業生産の6割以上,中央銀行の「金」保有は8割を占める大国となりました。

この金保有を背景に,ブレトンウッズ(IMF・GATT)体制が始まります。「金」1オンス(31g)は35ドルで交換され,各国で「1ドルは自国通貨でいくら(日本は360円)」とする固定相場制が採用されたのです。

しかし1950~60年代,世界全体のGDPや貿易が拡大し,同じようにドル紙幣の発行量も増大しました。各国は手にしたドルと「金」の交換をアメリカに要求し,アメリカ中央銀行の「金」保有は減り続けます。「金」流出を防ぎたいアメリカは「金」とドルの交換を突然停止しました。71年のドル(ニクソン)ショックです。
東学 『資料政・経』 2009

ドルの供給量は、この様に増え続けたのに、『金』はいきなり増えません。各国は、「こんなに増えたドルは不安だ」となり、ドルを金に交換するよう、アメリカに要求します。
結果的に、アメリカからの金流出はとまりませんでした。
金カバー率(対外公的当局のドル/アメリカ金準備)が100%を切る状態になります。
66年105.6% 67年86.0% 68年96.2% 69年107.3% 70年57.4% 71年26.2%

アメリカは、金とドルを交換するのを停止(1971年8月15日)します。「ギブ・アップ」宣言ですね。このあと、1年ちょっとは、1ドル=308円の固定相場制でしたが、それも維持できなくなり、各国は、変動相場制に移行しました。要するに、貨幣価値も需要と供給で決まるのです。一番シンプルかつ、一番はずせない原理です。
山川「詳説政治・経済」22年度見本


<貿易(交換)は、勝負ではない>
企業と企業は、競争をしていますが、国と国は貿易において、競争の主体ではありません。個人と個人も、貿易(交換)で競争しているわけではありません。
「日本だけが独り勝ち」ということは、現実にはありえないのです。

貿易を通じて、「国と国が競争をしている」とか、「競争力」とか、「先進国に有利」とか、「中進国に有利」とか、一見すごくわかりやすいのですが、これらはすべてありえません。貿易(交換)は相互にWIN-WINであり、しかも「輸出」ではなく「輸入」が目的です。この原理原則を外すと、「国際競争」なるものの正体不明の亡霊に一直線です。
貿易(交換)がなければ、われわれは、衣食住すべてを自給自足しなければなりません。国民一人一人が、服を作り、米を作り、家を建てるのと、国民それぞれが、「服」作り、「農家」「大工」に特化し、得意分野を生産するのとでは、どちらが、我々の利益を増やすでしょうか。答えは後者です。
我々は、「塾の先生」「銀行員」「パン屋」「ガソリンスタンド店員」「農家」「衣料品店」etcという仕事に特化しています。それぞれ、20万円という給料をもらったとします。
「塾の先生」は、20万円という「サービス」を生産したことになります。「農家」は米という「モノ」20万円を生産したことになります。
その後、我々は、この中から、電気、ガス、水道代、アパート代、食費、ガソリン代etcを購入します。自分が20万円分生産し、20万円分購入(貯蓄は別に考えましょう)するのです。これが貿易(交換)です。「自給自足<交換(貿易)」ということがすぐにわかることと思います。
1日の労働時間が8時間として、その労働を、電気、ガス、水道、住居、食費、ガソリン、すべてそれらに振り分け、自給自足したら・・やろうと思えば可能ですが、非効率です。
アルバイトでも同じです。一番自分にとって都合がよい(時給が高い、労働時間が適切、内容が自分に合っているetc)バイトに特化し、そこで1万円を生産し、その1万円で消費します。体は2つないので、どれか一つのバイトに特化します。

これが、 「塾の先生」と、「そのほかの労働者」間の貿易(交換)なのです。つまり、我々の日常生活そのものが、貿易です。
貿易は、輸出(生産)ではなく、輸入(消費)が目的
<貿易(交換)の原理>
タイガー・ウッズという有名なゴルフ選手がいます。ゴルフが上手なだけではなくて,おそらく芝刈りも上手で,2時間もあれば,庭をきれいにするでしょう。ただし,同じ2時間でナイキのコマーシャル撮影に出れば,1万ドルかせぐことができます。一方,となりには,フォレスト・ガンプという男の子が住んでいます。彼は芝刈りに4時間かかります。ウッズは,芝刈りをガンプにまかせ,アルバイト代を払い,その間ナイキのコマーシャルに出た方が,利益は巨大です。(この例は,マンキュー著『経済学』参照)
もっと身近な例で考えてみます。お母さんは,アイロンがけも,洗濯物たたみも,9歳の娘よりは早いです。9歳の娘はアイロンがけも洗濯物たたみも,お母さんより圧倒的に遅いのですが,どちらかというと,洗濯物たたみの方が早くできます。
生産性(早く終わらす)を考えたら,お母さんがアイロンがけに特化し,娘が洗濯物をたたんだ方が,お母さんも娘もアイロンがけをし,洗濯物をたたむよりも,早く終わります。さらに,アイロンがけをすべてした後,お母さんも洗濯物たたみに加わると,もっと早く終わります。
「比較生産費」「比較優位」論というのは,このような「効率追求」のことで,我々が,いつもやっていることです。
ウッズも、母親も、何をやっても上手なので、絶対優位(先進国)です。ガンプや女の子は何をやっても劣りますので、絶対劣位(後進国)です。でも、お互いに協力することによって、みんなが利益を得ています。
ガンプや女の子は、貿易(交換)によって、利益を得られないのなら、生活ができない(給料をもらえない)ことになります。
先進国のウッズもお母さんも、例えば女の子が10人いる国(中国)に雇用を奪われるということはないことがわかると思います。これは「比較優位」の問題です。先進国がその雇用を後進国に奪われることはありません。後進国が雇用を独占することはありません。
各国の労働生産性の絶対的な違いは,貿易利益とは関係ないのです。ということは,ものすごく効率の悪い国が商品を作っても,貿易すれば,利益が上がるということです。本当でしょうか。
信じられないくらい,効率の悪い=むだな仕事をしている国を想定してみましょう。

この場合,イギリスの労働生産性の低さは致命的です。「どうしてこの国は,こんなに生産性が低いのでしょう!」誰もが怒りだしそうです。しかし,これでも,イギリスには「利益がもたらされる」のです。では,特化してみましょう。

これをグラフにしてみます。

どうでしょうか。三角形が大きくなっています。生産量はそれぞれ三角形①・②で示した部分です。それに加え,③・④部分の面積が大きくなっています。生産量<消費量が成立しています。消費の無差別曲線も右上にシフトしています(U1<U3,U2<U4)。
労働生産性が極端に低いイギリスでも,貿易の利益を得ることができるのです。
「自由貿易によって,全ての国が利益を得ることができる」のが,「リカード・モデル」なのです。「絶対優位」ではありませんでしたね。
http://synodos.livedoor.biz/
に、『人口減少デフレ論の問題点 菅原晃』が連載中(2010.10.8~)です。
合わせてご覧ください。
カーナビラジオ 午後一番 北海道HBC H22年9月16日
「日銀・政府が円高阻止に向けて外国為替市場に介入」について、荻原博子さんに聞きました。
http://www.ogiwarahiroko.com/

Q 1ドル=100円て、決めちゃうことはできないんですか?
A 日本は1ドル=360円だった。マージャンでいえば、「なんだよ 日本だけがレートよくて独り勝ちしてるじゃん」、ゴルフでいえば、「日本だけがハンディいっぱいついてて、そりゃお前が優勝するよ」みたいな状況が続いていた。変動相場制で「マージャンもゴルフもやりましょう…対等にやりましょう」となって円が売られて85円までになった。
荻原博子さんは、経済ジャーナリストして有名で、TVでも著名ですし、本もたくさん出されています。ですが、その主張される内容は、「一般的な経済常識=トンでも論」になっています。
一般の人をそのように誤解させてしまう「経済教育」が間違っています。
大田弘子 2006~経済財政政策担当大臣 『経済セミナー10/11号』日本評論社 2010
いちばん良いのは、学校教育の中で、世の中がどういうメカニズムで動いているのか、基本的な仕組みをしっかり学ぶことですね。…身近な生活の中から理論を学ぶ理論を学ぶような授業がなされると良いですね。経済学の発想がおのずと身についていれば、日本の政策論議はずいぶんと発展するのではないでしょうか。
<なぜ変動相場制へ?>
1ドル=360円という固定相場制、ブレトンウッズ/IMF体制が崩壊したのは、「日本だけ一人勝ち」とか、「貿易不均衡」によるものではありません。
1945年当時,第二次世界大戦の戦勝国だったアメリカは,世界の鉱工業生産の6割以上,中央銀行の「金」保有は8割を占める大国となりました。

この金保有を背景に,ブレトンウッズ(IMF・GATT)体制が始まります。「金」1オンス(31g)は35ドルで交換され,各国で「1ドルは自国通貨でいくら(日本は360円)」とする固定相場制が採用されたのです。

しかし1950~60年代,世界全体のGDPや貿易が拡大し,同じようにドル紙幣の発行量も増大しました。各国は手にしたドルと「金」の交換をアメリカに要求し,アメリカ中央銀行の「金」保有は減り続けます。「金」流出を防ぎたいアメリカは「金」とドルの交換を突然停止しました。71年のドル(ニクソン)ショックです。
東学 『資料政・経』 2009

ドルの供給量は、この様に増え続けたのに、『金』はいきなり増えません。各国は、「こんなに増えたドルは不安だ」となり、ドルを金に交換するよう、アメリカに要求します。
結果的に、アメリカからの金流出はとまりませんでした。
金カバー率(対外公的当局のドル/アメリカ金準備)が100%を切る状態になります。
66年105.6% 67年86.0% 68年96.2% 69年107.3% 70年57.4% 71年26.2%

アメリカは、金とドルを交換するのを停止(1971年8月15日)します。「ギブ・アップ」宣言ですね。このあと、1年ちょっとは、1ドル=308円の固定相場制でしたが、それも維持できなくなり、各国は、変動相場制に移行しました。要するに、貨幣価値も需要と供給で決まるのです。一番シンプルかつ、一番はずせない原理です。
山川「詳説政治・経済」22年度見本


<貿易(交換)は、勝負ではない>
企業と企業は、競争をしていますが、国と国は貿易において、競争の主体ではありません。個人と個人も、貿易(交換)で競争しているわけではありません。
「日本だけが独り勝ち」ということは、現実にはありえないのです。

貿易を通じて、「国と国が競争をしている」とか、「競争力」とか、「先進国に有利」とか、「中進国に有利」とか、一見すごくわかりやすいのですが、これらはすべてありえません。貿易(交換)は相互にWIN-WINであり、しかも「輸出」ではなく「輸入」が目的です。この原理原則を外すと、「国際競争」なるものの正体不明の亡霊に一直線です。
貿易(交換)がなければ、われわれは、衣食住すべてを自給自足しなければなりません。国民一人一人が、服を作り、米を作り、家を建てるのと、国民それぞれが、「服」作り、「農家」「大工」に特化し、得意分野を生産するのとでは、どちらが、我々の利益を増やすでしょうか。答えは後者です。
我々は、「塾の先生」「銀行員」「パン屋」「ガソリンスタンド店員」「農家」「衣料品店」etcという仕事に特化しています。それぞれ、20万円という給料をもらったとします。
「塾の先生」は、20万円という「サービス」を生産したことになります。「農家」は米という「モノ」20万円を生産したことになります。
その後、我々は、この中から、電気、ガス、水道代、アパート代、食費、ガソリン代etcを購入します。自分が20万円分生産し、20万円分購入(貯蓄は別に考えましょう)するのです。これが貿易(交換)です。「自給自足<交換(貿易)」ということがすぐにわかることと思います。
1日の労働時間が8時間として、その労働を、電気、ガス、水道、住居、食費、ガソリン、すべてそれらに振り分け、自給自足したら・・やろうと思えば可能ですが、非効率です。
アルバイトでも同じです。一番自分にとって都合がよい(時給が高い、労働時間が適切、内容が自分に合っているetc)バイトに特化し、そこで1万円を生産し、その1万円で消費します。体は2つないので、どれか一つのバイトに特化します。

これが、 「塾の先生」と、「そのほかの労働者」間の貿易(交換)なのです。つまり、我々の日常生活そのものが、貿易です。
貿易は、輸出(生産)ではなく、輸入(消費)が目的
<貿易(交換)の原理>
タイガー・ウッズという有名なゴルフ選手がいます。ゴルフが上手なだけではなくて,おそらく芝刈りも上手で,2時間もあれば,庭をきれいにするでしょう。ただし,同じ2時間でナイキのコマーシャル撮影に出れば,1万ドルかせぐことができます。一方,となりには,フォレスト・ガンプという男の子が住んでいます。彼は芝刈りに4時間かかります。ウッズは,芝刈りをガンプにまかせ,アルバイト代を払い,その間ナイキのコマーシャルに出た方が,利益は巨大です。(この例は,マンキュー著『経済学』参照)
もっと身近な例で考えてみます。お母さんは,アイロンがけも,洗濯物たたみも,9歳の娘よりは早いです。9歳の娘はアイロンがけも洗濯物たたみも,お母さんより圧倒的に遅いのですが,どちらかというと,洗濯物たたみの方が早くできます。
生産性(早く終わらす)を考えたら,お母さんがアイロンがけに特化し,娘が洗濯物をたたんだ方が,お母さんも娘もアイロンがけをし,洗濯物をたたむよりも,早く終わります。さらに,アイロンがけをすべてした後,お母さんも洗濯物たたみに加わると,もっと早く終わります。
「比較生産費」「比較優位」論というのは,このような「効率追求」のことで,我々が,いつもやっていることです。
ウッズも、母親も、何をやっても上手なので、絶対優位(先進国)です。ガンプや女の子は何をやっても劣りますので、絶対劣位(後進国)です。でも、お互いに協力することによって、みんなが利益を得ています。
ガンプや女の子は、貿易(交換)によって、利益を得られないのなら、生活ができない(給料をもらえない)ことになります。
先進国のウッズもお母さんも、例えば女の子が10人いる国(中国)に雇用を奪われるということはないことがわかると思います。これは「比較優位」の問題です。先進国がその雇用を後進国に奪われることはありません。後進国が雇用を独占することはありません。
各国の労働生産性の絶対的な違いは,貿易利益とは関係ないのです。ということは,ものすごく効率の悪い国が商品を作っても,貿易すれば,利益が上がるということです。本当でしょうか。
信じられないくらい,効率の悪い=むだな仕事をしている国を想定してみましょう。

この場合,イギリスの労働生産性の低さは致命的です。「どうしてこの国は,こんなに生産性が低いのでしょう!」誰もが怒りだしそうです。しかし,これでも,イギリスには「利益がもたらされる」のです。では,特化してみましょう。

これをグラフにしてみます。

どうでしょうか。三角形が大きくなっています。生産量はそれぞれ三角形①・②で示した部分です。それに加え,③・④部分の面積が大きくなっています。生産量<消費量が成立しています。消費の無差別曲線も右上にシフトしています(U1<U3,U2<U4)。
労働生産性が極端に低いイギリスでも,貿易の利益を得ることができるのです。
「自由貿易によって,全ての国が利益を得ることができる」のが,「リカード・モデル」なのです。「絶対優位」ではありませんでしたね。
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