ワルラス 一般均衡理論
では、藻谷浩介さんからの、コメントについて解説します。
2010年7月15日 藻谷浩介その1 『デフレの正体』角川oneテーマ21にいただいたコメントです。(数字は筆者挿入です)
そんなことはわかってますが
わかってますよ。ですが、対外債権が積みあがっていることすら知らない人が余りに多いので、このように書いているのです。問題は①内需が減少する一方のために、対外債権が幾ら積みあがろうと②国内投資も増えないということですよね。その原因は、あなた方の言っているコンベンショナルなマクロ経済学で解けるのですか? ③日銀がインフレ誘導すれば内需は増加すると? あなたは、7章と8章をどう読んだのか? そんなことはとっくに知ってたのですか?④三面等価なんて、資産が腐る世界では意味がない、そのことをわかって使っていますか? 「自分は経済学を知っている、こいつは勉強していない」、そんなつまらない矮小なプライドでモノをいうなってんですよ。経済学なんてどうでもいいのです。枠組みはどうでもいい。⑤対外資産が積みあがるだけで何の役にも立たない、なんて老人の繰言を言うな! なんとかしようと考えないのか? あんたみたいなあたまでっかちしかいなくなったから、自慢できることが実践ではなくて理論だけだから、日本はだめになるのだ。くやしかったら、自分の実践を少しでも語ってみろ。⑥対外資産の増加を国内に少しでも還元する努力をしてみろ。そうでなければ外国に引っ越せ。 ⑦あるいは早く死んで子供に財産でも残せ。そういうことです。
言い直します。それだけ理解力があるのであれば、実践力もあるはずだ。早く正道に戻ってください。
③日銀がインフレ誘導すれば内需は増加すると?
<金融引き締め状態の日銀金利政策>

現在、日銀の政策金利は0.1%です。しかし、名目上はともかく、実質金利は、すでに2%を超える「高金利」なのです。
総務省が9月29日発表した8月の全国消費者物価指数(CPI、2005年=100)(=11月21日時点で最新情報)は変動が大きい生鮮食品を除いたベースで100.1となり、前年同月に比べて2.4%低下しました。下落率は比較可能な1971年以降で過去最大となり、4カ月連続で記録を更新しました。
CPIが前の年を下回るのは6カ月連続です。生鮮食品を除いた下落率が2%を超すのは2カ月連続です。食料とエネルギー価格の影響を除いた物価指数も前年同月比0.9%低下しています。
日経21.12.19
<日銀の対応>
日経『緩やかなデフレ認定』H21.11.21
日銀の白川方明総裁は20日の金融政策決定会合後の記者会見で、政府のデフレ認定について…現状をデフレとして認定するかどうかは「デフレには様々な定義がある」として、明言を避けた。
参考・引用文献 岩田規久男『日本銀行は信用できるか』2009 講談社新書
日銀は、徹底して、 「デフレ」対策に及び腰です。それは「日銀流理論」と小宮隆太郎が名づけた、日銀の責任を問われると、 「それは日銀にはどうしようもない外部の経済活動によって引き起こされたものであるp82」という責任回避するための理論に依拠しているからです。
1990年代後半からの「ゼロ金利」導入も「いやいやp102」ですし、2000年8月には「解除p114」し、また「デフレ」になってしまいます。
2001年3月半ばからの「量的緩和」についても白川現総裁は当時「実体経済に与える影響については否定的p51」でした。
「正統派の経済学(新古典派経済学とニューケインジアン・エコノミクス)軽視は日銀…の特徴p36」」なのです。
その結果、 「デフレに悩むのは日本だけ」となっています。
岩田規久男『日本銀行は信用できるか』2009 講談社新書 P43グラフ

このグラフの中央銀行の資産増加=民間からの国債買い取りなど=市中への金融緩和(量的緩和)→経済危機からの脱出のための積極的政策です。
なぜ、「デフレに悩むのは日本だけ」か、一目瞭然です。日銀だけが、「量的緩和」を行っていないのです。
インフレと、経済成長については、次の事実があります。
参考・引用文献 岩田規久男『日本銀行は信用できるか』2009 講談社新書
インフレ目標政策とは、現在25カ国で採用されている、中央銀行の「金融政策」です。さらに、ユーロ圏の欧州中央委銀行(ECB)も、インフレ目標政策とは言っていませんが、「物価の安定は2%未満かつ2%近傍のインフレ」とし、事実上のインフレ・ターゲッティングを行っています。
上記の参考文献を読むまで、「インフレ率何%というルール」と認識していました。日銀も、そのように説明していました。
しかし、インフレ・ターゲッティングは「ルール」ではなく、「枠組み」です。何が何でもインフレ目標を達成するという硬直的なものではありません。
実際の運営では、インフレ目標として1%~3%、イギリスのように2%に設定しているところもあります。ただし、下限は0%です。デフレは絶対回避すべきと考えられています。
では、これらの国の経済パフォーマンス・経済成長はどうだったのでしょうか。
岩田『同』p162

実際に、良好な経済成長を達成しています。インフレ国は、日本より高成長です。
ただし、これは相関関係を示しているだけです。「インフレ国=経済成長している」ということで、「インフレ誘導すれば内需は増加する」という因果関係を示すものではありません。
藻谷浩介『デフレの正体』角川oneテーマ21 p230
ここでご注意いただきたいのですが、相関関係というのは因果関係ではありません。…現象(=相関関係)が観察されるのは事実ですが…原因結果の関係(=因果関係)があるとは限らない…
のです。
ですから、「インフレ誘導すれば⇒内需は増加する」ということは、主張できません。
ただし、「インフレ誘導すれば⇒デフレは克服できる」ということは言えます。
「内閣府の試算では、昨年10~12月期の需要不足は30兆円(年率換算)」ということは、
Y=C+I+G+EX-30です。
Y=家計+企業+政府+輸出-30
•
これについては、ワルラスの均衡理論(ブログカテゴリ:ジェヴォンズ・ワルラス・メンガー
2010-06-24 参照)で説明しましょう。
一般均衡理論とは、モノに対する需要と供給だけではなく、カネに対する需要と供給も合わせて考える理論です。モノとカネは表裏一体だからです。
まず、財(モノ・サービス)の世界で30兆円の需給ギャップ=供給超過があります。そうすると一方、カネの世界では、その分だけ30兆円の需給ギャップ=需要超過がある事を示します。カネ>財(モノ・サービス)になっているのです。ですから、貨幣が重要で、財(モノ・サービス)に需要が回らないのです=デフレ。

財市場と、貨幣市場を同時に示す、「IS-LM」分析があります。ケインズ理論を、ヒックスという経済学者が簡潔に示したもので、経済学では、初歩の入門理論です。
説明が長くなるので、ここでは扱うことが出来ません。拙著『高校生からのマクロ・ミクロ経済学入門2』で扱っていますので、どうぞご覧下さい。
私の手元に在庫もありますので、ご連絡いただければ、発送します。
竹森俊平(慶大教授)『資本主義は嫌いですか』日本経済新聞社2008
P97~
…ワルラスの考察にしたがって…両市場(筆者注:財市場と資産市場)で同時に需給均衡が満たされるようになるのだとすれば…答えは、超過需要が発生している「金融資産」が、超過供給の発生している「実物財」に対して高価になる相対価格の調整である。
…「金融資産」の価格上昇…「株式」と考えるなら…先進国の株式市場は好況で潤い…新興国についても…大幅な価格上昇を記録していたところがあった。(筆者注:サブプライム危機前まで)
…「金融資産」を国債や社債のような「債権」と考えるなら…その価格上昇とは「金利」の低下を意味する。…「金融資産」の市場で超過需要の傾向があるならば、「金利」は低下傾向になる。…世界金利の低下傾向はこのように説明できる。
…もう一つの「実物財」の市場…「超過供給」が発生しているのだから、実物財の価格が低下しなければならない。すなわち「デフレ」の発生だ。
…「デフレ」もしくは「ディスインフレ」の傾向を、「金融資産」市場における「超過需要」の傾向の裏腹である「実物財」の市場における「超過供給」の傾向の産物と解釈するなら、何もかも辻褄が合う。要するに「世界的な低金利」と「世界的な低インフレ」とは、盾の両面だということである。
そうすると、「貨幣が重要」という状態を解消すればよいことになります。貨幣の価値が下がる=インフレです。その為には、カネを供給すればよいのです。
このようなデフレの見通しが示される中、日銀はどのような政策運営をすればよいのででしょうか。答えは自ずから明らかになっているはずです。それは「ゼロ金利政策の継続」と「量的緩和」です。ただし、量的緩和と言っても、下記(1)ではなく、(2)の緩和でないと、成果は望めないでしょう。(1)は効果がなかった,あるいは低かったことがすでに実証されています。
注 ただし、やらないより、やったほうがよかったことは、実証済みです。本田祐三・関西大学教授らによる研究(浜田宏一他『伝説の教授に学べ』東洋経済2010p25参照)
「ゼロ金利をやめる(現在0.1%)」など、入院患者の点滴を止めるような政策です。「金利を高くして、預金者を保護」など、「預金金利で恩恵を受ける超富裕層=実際には存在しない層」を助けるだけです。
『政府、デフレ宣言へ』日経H21.11.17
政府は日本の物価が持続的に下落する「デフレ」に陥っていると宣言する方向で最終調整に入った。…国内の物価動向を示す内需デフレーターが51年ぶりの低水準にとどまったため。…国内需要デフレーターは2.6%下落し、1958年…以来の大幅な落ち込みとなった。
(1)「当座預金残高増」
「量的緩和」は、2001年3月、金融市場調節の操作目標を、それまでの「金利(無担保コールレート・オーバーナイト物)」から、「資金量(日本銀行当座預金残高)」に変更した。これは金利をゼロより引き下げることはできないため、金利がゼロになってもさらに買いオペレーションなどで、市場に資金を大量に供給することによって、デフレを克服しようとしたのである。
具体的には、「日本銀行当座預金残高が○兆円程度となるよう金融市場調節を行う」といった形で金融市場調節方針が定められた。その規模は、2001年3月の「目標5兆円」からはじまり、2004年1月には「30~35兆円」に達した。
この量的緩和政策は景気の回復にともない、2006年3月に解除され、金利を目標とする通常の金融政策に戻った。
(2)マネーストック・マネタリーベース
2008年4月までマネーサプライと称されていたマネーストックは、経済全体に流通する通貨量を示す。一般法人、個人、地方公共団体などの通貨保有主体(=金融機関・中央政府以外の経済主体)が保有する通貨量の残高である。
マネタリーベース(マネーベース、ハイパワードマネーとも言われる)は市中に出回っているお金である「流通現金(日本銀行券発行高+貨幣流通高)」と、「日銀当座預金」の合計額のことである。日銀が公開市場操作等によって直接コントロールできる通貨を示す。
日銀はマネタリーベースを調整することで、「預金準備制度(準備金以外はすべて貸し出しても良い)」によって創り出されるマネーストックに影響を及ぼす。
2008年11月現在、マネタリーベースは約88.9兆円、マネーストックM2は、約734.7兆円になっている。
(1)「当座預金残高増」が効かない
『企業資金、投資に回らず』
国内企業が手元にお金を貯めておく…稼いだお金から,投資に使った費用などを差し引いた「準現金収支(フリーキャッシュフロー)」は2009年10~12月期に、年換算で26兆円と過去最大に…。…新規投資に消極的になっている要素も…。日本は供給力に比べた需要不足を示す需給ギャップが、なお年間で30兆円あり、設備の余剰感も強い。…「企業がリスクをとって投資する力が低下…。…将来の成長を阻害しかねない」(第一生命研究所の熊野英生氏)…。

<カネ余り>
日本は、資金流動性がありすぎてありすぎてこまっている状況です。
グラフ『量的緩和でもマネー回らず』H22.1.31
…実体経済への効果は見えず、大量のマネーは短期金融市場にとどまったままだ。昨年12月の全国銀行の貸出残高は4年ぶりに減少に転じた。…「肝心の設備投資意欲が鈍い」(日銀幹部)という
せっかく金融緩和しても、そのカネが、銀行の当座預金に積み上がり、市中に出回っていかないのです。
(2)マネーストック・マネタリーベースの量的緩和
そこで、(2)マネーストック・マネタリーベースの量的緩和が重要になります。それには、 「短期国債や残存期間の短い長期国債(日本銀行はもっぱらこれを買っています)を買うのではなくて、長期国債や民間株式・債券の購入、外為市場における円売り介入(浜田宏一他『伝説の教授に学べ』東洋経済2010p23)」が必要です。
「貨幣さえ増やせばデフレは止まる」というのは、90%正しいのですが、貨幣を正しいやり方、つまり「広義の買いオペを行えば、いっそう効果かがある」というただし書きをつければ完璧(同 前掲書p24)なのです。
短期国債は、貨幣とほぼ同じものになっています。金利がほとんどつかないからです。これを日銀が購入しても、量的緩和は望めません。効果があるのは、長期国債などです。
著者が「私は無精者で、経済書やビジネス書は本当に数冊しか読んだことがないのですがp125」と述べているとおり、経済学的バックボーンがないと、全体像が歪んでしまいます。
経済学と、同書で述べられるような経済現象は全く別物です。前者は、後者がなぜ生じるか(メカニズム)を述べます。経済現象だけに目を奪われると、本質をつかむことができません。
財市場しか見えていないので、「貿易黒字は儲け」「貿易で勝つ」などと述べます。貨幣(資産)市場では、①貿易黒字は②海外への資金提供のことです。②の資本取引(株・国債・社債・外貨取引・先物取引などデリバティブ)は①の90倍以上もあります。
貿易黒字=資本収支赤字です。藻谷さんには「資本収支赤字」、資本の世界が見えていません。
財市場と資本市場も表裏一体です。財市場のみに目をやると、「デフレだ!」となりますが、同時に資本市場に目をやると「カネ需要大」のことです。
デフレの分析において、財市場に目を向け、「需要減だからだ!」と言いますが、供給面の分析が出来ていません。
経済学を学べば、必ず「2つの面」から考えます。「貿易黒字は儲け」「貿易で勝つ」という言葉が出てくる時点で、「1つの面」しか見えていないことが分かります。
次回は、 ④三面等価なんて、資産が腐る世界では意味がない、そのことをわかって使っていますか?
⑦あるいは早く死んで子供に財産でも残せ。についてです。続く
2010年7月15日 藻谷浩介その1 『デフレの正体』角川oneテーマ21にいただいたコメントです。(数字は筆者挿入です)
そんなことはわかってますが
わかってますよ。ですが、対外債権が積みあがっていることすら知らない人が余りに多いので、このように書いているのです。問題は①内需が減少する一方のために、対外債権が幾ら積みあがろうと②国内投資も増えないということですよね。その原因は、あなた方の言っているコンベンショナルなマクロ経済学で解けるのですか? ③日銀がインフレ誘導すれば内需は増加すると? あなたは、7章と8章をどう読んだのか? そんなことはとっくに知ってたのですか?④三面等価なんて、資産が腐る世界では意味がない、そのことをわかって使っていますか? 「自分は経済学を知っている、こいつは勉強していない」、そんなつまらない矮小なプライドでモノをいうなってんですよ。経済学なんてどうでもいいのです。枠組みはどうでもいい。⑤対外資産が積みあがるだけで何の役にも立たない、なんて老人の繰言を言うな! なんとかしようと考えないのか? あんたみたいなあたまでっかちしかいなくなったから、自慢できることが実践ではなくて理論だけだから、日本はだめになるのだ。くやしかったら、自分の実践を少しでも語ってみろ。⑥対外資産の増加を国内に少しでも還元する努力をしてみろ。そうでなければ外国に引っ越せ。 ⑦あるいは早く死んで子供に財産でも残せ。そういうことです。
言い直します。それだけ理解力があるのであれば、実践力もあるはずだ。早く正道に戻ってください。
③日銀がインフレ誘導すれば内需は増加すると?
<金融引き締め状態の日銀金利政策>

現在、日銀の政策金利は0.1%です。しかし、名目上はともかく、実質金利は、すでに2%を超える「高金利」なのです。
総務省が9月29日発表した8月の全国消費者物価指数(CPI、2005年=100)(=11月21日時点で最新情報)は変動が大きい生鮮食品を除いたベースで100.1となり、前年同月に比べて2.4%低下しました。下落率は比較可能な1971年以降で過去最大となり、4カ月連続で記録を更新しました。
CPIが前の年を下回るのは6カ月連続です。生鮮食品を除いた下落率が2%を超すのは2カ月連続です。食料とエネルギー価格の影響を除いた物価指数も前年同月比0.9%低下しています。
日経21.12.19

<日銀の対応>
日経『緩やかなデフレ認定』H21.11.21
日銀の白川方明総裁は20日の金融政策決定会合後の記者会見で、政府のデフレ認定について…現状をデフレとして認定するかどうかは「デフレには様々な定義がある」として、明言を避けた。
参考・引用文献 岩田規久男『日本銀行は信用できるか』2009 講談社新書
日銀は、徹底して、 「デフレ」対策に及び腰です。それは「日銀流理論」と小宮隆太郎が名づけた、日銀の責任を問われると、 「それは日銀にはどうしようもない外部の経済活動によって引き起こされたものであるp82」という責任回避するための理論に依拠しているからです。
1990年代後半からの「ゼロ金利」導入も「いやいやp102」ですし、2000年8月には「解除p114」し、また「デフレ」になってしまいます。
2001年3月半ばからの「量的緩和」についても白川現総裁は当時「実体経済に与える影響については否定的p51」でした。
「正統派の経済学(新古典派経済学とニューケインジアン・エコノミクス)軽視は日銀…の特徴p36」」なのです。
その結果、 「デフレに悩むのは日本だけ」となっています。
岩田規久男『日本銀行は信用できるか』2009 講談社新書 P43グラフ

このグラフの中央銀行の資産増加=民間からの国債買い取りなど=市中への金融緩和(量的緩和)→経済危機からの脱出のための積極的政策です。
なぜ、「デフレに悩むのは日本だけ」か、一目瞭然です。日銀だけが、「量的緩和」を行っていないのです。
インフレと、経済成長については、次の事実があります。
参考・引用文献 岩田規久男『日本銀行は信用できるか』2009 講談社新書
インフレ目標政策とは、現在25カ国で採用されている、中央銀行の「金融政策」です。さらに、ユーロ圏の欧州中央委銀行(ECB)も、インフレ目標政策とは言っていませんが、「物価の安定は2%未満かつ2%近傍のインフレ」とし、事実上のインフレ・ターゲッティングを行っています。
上記の参考文献を読むまで、「インフレ率何%というルール」と認識していました。日銀も、そのように説明していました。
しかし、インフレ・ターゲッティングは「ルール」ではなく、「枠組み」です。何が何でもインフレ目標を達成するという硬直的なものではありません。
実際の運営では、インフレ目標として1%~3%、イギリスのように2%に設定しているところもあります。ただし、下限は0%です。デフレは絶対回避すべきと考えられています。
では、これらの国の経済パフォーマンス・経済成長はどうだったのでしょうか。
岩田『同』p162

実際に、良好な経済成長を達成しています。インフレ国は、日本より高成長です。
ただし、これは相関関係を示しているだけです。「インフレ国=経済成長している」ということで、「インフレ誘導すれば内需は増加する」という因果関係を示すものではありません。
藻谷浩介『デフレの正体』角川oneテーマ21 p230
ここでご注意いただきたいのですが、相関関係というのは因果関係ではありません。…現象(=相関関係)が観察されるのは事実ですが…原因結果の関係(=因果関係)があるとは限らない…
のです。
ですから、「インフレ誘導すれば⇒内需は増加する」ということは、主張できません。
ただし、「インフレ誘導すれば⇒デフレは克服できる」ということは言えます。
「内閣府の試算では、昨年10~12月期の需要不足は30兆円(年率換算)」ということは、
Y=C+I+G+EX-30です。
Y=家計+企業+政府+輸出-30
•
これについては、ワルラスの均衡理論(ブログカテゴリ:ジェヴォンズ・ワルラス・メンガー
2010-06-24 参照)で説明しましょう。
一般均衡理論とは、モノに対する需要と供給だけではなく、カネに対する需要と供給も合わせて考える理論です。モノとカネは表裏一体だからです。
まず、財(モノ・サービス)の世界で30兆円の需給ギャップ=供給超過があります。そうすると一方、カネの世界では、その分だけ30兆円の需給ギャップ=需要超過がある事を示します。カネ>財(モノ・サービス)になっているのです。ですから、貨幣が重要で、財(モノ・サービス)に需要が回らないのです=デフレ。

財市場と、貨幣市場を同時に示す、「IS-LM」分析があります。ケインズ理論を、ヒックスという経済学者が簡潔に示したもので、経済学では、初歩の入門理論です。
説明が長くなるので、ここでは扱うことが出来ません。拙著『高校生からのマクロ・ミクロ経済学入門2』で扱っていますので、どうぞご覧下さい。
私の手元に在庫もありますので、ご連絡いただければ、発送します。
竹森俊平(慶大教授)『資本主義は嫌いですか』日本経済新聞社2008
P97~
…ワルラスの考察にしたがって…両市場(筆者注:財市場と資産市場)で同時に需給均衡が満たされるようになるのだとすれば…答えは、超過需要が発生している「金融資産」が、超過供給の発生している「実物財」に対して高価になる相対価格の調整である。
…「金融資産」の価格上昇…「株式」と考えるなら…先進国の株式市場は好況で潤い…新興国についても…大幅な価格上昇を記録していたところがあった。(筆者注:サブプライム危機前まで)
…「金融資産」を国債や社債のような「債権」と考えるなら…その価格上昇とは「金利」の低下を意味する。…「金融資産」の市場で超過需要の傾向があるならば、「金利」は低下傾向になる。…世界金利の低下傾向はこのように説明できる。
…もう一つの「実物財」の市場…「超過供給」が発生しているのだから、実物財の価格が低下しなければならない。すなわち「デフレ」の発生だ。
…「デフレ」もしくは「ディスインフレ」の傾向を、「金融資産」市場における「超過需要」の傾向の裏腹である「実物財」の市場における「超過供給」の傾向の産物と解釈するなら、何もかも辻褄が合う。要するに「世界的な低金利」と「世界的な低インフレ」とは、盾の両面だということである。
そうすると、「貨幣が重要」という状態を解消すればよいことになります。貨幣の価値が下がる=インフレです。その為には、カネを供給すればよいのです。
このようなデフレの見通しが示される中、日銀はどのような政策運営をすればよいのででしょうか。答えは自ずから明らかになっているはずです。それは「ゼロ金利政策の継続」と「量的緩和」です。ただし、量的緩和と言っても、下記(1)ではなく、(2)の緩和でないと、成果は望めないでしょう。(1)は効果がなかった,あるいは低かったことがすでに実証されています。
注 ただし、やらないより、やったほうがよかったことは、実証済みです。本田祐三・関西大学教授らによる研究(浜田宏一他『伝説の教授に学べ』東洋経済2010p25参照)
「ゼロ金利をやめる(現在0.1%)」など、入院患者の点滴を止めるような政策です。「金利を高くして、預金者を保護」など、「預金金利で恩恵を受ける超富裕層=実際には存在しない層」を助けるだけです。
『政府、デフレ宣言へ』日経H21.11.17
政府は日本の物価が持続的に下落する「デフレ」に陥っていると宣言する方向で最終調整に入った。…国内の物価動向を示す内需デフレーターが51年ぶりの低水準にとどまったため。…国内需要デフレーターは2.6%下落し、1958年…以来の大幅な落ち込みとなった。
(1)「当座預金残高増」
「量的緩和」は、2001年3月、金融市場調節の操作目標を、それまでの「金利(無担保コールレート・オーバーナイト物)」から、「資金量(日本銀行当座預金残高)」に変更した。これは金利をゼロより引き下げることはできないため、金利がゼロになってもさらに買いオペレーションなどで、市場に資金を大量に供給することによって、デフレを克服しようとしたのである。
具体的には、「日本銀行当座預金残高が○兆円程度となるよう金融市場調節を行う」といった形で金融市場調節方針が定められた。その規模は、2001年3月の「目標5兆円」からはじまり、2004年1月には「30~35兆円」に達した。
この量的緩和政策は景気の回復にともない、2006年3月に解除され、金利を目標とする通常の金融政策に戻った。
(2)マネーストック・マネタリーベース
2008年4月までマネーサプライと称されていたマネーストックは、経済全体に流通する通貨量を示す。一般法人、個人、地方公共団体などの通貨保有主体(=金融機関・中央政府以外の経済主体)が保有する通貨量の残高である。
マネタリーベース(マネーベース、ハイパワードマネーとも言われる)は市中に出回っているお金である「流通現金(日本銀行券発行高+貨幣流通高)」と、「日銀当座預金」の合計額のことである。日銀が公開市場操作等によって直接コントロールできる通貨を示す。
日銀はマネタリーベースを調整することで、「預金準備制度(準備金以外はすべて貸し出しても良い)」によって創り出されるマネーストックに影響を及ぼす。
2008年11月現在、マネタリーベースは約88.9兆円、マネーストックM2は、約734.7兆円になっている。
(1)「当座預金残高増」が効かない
『企業資金、投資に回らず』
国内企業が手元にお金を貯めておく…稼いだお金から,投資に使った費用などを差し引いた「準現金収支(フリーキャッシュフロー)」は2009年10~12月期に、年換算で26兆円と過去最大に…。…新規投資に消極的になっている要素も…。日本は供給力に比べた需要不足を示す需給ギャップが、なお年間で30兆円あり、設備の余剰感も強い。…「企業がリスクをとって投資する力が低下…。…将来の成長を阻害しかねない」(第一生命研究所の熊野英生氏)…。

<カネ余り>
日本は、資金流動性がありすぎてありすぎてこまっている状況です。
グラフ『量的緩和でもマネー回らず』H22.1.31

…実体経済への効果は見えず、大量のマネーは短期金融市場にとどまったままだ。昨年12月の全国銀行の貸出残高は4年ぶりに減少に転じた。…「肝心の設備投資意欲が鈍い」(日銀幹部)という
せっかく金融緩和しても、そのカネが、銀行の当座預金に積み上がり、市中に出回っていかないのです。
(2)マネーストック・マネタリーベースの量的緩和
そこで、(2)マネーストック・マネタリーベースの量的緩和が重要になります。それには、 「短期国債や残存期間の短い長期国債(日本銀行はもっぱらこれを買っています)を買うのではなくて、長期国債や民間株式・債券の購入、外為市場における円売り介入(浜田宏一他『伝説の教授に学べ』東洋経済2010p23)」が必要です。
「貨幣さえ増やせばデフレは止まる」というのは、90%正しいのですが、貨幣を正しいやり方、つまり「広義の買いオペを行えば、いっそう効果かがある」というただし書きをつければ完璧(同 前掲書p24)なのです。
短期国債は、貨幣とほぼ同じものになっています。金利がほとんどつかないからです。これを日銀が購入しても、量的緩和は望めません。効果があるのは、長期国債などです。
著者が「私は無精者で、経済書やビジネス書は本当に数冊しか読んだことがないのですがp125」と述べているとおり、経済学的バックボーンがないと、全体像が歪んでしまいます。
経済学と、同書で述べられるような経済現象は全く別物です。前者は、後者がなぜ生じるか(メカニズム)を述べます。経済現象だけに目を奪われると、本質をつかむことができません。
財市場しか見えていないので、「貿易黒字は儲け」「貿易で勝つ」などと述べます。貨幣(資産)市場では、①貿易黒字は②海外への資金提供のことです。②の資本取引(株・国債・社債・外貨取引・先物取引などデリバティブ)は①の90倍以上もあります。
貿易黒字=資本収支赤字です。藻谷さんには「資本収支赤字」、資本の世界が見えていません。
財市場と資本市場も表裏一体です。財市場のみに目をやると、「デフレだ!」となりますが、同時に資本市場に目をやると「カネ需要大」のことです。
デフレの分析において、財市場に目を向け、「需要減だからだ!」と言いますが、供給面の分析が出来ていません。
経済学を学べば、必ず「2つの面」から考えます。「貿易黒字は儲け」「貿易で勝つ」という言葉が出てくる時点で、「1つの面」しか見えていないことが分かります。
次回は、 ④三面等価なんて、資産が腐る世界では意味がない、そのことをわかって使っていますか?
⑦あるいは早く死んで子供に財産でも残せ。についてです。続く
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genre : 政治・経済