藤原正彦『円高』週刊新潮2010.9.23

『円高の行方』ユニバ君 週刊新潮2010.9.23

 日本は現在円高に見舞われている。一時、1ドル=84円まで上昇し、15年ぶりの高値を付けた。
 円高は、輸出産業にとっては景気回復を見込む上で決定的な弱点であり、輸出企業のみならず、その下請産業の収益をも圧迫している。80円台半ばの円高水準が定着すれば、日本経済の先行きが不安定になるのは間違いない
…今、日本は世界において、円高一辺倒である。それは各国の金融事情からも見てとれる。現在アメリカは、景気刺激策をもってしてもまだ回復が見込めていない。ドルに対する信用もなく、金利低下を起こしている。日本は、政策的に日本銀行が日本国債を日本の銀行に買わせている。これは円高の回避につながる道ではない。輸出産業で成り立っている下請企業も、円高のために破綻寸前である。
…日本銀行と菅総理の円高防止対策として、金利削減が発表されたものの、アメリカの金融緩和政策が発表され、逆に日本の中途半端さが露呈した形となった。円に対して何の手も打つことのない無策の日本の将来は、これからどうなっていくのか、心配を通り越し、恐ろしさを覚えるユニバ君たった。



藤原正彦『円高』週刊新潮2010.9.23

 円高ということで政府、財界、マスコミは大騒ぎだ。今にも大不況が来そうなことを言っている。これが私にはよく分らない円高による長期の不況を一度も経験したことがないからだ。円高下の好況なら覚えている。原油価格が一気に四倍となる一九七三年の石油ショックから立ち直った日本経済は、七七年から三年間で、一ドル二九〇円から一九〇円への円高となったが、その間平均約五%の成長をした。一九八五年のプラザ合意の後、円が一ドル二五〇円からで一ニ〇円へと円高が進む中、八七年から九〇年にかけて平均六%の成長をとげている。

…無関係な職業についている人々、すなわち国民の八割にとってはありとあらゆる輸入品が安くなるから生活は豊かになる。なのに、輸出型大企業は…円高のたびに「危機」と騒ぐから株が一斉に下がってしまう。これが一番の被害であろう。しかしこれだって円高ドル安での株安である。注)日本円で安くなっていても国際的にはドル換算だから、日本株はさほど下がっていないのだ。自国通貨が下がり株安にもみまわれている諸外国とはまったく違う。彼等は国富を急激に失っているのだ。

 …また、円高になるということは、「日本の財政は破綻寸前」という外国発のフレーズが、日本政府による強力な財政出動を牽制するための情報操作に過ぎないという証拠でもある。破綻寸前にある国の通貨を、金に命をかけている連中が買うはずがないからだ。ドル、ユーロ、元などに比べはるかに信頼度が高いから円の独歩高となるのである。

 ゆるやかな円高は我が国にとって理想的な状態と言って過言でない。原料や資源がないという我が国最大の弱点をカバーしてくれる。技術開発への強い動機をもたらしてくれる。輸出だけに頼らなくてもよいよう内需型産業を育成するチャンスを与えてくれる。海外の高技術企業や資源企業の買収を容易にしてくれる。輸入品や海外旅行を手軽に楽しませてくれる。
…政府は円高に狼狽するより十年来の不況克服のため、全国都市の電線、ガス、上下水道を共同埋設したり、地方の老朽化した学校や病院を建て直すなど、波及効果の高い公共事業などへの大々的な財政出動に乗り出すべきなのだ。


注)円高・ドル安による、ドル建て株価については、2010-09-05 株価 債券価格 参照

<円高は、短期に影響・長期に無影響>

為替相場.jpg
gdp伸び.jpg

 円高・円安は「経済のファンダメンタルズ」によって決まります。ファンダメンタルズとは,経済成長や物価,インフレ率,金利水準,国際収支,失業率などの経済指標です。その国の経済パフォーマンスを示します。基本的に,経済成長を遂げた国の通貨は高くなります。
実際に,日本の経済成長と為替相場は,同じ動きをたどっています。

購買力平価」でも、検証してみましょう。

 外国為替市場の為替レートは、貿易の影響や、投機による変動が多いので、「購買力平価」という尺度もあります。「購買力平価」はそういう影響・変動を除き、より経済実態に即しているとされています。
「購買力平価」は、同じ品質、あるいは、同じサービスのAという商品が、日本では200円、米国では2ドルで買えるとします。この商品Aの購入に関して200円と2ドルは同じ購買力があるとするわけです。

 例えば、「ビッグマック指数」というのもあります。世界中でビッグマックが販売されているので、指標として使いやすく、例えばアメリカでビッグマック1個が2ドル、日本では200円の場合、1ドル=100円というのが、ビッグマック指数になります。

 実際には、1商品ではなく、家計に必要な、たくさんの種類の財・サービス(マーケット・バスケット)を考慮します。この財・サービスの各国通貨での値段の合計を比較すれば、生計費についての購買力平価が求められます。OECD(経済協力開発機構)が作成したものを一般的に採用しています。

数字出典 (財)国際通貨研究所 GDPは内閣府
http://www.iima.or.jp/research_gaibu.html
為替相場 購買力平価.jpg
gdp 購買力平価との比較.jpg

このように、長期的には、GDPと為替相場は、同じ動きをたどります。

 短期的には、ユニバ君に言うように、「円高は、輸出産業にとっては景気回復を見込む上で決定的な弱点であり、輸出企業のみならず、その下請産業の収益をも圧迫している。」のです。

 が、長期的には藤原さんの言う円高による長期の不況を一度も経験したことがないからだ。円高下の好況なら覚えている。原油価格が一気に四倍となる一九七三年の石油ショックから立ち直った日本経済は、七七年から三年間で、一ドル二九〇円から一九〇円への円高となったが、その間平均約五%の成長をした。一九八五年のプラザ合意の後、円が一ドル二五〇円からで一ニ〇円へと円高が進む中、八七年から九〇年にかけて平均六%の成長をとげている。」ということになります。

 急激な円高(為替乱高下)は、まずいのですが、緩やかな円高傾向は日本経済のパフォーマンスを示すのです。
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