『対外純資産 新興国で急増』

シノドス ジャーナル( SYNODOS JOURNAL )
http://synodos.livedoor.biz/

に、『人口減少デフレ論の問題点 菅原晃』が連載中(2010.10.8~)です。

合わせてご覧ください。


日経『対外純資産 新興国で急増』H22.10.4 グラフも 数字は筆者挿入

 新興国・地域が、海外に持つ資産が急増している。…中国は2009年に167兆円と04年の5倍以上に膨張。①…急速な経済成長を背景に個人や企業の金融資産が欧米等に向かっているほか、資源獲得のために政府が投資を膨らませているためだ。新興国が世界経済への影響力を高めつつあることを示している…。
 …純資産が大きいほど資産大国ぶりを示す。09年の日本は266兆円で19年連続で世界で最も多い。…中国の増加ぶりを支えるのは旺盛な対外直接投資だ。…中国企業による海外への投資も相次いでいる。…この結果、09年の直接投資の残高は04年の約4倍に増えた。
 海外の株式や債券等への投資残高も04年の約2倍に増加。②人民元相場を実勢より低く押さえるため、中国人民銀行が市場で大規模な円売りドル買いを続けたこともあり、外資準備も3倍以上に膨らんだ。
③…対外純資産残高はその国や地域のファンダメンタルズの強さや外国に投資している資産からの利子や配当収入が多いことを示す指標の一つでもある。④新興国の海外資産の急増ぶりは世界経済における影響力や発言力が無視できないものになりつつあることを意味する。


対外純資産.jpg

<対外純資産 その2>

対外純資産=経常黒字の積み上げ

海外資産.jpg


2010年5月 国際収支表.jpg

経常黒字=外国への資金の貸し出し

 まず,経常黒字は日本国内で消費されなかった生産財・サービスを外国が消費(購入)すること、あるいは無償で提供すること(経常移転収支)です。と同時に,外国が,日本に外国債や株式・社債を購入してもらったり,直接投資(海外に工場を建てるなど)でも株式を購入してもらったりしています。日本からみると海外に貸していることです。
ということは,日本が「経常黒字」を出せば出すほど,日本の海外での「財産」が増えることになります。そして,実際にその通りになっています。
 
 以上のような投資(海外へのお金の貸し出し)が,日本の対外資産です。その残高は約610兆4920億円(07年末)で,世界一となっています。そのうち,直接投資(海外の工場建設など)は,約55兆円です。また,外貨準備1兆39億ドルのうち,証券(外国国債含む)は8588億ドル,約86%を占めています。

日本 対外純資産残高.jpg

 この、海外債権から生み出される所得が、「所得収支」です。対外純資産は、円で計算されますから、「円高」になると、目減りします(ドルの金額自体は変わりません)。

 ただし、…日本や東アジア諸国は収益性の高い製品を米国に輸出する一方で、そこで得た利益を米国に回す構図ではありません。

 トヨタや、パナソニックが「輸出」の主体です。一方、銀行などの金融機関、生命保険会社・投資信託などの機関投資家、政府、企業、個人が海外投資を行う主体です。これらは別々です。投資家が海外投資をするのは、自分のもうけのためであり、「日本の貿易黒字分」や「外貨が余っているから」投資しなければならないのではありません。

 また、外国の政府・企業・個人からすると、社債・国債・株式を発行して資金を調達するのは、「貿易赤字」を穴埋めするために行っているのではありません。お金を貸してくれる主体は、国内であれ、海外であれ、企業・政府・個人にとってはどちらでもかまわないのです。

「EX-IM」は、資本収支赤字(海外投資)から、生まれるのです。つまり、 「お金の貸し借り」が先で、「経常黒字」は後なのです。

①…急速な経済成長を背景に個人や企業の金融資産が欧米等に向かっているほか、資源獲得のために政府が投資を膨らませているためだ。新興国が世界経済への影響力を高めつつあることを示している…。

 だから、貿易黒字→海外資産ではなく、資本投資→貿易黒字=海外資産になります。上記①の部分で、「カネ」の動きだけを記していますが、後ろには実物(貿易黒字)があることも忘れてはなりません。

③…対外純資産残高はその国や地域のファンダメンタルズの強さや外国に投資している資産からの利子や配当収入が多いことを示す指標の一つでもある。

 ファンダメンタルズの強さというより、その国の「貯蓄超過」=「経常黒字」を示しているだけです。日本は、GDP(=GDI:所得)が全然増えないのに、「経常黒字」を出し続けています。

GDPの三面等価を見てみましょう。

三面等価 2008

 貿易黒字は,上図の(EX-IM)部分です。国内の貯蓄超過が,貿易黒字になります。

(S-I)=(G-T)+(EX-IM)

 この,(S-I)=(G-T)+(EX-IM)は,どのような比率なのか,上図のこの部分のみを拡大してみましょう。実際の割合,数値例を見てみます。

ISバランス 拡大図.jpg

 さて,景気によって,この,貯蓄(S)と,投資(I)・公債(G-T)・貿易黒字(EX-IM)はどのように動くのでしょうか。

 景気変動を引き起こす要因として,一番影響があると考えられているのは,I(投資)です。景気がいいと,企業は,「モノ・サービスが売れる(来月も,来年も売れそうだ)」ので,設備投資を増やします。それが,日本全体の消費を刺激し,さらに「モノ・サービス」が売れる状態になります。

 ところが,需要(買いたい)が伸び悩むようになると,つまり,十分に供給が行われると,設備が余分になります。需要が横ばい(成長しない)になっただけで,設備投資は原理上ゼロになり,急速に減少します。設備投資の減少は,日本全体の消費の減少へと波及し,不況になります。

(S-I)=(G-T)+(EX-IM)

 ISバランス式でいえば,景気がいいと,民間投資が活発になり,左辺が縮小します(左辺少ない)。ということは,同時に右辺も少なくなるので,財政赤字も貿易黒字も減少します。「好景気になると貿易黒字は縮小する」状態になります。

 逆に,景気が悪いと,民間投資が少なくなり,左辺が拡大します(左辺拡大)。同時に右辺(国債+貿易黒字)も
拡大
します。つまり「不景気になると貿易黒字が増える」状態になるのです。

中谷巌(一橋大学名誉教授)『痛快!経済学2』集英社 2004  p245
 貿易黒字が大きくなるのは国内で生産したものを国内で消費したり,投資したりしていないからです。つまり,国内の供給が需要を上回っているので,そのあまりを輸出する。だから貿易黒字が増えるのです。もしも,国内で生産した分を国内で消費しきってしまえば,貿易黒字は発生しないのです。

中谷巌(一橋大学名誉教授)『痛快!経済学』集英社 1998  p175
不況だから貿易黒字が増える」のであって,貿易黒字が大きいから豊かになるわけではないのです。


「失われた10年(最近は20年といわれています)」といわれる,停滞期を見てみましょう。

失われた10年実質GDP.jpg

失われた10年 貿易黒字.jpg

 ’96年は「回復感なき景気」と呼ばれつつも,経済成長率(GDPが前年に比べ,どれだけ増えたか)は伸びを示し,’96年には2.7%に達しました。

 ’97年は,消費税が5%にアップされた年です。「山一証券」「北海道拓殖銀行」の倒産はこの年です。’98年の経済成長率は,’74年のオイルショック以来になる,マイナス成長を記録し,マイナス2.0%になっています。同年の貿易黒字は拡大します。「不景気になると貿易黒字が増える」のです。

 逆に、好景気になると貿易黒字は縮小します。 ISバランス式でいえば,景気がいいと,民間投資が活発になり,左辺が縮小します(左辺少ない)。ということは,同時に右辺も少なくなるので,財政赤字も貿易黒字も減少します。「好景気になると貿易黒字は縮小する」状態になります。

 1986年~1990年のバブル景気時代を見てみましょう。バブル景気とは、1986年12月から1991年2月までの4年3か月(51ヶ月)間を指します。バブル景気の引き金になったのは1985年のプラザ合意です。これにより急激な円高が進行し、1ドル240円前後だった為替相場が1年後に1ドル120円台まで急伸しました。政府は、減税や公共投資拡大で対応し、日銀は金融緩和を行いました。地価も株価も高騰し、日経平均株価は、1989年の大納会(12月29日)に最高値38,915円87銭を付けました。平成になっても、この平均株価には、一度も達していません。今から振り返っても、大変な好景気時代でした。

バブル期 実質GDP.jpg
バブル期 貿易黒字.jpg

 このバブル景気時代は,I投資が活発で,(S-I)が急速に縮小しています。また,同時期,貿易黒字は減小しています。確かに好景気になると,貿易黒字は減少するのです。

 ファンダメンタルズが弱いから、貿易黒字=対外純資産は拡大するのです。

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