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日経『大機小機』H22.8.17

日経『大機小機』H22.8.17
 2000年の秋、海外出張先で会ったエコノミストらに詰問調で聞かれた。「なぜ日本銀行はゼロ金利をやめたんだ?」。信じられない、という口調だった。

 1度目のゼロ金利解除は10年前の8月。直前の政策決定会合の議事録が先月末に公表された。「金融政策としては半分死んでいたと言ってもいいと思う」「資本主義経済ではない」などと、速水優総裁(当時)の解除に向けた前のめり発言が目につく。

 政府の反対を押し切ったその決定が、早とちりだったのは、日銀自身が半年後に再びゼロ金利に戻したことで証明済みだ。「ZIRP」 (ゼロ・インタレスト・レイト・ポリシーとして海外にも知られた政策の迷走は、日銀の声価を傷つけた。

 日銀が新手のデフレ対策の名目でこの春、打ち上げた新貸出制度が具体化している。例えば三井住友銀行は、制度を利用し、東洋紡の海水の淡水化などの設備増強向けに25億円を低利融資した。
 創業130年近い名門企業への低利融資が、どう日本のデフレ脱却につながるのか。「風が吹くとオケ屋がもうかる」式の論理にはつきあいきれない。日銀は本気でデフレと闘っているのか。闘うふりをしているのか。15年ぶりの円高が答えなのだろう。

「失われた20年」とも言われるが、この間の日本の公的機関の成績表を作れば、日銀は最もパフォーマンスが悪い部類だろう。小泉政権下で財務省が大量のドル買い介入で円相場を抑える一方、日銀が量的緩和を遂行した一時期を除き(注)、金融・通貨当局がデフレ阻止で効果的に動いたことはあったのだろうか。

 2年前の「ねじれ国会」で日銀出身の白川方明総裁が誕生した際、浜田宏一エール大学教授が、本紙の経済教室で「過去の政策の正当化などにこだわらず…国民経済全体、国際経済への波及を視野に入れた柔軟な政策を実行すれば」名総裁になれる、と書いていたのを思い出す。

 臨時国会の衆院予算委員会で民主党の松原仁議員と白川総裁のこんな問答があった。「日銀としてこの不況の責任の一端を感じているのかと聞いているんです。イエスかノーかで答えてください」「一言で、イエス、ノーというふうにお答えするのはあまりにも複雑な難しい問いだと思います」

 言い訳技術ばかりが上達する中央銀行である。(手毬)


注)非不胎化については、ブログ記事 2010-08-11 藻谷浩介『デフレの正体』日本政策投資銀行 参照

<日銀は官僚機構>

 日銀は、財務省や、経産省、外務省と同じ、「官僚機構」のようです。官僚機構といえば、「自己保身」「出来ない理由付けの名手」だという一般論がありますが、日銀も、実は同じようです。
 
 経済専門家集団ではなく、「東大法学部」出身者の就職コースの一つだそうです。東大と言っても、「経済学部」出身者は亜流で、相手にされないようです。

以下参考・引用文献 浜田宏一・若田部昌澄・勝間和代『伝説の教授に学べ!』東洋経済新報社2010

 日銀総裁、白川方明総裁を教えた東大時代の先生が、浜田宏一です。

P3~
日本銀行総裁 白川方明 閣下 
米コネッティカット州ニューヘイブン・イェール大学経済学部 浜田宏一

…私は、いくらなんでも貴兄が速水総裁の無謀(今でもそう思います)と言うべきゼロ金利解除等の政策に、本気で賛成しているとは思いませんでした。そこで、2人で議論すれば相互理解が深まると思い、個人的にお会いしました。しかし、そのときすでに貴兄は、(世界では孤高の)「日銀流理論」を信奉するようになっていたらしく、議論はかみ合わないどころか、真っ向から対立しました。

…「なぜ、このようなすばらしいお人柄と、『ゼロ金利解除』を強引に行うような円高志向の政策観が共存できるのか」ということでした。いま起こっている疑問は、「貴兄のように明晰きわまりない頭脳が、どうして『日銀流理論』と呼ばれる理論に帰依してしまったのだろう」ということです。
…「日銀流理論」と、世界に通用する本書に書いたような一般的な金融論、マクロ経済政策の理論との間には、依然として大きな溝があります。

p13~
若田部昌澄
…日本銀行の人たちは、金融機関が健全かどうかまでは想像力が及ぶけれど、それから先に国民経済があって、自分たちの政策がそこに影響を及ぼすということはなかなか理解できない、と言うのです。

浜田
…自分たちはこれだけしか守らないと決め込んでいると、エラーが少なくなるわけです。責められることを少なくするという背景から生まれた発想としか思えません。
…なぜ日本銀行が「日銀流理論」にしがみつき続けるのかは、本当によくわかりませんが、おそらく失敗をしないようにという意識が年々、積み重なってでき上がった一種の伝統ではないか、と思います。


<日銀流理論とは>

参考・引用文献
岩田規久男 学習院大学『日本銀行は信用できるか』講談社現代新書2009 第3章

日銀は、徹底して、 「デフレ」対策に及び腰です。それは「日銀流理論」と小宮隆太郎が名づけた、日銀の責任を問われると、 「それは日銀にはどうしようもない外部の経済活動によって引き起こされたものであるp82」という責任回避するための理論に依拠しているからです。

 この理論を、技術的に言うと、
「日銀当座預金や日銀券の増減は民間の銀行の貸し出しの増減の結果として起こるものであって、日銀が直接統制に訴えることなしには、日銀当座預金と日銀券の残高を金融政策によって操作することはできないp76」というものです。

‘73年ごろの狂乱物価に対する、日銀の当時の分析は、「金融機関が貸しだししすぎたから」で、日銀の責任はないとするものでした。これに対し、小宮山隆太郎(東大教授)が、「ばか言うな、日銀が、金融機関に貸しだしたからだろう」と猛烈に反発しました。

 今風にいえば、「マネタリーベースを大きくして、マネー・ストック」を増やしたのは、日銀の責任だろう」というものです。当然、経済学的には、小宮山先生が正しいのですが、日銀は頑として認めません。今も昔もおそらくこれからもです。…同書では、日銀は「官僚機構…つまり東大法学部だから」としています。

「…日銀金融研究所が発表する文書・論文で、日銀の金融政策に誤りがあったことを認めたり、その可能性を指摘したりするものは見たことがない。日銀の金融政策には誤りがなく、不都合なことが起きたならば、それは日銀の影響の及ばぬところにあるというのが、大体の結論であるp83」

 1990年代後半からの「ゼロ金利」導入も「いやいやp102」ですし、2000年8月には「解除p114」し、また「デフレ」になってしまいます。

 2001年3月半ばからの「量的緩和」についても白川現総裁は当時「実体経済に与える影響については否定的p51」でした。

 「正統派の経済学(新古典派経済学とニューケインジアン・エコノミクス)軽視は日銀…の特徴p36」なのです。

<うそみたいな話>

浜田宏一・若田部昌澄・勝間和代『伝説の教授に学べ!』東洋経済新報社2010

P20浜田
 日本の経済学者の多くは、私が日本銀行を批判したり、デフレの弊害について議論しようとすると、ぱっと口をつぐんでしまいます。…将来、日本銀行の政策委員会審議委員に指名してもらえなくなると心配しているのかも…。…日本銀行の行内研修の講師の依頼が来なくなるとか、教え子が日本銀行に就職できないとか…心配しているのかもしれません。

P21
…日本銀行のコンファレンスで発表された海外の経済学者の論文も、日本銀行の主張と違っていれば、徹底的に無視されます。…そういう学者の提言が実際に政策として採用されることは、まったくありません

P82若田部
…あえていえば、「東大法学部的な思考」ととらえたほうがよいでしょう。日本銀行も、東大法学部の優秀な人たちが就職する官僚組織のうちの、選択肢の1つ、という見方ができます。

P83浜田
…法の論理と経済の論理はまったく違うものです。法の論理というのは、訴訟に勝つために、あるいは行政行為が訴えられないために、一定の結論を出すために「正当化する」、言葉は悪いですが「理屈をつける」という面があります。

P86
…問題は、そういったコンファレンスに来る世界の一流の経済学者のアドバイスを、自分たちの政策に都合が悪いと無視してしまうところにあります。


 2008年、日銀総裁を決める際に、国会で民主党によって、不同意にされた人物の1人は、①東大教授 伊藤隆敏(ウイキペディア:最近は、インフレターゲットの提唱者として知られ、日本銀行の金融政策に批判的な論陣を張っている)です。

 もう1人は、当時日銀副総裁ながら、ゼロ金利解除に、ただ1人反対した②武藤敏郎です。民主党が反対した理由は、「財務次官経験者という、官僚OB」だったからです。
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