藻谷浩介 その5 『デフレの正体』角川oneテーマ21
藻谷浩介 その5 『デフレの正体』角川oneテーマ21
この本は、平成22年7月4日『読売新聞』書評欄に、公認会計士の山田真哉氏によって「統計から真実を読み取れ」と題して、紹介されました。同欄では、「統計を読みとることで様々な思い込みを排除することに成功している」とされていたので、読んでみました。
結論ですが、著者が「私は無精者で、経済書やビジネス書は本当に数冊しか読んだことがないのですがp125」と述べている通りです。
経済学的バックボーンがないと、全体像が歪んでしまいます。
経済学と、同書で述べられるような経済現象は全く別物です。前者は、後者がなぜ生じるか(メカニズム)を述べます。経済現象だけに目を奪われると、本質をつかむことができません。
以下、解説します。
間違い部分は赤で示します。
P30
…日本の貿易黒字は中国の台頭…にもかかわらず年々増加傾向にあったし、世界の景気が良くなればまた回復する…。事実日本の輸出は09年1月を底に伸び始め、貿易黒字もまた拡大基調に戻っています。
P31
・・・日本が貿易赤字になるのは構造的に難しいのです。
<日本は、必ず貿易赤字になる>
この、貿易黒字・貿易赤字の発生の原因は、われわれの貯蓄にあります。 「モノ・サービスという商品」のやり取りで黒字・赤字になるのではないのです。
われわれの貯蓄についてです。私たちが,給料をもらったら,何に使うでしょうか。これには3つの使い道しかありません。「使うか,貯めるか,税金か」です。高校生がアルバイト代を1万円もらいます。6000円で服を買います。消費税は,5%なので,300円です。残り3700円は,預(貯)金します。ものすごく単純な例ですが,これですべてです。
ここで,「貯める」というのは,使わなかったお金すべてを示します。それは,財布の中にあろうと,銀行預金になろうと,誰かに貸そうと,要するに,「使わなかったお金全部」のことを言います。
会社が使っても同じです。「モノを作るために,原材料を買ったり(飲食店のようなサービス業なら,食材を購入したり,従業員の服をそろえたり)するか,法人税や,消費税などの税を払うか,残るか」です。
分配(所得)が,会社に回っても,個人に回っても,あるいは,北海道や札幌市のような地方自治体に回っても,すべて同じ結果になります。「使うか,貯めるか,税金か」です。この「使うか,貯めるか,税金か」を難しく言うと,「消費・貯蓄・税金」と言います。
「消費・貯蓄・税金」=「消費を英語のConsumptionの頭文字C,貯蓄をSavingのS,税金をTaxのT」であらわします。すると、「C+S+T」という式になります。
この貯蓄が、企業に貸し出され、政府に貸し出され、外国に貸し出される原資です。日本国の、三面等価の図を見て下さい。
(S-I)=(G-T)+(EX-IM)


国民の貯蓄超過がなくならない限り、財政赤字(G-T)+外国への貸し出し(EX-IM)は必ずトータルプラスで発生します。
チャールズ・ユウジ・ホリオカ『経済教室』日経H21.9.30
…では、今後はどのように推移するのであろうか。経済全体のISバランス・経常収支の推移は各制度部門の貯蓄と投資の推移に依存する…まず、貯蓄について考えると、今後人□がさらに高齢化し、日本は世界一の超高齢社会になると予測されており、家計貯蓄は一段と減少すると考えられる。
…経済全体で貯蓄が減少し、投資が増加すれば、ISバランスのプラス幅が縮まり、結局、経常収支の黒字も減少すると考えられる。つまり、01年以降のISバランス・経常収支の黒字の拡大は一時的な現象で、近く終息し、赤字に転じる可能性も十分あると考える。
<日本は、貿易赤字になる…>
東学 資料集『資料政・経2008』 2008年 p313

日本の貯蓄率は,先進国の中で,最も高い水準だったのです。その貯蓄率は,今後どうなるでしょうか。実は,日本の貯蓄率は,すでにドイツ・フランスを下回り,2020年には家計貯蓄率はゼロになると予測されています。
独仏を下回った日本の家計貯蓄率
櫨浩一『貯蓄率ゼロ経済』日本経済新聞社 2006年 p11 p106

2020年頃には家計貯蓄率はゼロに
櫨浩一2006年 p106

これもやはり,少子高齢化が影響しています。一般に,若いときは働いて貯蓄し,年をとってからは,その貯蓄を取り崩して生活します。高齢層の比率が高まると,若い世代は貯蓄をしても,高齢者世代が取り崩すので,全体として貯蓄率は低下するのです。

現在の日本では,左辺のSが高い(貯蓄率が高い)ので,右辺がプラスでしたね。2008年の民間貯蓄は,約126兆円,GDIの25%にあたります。しかし,この貯蓄率,特に個人の貯蓄率が低下しています。2020年にはゼロになることが予測されています
そうすると,上記の式はどうなるでしょうか。左辺が縮小,もしくはゼロ,またはマイナスになります。財政赤字が少し減ったと予想してみましょうか。そうすると・・

このように,左辺と右辺は必ず等しくなるので,日本は,必ず「貿易赤字」になります。
貿易赤字=資本収支黒字なので、外国から日本への投資が、増えることを示します。
P31
・・・日本が貿易赤字になるのは構造的に難しいのです。ではなく、構造的に、貿易赤字になるのです。
藻谷浩介 『デフレの正体』角川oneテーマ21
「私は無精者で、経済書やビジネス書は本当に数冊しか読んだことがないのですがp125」
高校教科書でさえ、ISバランス論には触れています。(カッコは筆者挿入)
清水書院『高等学校 新政治・経済 改訂版』H21.2.15 p146
…国内で生産されたモノが国内で消費(C)されず、また投資(I)されることもなく貯蓄(S)されると、経常収支が黒字となる…。…一方…貯蓄(S)が過少となっている国は、他国から流入する大量の資金(貿易赤字=資本収支黒字)によって投資(I)をまかなう必要がある。つまり、経常収支の黒字・赤字は、国際経済の問題であるとともに、国内経済の反映であるととらえることが重要であり、貯蓄(S)や投資(I)・消費(C)・財政(G)支出を含めた一国経済の経済バランスの均衡(ISバランスのこと)をはからなければ・・・。
貯蓄を、その国の投資で使い切ってしまわない場合、かならず貿易黒字(資本赤字)は発生してしまうのです。
読売『G20 成長に軸足 新興国に内需拡大に期待』H22.6.28 グラフも

この本は、平成22年7月4日『読売新聞』書評欄に、公認会計士の山田真哉氏によって「統計から真実を読み取れ」と題して、紹介されました。同欄では、「統計を読みとることで様々な思い込みを排除することに成功している」とされていたので、読んでみました。
結論ですが、著者が「私は無精者で、経済書やビジネス書は本当に数冊しか読んだことがないのですがp125」と述べている通りです。
経済学的バックボーンがないと、全体像が歪んでしまいます。
経済学と、同書で述べられるような経済現象は全く別物です。前者は、後者がなぜ生じるか(メカニズム)を述べます。経済現象だけに目を奪われると、本質をつかむことができません。
以下、解説します。
間違い部分は赤で示します。
P30
…日本の貿易黒字は中国の台頭…にもかかわらず年々増加傾向にあったし、世界の景気が良くなればまた回復する…。事実日本の輸出は09年1月を底に伸び始め、貿易黒字もまた拡大基調に戻っています。
P31
・・・日本が貿易赤字になるのは構造的に難しいのです。
<日本は、必ず貿易赤字になる>
この、貿易黒字・貿易赤字の発生の原因は、われわれの貯蓄にあります。 「モノ・サービスという商品」のやり取りで黒字・赤字になるのではないのです。
われわれの貯蓄についてです。私たちが,給料をもらったら,何に使うでしょうか。これには3つの使い道しかありません。「使うか,貯めるか,税金か」です。高校生がアルバイト代を1万円もらいます。6000円で服を買います。消費税は,5%なので,300円です。残り3700円は,預(貯)金します。ものすごく単純な例ですが,これですべてです。
ここで,「貯める」というのは,使わなかったお金すべてを示します。それは,財布の中にあろうと,銀行預金になろうと,誰かに貸そうと,要するに,「使わなかったお金全部」のことを言います。
会社が使っても同じです。「モノを作るために,原材料を買ったり(飲食店のようなサービス業なら,食材を購入したり,従業員の服をそろえたり)するか,法人税や,消費税などの税を払うか,残るか」です。
分配(所得)が,会社に回っても,個人に回っても,あるいは,北海道や札幌市のような地方自治体に回っても,すべて同じ結果になります。「使うか,貯めるか,税金か」です。この「使うか,貯めるか,税金か」を難しく言うと,「消費・貯蓄・税金」と言います。
「消費・貯蓄・税金」=「消費を英語のConsumptionの頭文字C,貯蓄をSavingのS,税金をTaxのT」であらわします。すると、「C+S+T」という式になります。
この貯蓄が、企業に貸し出され、政府に貸し出され、外国に貸し出される原資です。日本国の、三面等価の図を見て下さい。
(S-I)=(G-T)+(EX-IM)


国民の貯蓄超過がなくならない限り、財政赤字(G-T)+外国への貸し出し(EX-IM)は必ずトータルプラスで発生します。
チャールズ・ユウジ・ホリオカ『経済教室』日経H21.9.30
…では、今後はどのように推移するのであろうか。経済全体のISバランス・経常収支の推移は各制度部門の貯蓄と投資の推移に依存する…まず、貯蓄について考えると、今後人□がさらに高齢化し、日本は世界一の超高齢社会になると予測されており、家計貯蓄は一段と減少すると考えられる。
…経済全体で貯蓄が減少し、投資が増加すれば、ISバランスのプラス幅が縮まり、結局、経常収支の黒字も減少すると考えられる。つまり、01年以降のISバランス・経常収支の黒字の拡大は一時的な現象で、近く終息し、赤字に転じる可能性も十分あると考える。
<日本は、貿易赤字になる…>
東学 資料集『資料政・経2008』 2008年 p313

日本の貯蓄率は,先進国の中で,最も高い水準だったのです。その貯蓄率は,今後どうなるでしょうか。実は,日本の貯蓄率は,すでにドイツ・フランスを下回り,2020年には家計貯蓄率はゼロになると予測されています。
独仏を下回った日本の家計貯蓄率
櫨浩一『貯蓄率ゼロ経済』日本経済新聞社 2006年 p11 p106

2020年頃には家計貯蓄率はゼロに
櫨浩一2006年 p106

これもやはり,少子高齢化が影響しています。一般に,若いときは働いて貯蓄し,年をとってからは,その貯蓄を取り崩して生活します。高齢層の比率が高まると,若い世代は貯蓄をしても,高齢者世代が取り崩すので,全体として貯蓄率は低下するのです。

現在の日本では,左辺のSが高い(貯蓄率が高い)ので,右辺がプラスでしたね。2008年の民間貯蓄は,約126兆円,GDIの25%にあたります。しかし,この貯蓄率,特に個人の貯蓄率が低下しています。2020年にはゼロになることが予測されています
そうすると,上記の式はどうなるでしょうか。左辺が縮小,もしくはゼロ,またはマイナスになります。財政赤字が少し減ったと予想してみましょうか。そうすると・・

このように,左辺と右辺は必ず等しくなるので,日本は,必ず「貿易赤字」になります。
貿易赤字=資本収支黒字なので、外国から日本への投資が、増えることを示します。
P31
・・・日本が貿易赤字になるのは構造的に難しいのです。ではなく、構造的に、貿易赤字になるのです。
藻谷浩介 『デフレの正体』角川oneテーマ21
「私は無精者で、経済書やビジネス書は本当に数冊しか読んだことがないのですがp125」
高校教科書でさえ、ISバランス論には触れています。(カッコは筆者挿入)
清水書院『高等学校 新政治・経済 改訂版』H21.2.15 p146
…国内で生産されたモノが国内で消費(C)されず、また投資(I)されることもなく貯蓄(S)されると、経常収支が黒字となる…。…一方…貯蓄(S)が過少となっている国は、他国から流入する大量の資金(貿易赤字=資本収支黒字)によって投資(I)をまかなう必要がある。つまり、経常収支の黒字・赤字は、国際経済の問題であるとともに、国内経済の反映であるととらえることが重要であり、貯蓄(S)や投資(I)・消費(C)・財政(G)支出を含めた一国経済の経済バランスの均衡(ISバランスのこと)をはからなければ・・・。
貯蓄を、その国の投資で使い切ってしまわない場合、かならず貿易黒字(資本赤字)は発生してしまうのです。
読売『G20 成長に軸足 新興国に内需拡大に期待』H22.6.28 グラフも

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