fc2ブログ

新聞の間違い 日経 大機小機『財政赤字削減の道筋を早く』H22.6.5

<新聞の間違い>

 日経 大機小機『財政赤字削減の道筋を早く』H22.6.5

…政府の財政赤字が先進国で最悪の状況にあることはよく知られている。これは2つの面で経済状況をさらに悪化させる可能性が大きい。
…このままではまもなく長期債務残高は、国内総生産(GDP)の2倍に達する。欧州諸国の過去の経験から、2.5倍を超えると管理不能になるという研究がある。国民の間に債務不履行の疑念が少しでも出てくると、金融市場の混乱や金利の大幅上昇を通じて、債務が債務を膨らませるという最悪の状況に陥りかねない。



<国債は政府の借金=国民の財産>

「国債は政府の借金=国民の財産」です。これらの借入金を買っているのは誰でしょう?それは我々1人1人の国民なのです。約846兆円のうち、94.8%=約802兆円は、我々日本人が持っているのです(単純計算です。国債を海外が購入している、5.2%という数値を使用しました)。簡単に言えば、約1500兆円に及ぶ、日本人の個人資産の約50%は国の借入金なのです。

日経H22.5.11

米国 国債 保有状況

債務残高 GDP比.jpg

<国債増はどこまで可能か>

「国はいくら国債を発行しても倒産することはないと考えて良いのでしょうか。結論から言えばそのとおりです。現代の管理通貨制の下では自国通貨建ての国債をいくら発行してもそれが理由で国が倒産することはありえ (下線部筆者)」
ないのです。
岩村充 『貨幣の経済学』集英社 2008 p153 

 同書では,「国債は政府の株式」に例えられています。また、国債は通貨制度のアンカー(昔の金本位制度における金)だと喝破しています。


 日本円の通貨価値を支えているのが国債です。日銀は国債を購入し(資産)、日本円を発行(負債)しています。国債暴落=日本円暴落=日本円価値下落(インフレ)、最悪の場合、日本円が紙切れ=国債が紙切れになって終わりです。
2010.5.12 本ブログ記事参照

 日本国がデフォルト(債務不履行)になるわけではありません。

 ですが、実際には、発行額がどの程度大丈夫なのかは、「わからない」というのが、経済学による回答です。答えられないんですね。「2.5倍を超えると管理不能になるという研究」も、実際にはありません。

西孝『マクロ経済学講義 イントロダクション』日本評論社 2002
p37-38
…財政赤字はいかに巨額になっても全く問題ないのでしょうか。そうではありません。以下のような問題が指摘されています。
1.政府が借金を返済できず、破産する。
2.政府支出の大半が借金の返済に向けられるため、本来の目的に使えない。
3.借金返済のため増税される人と、返済を受け取る人との間で、望ましくない所得の再分配が生じる。


1について

…どのくらいの借金が本当に危険信号であるかについては、あまり確実なことはわかっていないというのが実情です。

 
竹森俊平と、竹中平蔵の対談です。

竹森俊平『経済危機は9つの顔を持つ』日経BP社 2009P430
竹中
・・・昔、大蔵省の時代、財政金融研究所にいたとき、変なリサーチをやらされたことがあります。それは経済学の手法なんかは全然使わないもので、こんなリサーチに意味があるのかと最初は反発したのですが、やってみてすごく面白かった。
 それは、ナポレオン戦争後のフランス、あるいは、第一次世界大戦の後のイギリスは、どのようにして赤字問題を解決したのかというものです。よく赤字を減らすとか、借金を返すとか言いますが、借金を返した国なんかないんです。借金を返すことなんてできません
竹森 残高が相対的に小さくなっていったということですね。
竹中 そういうことです。残高を増やさないようにして、その間に経済成長するから、2%成長で30何年したらGDPが2倍になるから半分になると。この手法しかありません。やっぱり成長をすることは、ものすごく重要なことだと思うんです。


2について

「だったら、さらに借金すればいいじゃないか」という人がいそうですが、それは雪だるま式に1.の危険を高めることになります。借り続けるためには、信用が大事なのです。

3について

…だれが便益を受けて、だれがどれだけ負担をし、それが公正であるかどうかを判断するには、たんに「将来世代」などという漠然とした表現では不十分なのです。「どの世代にどのような便益と負担が生じるか」という問い方でなければなりません。

西孝『マクロ経済学講義 イントロダクション』日本評論社 2002  p37-38
 いずれにしても、「国の借金がこんな膨大になってけしからん」といった議論には気をつけましょう。それを肯定する議論も否定する議論も、それほど単純ではないのです。残念ながら現在のマクロ経済学は、これにちゃんとした答えを出せていません


<どうすればよいのか>

1 経済成長率>国債利率

 企業が借金をするのを、借金経営とはいいません一部上場企業における他人資本の割合の平均は、6割です。借金をしていない企業は、ないといっても良いでしょう。

上場企業の資産と,負債を示した,貸借対照表(バランス・シート)です。
出典『日本経済新聞』H21.4.14 2008年9月末現在。金融機関を除く,1690社が対象。
企業 借金

 ②部分に,資本金が含まれます。いわゆる,株式です。①部分が,銀行や,ほかの会社,国民から借りた負債です。社債や,借入金です。

 企業が借金をするのは、金利<売り上げが見込めるからです。金利と売り上げの差が、利益だからです。(これはものすごく単純化しています)
 100万借りて、105万売り上げ、102万返す。3万円が利益です。このような企業の活動を「借金経営」と避難することはありません。

 国債も同様です。日本政府が借りて投資(消費)をします。日本国全体のGDP成長率が、金利を上回れば、公債費は財政にとって負担にはならないのです。成長率>金利です。金利が現在1.2~1.3%台なのですから、GDP成長率はこれを上回ればよいのです。

2 消費税増税


 日本の2008年の財政赤字(G-T)は6兆1310億円です。

三面等価 2008

 日本の消費Cは、約291兆円です。消費税を2%引き上げると、財政赤字(G-T)の6兆1310億円が補えることがわかります。国と地方が、現在発行しなければならない債務を、消費税を7%にすることで、「無借金経営」にすることが出来ます。これは、不可能な数字ではありません。財政赤字は、消費税にしたら、2%~多くても5%程度の額です。

 大竹文雄(大阪大学教授)『ニッポン復活の10年』日本経済新聞H22.1.9
日本の財政赤字が突出して大きいのは政府の規模が大きいからではなく,税収があまりにも少ないため。国債相場が暴落しないのは,消費税率などを国際標準に合わせてゆけば十分に税収があがるという合意が市場関係者にあるからだ。


消費税率

「国債相場が暴落しないのは,消費税率などを国際標準に合わせてゆけば十分に税収があがるという合意が市場関係者にあるからだ」というのは,上記のグラフを見れば明らかです。

 これを見れば,8~13%,10~15%程度でしたら,現実的な選択肢として十分にあり得ることがわかります。財政赤字(G-T)を無くすなら,10%程度で十分です。日本国として,決して実現不可能な数値ではありません。

消費税を2%~多くても5%程度増やせばいいのです。税率7%~10%で財政赤字は0なのです。

<日銀法>

 日銀法第2条で、日銀の目的は「物価の安定」とされています。「物価の安定」=「通貨価値の安定」のことです。国債暴落=日本円暴落です。これは「日銀法違反」になります。日銀は法律違反しても、「国債暴落」を容認するのでしょうか?
スポンサーサイト



theme : 間違いだらけの経済教育
genre : 学校・教育

comment

Secret

No title

国債は国民の財産ではなくて、国債を買った人(法人団体)の財産なのでは?買わない人にとってはやはり借金なのでは?

No title

何か全然反応ないので追記するけど、文中竹中が残高を増やさないようにして、その間に経済成長云々とか言ってるけど、国債の残高は増えるし、経済成長なんてしてないんですけど。小泉時代に経済が活性化したみたいなことが書いてあるけど、民とナタネ油のたとえみたいに絞りカスをもっとしぼって1,2滴出たってだけの話だよ。過労で倒れたり死んだりする労働者たちに、これ以上に働け、経済成長させろって言う気?正気の沙汰とは思えません。
カレンダー
プルダウン 降順 昇順 年別

08月 | 2023年09月 | 10月
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30


FC2カウンター
カテゴリ
記事を検索する
「国債」 「公債」 「食糧」 「貿易黒字」などで検索して下さい
プロフィール

菅原晃

Author:菅原晃
中高の教科書でわかる経済学 マクロ篇 発売です!

中高の教科書でわかる経済学 マクロ篇

中高の教科書でわかる経済学 ミクロ篇 発売です!

中高の教科書でわかる経済学 ミクロ篇


図解 使えるミクロ経済学 発売です!

図解 使えるミクロ経済学

図解 使えるマクロ経済学 発売です!

図解 使えるマクロ経済学


高校生からわかるマクロ・ミクロ経済学発売です!

高校生からわかるマクロ・ミクロ経済学


経済教育学会 
経済ネットワーク 会員
行政書士資格


注 コメントする方へ

このブログでは、個人的なご意見・ご感想(価値観 正しい・間違い、好き嫌い、善悪)は、千差万別で正誤判定できないことから、基本的に扱っておりません。
意見は書き込まないで下さい。こちらの見解(意見)を尋ねる質問も、ご遠慮願います。
経済学は学問ですので、事実を扱い、規範(価値観)は扱っていません。事実に基づく見解をお願いいたします。
カテゴリ『コメントに、意見は書かないで下さい』を参照願います。
なお、はじめてコメントする方はコメント欄ではなく「質問欄」からお願いいたします。

ご質問・ご意見(非公開でやりとりできます)
内容・アドレス表示されず、直接やりとりできます。

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク
最新記事
最新コメント
検索フォーム
月別アーカイブ