新聞の間違い 大塚節雄 木原雄士『10年代半ば、経常赤字に?』日経H22.5.17
<新聞の間違い>
大塚節雄 木原雄士『10年代半ば、経常赤字に?』日経H22.5.17 数字は筆者挿入
2010年代半ばには日本の経常収支が黒字から赤字に転じる。…①財政収支と経常収支の「双子の赤字」に苦しむ日が来るのだろうか。
…エコノミストに聞いたところ、13~18年度には②経常赤字に転落するとの予測が多かった。
③…家計の貯蓄率がマイナスなら、日本全体で見ても収入以上のお金を使う状態になりかねない。必要なモノを国内だけで生産できず、海外からの輸入が増えやすくなる。経常赤字転落のメカニズムはここにある。
…貿易収支が赤字に転落し、経常収支の黒字が縮小すれば「成熟した債権国」になる。④…米国の経常収支は80年代前半から赤字が続くようになった。過剰な個人消費が輸入を膨らませたのが大きく、06年の赤字は8000億ドル強(約74兆円)にまで拡大した。
<経済新聞の暴走続く>
もう、わけがわかりません。経済新聞記者が、経済のことが全く分かっていないのですから。
岩田規久男(学習院大学教授)『日本銀行は信用できるか』講談社現代新書2009 p34,36
「戦前や戦後しばらくの間,日本の大学の経済学部で教えられていた経済学は,現代の金融政策を決定する上で全く役に立たない」
「政治家…世論をリードする大新聞や主要雑誌の経済担当記者などはそれでは困る…最低限,経済学の知識を持って仕事をしてもらいたいものである」
「日本は,正統派経済学の知見なしには書けないはずの記事が新聞・雑誌に満載されている不思議な国である」
世の中、特にマスコミは「危機だ危機だ」とあおるのが仕事です。だから経済学を学ぶ目的は,「マスコミやエコノミストによってつくられる俗説に惑わされずに,自分の目で経済現象を見つめる能力を身につけることにある 伊藤元重(東大教授) 『入門経済学 第2版』日本評論社2005 p2」のです。
とはいっても、経済新聞でこのレベルですから、あとは推して知るべしです。問題は、正しい経済学が教えられていないことにあります。
週間ダイヤモンド2010.3.27 p61

東大生でも、正答率は11.8%です。高校時代に、「政治経済」や「現代社会」で教えられていないんですね。
<双子の赤字>
①「双子の赤字」に苦しむ日が来るのだろうか。
アメリカは「経常(貿易)赤字」と、「財政赤字」をずーっと続けてきました。財政赤字はクリントン政権時代に、一時黒字化したのですが、その時代のみです。そして、貿易黒字もずーっと拡大の一途です。
④…米国の経常収支は80年代前半から赤字が続くようになった。過剰な個人消費が輸入を膨らませたのが大きく、06年の赤字は8000億ドル強(約74兆円)にまで拡大した。
でも、アメリカは「苦しむ日」など、迎えたことがありません。というより、GDPは拡大し続け、当然一人当たりGDP(=GDPの三面等価から、GDI国民総所得)も拡大の一途です。
80年代に「ジャパン・アズ・ナンバーワン」などと言われた時代がありました。「日本の土地の地価をすべて合わせるとアメリカが4つ買える」と言われた時代もありました。
ですが日本は毎年貿易黒字を出し、アメリカは貿易赤字で、アメリカのGDPは日本のGDPの手の届かないところまで拡大しました。ところが・・・
データ出典 世界経済のネタ帳


2005年の1人あたりGDP(名目)は、日本35,633ドル、アメリカ42,680ドル、1.2倍です。
経常(貿易)赤字が拡大しようと、財政赤字が拡大しようと、その国の豊かさには全く関係ないことがわかります。そりゃそうです。経常収支赤字=資本収支黒字のことで、新聞のいう②「経常赤字転落」は、資本収支が「赤字から黒字に」上昇?したことなのですから。
<国際収支の原則>

経常収支黒字≡資本収支赤字
日本が経常収強調文支黒字を抱えるということは、同額分外国資産(外国の国債・社債・株式・資産・貸付)が増えるということです。
資本収支黒字≡経常収支赤字
アメリカが資本収支黒字を抱えるということは、アメリカ国内に、外国資本(外国の国債・社債・株式・資産・貸付)が増えるということです。
投資を受け入れるということはどういうことでしょうか。
参考・引用文献 石川城太『政府、過度な肩入れ避けよ』日本経済新聞H21.4.15
…グローバル化が進展し、国境を越えたヒト・モノ・カネ・サービスの移動の活発に伴い…自国企業に見えながら、所有構造を見ると…株式の多くを外国人が所有しているケースが…ある。…日産自動車の外国人持ち株比率は6割を超え、ホンダとトヨタも3割前後である。ソニー、任天堂、キヤノン、日立製作所など、日本を代表する企業…も4割を超えている。…日産はルノーの株式の15%を所有し、逆にルノーは日産の44.3%の株式を所有している。…ルノー出身のカルロス・ゴーン氏が両社の社長兼最高責任者(CEO)を兼務し、日産が保有するルノー株式には議決権がないため、日産はもはやフランスの企業といってもよい。
今では,外国人株主の持ち株比率が30%を超える企業も少なくありません。東証一部上場企業では,’05年には100社を超えました。有力上場企業で,外国人持ち株比率が,50%を超える企業は,46社を数え,以下のような例があります。
出典 『会社四季報CD-ROMランキングでみる上場企業』2007年2週春号 東洋経済オンライン http://www.toyokeizai.net/online/topics2/?kiji_no=8
日産自動車69.3% 西友60.3% 昭和シェル石油61.3%
ヤマダ電機55.2% HOYA50.5%
富士フィルムホールディングス50.4%
これが、グローバル化の実態です。資本は国境を超え移動しているのです。「日産はフランス企業」です。
さらに、アメリカ貿易赤字額=資本収支黒字額なので、アメリカが貿易赤字を出せば出すほど、外国資本(外貨準備、外国債、外国証券ほか)の投入が増えるのです。「日産はフランス企業」と同様、アメリカの「○○社は日本企業・タイ企業・中国企業」という事例が膨大になっているということです。
でも、「日産はフランス企業」で、何か困ったことはあるのでしょうか?「ヤマダ電機は外国企業」ですが、それが何か?
「貿易赤字は損」「貿易赤字は悪いこと」ではなく、 「貿易赤(黒)字」は「お金の貸し借り」のことなのです。ですから、貿易赤字があろうと無かろうと、経済成長(GDP増=GDI増=国民所得増)します。アメリカも、イギリスも、オーストラリアもです。
アメリカGDP推移


逆に、日本は’98年「貿易黒字」を出しながら、戦後2回目の「GDPマイナス成長=国民所得減」でした。さらに、2008年、貿易黒字を27,103(単位10億円)も出しながら、戦後3回目の「GDPマイナス成長=国民所得減」でした。前年度GDPは560,816、2008年度556,710となり、0.73%のマイナス成長です。(単位10億円 データ出展 内閣府速報値2009年2月13日)
おかしいじゃありませんか、貿易黒字で儲けているのに、マイナス成長なんて。そう、「貿易黒字はもうけ」『貿易黒字は良いこと』が間違いなのです。貿易黒(赤)字と、経済成長は関係ありません。赤字だろうが、黒字だろうが、GDPは増減するのです。
櫻川昌哉『経済を動かす単純な論理』光文社2009
p178
貯蓄率が国家の間で異なっていれば、経常収支の不均衡が長期にわたって続くということはありえるのです。経常収支赤字国が持続的な経済成長をすれば、黒字国から赤字国へ資金は流れ、経常収支の赤字も持続できます。…実際にアメリカは、過去30年間、経常収支の赤字を継続してきましたが、大きな問題は生じていません。
③…家計の貯蓄率がマイナスなら、日本全体で見ても収入以上のお金を使う状態になりかねない。必要なモノを国内だけで生産できず、海外からの輸入が増えやすくなる。経常赤字転落のメカニズムはここにある。
ですから、経常赤字になったり、黒字になったりするのは、「輸入が増える」とか、「輸出が増える」ことではなく、「お金の貸し借り=資本移動」のことなのです。モノの取り引きにメカニズムがあるわけではなく、「お金の貸し借りが原因→経常黒(赤)字」というメカニズムなのです。
<経常黒(赤)字額=カネの貸し借り額>
竹森俊平 慶大経済学部教授 『世界的な需要大幅減の背後に奇妙なるグローバルインバランス』週間ダイヤモンド 2009.4.4 (グラフも)

…世界的な問題には…米国を中心とした近年の国際貸借の増加、いわゆる「グローバルインバランス」問題がありました。
…「インバランス」というと、なにか悪いことのように感じられますが、海外から資本を借りている国もあれば、貸している国もあること自体は、国際資本取引の上ではおかしな話ではありません。
お金の貸し借りは、善いとか悪いとかの対象ではありません。ですから、「赤字転落」という表現が、おかしいのです。
そして、お金の貸し借りは、財(モノ・サービス)の面から見れば、貿易赤(黒)字になるのです。


経常(貿易)黒字は、貯蓄超過から生まれ、海外への貸し出し額と同意なのです。
…資本、おカネの流れは、財の流れという側面から見ることもできます。
そもそも米国に流れ込んだアジアの国々のおカネ(上図③)とは、本質的には過剰貯蓄、つまり消費(上図①)にも投資(上図②)にも使われないおカネです。過剰貯蓄の存在は、そのぶんだけ生産されたモノ(上図④)に対する需要が欠如している状態を意味します。
「経常収支の赤字=海外からの純借入額=国内投資の国内貯蓄超過額」と頭にいれておいてください。
はい、ここで、竹森先生の、重要な式が、提示されました。アメリカの場合は下記の式でA側から見た見方になります。一方、日本や中国、ドイツは、全く逆のBからの方向になります。
A→経常収支の赤字=海外からの純借入額=国内投資の国内貯蓄超過額←B
…生産所得(上図④)のうち消費で使われないぶん(上図⑤)つまり貯蓄に見合った投資(上図②=政府の投資と企業の投資)があれば、生産所得と総支出は均衡することになります。
貯蓄額=投資額なら、経常黒字(海外への貸し出し)は生まれません。
…アジアの国々が国内投資を抑制し、国内貯蓄を余らせた状態(過剰貯蓄)…しかるにそのとき、米国はアジアの余剰貯蓄を借り入れる一方、自国の貯蓄は減らしてそのぶん消費を増やし、投資も旺盛に行っていた。その結果、世界経済の生産余剰を米国の投資と消費が埋め…要するに…表裏一体の現象なのです。
「貯蓄>投資」国≡「貯蓄<投資」国
ですから、貿易黒字はもうけではなく、海外への貸し付け額なのです。例えば、日本国内とか、中国国内には環流しないおカネなのです。
海外への貸し付け(投資)とは、外国の国債、社債、株、外国銀行への預金(外国銀行から見たら負債です)などです。
投資してもらっている国から見ます。
ある会社の株式が、外国人によって買われているということです。
ある会社の社債を、外国人が購入している状態です。
ある銀行の預金を、外国人がしていることです。
ある国の国債を、外国人が購入している状態です。
ある国の不動産の持ち主が、外国人の場合です。
株式の50%超を外国人が持っている、ヤマダ電機や、日産は、外国企業です。日本の国債の4%~7%ほどは、外国人が購入しています。北海道のニセコにある長期滞在型のホテルやコンドミニアムは、オーストラリア人が購入しています。
日本から見たら、「負債」になります。しかし、日本のGDI(国内総所得)は伸びます。企業も、銀行も、建設、不動産業もです。これらの企業にとって、買ってくれるのは、日本人であれ、外国人であれ、誰でもかまわないのです。
だから、 「貿易黒(赤)字と、経済成長は無関係」なのです。
大塚節雄 木原雄士『10年代半ば、経常赤字に?』日経H22.5.17 数字は筆者挿入
2010年代半ばには日本の経常収支が黒字から赤字に転じる。…①財政収支と経常収支の「双子の赤字」に苦しむ日が来るのだろうか。
…エコノミストに聞いたところ、13~18年度には②経常赤字に転落するとの予測が多かった。
③…家計の貯蓄率がマイナスなら、日本全体で見ても収入以上のお金を使う状態になりかねない。必要なモノを国内だけで生産できず、海外からの輸入が増えやすくなる。経常赤字転落のメカニズムはここにある。
…貿易収支が赤字に転落し、経常収支の黒字が縮小すれば「成熟した債権国」になる。④…米国の経常収支は80年代前半から赤字が続くようになった。過剰な個人消費が輸入を膨らませたのが大きく、06年の赤字は8000億ドル強(約74兆円)にまで拡大した。
<経済新聞の暴走続く>
もう、わけがわかりません。経済新聞記者が、経済のことが全く分かっていないのですから。
岩田規久男(学習院大学教授)『日本銀行は信用できるか』講談社現代新書2009 p34,36
「戦前や戦後しばらくの間,日本の大学の経済学部で教えられていた経済学は,現代の金融政策を決定する上で全く役に立たない」
「政治家…世論をリードする大新聞や主要雑誌の経済担当記者などはそれでは困る…最低限,経済学の知識を持って仕事をしてもらいたいものである」
「日本は,正統派経済学の知見なしには書けないはずの記事が新聞・雑誌に満載されている不思議な国である」
世の中、特にマスコミは「危機だ危機だ」とあおるのが仕事です。だから経済学を学ぶ目的は,「マスコミやエコノミストによってつくられる俗説に惑わされずに,自分の目で経済現象を見つめる能力を身につけることにある 伊藤元重(東大教授) 『入門経済学 第2版』日本評論社2005 p2」のです。
とはいっても、経済新聞でこのレベルですから、あとは推して知るべしです。問題は、正しい経済学が教えられていないことにあります。
週間ダイヤモンド2010.3.27 p61

東大生でも、正答率は11.8%です。高校時代に、「政治経済」や「現代社会」で教えられていないんですね。
<双子の赤字>
①「双子の赤字」に苦しむ日が来るのだろうか。
アメリカは「経常(貿易)赤字」と、「財政赤字」をずーっと続けてきました。財政赤字はクリントン政権時代に、一時黒字化したのですが、その時代のみです。そして、貿易黒字もずーっと拡大の一途です。
④…米国の経常収支は80年代前半から赤字が続くようになった。過剰な個人消費が輸入を膨らませたのが大きく、06年の赤字は8000億ドル強(約74兆円)にまで拡大した。
でも、アメリカは「苦しむ日」など、迎えたことがありません。というより、GDPは拡大し続け、当然一人当たりGDP(=GDPの三面等価から、GDI国民総所得)も拡大の一途です。
80年代に「ジャパン・アズ・ナンバーワン」などと言われた時代がありました。「日本の土地の地価をすべて合わせるとアメリカが4つ買える」と言われた時代もありました。
ですが日本は毎年貿易黒字を出し、アメリカは貿易赤字で、アメリカのGDPは日本のGDPの手の届かないところまで拡大しました。ところが・・・
データ出典 世界経済のネタ帳


2005年の1人あたりGDP(名目)は、日本35,633ドル、アメリカ42,680ドル、1.2倍です。
経常(貿易)赤字が拡大しようと、財政赤字が拡大しようと、その国の豊かさには全く関係ないことがわかります。そりゃそうです。経常収支赤字=資本収支黒字のことで、新聞のいう②「経常赤字転落」は、資本収支が「赤字から黒字に」上昇?したことなのですから。
<国際収支の原則>

経常収支黒字≡資本収支赤字
日本が経常収強調文支黒字を抱えるということは、同額分外国資産(外国の国債・社債・株式・資産・貸付)が増えるということです。
資本収支黒字≡経常収支赤字
アメリカが資本収支黒字を抱えるということは、アメリカ国内に、外国資本(外国の国債・社債・株式・資産・貸付)が増えるということです。
投資を受け入れるということはどういうことでしょうか。
参考・引用文献 石川城太『政府、過度な肩入れ避けよ』日本経済新聞H21.4.15
…グローバル化が進展し、国境を越えたヒト・モノ・カネ・サービスの移動の活発に伴い…自国企業に見えながら、所有構造を見ると…株式の多くを外国人が所有しているケースが…ある。…日産自動車の外国人持ち株比率は6割を超え、ホンダとトヨタも3割前後である。ソニー、任天堂、キヤノン、日立製作所など、日本を代表する企業…も4割を超えている。…日産はルノーの株式の15%を所有し、逆にルノーは日産の44.3%の株式を所有している。…ルノー出身のカルロス・ゴーン氏が両社の社長兼最高責任者(CEO)を兼務し、日産が保有するルノー株式には議決権がないため、日産はもはやフランスの企業といってもよい。
今では,外国人株主の持ち株比率が30%を超える企業も少なくありません。東証一部上場企業では,’05年には100社を超えました。有力上場企業で,外国人持ち株比率が,50%を超える企業は,46社を数え,以下のような例があります。
出典 『会社四季報CD-ROMランキングでみる上場企業』2007年2週春号 東洋経済オンライン http://www.toyokeizai.net/online/topics2/?kiji_no=8
日産自動車69.3% 西友60.3% 昭和シェル石油61.3%
ヤマダ電機55.2% HOYA50.5%
富士フィルムホールディングス50.4%
これが、グローバル化の実態です。資本は国境を超え移動しているのです。「日産はフランス企業」です。
さらに、アメリカ貿易赤字額=資本収支黒字額なので、アメリカが貿易赤字を出せば出すほど、外国資本(外貨準備、外国債、外国証券ほか)の投入が増えるのです。「日産はフランス企業」と同様、アメリカの「○○社は日本企業・タイ企業・中国企業」という事例が膨大になっているということです。
でも、「日産はフランス企業」で、何か困ったことはあるのでしょうか?「ヤマダ電機は外国企業」ですが、それが何か?
「貿易赤字は損」「貿易赤字は悪いこと」ではなく、 「貿易赤(黒)字」は「お金の貸し借り」のことなのです。ですから、貿易赤字があろうと無かろうと、経済成長(GDP増=GDI増=国民所得増)します。アメリカも、イギリスも、オーストラリアもです。
アメリカGDP推移


逆に、日本は’98年「貿易黒字」を出しながら、戦後2回目の「GDPマイナス成長=国民所得減」でした。さらに、2008年、貿易黒字を27,103(単位10億円)も出しながら、戦後3回目の「GDPマイナス成長=国民所得減」でした。前年度GDPは560,816、2008年度556,710となり、0.73%のマイナス成長です。(単位10億円 データ出展 内閣府速報値2009年2月13日)
おかしいじゃありませんか、貿易黒字で儲けているのに、マイナス成長なんて。そう、「貿易黒字はもうけ」『貿易黒字は良いこと』が間違いなのです。貿易黒(赤)字と、経済成長は関係ありません。赤字だろうが、黒字だろうが、GDPは増減するのです。
櫻川昌哉『経済を動かす単純な論理』光文社2009
p178
貯蓄率が国家の間で異なっていれば、経常収支の不均衡が長期にわたって続くということはありえるのです。経常収支赤字国が持続的な経済成長をすれば、黒字国から赤字国へ資金は流れ、経常収支の赤字も持続できます。…実際にアメリカは、過去30年間、経常収支の赤字を継続してきましたが、大きな問題は生じていません。
③…家計の貯蓄率がマイナスなら、日本全体で見ても収入以上のお金を使う状態になりかねない。必要なモノを国内だけで生産できず、海外からの輸入が増えやすくなる。経常赤字転落のメカニズムはここにある。
ですから、経常赤字になったり、黒字になったりするのは、「輸入が増える」とか、「輸出が増える」ことではなく、「お金の貸し借り=資本移動」のことなのです。モノの取り引きにメカニズムがあるわけではなく、「お金の貸し借りが原因→経常黒(赤)字」というメカニズムなのです。
<経常黒(赤)字額=カネの貸し借り額>
竹森俊平 慶大経済学部教授 『世界的な需要大幅減の背後に奇妙なるグローバルインバランス』週間ダイヤモンド 2009.4.4 (グラフも)

…世界的な問題には…米国を中心とした近年の国際貸借の増加、いわゆる「グローバルインバランス」問題がありました。
…「インバランス」というと、なにか悪いことのように感じられますが、海外から資本を借りている国もあれば、貸している国もあること自体は、国際資本取引の上ではおかしな話ではありません。
お金の貸し借りは、善いとか悪いとかの対象ではありません。ですから、「赤字転落」という表現が、おかしいのです。
そして、お金の貸し借りは、財(モノ・サービス)の面から見れば、貿易赤(黒)字になるのです。


経常(貿易)黒字は、貯蓄超過から生まれ、海外への貸し出し額と同意なのです。
…資本、おカネの流れは、財の流れという側面から見ることもできます。
そもそも米国に流れ込んだアジアの国々のおカネ(上図③)とは、本質的には過剰貯蓄、つまり消費(上図①)にも投資(上図②)にも使われないおカネです。過剰貯蓄の存在は、そのぶんだけ生産されたモノ(上図④)に対する需要が欠如している状態を意味します。
「経常収支の赤字=海外からの純借入額=国内投資の国内貯蓄超過額」と頭にいれておいてください。
はい、ここで、竹森先生の、重要な式が、提示されました。アメリカの場合は下記の式でA側から見た見方になります。一方、日本や中国、ドイツは、全く逆のBからの方向になります。
A→経常収支の赤字=海外からの純借入額=国内投資の国内貯蓄超過額←B
…生産所得(上図④)のうち消費で使われないぶん(上図⑤)つまり貯蓄に見合った投資(上図②=政府の投資と企業の投資)があれば、生産所得と総支出は均衡することになります。
貯蓄額=投資額なら、経常黒字(海外への貸し出し)は生まれません。
…アジアの国々が国内投資を抑制し、国内貯蓄を余らせた状態(過剰貯蓄)…しかるにそのとき、米国はアジアの余剰貯蓄を借り入れる一方、自国の貯蓄は減らしてそのぶん消費を増やし、投資も旺盛に行っていた。その結果、世界経済の生産余剰を米国の投資と消費が埋め…要するに…表裏一体の現象なのです。
「貯蓄>投資」国≡「貯蓄<投資」国
ですから、貿易黒字はもうけではなく、海外への貸し付け額なのです。例えば、日本国内とか、中国国内には環流しないおカネなのです。
海外への貸し付け(投資)とは、外国の国債、社債、株、外国銀行への預金(外国銀行から見たら負債です)などです。
投資してもらっている国から見ます。
ある会社の株式が、外国人によって買われているということです。
ある会社の社債を、外国人が購入している状態です。
ある銀行の預金を、外国人がしていることです。
ある国の国債を、外国人が購入している状態です。
ある国の不動産の持ち主が、外国人の場合です。
株式の50%超を外国人が持っている、ヤマダ電機や、日産は、外国企業です。日本の国債の4%~7%ほどは、外国人が購入しています。北海道のニセコにある長期滞在型のホテルやコンドミニアムは、オーストラリア人が購入しています。
日本から見たら、「負債」になります。しかし、日本のGDI(国内総所得)は伸びます。企業も、銀行も、建設、不動産業もです。これらの企業にとって、買ってくれるのは、日本人であれ、外国人であれ、誰でもかまわないのです。
だから、 「貿易黒(赤)字と、経済成長は無関係」なのです。
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