リカード比較生産費説「貿易利益」のミクロ経済学による検証
<リカード比較生産費説「貿易利益」のミクロ経済学による検証>
平成22年3月26日、経済教育学会 2010年春季研究集会(於:早稲田大学)で、上記の題で、報告・発表しました。
会場での質疑応答で、大学の先生から、「リカード比較生産費説で、未だに教科書では、工業国は工業国に、農業国は農業国になってしまうという説が掲載され続けているのか」と驚かれました。
200年以上前のリカードの説が、なぜ、「学習指導要領」に記載され、生徒に教え続けられているか。それは、「自給自足」より、「分業・交換」が、誰にとってもどの国にとっても利益になることを証明しているからです。また、「発展途上国のように農業国は農業国であり続け、先進国は工業国であり続けることを合理化する」ということを、「リカード比較生産費説は否定している」のです。国内産業は「比較劣位」なものから、「比較優位」なものに特化するのですから、「農業国であり続ける」「工業国であり続ける」など、理論的にありえません。それを、リカード説は明らかにしています。執筆者は、リカードの本を読んでいません。
<高等学校教科書の説明>
実教出版『高校政治・経済 新訂版』H22年度用見本 p160-161
…19世紀のイギリスでは,貿易に対する国家の介入をやめ,自由貿易をおこなうことこそが利益になる,と主張された。この考え方に理論的根拠を与えたのが,イギリスのリカードの比較生産費説である。

実教出版『2008新政治・経済資料』2008 p260
…こうして比較生産費説は,単に自由貿易の効用を証明するだけでなく,おのずと工業国は工業国であり続け,農業国は農業国であり続けるべきだという国際分業論を導き出すことになる。
「こうはなりません」とリカード説は主張しているのに、なぜ正反対の論を書くのでしょう。こんなこと、彼の本のどこを見ても、書いていません。
<先進国は工業、発展途上国は農業>
①
日本の鉱工業は、石炭産業→石油産業(1960年代)、繊維産業(1950年代)→鉄鋼・造船→自動車・電機産業・・・と、変遷してきました。成長する産業の裏で、必ず衰退する産業があります。現在、自動車や、電気産業も、衰退化しているのは厳然たる事実です。(中国の自動車販売数・生産台数は、2010年日本を超えました。2009年、世界一の電機メーカーになった韓国のサムスン電子の売り上げには、日本の総合電機メーカーすべてを足しても及びません)
http://www.jiji.com/jc/v?p=ve_eco_car-make-export-japan
時事どっとコム(2010年1月19日更新)
日本自動車工業会が29日発表した2009年の国内自動車生産実績は、世界的な景気低迷を背景に前年比31.5%減の793万4561台となった。…800万台を割り込むのは1976年以来33年ぶりで、ピーク時(1990年)の6割に落ち込んだ。急成長で1300万台に乗せた中国に生産世界一の座も譲り渡した。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20091109/209298/?bvr
日経ビジネス
世界市場で、半導体、液晶テレビ、携帯電話などのシェアが低迷し、業績の悪化に苦しむ日本の電機メーカー。ソニー、パナソニック、日立製作所、東芝などにかつての輝きは見えない。対照的に好調が際立つのは韓国のサムスン電子やLG電子だ。今年7~9月期の営業利益は、サムスン電子1社で、日本の電機大手9社の合計の2倍以上に達している。
輸出拡大の裏には輸入拡大があり(こちらが、貿易の利益のことです)、貿易の拡大の裏には、必ず衰退産業があるのです。
②
オーストラリアも、ニュージーランドも、先進国です。その一人当たりGDPは、すでに日本を超えています。
2007年 OECD資料、内閣府まとめ
オーストラリア 44801ドル
↓
日本 34326ドル
↓
ニュージーランド31180ドル
ところが、両国ともに、大農業国です。
http://fta.australia.or.jp/files/documents/071002_food_safety_and_food_security_security_-_minister_counsellors_speech_japanese.pdf#search='オーストラリア%20%20農業%20輸出'
2006/07年度、オーストラリアの農産物輸出額は、総輸出額の16.4%を占めます。276億オーストラリアドルに上ります。
しかも、石炭・鉄鉱石など、一次産品で総計すると、輸出額の50%を超えます。先進国において、農業や一次産品が、衰退産業になるわけではないのです。その国の「比較優位」の問題です。
効率の悪い産業が衰退し、その代り安価で輸入できることが、消費者利益すなわち、貿易の利益なのです。
http://atlas.cdx.jp/nations/oceania/newzealand.htm
「世界の国々 ニュージーランド」
自然条件に恵まれた農業先進国で、羊毛、穀物、果物、食肉、乳製品などが生産される。豊かな漁場を抱え、マグロ、イカ、タラなどが水揚げされる。GNPの20%、輸出の60%は農水産物であり、近年はアジア諸国への輸出を増加させている。
http://www.gekkannz.net/thats/modules/smartsection/item.php?itemid=21
「ザッツ・ニュージーランド」
ニュージーランドの農業は化学農薬の使用を控えるなど、環境に配慮した生産が浸透しています。2004年度の農産物総生産額は約47億NZドルです。国内消費が25億NZドルなのに対し、輸出が22億NZドルとなっています。
リカードがシンプルに書いた記述を、 「発展途上国のように農業国は農業国であり続け、先進国は工業国であり続けることを合理化する」など、適当なことを書かないで下さい。
平成22年3月26日、経済教育学会 2010年春季研究集会(於:早稲田大学)で、上記の題で、報告・発表しました。
会場での質疑応答で、大学の先生から、「リカード比較生産費説で、未だに教科書では、工業国は工業国に、農業国は農業国になってしまうという説が掲載され続けているのか」と驚かれました。
200年以上前のリカードの説が、なぜ、「学習指導要領」に記載され、生徒に教え続けられているか。それは、「自給自足」より、「分業・交換」が、誰にとってもどの国にとっても利益になることを証明しているからです。また、「発展途上国のように農業国は農業国であり続け、先進国は工業国であり続けることを合理化する」ということを、「リカード比較生産費説は否定している」のです。国内産業は「比較劣位」なものから、「比較優位」なものに特化するのですから、「農業国であり続ける」「工業国であり続ける」など、理論的にありえません。それを、リカード説は明らかにしています。執筆者は、リカードの本を読んでいません。
<高等学校教科書の説明>
実教出版『高校政治・経済 新訂版』H22年度用見本 p160-161
…19世紀のイギリスでは,貿易に対する国家の介入をやめ,自由貿易をおこなうことこそが利益になる,と主張された。この考え方に理論的根拠を与えたのが,イギリスのリカードの比較生産費説である。

実教出版『2008新政治・経済資料』2008 p260
…こうして比較生産費説は,単に自由貿易の効用を証明するだけでなく,おのずと工業国は工業国であり続け,農業国は農業国であり続けるべきだという国際分業論を導き出すことになる。
「こうはなりません」とリカード説は主張しているのに、なぜ正反対の論を書くのでしょう。こんなこと、彼の本のどこを見ても、書いていません。
<先進国は工業、発展途上国は農業>
①
日本の鉱工業は、石炭産業→石油産業(1960年代)、繊維産業(1950年代)→鉄鋼・造船→自動車・電機産業・・・と、変遷してきました。成長する産業の裏で、必ず衰退する産業があります。現在、自動車や、電気産業も、衰退化しているのは厳然たる事実です。(中国の自動車販売数・生産台数は、2010年日本を超えました。2009年、世界一の電機メーカーになった韓国のサムスン電子の売り上げには、日本の総合電機メーカーすべてを足しても及びません)
http://www.jiji.com/jc/v?p=ve_eco_car-make-export-japan
時事どっとコム(2010年1月19日更新)
日本自動車工業会が29日発表した2009年の国内自動車生産実績は、世界的な景気低迷を背景に前年比31.5%減の793万4561台となった。…800万台を割り込むのは1976年以来33年ぶりで、ピーク時(1990年)の6割に落ち込んだ。急成長で1300万台に乗せた中国に生産世界一の座も譲り渡した。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20091109/209298/?bvr
日経ビジネス
世界市場で、半導体、液晶テレビ、携帯電話などのシェアが低迷し、業績の悪化に苦しむ日本の電機メーカー。ソニー、パナソニック、日立製作所、東芝などにかつての輝きは見えない。対照的に好調が際立つのは韓国のサムスン電子やLG電子だ。今年7~9月期の営業利益は、サムスン電子1社で、日本の電機大手9社の合計の2倍以上に達している。
輸出拡大の裏には輸入拡大があり(こちらが、貿易の利益のことです)、貿易の拡大の裏には、必ず衰退産業があるのです。
②
オーストラリアも、ニュージーランドも、先進国です。その一人当たりGDPは、すでに日本を超えています。
2007年 OECD資料、内閣府まとめ
オーストラリア 44801ドル
↓
日本 34326ドル
↓
ニュージーランド31180ドル
ところが、両国ともに、大農業国です。
http://fta.australia.or.jp/files/documents/071002_food_safety_and_food_security_security_-_minister_counsellors_speech_japanese.pdf#search='オーストラリア%20%20農業%20輸出'
2006/07年度、オーストラリアの農産物輸出額は、総輸出額の16.4%を占めます。276億オーストラリアドルに上ります。
しかも、石炭・鉄鉱石など、一次産品で総計すると、輸出額の50%を超えます。先進国において、農業や一次産品が、衰退産業になるわけではないのです。その国の「比較優位」の問題です。
効率の悪い産業が衰退し、その代り安価で輸入できることが、消費者利益すなわち、貿易の利益なのです。
http://atlas.cdx.jp/nations/oceania/newzealand.htm
「世界の国々 ニュージーランド」
自然条件に恵まれた農業先進国で、羊毛、穀物、果物、食肉、乳製品などが生産される。豊かな漁場を抱え、マグロ、イカ、タラなどが水揚げされる。GNPの20%、輸出の60%は農水産物であり、近年はアジア諸国への輸出を増加させている。
http://www.gekkannz.net/thats/modules/smartsection/item.php?itemid=21
「ザッツ・ニュージーランド」
ニュージーランドの農業は化学農薬の使用を控えるなど、環境に配慮した生産が浸透しています。2004年度の農産物総生産額は約47億NZドルです。国内消費が25億NZドルなのに対し、輸出が22億NZドルとなっています。
リカードがシンプルに書いた記述を、 「発展途上国のように農業国は農業国であり続け、先進国は工業国であり続けることを合理化する」など、適当なことを書かないで下さい。
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