藤原正彦 週刊新潮2月18日号 管見妄語 『家の財布、国の財布』

藤原正彦 週刊新潮 2月18日号
管見妄語 『家の財布、国の財布』

 家の財布と国の財布は根本的に違う。手元不如意の時、家では支出を抑えるのが正しいが国では支出を増やすのが正しい。(筆者注)適切な公共投資や中低所得者への減税などの財政支出をすると波及効果により支出の何倍もの有効需要が生まれるのである。昭和恐慌の高橋是清も一九九三年のクリントン大統領もこれでデフレ不況を退治した。経済学の常識だが知らない人が多いようだ。
 知っていても「日本の借金は八五〇兆円と世界最大で財政は危機的」が実行を躊躇させる。この標語を信ずるのは鳩山首相だけではない。ほとんどの政治家、いやほとんどすべてのテレビ、新聞などマスコミ、そして国民までがそう信じている。
 本当にそれほど危機的なのだろうか。「日本の国債はアフリカのボツワナ以下」などと『財政危機」を煽ってきたのは米国のヘッジファンドや格付け機関、米政府の息のかかったIMFや世界銀行、消費税上げをもくろむ日本の財務省、そしてこれらの言葉を鵜呑みにした日本人だけではなかったか。これら以外から聞こえて来ないのは当然と思う。日本は、政府が五五〇兆円という世界一の金融資産を有し、国民が一五〇〇兆円という世界一の貯蓄を有する国だ。それに他国とは全く異なり国債の九五%近くを日本人が保有しているから対外債務はほとんどない。だからこそリーマンショック以来の世界経済危機でも日本の国債は堅調だったし、ドル、ユーロ、ポンドが売られたのに円は買われ大幅に高くなった。「財政危機」とは情報操作ではないかと疑うこともなく、お人好しの日本人は好意からの忠告と勘違いしたのではないか。
 その結果、小泉竹中時代から国を挙げて「借金を減らすため財政支出を切りつめる」という緊縮財政をとることとなった。医療費、公共投資、地方交付金などはこうして削減された。行き場を失った国内の余剰資金の多くはゼロ金利の日本から高金利の海外へ向かった。国民の金が国内で使われないからモノが売れず、従って価格が下がり、企業業績が悪化し、給料が減り、さらにモノが売れなくなる、という魔のサイクルにはまりデフレ不況となった。その間、地方や二〇〇〇年には世界一とWHOに認定された医療制度も壊された。アメリカは日本からの巨額投資で大いに潤った。そして日本の不況克服には規制緩和が必要とそそのかし、デフレで株価の下がった日本企業を三角合併という戦慄すべき荒業で買収するなどすべて目論見通りの果実を享受した。リーマンショックまでの十年間で欧米各国がGDPを三割から七割も伸ばしていたのに、緊縮財政下の日本だけはまったく増やすことができず、そのため不足した税収を埋めようと却って国債を増発することとなった。ここ一年余り、世界中が財政出動に躍起となっている中、日本だけは相変らずの緊縮だ。さらに十年ほどデフレ不況を満喫していたいようだ。


 藤原さんは、経済学者ではありません。ですが、今回は、正しい知見を述べられているようです。

 ただ、上記の文章の4段落目はちょっと?ですが・・・
 あと、(筆者注)「乗数効果」については、このブログのカテゴリー「ケインズ 乗数効果」を参照してください。

 確かに、財政危機なのに、その国債の長期金利は、世界最低=世界一安全な資産と見なされているのはとても不思議なことです。マーケットは、日航の株価下落をみてもわかるように、とてもシビアです。「価値がない」となったら、本当に「たたき売られ」ます。
 にもかかわらず、「長期金利最低=国債価格最高値」ということは、なぜなのでしょう?これは、マーケットは、「日本の国債は世界一安全」と見なしている証拠です。
 国債のデフォルトの危険度を見越した、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)という金融商品で、日本の国債の危険度があがったという報道があります。これは、金融派生商品で、国債を持っていなくても購入できる、投機商品といったほうが正解です。
 
「債券価格下落=金利上昇」・「債券高・金利低」です。
債権価格下落 金利上昇

 ですから、債券の人気高い=金利低い、債券人気下落=金利上昇となります。いくら、10%の金利のクーポンだとしても、世の中の金利が、1年後に、15%に上がっていれば、この国債は、100万円では絶対に売れません。だまっていてもお金を貸せば15%の金利が手に入るのに、わざわざ金利10%の商品を買う人はいません。最低でも、世間の金利(この場合15%)がつかないと、この国債を買う人はいません。結果、国債の価格を下げて売ることになります。

債券価格下落=金利上昇
債券価格上昇=金利下落


 日本人の財産=国債=政府の借金ですから、バランス/シートをみればわかるように、国債は、「政府の借金=国民の資産」です。

 日経『財政支出 中国、最大の110兆円』H22.3.5
・・・2010年度予算案では、財政支出が前年度に比べ約11%増の8兆4500億元(約110兆円)・・・財政支出は過去最大に膨らむ・・・財政赤字が過去最大の1兆元に達する公算が大きい。ただ国内総生産(GDP)比は3%以内で、10%を越える米国などに比べると低い。


 中国のGDPは、日本とほぼ同じ約500兆円です。日本の政府(国家予算)支出は、2010年度92兆2992億円です。そのうち新規国債は44.3兆円です。

三面等価 2008

総生産Y=C+I+G+EX(総需要) 
 C=家計が主体の消費(Consumption )、I=企業が主体の投資(Investment)、G=政府最終支出、EX=輸出を足します。
 Y(つまりGDP)を伸ばす=C、I、G、EXのいずれかを増やすということです。

「内閣府の試算では、2009年10~12月期の需要不足は30兆円(年率換算)」ということは、
Y=C+I+G+EX-30です。

Y=家計+企業+政府+輸出-30

 国債発行額が、44兆円といいますが、20兆円ほど(利子分含む)毎年、償還しています。政府が巨大化しているのは、日本だけではありません

『政府支出GDPの45%に』日本経済新聞 H22.2.19
 政府支出の規模が主要国で急速に膨らんでいる。経済協力開発機構(OECD)の2009年の統計によると,加盟28カ国の政府部門の支出は国内総生産の(GDP)の約45%に達し,過去最高の水準を記録した模様だ。・・・1960年の比率は30%弱。福祉政策の充実などを背景に70年代,80年代とほぼ一貫して上昇…。

 アメリカも同様です。

 参考・引用文献 猪木徳武『戦後世界経済史』中公新書2009 p4~ 
 それまでGNP比6,7%程度だったものが,第二次大戦で20%台,1980年代以降も同様になりました。州政府も,地方政府もその割合はゆっくりと拡大しています。その結果,「二〇世紀の初頭には連邦・州・地方政府収入の総計はGNPの一割にも満たなかったのに,二〇世紀末には,四割に迫るウェイト」になっています。

H21.11.18『短期主義、市場から政府へ』日経
…危機で経済の主役は市場から政府に変わった。…今年度の政府支出は国内総生産(GDP)の26%と、「大きな政府」といわれたカーター政権時代の20%台を大きく上回る。
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