新聞を解説(56) 日経21年12月2日『日銀、10兆円の資金供給 デフレ克服へ量的緩和』

<お知らせ:12月14日より、3週間入院します。13日以降の、記事の更新は、来年になります>

<次回の更新は、12月8日(火)です>

<日経 日銀 量的緩和> 

数字は筆者
日経21年12月3日

『十兆円供給策 行動が大事』須田日銀審議委員は2日、十兆円規模の資金供給策を決定したことについて、「…断固とした金融政策を取る姿勢を示すことで信頼を得て、期待インフレ率の安定化を実現していきたい」と語った。

日経21年12月2日

『日銀、10兆円の資金供給 デフレ克服へ量的緩和』日銀は1日、臨時の金融政策決定会合を開き、追加の金融緩和策を決めた。年0.1%の固定金利で10兆円規模の資金を金融市場に供給する。
…日本経済はデフレの進行と、相場の急上昇で先行きの不透明感が強まっている。潤沢な資金供給で金融市場安定させる「広い意味での量的金融緩和政策」(白方総裁)の効果を狙い、政府と協調してデフレ克服に取り組む姿勢を明確にする。


…今回の量的緩和は資金量を目標とするわけではないが、「量がネックになって金融機関の活動が阻害されないようにする点」で、以前の量的緩和と近い効果を狙う。

…量的緩和 中央銀行が金利ではなく、金融市場の資金量を政策目標にして運営する金融政策。…厳密には資金量を目標とする政策だが、金利を目標としつつ、大量の資金供給をする場合も広い意味での量的緩和と呼ぶことが多い。日銀は潤沢な資金供給について「量的緩和ではない」という姿勢だったが今回初めて量的緩和と打ち出した


<180°転換:日銀の対応>

 日銀が、「量的緩和」という言葉を公式に使用し、審議委員も「インフレ・ターゲッティング」について、言及しました。いずれも、日銀の歴史に残る、「初めて」ずくしの大転換です。

(1)量的緩和

このブログ「デフレはまずいのか その2」で、量的緩和については、次のように説明しました。

 参考・引用文献 岩田規久男『日本銀行は信用できるか』2009 講談社新書

 日銀は、徹底して、「デフレ」対策に及び腰です。それは「日銀流理論」と小宮隆太郎が名づけた、日銀の責任を問われると、「それは日銀にはどうしようもない外部の経済活動によって引き起こされたものであるp82」という責任回避するための理論に依拠しているからです。
 1990年代後半からの「ゼロ金利」導入も「いやいやp102」ですし、2000年8月には「解除p114」し、また「デフレ」になってしまいます。
 2001年3月半ばからの「量的緩和」についても白川現総裁は当時「実体経済に与える影響については否定的p51」でした。


 その日銀が、「広い意味での量的金融緩和政策」と公式に発表し、しかも、白川総裁も、「前回の量的緩和の効果を認める(記者会見)」ようになりました。まさに「コペルニクス的転換」です。

 それほど、「デフレ」はまずいのです。政策金利(名目金利)を、どんなに0%に近づけても、物価が2%下落すれば、実質金利は2%ついてしまいます。「金融緩和」ではなく、「金融引き締め」になってしまうのです。
 政府の認識はもちろん、日銀も「デフレ」に対し、「あらゆる手段を取る」ことを「メッセージ」として発信しました。
 今回の「年0.1%の固定金利で10兆円規模の資金を金融市場に供給」は、規模としてはおそるおそる、一歩を踏み出したにすぎません。

日経21年12月2日
『政府日銀危うい一体感』
…とりあえず政府が期待する量的緩和の看板が立つ新型オペを急ごしらえしたのが実態に近い。


 ところが、こんな小さな一歩でも、市場はものすごく評価しました。

日経21年12月4日
『日経平均 大幅続伸368円高』
 3日の東京株式市場で日経平均株価が368円高と大幅続伸し、1万円の大台にあと30円足らずに迫った。
…日銀が1日に新しい資金供給手段(新型オペ)の導入を決めたのに続き、2日は鳩山由紀夫首相と日銀の白川方明総裁が会談し、デフレ脱却に向けて、政府と日銀が協調する姿勢を見せた…。

 岡本佳久氏(みずほ投信投資顧問執行役員)日銀と政府が連携して、デフレや円高に取り組む姿勢を示したことで、投資家心理は改善した…。

 北野一氏(JPモルガン証券チーフストラテジスト)…市場は総弱気だっただけに政策発動が投資家心理にインパクトを与え、3日の相場上昇につながった…。


 アナウンスメント効果です。量ははともかく、質的に「断固たる決意」を示すことで、景気の「気」は大きく動くのです。

(2)今回の量的緩和

「年0.1%の固定金利で10兆円規模の資金を金融市場に供給」というのは、前回の日銀当座預金高増」とは、違う量的緩和です。前回は下記①の政策でしたが、今回は下記②の金融緩和です。

①「当座預金残高増」
「量的緩和」は、2001年3月、金融市場調節の操作目標を、それまでの「金利(無担保コールレート・オーバーナイト物)」から、「資金量(日本銀行当座預金残高)」に変更した。これは金利をゼロより引き下げることはできないため、金利がゼロになってもさらに買いオペレーションなどで、市場に資金を大量に供給することによって、デフレを克服しようとしたのである。
 具体的には、「日本銀行当座預金残高が○兆円程度となるよう金融市場調節を行う」といった形で金融市場調節方針が定められた。その規模は、2001年3月の「目標5兆円」からはじまり、2004年1月には「30~35兆円」に達した。
この量的緩和政策は景気の回復にともない、2006年3月に解除され、金利を目標とする通常の金融政策に戻った。

②マネーストック・マネタリーベース
 2008年4月までマネーサプライと称されていたマネーストックは、経済全体に流通する通貨量を示す。一般法人、個人、地方公共団体などの通貨保有主体(=金融機関・中央政府以外の経済主体)が保有する通貨量の残高である。
マネタリーベース(マネーベース、ハイパワードマネーとも言われる)は市中に出回っているお金である「流通現金(日本銀行券発行高+貨幣流通高)」と、「日銀当座預金」の合計額のことである。日銀が公開市場操作等によって直接コントロールできる通貨を示す。
 日銀はマネタリーベースを調整することで、「預金準備制度(準備金以外はすべて貸し出しても良い)」によって創り出されるマネーストックに影響を及ぼす。
2008年11月現在、マネタリーベースは約88.9兆円、マネーストックM2は、約734.7兆円になっている。

 日銀が、直接、市場に資金を供給するのが、今回の「広い意味での量的緩和」です。

<インフレ・ターゲッティング>

日経21年12月3日
『十兆円供給策 行動が大事』
 須田日銀審議委員は2日、十兆円規模の資金供給策を決定したことについて、「…断固とした金融政策を取る姿勢を示すことで信頼を得て、期待インフレ率の安定化を実現していきたい」と語った。


 須田さんは、東京大学大学院(小宮隆太郎ゼミ)出身、学習院大学経済学部教授です。 「期待インフレ率の安定化」とは、まさに「インフレ・ターゲッティング」のことです。

 ブログ「デフレはまずいのか その2」で、次のように記しました。

参考・引用文献 岩田規久男『日本銀行は信用できるか』2009 講談社新書

 インフレ目標政策とは、現在25カ国で採用されている、中央銀行の「金融政策」です。さらに、ユーロ圏の欧州中央委銀行(ECB)も、インフレ目標政策とは言っていませんが、「物価の安定は2%未満かつ2%近傍のインフレ」とし、事実上のインフレ・ターゲッティングを行っています。
 上記の参考文献を読むまで、「インフレ率何%というルール」と認識していました。日銀も、そのように説明していました。
 しかし、インフレ・ターゲッティングは「ルール」ではなく、「枠組み」です。何が何でもインフレ目標を達成するという硬直的なものではありません。
 実際の運営では、インフレ目標として1%~3%、イギリスのように2%に設定しているところもあります。ただし、下限は0%です。デフレは絶対回避すべきと考えられています。

 では、これらの国の経済パフォーマンス・経済成長はどうだったのでしょうか。
岩田『同』p162

岩田規久男『日本銀行は信用できるか』講談社現代新書2009 p162.jpg

 実際に、良好な経済成長を達成しています。

日銀法第2条
日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする。

「物価の安定」とは、ただちに「通貨価値の安定」を意味します。

 デフレは、「物価価値<通貨価値」のことです。「通貨価値の安定」を目指す場合、極端なインフレはまずいのですが、ちょっとのデフレも同様にまずいのです。2%のデフレは、2%の実質金利です。

 日銀審議委員が、「インフレ・ターゲッティング」に言及するなど、日銀が大きく変わりつつあることの前兆ですね。
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